2023年2月24日、『ロシア連邦に対して改めて軍事行動の即時停止とウクライナからの撤退を求めるとともに 日本政府が進めようとしている「大軍拡」に反対する声明』を発表しました
ロシア連邦に対して改めて軍事行動の即時停止とウクライナからの撤退を求めるとともに
日本政府が進めようとしている「大軍拡」に反対する声明
2023年2月24日
自由法曹団 団長 岩田研二郎
1 ロシアはウクライナへの軍事行動を停止せよ
2022年2月24日にロシア連邦(ロシア)がウクライナに対する軍事侵攻を開始してから、丸1年が経過した。開戦1年を機にロシア軍は大攻勢に入るなどと報道されているが、これまでロシア軍は、原発や病院、民間人アパートなど非軍事施設にも攻撃の手を緩めることはなく、民間人を無差別に殺戮しており、ウクライナ各地で深刻な人道危機が続いている。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によれば、侵攻開始から2023年2月21日までに少なくとも8,006人の民間人が死亡し、負傷者数は13,287人に上る(もっとも、東部の激戦地等で正確な確認がとれておらず、実際は上記数字を相当上回るとの見方が示されている)。また国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、ウクライナからの避難者は2023年2月15日時点の推定値で、ヨーロッパだけでも8,075,440人に上っている。このような事態がこれ以上続くことは断じて許容できない。
この侵攻は、ロシア側が主張する個別的自衛権、集団的自衛権、在外自国民の保護等の正当化事由のいずれにも当てはまらないことが明らかであって、「戦争の惨害から将来の世代を救い、基本的人権と人間の尊厳及び価値と男女及び大小各国の同権とに関する信念をあらためて確認」するとした国連憲章前文、国際紛争の平和的解決を原則とする同2条3項及び第6章、武力による威嚇又は武力の行使を原則禁止する同2条4項、並びにジュネーブ諸条約等の国際人道法に明確に違反する違法な武力行使であり、一方的な侵略行為である。ロシア軍による民間人の殺戮や市民生活の要となるインフラへの攻撃等は、国際刑事裁判所設立条約(ローマ規程)で禁止する戦争犯罪や侵略犯罪に該当するものであって、国際刑事裁判所(ICC)によって捜査が行われている。
このようなロシアの違法な武力行使について、国連総会は2022年3月2日にロシアに対して軍事行動の即時停止を求める決議案を141カ国の圧倒的多数で採択している。そして、この間、世界各地で大規模な抗議活動が繰り返されている。
ロシアは国際社会の批判を受け止め、即刻軍事行動を停止し、ウクライナから撤退すべきである。
2 プーチン政権によるロシア国内の言論弾圧は許されない
またプーチン政権は、軍事侵攻継続のため、国内の言論を厳しく統制し、反戦運動に苛烈な弾圧を加えている。TwitterなどのSNSへのロシア国内からのアクセス遮断に始まり、2022年3月上旬には「モスクワのこだま」などの独立系メディアへのアクセスを遮断して閉鎖に追い込んだ。3月4日にはロシア軍の行動に関する「偽情報」流布や、公の場での軍事行動停止の呼びかけ等を最大自由剥奪(懲役)15年の刑罰をもって厳しく罰する刑法改定を行い、実際にウクライナ侵攻をSNS上で「戦争」と呼んだことで逮捕・起訴されたり、著名な反体制派活動家が長期の懲役刑を言い渡されたりする事態となっている。また9月21日に予備兵の市民を動員するための大統領令発令をきっかけにロシア全土で行われたデモや集会では、同日だけで1400人以上が拘束され、EU域内へのロシア国内からの脱出者は9月19日からの1週間で約66,000人に上ったとのことである。このようなロシア政府の暴挙は、民主政治システムの根幹をなし、近代憲法に共通する中核的権利であるはずの表現・報道の自由を踏みにじるものであって、到底許されない。
3 日本政府の安保三文書と敵基地攻撃能力保有に反対する
全世界の国民が平和のうちに生存する権利を有することを確認し、恒久の平和を達成するために全力をあげることを誓う日本国憲法を有する日本は、今こそ、ロシア及び国際社会に働きかけ、即時停戦、ロシア軍のウクライナからの全面撤退を実現させるべく最大の努力を尽くさなければならない。
