2023年3月2日、「日野町事件における検察官の特別抗告を許さず、一刻も早い再審公判を求める声明」を発表しました
日野町事件における検察官の特別抗告を許さず、一刻も早い再審公判を求める声明
本年2月27日、いわゆる日野町事件の第二次再審請求において、大阪高等裁判所第3刑事部(石川恭司裁判長)は、2018年7月11日に大津地方裁判所(今井輝幸裁判長)で出された再審開始決定(以下「原決定」という。)を維持し、検察官の即時抗告を棄却すると決定した(以下「本決定」という。)。
日野町事件は、1984年12月、滋賀県蒲生郡日野町において、阪原弘さん(以下「阪原さん」という。)が、行きつけの酒店店主を殺害して手提げ金庫を強取した強盗殺人犯として、被害者行方不明から3年3か月たった後に、逮捕起訴された事件である。
阪原さんは、捜査段階での暴力には屈しなかったものの、「娘の嫁ぎ先をがたがたにしてやろか」などの脅迫には耐えきれず、虚偽の自白をしてしまったものの、裁判では一貫して自らの無実を訴えてきた。
確定一審の大津地方裁判所は、阪原さんの自白について、それよって事実認定ができるほどの信用性は認められないとしながら、状況証拠のみで有罪を認定して無期懲役判決を言い渡した。二審大阪高裁では一転して、状況証拠のみでは有罪認定はできないが、自白の基本的根幹部分は信用できるとして、控訴が棄却された。最高裁判所も上告を棄却したことで、2000年10月、阪原さんの無期懲役判決は確定した。
阪原さんと弁護団は、阪原さんの無実を訴え、2001年に再審を請求したが、即時抗告審中の2011年3月、阪原さんは病気で亡くなり、第一次再審請求は終了した。その後阪原さんの遺志を受け継いだご遺族が、2012年3月、第二次再審を請求していた。
本決定は、第一次及び第二次再審請求で開示された多くの新証拠に基づいて、あらためて新旧証拠を総合的に判断し、阪原さんを犯人と推認する確定判決を維持することには疑問があるとして、再審を開始するとした原決定を維持したものであり、高く評価することができる。原決定及び本決定によって、再審請求段階における全面証拠開示の必要性が、一層明らかになったといえる。
もっとも、再審開始を認めた原決定から本決定に至るまで、およそ4年半もの年月が経過していることを看過することはできない。原決定に対する検察官の即時抗告がなければ、この間に再審公判が開始され、無罪判決も言い渡されていたことであろう。わが国の刑事再審制度は、冤罪被害者の人権救済を目的とした制度であるが、あまりにも時機に遅れた救済では、人権救済の意味を持たない。阪原さんのように冤罪を晴らすことなく再審請求途中で亡くなったり、高齢化してゆく冤罪被害者が多数存在することを思えば、一度再審開始の決定が出たならば、検察官の不服申立てを許すことなく、直ちに再審公判が開始される制度に改めるべきである。
自由法曹団は、現行再審法の不備を糺し、再審請求段階での全面証拠開示や再審開始決定に対する検察官の不服申立て制度を禁止するなど、再審法を早急に改正するよう求めるとともに、新証拠によって確定判決はもはや維持しえないことが明らかになっている本件において、阪原さんの無念を晴らし、一刻も早い名誉回復をはかるため、検察官に対し、特別抗告を断念するよう、強く求めるものである。
2023年3月2日
自 由 法 曹 団
団 長 岩 田 研 二 郎