第1809号 5/1

カテゴリ:団通信

【今号の内容】

●ハラスメント防止対策について  今村 幸次郎

●統一教会の名称変更文書の不開示決定取消しを提訴  小林 徹也

●小学校教科書の検定結果と今後の採択にご注目を  小林 善亮

●アイヌの差別問題を考える  広谷 渉

●「ケアの倫理」を学ぼう  城塚 健之

●安保廃棄のリアル  小賀坂 徹

●陸自宮古島駐屯地と石垣島駐屯地の現況の報告(前編)  井上 正信

●「新しい戦前」としないために-『毎日』は反戦リベラルを排除するのか-  大久保 賢一

●東北の山 ~栗駒山~   中野 直樹

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【福岡支部特集】

◆北九州での憲法問題に関する活動報告  池上 遊

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ハラスメント防止対策について

幹事長  今 村 幸 次 郎

 本年3月上旬、元団員によるセクシャルハラスメントの事案が広く報道される事態となりました。団では、これを機に、昨年来議論してきた団内におけるハラスメント防止に向けた体制づくり等を喫緊の課題として、3月及び4月の常任幹事会において、その具体的な方策等について討議いたしました(4月常幹ではこの問題についてブレークアウトルームを実施)。その結果、皆様から貴重なご意見、ご提言等を多数いただきました。
 こうした議論を経て、常任幹事会は、2023年4月15日付で、Ⅰ.「ハラスメント防止対策について(執行部方針)」を確認したうえで、Ⅱ.「ハラスメント防止宣言」を決議しました。
 今後、防止宣言の周知徹底を図るとともに、執行部方針に基づき、ハラスメント防止に関する指針(ルール)の策定、相談体制の確立、研修・実態調査の実施などハラスメント防止に向けた取り組みを着実に進めてまいりたいと考えています。
 あわせて、常任幹事会での議論を踏まえ、同日付で、Ⅲ.「元団員によるセクシャルハラスメント事案について」(団長声明)を発出しました。こうした事案が二度と生じないよう、団員各自が今一度自ら襟を正して、ハラスメント撲滅に向けて、より一層の努力をしていく時だと思います。
 よろしくお願いします。

Ⅰ.ハラスメント防止対策について(執行部方針)
1 ハラスメントの防止に関する基本方針を定め周知する。(常任幹事会で「ハラスメント防止宣言」を決議する。)
2 指針及び防止対策の策定・実施・運用等を行うため「ハラスメント対策委員会」を設置する。
3 ハラスメント防止に関する指針(ルール)を策定する。
4 相談体制を確立する。
 相談体制づくりの基本方針は以下のとおりとする。
①    ハラスメント被害者が相談しやすい体制とすることとし、相談者に不利益が生じることのないよう留意すること
②    相談員、調査委員、執行部の間で適切な役割分担をし、制度の実効性を高めること
③    全国規模の相談体制構築のために、各弁護士会でのハラスメント相談経験のある団員や弁護士の不祥事対応等にあたる弁護士会の役員経験のある団員にも協力を要請すること
④    被害者及び関係者からの聞き取りに、オンラインを利用するなど、被害者及び関係者の負担を軽減すること
⑤    秘密の厳守を徹底すること
5 継続的に研修や学習会を行い、また、定期的に実態調査を行うなど、ハラスメント防止対策が十全なものとなるよう鋭意取り組む。