にもかかわらず、日本政府は、「ロシアによるウクライナ侵攻により、国際秩序を形づくるルールの根幹がいとも簡単に破られた」などと安全保障環境の悪化・複雑化を強調し、「自国を守るためには、力による一方的な現状変更は困難であると認識させる抑止力が必要である」として、ロシアの軍事侵攻を口実にしつつ、敵基地攻撃能力の保有を含む安保三文書改定の閣議決定を2022年12月16日に行った。
同閣議決定は、同月17日付自由法曹団常任幹事会による「安保3文書の閣議決定の白紙撤回を求める決議」で詳しく指摘したとおり、歴代政府が依拠してきた専守防衛の理念を根本的に転換し、日米安保体制下における日本の「盾」としての役割を大きく変容させるものであり、憲法前文、9条、41条など幾重にも憲法に違反するものである。殊に敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有が明記されたことは、2014年に閣議決定された武力行使の新三要件とあいまって、自衛隊がアメリカ軍と一体となって相手国への先制攻撃を含む同軍の戦争をともに戦うことを意味している。外交上の緊張を高め、日本を際限のない軍拡競争に駆り立て、その行使によって相手国からの報復攻撃を呼び込むものにほかならない。特に、安保三文書は、南西地域での防衛体制を強化するとして、沖縄、与那国島、石垣島、宮古島等の南西諸島において、自衛隊施設の増強やミサイル部隊の配備等が進められているが、万一、台湾海峡で有事となった場合、この地域をはじめとする日本の国土に甚大な被害が及ぶことになる。石垣島市議会は、昨年12月、「自ら戦争状態を引き起こすような反撃能力をもつ長距離ミサイルを石垣島に配備することは到底許容できない」とする意見書を採択した。政府は、こうした地元住民の声に耳を傾け、敵基地攻撃能力の保有という暴挙を直ちに止めるべきである。
4 国民生活を圧迫する防衛費増、防衛増税に反対
さらにこのような危険な「大軍拡」のため、政府は、今後5年間で防衛費を43兆円支出し、2027年度にはGDP比2%規模=11兆円規模(世界第3位に相当)とすることとしており、その財源確保のため増税にまで踏み出そうとしている。こうした無謀ともいえる防衛費増、防衛増税により国民生活が圧迫されることは明白であり、また、すでに世界最悪の赤字状態にある国家財政は破綻の道に陥らざるを得ない。今、国民生活はコロナ感染や物価高騰等により多大の苦難を抱えている。限りある予算は、こうした状況を打開するため、医療・福祉、教育・子育て支援等の生活関連措置の充実にこそ使われるべきである。
5 緊張緩和、軍縮を働きかける平和的、外交的努力こそ
このように今般の閣議決定は、力による現状変更に対する不安に応えるかのように見せかけておきながら、その内実は、武力行使を誘発し、日本が戦争に巻き込まれる危険を飛躍的に増大させるものとなっている。しかも、その費用負担は、現在及び将来の国民に重くのしかかるものである。このような重大かつ憲法に違反する大転換を、国民の信を問うことはおろか、国民に対する説明も国会での審議もせずに閣議決定して押し進めることは、まさに民主主義を圧殺する政治権力の横暴そのものである。
今般の安保三文書改定による日本の防衛政策の大転換は、憲法を無視ないし破壊して、憲法上保有しえない攻撃的兵器を常時配備するものであって、「抑止」にはつながらず「力対力」の武力紛争を招来し、沖縄や南西地域をはじめとする日本の国土を戦争の惨禍にさらすものにほかならず、国民主権、民主主義、立憲主義を踏みにじるものであることが強く認識されるべきである。
平和を確保するためには、「大軍拡」ではなく、徹底した平和主義を掲げる日本国憲法を誠実に遵守したうえで、緊張緩和、軍縮を働きかける平和的、外交的努力こそが尽くされなければならない。
6 100年以上、平和、民主主義、人民の生活と権利を守るためにたたかい続けてきた自由法曹団は、今世紀において戦争が根絶されることを願い、まさに平和を破壊し人民の権利を踏みにじるロシアの軍事侵略に最大限の厳しい言葉で抗議し、改めて軍事行動の即時停止とウクライナからの撤退を求めるとともに、日本政府に対し、国民生活を犠牲にして戦争の惨禍に自ら身を晒す「大軍拡」の愚策を即時にやめ、国民生活の向上と戦争回避の努力によって憲法価値を実現することを強く求める。
以 上