2023年6月6日、「トランスジェンダーの弁護士に対する殺害予告に断固抗議し、ヘイトクライムを許さず、性的マイノリティに対する差別の根絶を目指す声明」を発表しました

カテゴリ:声明,市民・消費者

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トランスジェンダーの弁護士に対する殺害予告に断固抗議し、
ヘイトクライムを許さず、性的マイノリティに対する差別の根絶を目指す声明

 

1 大阪弁護士会所属であり、トランスジェンダーであることを公表している仲岡しゅん弁護士に対し、2023年6月3日以降、殺害を予告する脅迫メッセージが多数送られている。脅迫の内容は、「男のクセに女のフリをしているオカマ野郎をメッタ刺しにして殺害する、必ず決行する。」「もう工事は終わってるの?」(「工事」とは、性別適合手術を指す。)などの差別用語とともに、残忍かつ陰湿な内容に終始しており、当該殺害予告は、トランスジェンダーに対する差別意識に基づく明らかなヘイトクライムである。本件について報道がなされた後も、仲岡弁護士に対して脅迫メッセージが継続して送られており、当該殺害予告は、極めて加害の危険性の高いものとなっている。

2 インターネット等では、「トランスジェンダーと言えば女子トイレ入り放題、次はカメラをしかけてやろう」などと、トランスジェンダー当事者と犯罪者をむすびつけるかのように表現するなど、トランスジェンダー当事者に対する差別を助長する発言等が行われている。性的マイノリティに対する不安を煽り、差別意識や憎悪感情を掻き立てる言動等が繰り返し行われることは、本件のような差別意識の発露であるヘイトクライムを引き起こすことにつながる。このような性的マイノリティに対する差別的言動を温存することは許されず、差別と憎悪にさらされる性的マイノリティの人権をまもるため、差別とヘイトクライムを許さない断固たる態度が必要である。

3 自由法曹団2022年6月24日付「差別のない社会を目指し、速やかなヘイトクライムへの対策を求める声明」において述べたとおり、ヘイトクライムは単なる個人の偶発的な犯罪ではない。特定の属性を持つ人々に対する偏見などの差別意識が社会に根付いた結果としてヘイトスピーチが繰り返され、それによってさらに強まった差別意識により、当該属性を持つ人々に対する敵視、偏見並びに憎悪が増長され、同じ人間であることを否定し、罪の意識なく犯罪が行われることとなる。
 そして、ヘイトクライムは、その対象とする属性やコミュニティへの攻撃であり、特定の属性を持つ人々を排除することを目的とする。ヘイトクライムの存在は、社会の分断を招き、自由で平等であるべき民主主義社会を根底から破壊するもので、誰もが安心して暮らせる共生社会の実現のためにも決して許されない。
 日本に対しては、国連人権理事会から、マイノリティのための権利擁護の法整備を求める勧告が繰り返し行われている。広島サミットをひかえた本年2月には、日本を除いた「G6」とEUの駐日大使が連名で、性的マイノリティ(LGBTQ)の人権を守る法整備を促す書簡を岸田首相に提出するなど、性的マイノリティの権利擁護にかかる法整備が欠けている日本社会に、国際社会は厳しい目を向けており、性的マイノリティに対する権利擁護の施策を講じることは急務である。

4 自由法曹団は、2022年10月24日の京都総会で採択された「多様な性のあり方の尊重を求め、すべての人が平和に安心して生活できる社会の実現を求める決議」のとおり、性的マイノリティの当事者の苦境や人格への侵害を真摯に見つめ、法整備を含め、人々の様々な性のあり方において個人の尊厳が守られ、性のあり方によって個人が差別されることなく、安心して生活できる社会の実現を強く求めて取り組む。
 人権擁護の取組みを続けてきた歴史をもつ自由法曹団は、仲岡しゅん弁護士に対する殺害予告に対して厳しく抗議するとともに、性的マイノリティ差別を助長するヘイトスピーチやヘイトクライムを許さず、差別根絶と共生社会の実現のために、多くの人びととともに立ち向かっていくことを表明する。

                 

2023年6月6日

自 由 法 曹 団
団長 岩田 研二郎

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