以上

Ⅱ.ハラスメント防止宣言
1 ハラスメントは、性別、性的指向、性自認、社会的身分、人種、民族、国籍、宗教、信条、年齢、職業、学歴・職歴、身体的特徴、障がいの有無など個人の人格にかかわる言動によって、あるいは力関係や優越的地位を利用して、個人に不利益・不快感を与え、その人権と尊厳を損なう行為である。
 自由法曹団は、団員によるハラスメントを防止し、団員及びすべての関係者の人権と尊厳を守り、ハラスメントのない環境を実現するために全力を尽くすことをここに宣言する。
2 ハラスメントは、対象となった個人の尊厳を傷つけ、精神的な苦痛を与えるだけでなく、健康被害をももたらしかねないものであり、その自由な意見表明や活動を萎縮させるものである。
 自由法曹団は、基本的人権をまもり民主主義をつよめ、平和で独立した民主日本の実現に寄与することを目的としている(自由法曹団規約第2条)。規約第3条では、その団員について、進歩と自由をねがい、人民の権利をまもることを志す弁護士で、団の目的達成に協力する者は、団員となることができる旨定めている。
 このような団員にあって、他者の人権と尊厳を損なうハラスメントが許されないことは改めていうまでもない。ハラスメントが放置されるのであれば、団の健全な運営も発展も望むことはできない。
3 私たちは、改めて、団の目的及びその目的達成に協力する弁護士としての団員であることを深く自覚し、自ら襟を正して、団内からハラスメントを一掃することを決議し、すべての団員にこのことを呼びかける。
 私たちは、この方針を団内に周知徹底させ、ハラスメント防止に向けたルールの整備、相談体制の確立、実態の把握等を行ったうえで、定期的、継続的に学習・研修を実施して、自らの行動や組織風土を抜本的に改革していくことを本日ここに確認した。
4 自由法曹団は、団内からハラスメントをなくすことを決意するとともに、団として、今後とも、ハラスメントのない社会の実現に向けてなお一層努力することを表明する。

2023年4月15日

自由法曹団常任幹事会

Ⅲ.元団員によるセクシャルハラスメント事案について(声明)
 2023年3月上旬、自由法曹団の団員であった弁護士(2023年1月退団)が、自らの依頼者の女性に性的関係を強要し精神的苦痛を与えたとして、被害女性から民事訴訟が起こされたことが広く報じられた。
 同弁護士が公表したブログの文書によると、同弁護士は、被害者の女性の身体に触れたり、性的関係を迫る言動を続けたり、依頼を受けていた裁判の対応にまで言及して、その女性を追い込み苦しめたとのことである。
 このような行為は、代理人弁護士としての地位を利用し、拒絶が困難な相手方の立場や状況に乗じて、その意に反する性的被害を加える性暴力にほかならず、被害にあわれた女性の人権及び尊厳を深く傷つけるものであって、断じて許すことができない。
 同弁護士が、これまで、自由法曹団の団員としての活動、原発事故被害者の被害救済を求める取り組み、演劇界などにおけるセクハラ撲滅に向けた活動、ハラスメント講習の講師等を行っていたことを考慮すると、その行為は、こうした活動に信頼を寄せていた多くの関係者の信頼を裏切るものであって、同弁護士も認めているとおり、その責任は重大である。
 自由法曹団は、今回の事案について、厳しくこれを批判するとともに、これを教訓として、今後、このような行為が二度と行われることのないよう、ハラスメント防止に向けた体制整備、研修、啓発活動等の取り組みを抜本的に強化することを誓約する。私たちは、今一度、自ら襟を正して、ハラスメントをしない・させないことを確認するとともに、その根絶に向けて全力を尽くすことを表明する。

2023年4月15日

自由法曹団 団長 岩 田 研二郎

 

