2022年10月24日、零細事業者への増税を強いるインボイス制度の実施に反対する決議

カテゴリ:市民・消費者,決議

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零細事業者への増税を強いるインボイス制度の実施に反対する決議

 

1 2023年10月1日から、消費税の仕入税額控除の方式として、「インボイス制度」が導入される。インボイス制度とは「適格請求書保存方式」のことをいい、課税事業者は、所定の記載要件を満たした請求書である「適格請求書(インボイス)」による請求書の交付を受けなければ、消費税の仕入額控除(事業者が消費税の納付税額を算出する際、売上の消費税から仕入や経費の支払等のために支払った消費税を差し引くこと)を受けられなくなる。そのため、課税事業者と取引をする個々の事業者は適格請求書発行事業者の登録をすることを余儀なくされることとなる。

2 現状では、年間の課税売上高が1000万円以下の事業者であれば、消費税の納税義務が免除されることとなるが、適格請求書発行事業者となった場合、売上高が1000万円以下であっても消費税の申告義務が生じる。消費税の控除を受けたい課税事業者はインボイスを発行できる事業者との取引を望むと考えられることから、消費税の支払が免除されない適格事業者にならざるを得ない(もしくは消費税相当額の値引きを強いられる)、という状況になるため、零細事業者に対する事実上の増税ということとなり、納税に対応出来ない事業者は廃業の危機に追いやられることとなる。その影響は、建設業の一人親方、独立系SE、フリーライター、個人タクシーの運転手、フードデリバリーの配達員、漫画家、声優、アニメーター等々、幅広い職業に及び、その中には低所得でやりくりをしてきた者も多いことから、複数の事業者団体が反対の声明を上げる状況にある。
 新型コロナ禍や円安、物価の高騰など生活への課題が山積する現状において、世界では消費税の減税が進められる中、日本の対応はこれらに逆行するものと言わざるを得ない。

3 さらに当該制度は、事業者としての登録を強制するものであることから、インボイスの提供を受けた事業者が、取引の相手方が適格請求書発行事業者であるかを照合するため、登録された情報が国税庁のホームページで公開されることとなっている。個人事業主の場合には、本名が必ず公開され、法人でも法人名と本店又は主な事業所の所在地は公表されることとなる(2022年9月末時点では個人事業主の個人情報の公開は停止されているが、照合確認の必要上、なんらかの形で公開されることは避けられない)。個人事業主の場合には、芸名や通称名で活動している場合、公開されている本名では照合ができないため、主な屋号や主な事業所の所在地、通称等を登録しなければならなくなることから、芸名や通称名で活動しているにも関わらず本名は知られてしまう、ということになる。加えて、データの一括ダウンロードが可能であり、商用利用も可能とされていることから、膨大な個人情報が、インボイス制度に関係のないところまで流出する危険もあり、そういった情報流出を恐れて登録が出来ず、廃業に追い込まれる可能性、さらには芸能関係者に対するストーカー行為の誘発も懸念される。
 加えて、インボイス制度の仕組は複雑であり、理解が追いついていない事業者も多く、2022年8月末日時点で、適格請求書発行事業者の登録は法人で42.4%、個人事業主で9.9%にとどまっており、コロナ禍でフリーランス人口が500万人以上も増加したことも考慮すると、制度の周知方法、周知期間も不十分であり、現状のままインボイス制度に移行することは、事務負担を含め零細事業者の経営に大きな混乱をもたらすことは自明である。

4 消費税は、所得の過多によらず国民に一律の税負担を強いることから、導入次点においても大きな反対があり、1979年の大平内閣時代に一般消費税導入の閣議決定が行われたが大きな反発を受け導入断念に至り、1987年の中曽根内閣でも「売上税」法案が提出されたが国民的な反対から廃案に追い込まれている。1988年の竹下内閣で税収を社会保障に用いるとしたうえで消費税法が成立したのち、今日まで税率の引上げが繰り返されているが、消費税収は減税が続く法人税等の穴埋めに用いられている状況にあり、国民生活を苦しめる元凶となっている。
 インボイス制度の導入は、免税事業者からの適切な納税を進める公平な税負担を標榜しているが、他の減税の穴埋めに用いられる現状で、さらなる消費税からの税収増を強いる合理的理由は何ら存在しない。インボイス制度は国民の大半を占める零細事業者・個人事業主へのさらなる負担を強いるものであり、自由法曹団としても当該制度の実施に反対し、各団体と連携・協力して取り組みを進めていく。

 

2022年10月24日

自由法曹団2022年京都総会

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