2022年7月1日、生存権裁判東京地裁判決を歓迎する声明を発表しました
生活保護基準引下げ違憲訴訟東京地裁判決を歓迎し、
政府に対し同判決を受け入れ生活保護基準の見直しを求める声明
2022年7月1日
自 由 法 曹 団
団長 吉 田 健 一
1 2013年から2015年にかけて段階的になされた生活保護基準の減額改定(「本件改定」)を理由としてなされた東京都内の生活保護利用者に対する保護変更決定処分(「本件処分」)に対し、その取消しを求めて提訴した生活保護基準引下げ違憲訴訟において、東京地方裁判所民事第51部(清水知恵子裁判長)は、2022年6月24日、本件改定は、専門技術的な検討を経ておらず、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性がなく違法であるとして、本件処分を取り消す旨の判決を言い渡した。同種訴訟における大阪地裁判決(2021年2月22日)、熊本地裁判決(2022年5月25日)に続く画期的判決である。
2 本判決は、生活保護基準改定に関する厚生労働大臣の判断は、高度の専門技術的な考察に基づくものでなければならず、統計等の客観的な数値東都の合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等の観点から、判断過程及び手続における過誤、欠落の有無を判断すべきとし、生活保護審議会基準部会設置以降は、生活保護基準の改定について同部会で審議検討を経たのであれば、その審議検討内容を踏まえ、検証手法等の合理性に関し、客観的な数値との合理的関連性等の見地から判断すべきであり、基準部会の審議検討を経ていない場合は、当該改訂が専門的知見に基づく高度の専門技術的な考察を経て合理的に行われたものであることについて、政府側が十分に説明することが必要であり、その説明を基に客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無を審理判断すべきとした。
かかる判断を前提に、デフレ調整については、基準部会の審議検討を経ておらず、その必要性についても、食糧費や光熱水費という一般低所得世帯の家計に重要な費目にかかる物価は上昇していることからすれば、平成23年までに物価が下落し生活扶助基準が一般低所得世帯の消費実態に比較して高くなっていたとする政府側の説明は認められないし、ゆがみ調整後にデフレ調整を行う必要性及びその範囲等の検討について、専門技術的見地からの検討を行っておらず、統計等の客観的な数値東都の合理的関連性を欠き、あるいは、専門的知見との整合性を有しないものといわざるを得ないと判断した。また、デフレ調整の相当性についても、従来採用されてきた水準均衡方式に代えて物価の変化率による調整を採用したことの合理性について、政府側は専門技術的な見地に基づく説明を行っていないし、デフレ調整の起点を平成20年にしたことの政府側の説明も合理的根拠に基づくものとはいえず、生活扶助相当CPIの変化も、低所得世帯においては影響の小さいテレビ等の価格の下落を原因とするものであり、低所得世帯における可処分所得の実質的増加が生じたと評価することはできないとして、本件改定には相当性がないと判断した。
以上の判示内容は、政府側の判断に対し、その実質的な内容にも踏み込み、本件改定が専門技術的な見地によらない判断であったことを明確に断じたものであり、高く評価できる。
3 同種の裁判において、本件改定の違法を指摘した裁判例は、大阪地裁判決、熊本地裁判決に続き、3件目となった。他の同種判決は、本件の実質を踏まえず、かつ詳細な検討を経ることなく(一部判決では他の判決文を「コピペ」するほどである。)、無批判に行政裁量を振りかざして政府の判断を追随するものに過ぎない判決であるのに対し、本件東京地裁判決を含む上記3判決は、本件改定の実質に踏み込み、本件改定を行った政府の判断は専門技術的な知見に基づかず、またはこれに整合せず不合理なものであるという事実を適切に判断したものであり、前者と比較してより合理的かつ説得的であることは論を俟たない。
自由法曹団は、上記大阪地裁判決、熊本地裁判決についても、歓迎し、政府に対して本件改定を直ちに見直すとともに、生活保護に対する抑圧的な態度を改め、憲法25条の精神に基づく生活保護行政の実施を行うことを求める声明を発出した。
もはや政府の判断に正当性を見出すことはできず、一刻も早く本件改定を見直すべきである。よって、自由法曹団は、生活保護基準引下げ違憲訴訟東京地裁判決を歓迎し、政府に対し同判決を直ちに受け入れることを求めるとともに、改めて生活保護行政の見直しを求めるものである。
以上