統一教会の名称変更文書の不開示決定取消しを提訴

大阪支部  小 林 徹 也

1 本訴訟の概要 
 2015年6月、世界基督教統一神霊協会(旧統一協会)は、文部省の許可を得て、その名称を世界平和統一家庭連合へ変更した。
 本訴訟は、神戸学院大学上脇博之教授が、この名称変更に至る行政文書(統一協会が文科省に申請した時の文書、認証した時の文書、結論を出すまでに文科省内部で協議等をした文書等)の開示を求めたところ、国がこれらの文書の開示のほとんどを拒否したことから、その開示を求めるものである。
 本年3月15日に提訴を行ったところ、入廷行動、記者レクの撮影を含め、広く報道され、この問題に対するマスコミの関心の高さを伺わせた。
 なお、代理人には、阪口徳雄、徳井義幸、坂本団、愛須勝也、岩佐賢次、当職の各団員が実働として参加していることに加え、阪口団員と同期である23期の弁護士を中心に多くの団員弁護士も名を連ねており、その総数は約40名となっている。
2 本件の背景-安倍元首相襲撃事件を契機として広く注目された自民党と統一協会の癒着
(1) 安倍晋三元首相銃撃事件
 周知のように、2022年7月8日、奈良市で参院選の街頭演説中だった安倍晋三元首相が、手製の拳銃で撃たれて死亡するという事件が発生した。
 報道によれば、容疑者は動機について、旧統一協会の名前を挙げ、母親が旧統一協会に少なくとも約1億円を献金して破産し、家庭が崩壊したとした上で、当初は団体の最高幹部を襲撃しようとしたものの接触が難しかったことから、団体と関わりがあると思った安倍晋三氏を狙ったとした。
(2) 名称変更前に大きく社会問題化していたこと
 「旧統一協会」(現在は世界平和統一家庭連合)は、文鮮明によって1954年に韓国で創設された新興宗教およびその宗教団体であり、正式の旧名称は世界基督教統一神霊協会である。一応、キリスト教系の新宗教とされ、文化庁が発行している宗教年鑑ではキリスト教系の単立に分類されている。
 ただ、旧統一協会は、市民に対し「霊界で苦しむ先祖を救うため」「運勢の転換のため」と多額の献金をさせたり、「神が求めているから」と不動産を担保に入れて金をつくらせたり、「これを授からないと救われない」と印鑑やつぼを売りつけたり、さらには信者らに福祉や難民救済を装ってカンパを集め訪問販売をさせる(いわゆる「霊感商法」)などして多額の金を集めてきたことから1980年代より大きく社会問題化していた。当時は著名な芸能人が、旧統一協会が開催する集団結婚式に参加するなど、この問題が頻繁にマスコミに取り上げられており、現在50代以上の団員には馴染みの光景であったろう。
(3)自民党を中心とする政治家と旧統一協会の癒着
 他方で、旧統一協会は、長年にわたって日本の政界への浸透工作を行っていたことが知られている。長らく旧統一協会問題に取り組んできた弁護士たちによれば、旧統一協会は自民党の議員を中心に、多くの国会議員と関係を持っており、1990年代の時点で日本の国会議員のうち、百数十名(多くは自民党)の秘書は旧統一協会の信者であり、議員達の活動は旧統一協会へ報告され、指示を受けていたとされる。

そして、上記襲撃事件を契機として、自民党を中心とする政治家と旧統一協会との関係がさらに注目され、その深い癒着が次々と明らかとなった。自民党について言えば、現在でも約80名近くが旧統一協会と何らかの関係を有しているとされ、その解明は現在も進行中であることも周知であろう。
(4)名称変更承認に対する圧力疑惑
 このような状況の中、2015年に文化庁が団体の名称変更を認めた経緯に注目が集まった。報道によれば、1997年頃、旧統一協会から文化庁宗務課に名称変更の相談が最初に持ち込まれたとされる。ただ、当時の幹部によると、文化庁は最初に申し出があった1997年に、霊感商法などへの批判をかわすための申請は認められないと拒否し、その後も同様の対応をとってきたという。だが2015年に一転して申請を受理し、当時の下村博文・文部科学相にも名称変更を認める前に異例の「報告」をしていた。
(5)名称変更に至る経過の解明が極めて重要であること
 このような背景のもとに行われた名称変更は、それまでの違法な行為の責任の所在を隠蔽し、新たに犠牲者を増やすことになったものであり、仮にそれが政治との癒着のもとに行われたものであるなら、我が国の民主主義にとって重大な脅威であり、その経過の解明が極めて重要であることは言うまでもない。
3 開示を求めた主な文書
 本訴に先立つ開示請求では、①2015年6月に世界基督教統一神霊協会の名称を世界平和統一家庭連合へ変更することを文化庁に申請した時の文書、のみならず②認証するとの結論を出すまでに内部で協議、検討、起案、決済、供覧した文書及び結論をまとめた文書(決裁文書を含む)などの開示を求めた。
 これに対し、国は(数行ではあるが)「規則変更理由」をマスキングした決裁文書、これに添付された、ほぼすべてがマスキングされた「世界基督教統一神霊協会責任役員会議事録」等を開示したものの、それ以外の文化庁が保有している文書については、具体的にどのような文書があるかも特定しないまま、十把一絡げに、「当該法人の宗教活動に関連する情報が含まれており、公にすることにより、当該法人の権利、競争上の地位その他正答な利益を害するおそれがあるため、法第5条第2号イに該当」、また「国の機関の内部における検討に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるため、法第5条第5号に該当」することから不開示とした。
 しかし、このように何ら客観的なおそれ等の不開示理由を示さない不開示決定が違法であることは明らかである。
4 今後の進行について
 すでに第1回弁論期日が5月17日に決まっているが、国は引き延ばしにかかる可能性が大きい。弁護団としては、そのような国の姿勢を許さず、速やかな開示を求め追及していきたいと考えている。

