2022年6月24日、「大崎事件第四次再審請求棄却決定に抗議するとともに、一刻も早い再審法改正を求める声明」を発表しました
大崎事件第四次再審請求棄却決定に抗議するとともに、一刻も早い再審法改正を求める声明
1 鹿児島地方裁判所(中田幹人裁判長)は、2022年6月22日、いわゆる大崎事件について再審請求を棄却する決定をした。大崎事件は、1979年10月に鹿児島県曽於郡大崎町で、40代の男性が自宅の牛小屋の堆肥の中から死体で発見された事件である。今回の再審請求人の母である原口アヤ子さんを含めた計4名が殺人、死体遺棄等の罪で起訴され、原口さんは、一貫して無罪を訴えたが、共犯者とされる者の供述などを主な証拠として、懲役10年の有罪判決を受けた。今回の再審請求は四度目であるが、最大の争点は、40代男性の死亡時期であり、弁護団は新たに救急救命医の鑑定書やコンピュータ分析の手法や供述心理学に基づく供述鑑定書などを新証拠として提出し、原口さんの無罪・再審開始を訴えたが、裁判所は「無罪を言い渡すべき明らかな証拠には当たらない」として、再審開始を認めない決定をした。
2 大崎事件では、これまで三度、再審開始の決定が出されたが(2002年3月の第1次再審請求の請求審(鹿児島地方裁判所)、2017年6月の第3次再審請求の請求審(鹿児島地方裁判所)、2018年3月の第3次再審請求の即時抗告審(福岡高等裁判所宮崎支部))、いずれも上級審において取り消され、再審開始のハードルの高さが如実に顕れている。
3 そもそも、再審制度の目的は「無辜(無実の者)の救済」であり、その目的を達するために十分な制度設計がなされなければならない。ところが、現行の再審法はわずか19条しか存在せず、その手続は広く裁判所の裁量に委ねられている。証拠開示手続も法制化されていないため、検察官は無罪方向の証拠を隠し通すことが可能である。そして、審理方法を定めた規定がないことから、証拠開示に向けた訴訟指揮を行うか否かが裁判所の裁量に委ねられ、審理過程において証拠開示を受けることも容易ではない。そのうえ、一度再審開始の決定を得ても検察官による不服申立てすなわち即時抗告審等の上級審の壁を乗り越えなければ、再審公判が開かれることはない。結局のところ、現行の再審制度の下では誤判を見つけ、えん罪を晴らすことは著しく困難である。これでは、本来、再審法により救われるべきえん罪被害者が救われず、現行再審法制はその目的を十全に果たすことができていないと言わざるを得ない。
4 このように、えん罪被害者は制度的に不利な立場にある中、上記の通り、大崎事件においては三度も再審開始の決定を得ている。職権で再審請求を棄却した第3次請求の特別抗告審(最高裁判所)は、検察官の特別抗告には理由がないとしたにもかかわらず、「取り消さなければ著しく正義に反する」として、下級審の再審開始の決定を取り消した。本来ならば、特別抗告を棄却して下級審の再審開始の決定を維持すべきであるところ、書面審理のみで弁護団に反論の機会を与えないまま再審開始の決定を取り消して、再審請求を棄却したこの異常な最高裁決定は、「刑事司法制度の根幹を揺るがしかねない重大な瑕疵が存在する」(全国の刑事法学者92名)、「日本の裁判史上に残る暴挙」(えん罪犠牲者の会)などと社会的にも大きな非難を受けた。こうした再審請求の経緯に照らしても大崎事件が再審開始の上、審理されるべきことは明らかであり、それを踏まえた本件再審請求審においては、さらに追加的な新証拠が提出され、もはや再審開始の決定がなされることに疑いの余地はなかった。それにもかかわらず、再度、再審請求を棄却した今回の決定は、再審請求の判断にも「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判における鉄則が適用されるとした白鳥・財田川決定に反するものであり、不当決定と言わざるを得ない。断固として抗議する。
5 自由法曹団は、2019年10月21日愛知・西浦総会において、再審法制の問題を是正するよう「名張毒ぶどう酒事件をはじめとするえん罪被害者救済のため、速やかに再審法の改正を求める決議」を採択したが、現在においても問題の多い再審法制は放置されたままにある。再審法制の不備は憲法上最も尊重されるべき生命身体の自由への侵害を看過するものにほかならず、早急な立法が必要であることに多言は要しない。自由法曹団は、ここに改めて、一刻も早く再審法制の問題を是正するための法改正を行うことを強く求める。
以上
2022年6月24日
自 由 法 曹 団
団長 吉田 健一