2023年3月16日付、自由法曹団・日本民主法律家協会は「死刑制度廃止に向けての共同アピール」を発表しました

カテゴリ:声明,治安警察

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死刑制度廃止に向けての共同アピール

1 はじめに

 自由法曹団と日本民主法律家協会は、本年3月1日、死刑制度学習会「死刑廃止に向けて~ベルリン開催の世界死刑廃止会議での討議を受けて」を共催し、日本における死刑制度廃止に向けての共闘の第一歩を踏み出した。この共闘は、引き続き、さらに多くの他団体とも繋がりながら、死刑制度が廃止されるまで継続していくことを宣言する。

2 日本国憲法から死刑制度を検討しよう

 人は、人として最大限に尊重されなければならない。人の生命を奪う権利は「人の社会」の構成員である何人も有しない。「人の集団」である国家も同じである。ところが、死刑は罪を犯した本人の更生の道を絶ち、罪を犯した人を社会から永遠かつ完全に排除する刑罰である。国家によって人の生命を奪う死刑制度は、個人の尊重を掲げ、ひいては国際人権宣言に言う人間の尊厳を保障する社会をめざす日本国憲法の精神からは、廃止こそ望ましい。

 弁護士によって構成される自由法曹団、学者・弁護士を中心とする法律家のほか、法律家団体や司法関連の労働組合によって構成される日本民主法律家協会は、ともに、日本国憲法の国民主権・平和主義・基本的人権の尊重をいっそう確実なものにすることを使命として活動する団体である。人権の根源とも言うべき生命を侵害する死刑制度はこれを廃止すべきである。

3 誤判・えん罪の可能性の存在

 日本では戦後、相次いで4つの死刑判決確定事件について再審無罪が確定している(免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件)。現在も、死刑確定判決に対して再審請求が行われている事件があり、2023年3月13日、1966年に4人を殺害したとして死刑判決が確定していた袴田巌さんの第二次再審請求差し戻し審で東京高裁は、再審開始を支持する決定を行った。

 一昨年に創立100周年を迎えた自由法曹団は、長年、多くの誤判・えん罪事件に取り組んできた。日本民主法律家協会も、長年、司法制度研究集会などを通じて誤判・えん罪の病巣に迫る活動に取り組んできた。これらの活動によって示されているように、刑事裁判では誤判・えん罪の可能性を完全に否定することはできない。

 誤判・えん罪の事件に死刑が執行されるとすれば、それは社会正義の維持・回復、犯罪の抑止、被害者感情の慰撫、正当な応報の実現等、いかなる観点からも正当化することはできない。死刑制度は、このように解決することが不可能な絶対的な矛盾をどうしても避けられない。無辜の者を死刑に処することは、どのような立場にあっても、国家による殺人であって、非道不正義の極致と言わざるを得ない。

 このような取り返しのつかない事態を招く危険をはらむ死刑制度は廃止すべきであると私たちは確信する。

4 死刑制度の廃止と被害者遺族の支援は切り離して考えるべきである

 大切な人の命を奪われた被害者遺族が極刑を望むのは十分に理解できる。しかしながら、被害者遺族がすべて死刑を望むわけではなく、時の経過とともにその心情も変化する。犯罪は許せないが、犯人を憎み続けるよりも亡くなった家族・友人の懐かしい思い出を大切にしたいという述懐を聞くこともある。さらに、被害者遺族の視点から見ると、死刑判決が予想される事件では責任能力の有無に争点が絞り込まれ、事件の真相に迫ることが二の次にされてしまったり、また死刑判決が宣告された後に死刑確定者との面会や通信が制限され、真相を知る機会が閉ざされてしまったりするなど、秘密のベールで被われた死刑制度のゆえに被害者遺族の深い思いが遂げられない事態も生じている。

 遺族を含む犯罪被害者に対しては、適切な精神的・経済的支援、さまざまな法的支援が講じられることが必要であり、こうした十分な支援を行うことは社会全体の責務である。しかし、死刑制度を被害者遺族への支援として位置づけるべきではなく、被害者遺族への支援と死刑制度は切り離して考えられるべきである。

5 国際社会は、日本政府に死刑制度廃止を求めている

 1948年に生命への権利を掲げた世界人権宣言を始めとして、1989年の死刑廃止条約(市民的及び政治的権利の国際規約第二選択議定書)は死刑が人権と相いれないものであることを明らかにした。死刑のない社会はすでに国連加盟国193カ国のうち144カ国に及び、存置国はますます少数派になり、死刑を実際執行する国も著しく減少している。

 いまや、日本が死刑制度を存置していることは、国際化の進む世界において桎梏となっており、日本を訪問する外国の軍人・軍隊構成員による犯罪に対する裁判権の放棄にもつながる深刻な事態を招いている。また犯罪者の引渡にも支障を来たす状態にある。

 他方、日本が加盟する国際刑事裁判所では、重大な国際犯罪に対しても死刑の適用はあり得ない仕組みになっている。2007年10月1日付で国際刑事裁判所ローマ規程の締約国となった日本政府は、すでに、極悪非道な犯罪者を必ず極刑に処しなければならないという堅い応報刑の立場を乗り越えて、新たな地平に向かう意思決定をしていることを忘れるべきではない。

 また3年ごとに開かれる世界死刑廃止会議の第8回会議が、昨年2022年11月に、ドイツ連邦共和国(1949年に死刑を廃止)の首都ベルリンで開催され、世界的な死刑廃止(universal abolition)をめざす活動をますます広く深く力強く進めることが確認され、そのための世界的な連帯が呼びかけられている。

6 私たちの決意

 以上のとおり、私たちは、本年3月1日の学習会や意見交流を通じて学んだ人権や国際法の視点から、社会全体としての幸福の実現を目指すという観点も含め、国際社会が死刑廃止の方向に進んでいることに鑑み、日本もこの潮流に合流し、人の生命への侵害を除去しようとしている国際社会において「名誉ある地位を占めるよう」努めることを訴える。

 2023年3月16日    

                   自由法曹団・日本民主法律家協会

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