 

小学校教科書の検定結果と今後の採択にご注目を

埼玉支部  小 林 善 亮

1 強まる教科書への政府介入
 今年7月から8月、各地の市町村教育委員会で小学校の教科書採択が行われます。
 小学校教科書には、中学校教科書での育鵬社版のような、いわゆる「つくる会」教科書は発行されていません。
 しかし、2018年度から、小学校でも道徳が教科化され、道徳の教科書が使用されています。2017年の初めての道徳教科書の検定で、パン屋を登場させた教科書に検定意見が付き、和菓子屋に修正して合格したことがマスコミでも話題になりました。
 政府は、教科書検定を通じて、その方針を教科書に書き込ませようと着々と手を打っています。小学校教科書も例外ではありません。
 2023年3月28日に来年度から使用される小学校教科書の検定結果が公表されました。この教科書が今年採択にかけられます。教科書検定の概要を紹介します。
2 小学校教科書検定結果の概要
(1)デジタルデータによる子どもの学びの方向づけ
 翌日の新聞報道等では、全ての教科書にQRコードが掲載され、デジタル対応が進んだことが報道されました。教科書に掲載されたQRコードをスマホやタブレットのカメラで読み込むと、ウェブサイトの資料のページにつながります。QRコードからアクセスするページは教材との位置づけですが、これを多用すれば、子どもが調べものをする学びの方向性が規定されてしまいます。教科書の中には、QRコードから防衛省・自衛隊のキッズサイト(子ども向けHP)にアクセスできるものもあり(教育出版・社会)、掲載される情報にも注意が必要です。
(2)政府見解の徹底
 2021年、いわゆる「従軍慰安婦」や「強制連行」等の用語が不適切であるとの閣議決定に基づき、検定済み教科書の記述の修正がなされました。検定合格した教科書を後から政府見解によって修正させるという衝撃的な出来事でした。
 今回の小学校教科書検定でも記述の後退が見られました。例えば、東京書籍の社会では、「戦争と朝鮮の人々」とのコラム(以前の教科書にも掲載されていた)の「兵士となった朝鮮の若者たち」との写真のキャプションが、今回の教科書では「志願して兵士となった朝鮮の若者たち」と変えられ、以前は「男性は日本軍兵士として徴兵され」と記述されていたのが、今回「男性は日本軍に加わるようになり、のちに徴兵制がとられる」との記載に変わりました。
 また、政府見解にもとづく記述として、領土問題について、竹島と「北方領土」は韓国やロシアが「不法占拠」していると各教科書に記載されています。
(3)道徳教科書での「国」の強調
 道徳教科書の検定では、「学習指導要領に照らして扱いが不適切」との検定意見に基づき、記述に「国」や「日本」を無理やり入れる修正がなされました。
 例えば、光村図書の6年生の道徳では秋田の伝統工芸の曲げわっぱを取り上げた箇所で、「曲げわっぱの他にも、昔から日本各地で大切にされているものがあるよ。調べてみてもいいね」という記載が、「君が思う日本の良さはどんなものかな。それらの良さを、どうやってよりよいものにしていきたいかな」と修正されました。他にも検定意見に基づき、「日本」や「国」を挿入する修正が行われた教科書があります。
3 教科書の現状への警戒と教科書リーフのご活用をお願いします
 中学校教科書の「つくる会」教科書は、全国の皆様の活動の結果、大幅にシェアが小さくなりました。ところが、政府は、教科書検定基準に政府見解に基づく記述を求める条項があることを利用して、政府に都合の良い記述を教科書に書き込ませています。2021年には検定合格した高校教科書の記述まで修正させました。教科書検定制度を通じて、全ての教科書が「つくる会」教科書化される危険があります。政府による教科書記述への介入を許さない声を強める必要があります。
 今年5月から6月にかけて、全国の教育委員会が教科書展示会を開催します(教育委員会のHPなどで場所と日程が告知されます。公民館や図書館での開催が多いです)。教科書展示会では市民の意見を書いて残すことができます。
 この機会に、各地域で、戦争する国づくりを先取りしつつある教科書の現状や問題点を、市民と共有する意見交換会や学習会に取り組んでいただくようお願いいたします。
 その際は、新しく団本部と教科書ネットが共同で発行した教科書リーフ「政府が教科書を書き替えさせる…。どう思いますか?」を是非ご活用ください。リーフのご注文は団本部まで。1部10円(送料別)、50部単位でのご注文をお願いします。

※団のホームページにも注文書をアップしてあります。(トップページの『出版物』項目の一番上にあります。ご活用下さい。)

 

アイヌの差別問題を考える

神奈川支部  広 谷  渉

1 はじめに
 はじめまして、横浜法律事務所75期新人の広谷 渉(ひろたに わたる)と申します。
 自由法曹団の差別問題対策委員会の主催で、札幌の池田賢太団員を講師にお招きしたアイヌ差別問題学習会が4月6日に現地とzoomのハイブリッドで行われました。私も現地に行って参りましたので、この場を借りて報告をいたします。
 講師の池田先生は64期で、弁護士としてはDV被害者の支援などの人権課題に取り組んできた方です。また、大学ではジェンダーと法の授業を受け持っていらっしゃいます。
2 「スッキリ!」での芸人の差別発言―悪気がない差別なら良いのか?―
(1) 「スッキリ!」での差別発言
 2021年、日本テレビの「スッキリ!」において、アイヌ女性を取り扱ったドキュメンタリーを紹介するVTR内で、ある芸人が「あ!犬」という発言をするという出来事がありました。放送後すぐに、多方面からこの発言はアイヌ差別ではないかという趣旨の批判が寄せられました。実際、この言葉は古くからアイヌ差別の文脈で使われてきたものでした。
(2) 差別の被害者の声
 アイヌ解放運動家の宇梶静江さんは別機会のSTVの番組で、自身が子どもの時に他の子どもたちから「あ!犬」と言って馬鹿にされたという話をしていました。宇梶さんは収録当時80代後半ですから、いかに差別の傷が被害者の中に長く深く残ってしまうものであるかがよくわかります。
 なお、この映像をはじめ池田先生は学習会でSTVの映像をいくつか取り上げていましたが、STVは日本テレビ系地方局で、中央と地方との感覚の差というのも本件が生じた背景にあったのではないか、ということを指摘していました。
(3) この問題に対する日本テレビ側の認識や世間の反応はどうであったか
 BPOはこの問題について審議を行いましたが、BPOの調査に対して日本テレビ側は一貫して差別的な意図はなかったという弁解をしました。世間一般に目を向けても、彼は差別的な文脈を知らずに今回の発言をしたのにバッシングを受けてかわいそうだ、と当該芸人を擁護するような反応も少なからず見られました。しかし、このような見方には、前述のような差別の被害に遭う側の視点が全く欠落しています。差別的な言動について、悪気がなければ良いなどと言うことは決してありません(BPO 2021年7月21日 第41号委員会決定Ⅳ4「差別の意図はなかったという底流」参照)。
3 相次ぐ政治家のアイヌ差別 -存在の否認としてのアイヌ差別-
 2014年、自民党の金子快之札幌市議がtwitter上で「アイヌ民族なんて、いまはもういないんですよね。せいぜいアイヌ系日本人が良いところですが、利権を行使しまくっているこの不合理。納税者に説明できません。」と発言しました。また、同年、同じく自民党の小野寺まさる北海道議は「アイヌ民族が先住民族かどうか疑念がある。」と発言しました。さらに、2019年には極右政治団体で多くの極右議員の支持母体でもある日本会議北海道本部が「あなたもなれる?みんなで“アイヌ”になろう?」というヘイトイベントを行いました。
 これらの点については少し補足説明が必要かと思われます。彼らは「本物のアイヌ」「純粋なアイヌ」が(現在すでに)存在しないということを前提にして、現代のアイヌの方々を税金や福祉に群がるアイヌ詐称者だと言っているのです。これは二重三重にアイヌの方々の名誉を傷つけるもので、悪質な差別であることは明らかです。そして、政治家という肩書きの権威によって、これらの明らかな差別がまるで傾聴すべき一つの見解であるかのように社会に流布されてしまうという点でも、その有害性は計り知れません。
4 不可視化される差別-私たちは当事者をただ消費してはいないか-
 アイヌに関する近年の動きとしては、民族共生象徴空間ウポポイが2020年に開業し、大ヒットした漫画『ゴールデンカムイ』は2022年に完結しました。ここ数年、アイヌへの注目が俄かに高まっているとも言えます。しかし、この点について、池田先生は、良きもの美しきものとしてのアイヌに対する幻想で、彼らの文化が都合良くつまみ食いされ、単なる観光資源にされてしまうのではないかと警鐘を鳴らします。また、その過程で倭人によるアイヌに対する差別の歴史は隠蔽・矮小化されるおそれもあります。
 今回の学習会を通して、私たちもアイヌの文化を垣間見、彼らが差別されてきた歴史を学びました。私たちは彼らの物語を単に消費するのではなくて、差別を可視化し批判する反差別の取り組みへとつなげていかなければいけません。
5 おわりに-言論の自由の使い方-
 学習会終了後に懇親会が行われ、引き続き私も参加いたしました。その席上で反差別の取り組みをどう広げていくかという話から、言論の自由と反差別の話へと話題が移りました。残念ながら、言論の自由を掲げる一部の人たちからは、反差別の動きによって言論の自由が損なわれるかのような声もよく聞かれるそうです。
 その時、懇親会にいらしていたどなたかが「その人たちは彼ら自身の言論の自由を使ってどれだけ反差別の声を上げてきたのか?」という問いを発されました。
 私はこの問いかけに胸を打たれました。私たちは差別をこの世界から無くしていくために、自分たちの持つ言論の自由を差別の可視化や批判のために使っていくべきであると再確認いたしました。

 

「ケアの倫理」を学ぼう

大阪支部  城 塚 健 之

 労旬2022年1月合併号(1999+2000)の特集「労働法のこれからについて語ろう」で、南山大の緒方桂子教授(労働法)が、西谷敏教授の自己決定論に「ケアの倫理」を対置して論じておられました(緒方桂子「西谷自己決定論とフェミニズム、そしてケアの権利」)。
 不勉強を告白しますが、「ケアの倫理」という概念に接したのは初めてでした。この「ケアの倫理」とは、1980年にハーバード大学の心理学者キャロル・ギリガンが提唱した概念で、「自己に依存する者に対する責任とその者との関係性(=ケア)を行動の規範とする道徳観」であり、「普遍的で平等な視点からの判断(=正義)を行動の規範とする道徳観」たる「正義の倫理」に対置されるものだそうです。
 緒方教授は、この「ケアの倫理」を労働法解釈にも取り入れるべきとされています。その論旨を、私のつたない理解で手短かにまとめれば、「人間には誰でも(子ども時代、病気にかかったとき、老齢時などで)ケアされる時代があり、そこにはケアする人がいる。自己決定論は、自分で選んだ生き方に優劣はないというけれど、そういうケアをせざるをえない人を、自分で選んだ生き方だといって、ケアをしなくてよい人と同列に扱うのが公正とはいえない。この考え方を進めれば、たとえば配転法理において、家族的責任を一部取り入れて配転無効とする裁判例が出ているが、それでは不十分で、ケアの権利を人権として認めなければならない。」ということになるでしょうか。
 それ以来、気にはなっていたのですが、その後、美馬のゆり『AIの時代を生きる』(岩波ジュニア新書 2021年)を読んでいたら、「ケアの倫理」は政策決定などさまざまな領域で取り上げられており、AIと共生する社会ではますます重要となるとの指摘がありました(ただ、そこでは、AIに「ケアの倫理」を組み込むなどの議論も紹介されていて、このあたりはまだ理解が追いついていません。)。
 そうこうしているうちに、「ケアの倫理」という言葉は、新聞記事などでも目にすることが増えてきました(そういう目で読むようになったからかもしれませんが。)。たとえば、2023年2月9日付けの朝日新聞では、名古屋大の松尾陽教授(憲法)が、「ケアと憲法理念の緊張関係」というコラムを書いておられました。また、同年3月30日付けには、同志社大の岡野八代教授(政治思想史・現代政治理論)の著書『フェミニズムの政治学』(みすず書房 2012年)が大阪大文学部の入試に出題されたとの特集記事、そして、大江健三郎氏追悼ということで、上智大の小川公代教授(英文学)による大江文学のケアの倫理の観点からの解説記事が掲載されていました。
 最近になって、名古屋の田巻紘子団員がこの分野に高い関心をもっておられることを知りました。田巻団員に教えていただいた緒方教授の別の論文、緒方桂子「家族ケアを行う労働者の雇用と生活の保障」(南山法学45巻1号(2021年)、ネット上で公開)では、日本の民法412条の2(履行不能)の解釈として、家族のケアのために働けない状態は「社会通念に照らして不能」とすべきではないかとの見解が示されています。
 他方、博学の豊川義明団員からは、『法哲学年報2016 ケアの法 ケアからの法』を貸していただきました。まだ全部読めてませんが、たいへん興味深いシンポジウムの記録です。
 「ケアの倫理」の対象は人間社会のすべてにわたるといっても過言ではありません。私たちは、労働法学のみならずそれぞれが取り組んでいる分野に関連して、これを学び、生かしていくことが求められていると思います。

 

安保廃棄のリアル

神奈川支部  小 賀 坂  徹

 「『日米安保条約が破棄された日本』を想像する自由はある」と3月8日の朝日新聞で島田雅彦(小説家・法政大教授)は語っている。「心折れる現実、マフィア化したこの国家、出口の見えないこの戦争から逃れ、自らの生存に最適な異世界をどのように立ち上げるか、といったところに知性が発揮される」との言説の後にである。
 それを受けた形で、田中優子(法政大名誉教授)は、週刊金曜日3月24日号に「日米安保のなくなる日」という文章を寄稿している。田中はいう。「日米安保条約下にない日本とは、米国の戦争に利用されない日本である。これは中国をはじめ多くの国と等距離の関係を持ち続けることで実現できる。それは国の上下関係を超えて横の関係を作り上げていく方法である」と。
  2人の著名な知識人が、同時期に日米安保の廃棄に言及したことは決して偶然ではない。そしてその意味は小さくないと思う。その背景には、安保3文書の改定、専守防衛方針の放棄、大軍拡、そして憲法の破壊ということがあることは間違いなかろう。
 この間の政策転換の理由として、中国の軍事的脅威の高まり、台湾有事といったわが国の安全保障上の危機が強調され、それに対するanswerとして抑止力強化(大軍拡)が声高に叫ばれている。しかし、そこでの直接の当事者は日中ではなく米中である。その一方当事者であるアメリカに盲目的にコミットしているわが国は、自動的に米中対立の当事者にさせられる。その結果、中国からは敵とみなされ、アメリカからはポチとして常に尻尾を振ることを求められ、実際尻尾を振り続けている。中国の脅威等に対するanswerとしての大軍拡は、こうした枠組みを不変の前提として初めて成り立つ。でもちょっと待てよ、と思う。これって不変の前提なのか。
 日本が中国の覇権主義を批判し、自制を求めようとすれば、むしろ敵とみなされない立ち位置が必要だ。アメリカに対しても、唐突にペロシが台湾を訪問するような挑発行為をやめろと言えて初めて中国に通じる言葉を発することができる。米中対立なのに、いざ戦争が始まってしまえば深刻な犠牲を強いられるのはアメリカでなく、台湾であり日本の市民なのだ。こんな理不尽でおかしなことを避けるために、わが国はわが国と東アジアの平和構築のために何をなし得るのか、何をなすべきなのかを考える必要がある。その重要な選択肢として日米安保からの脱却ということがある。
 しかし、私のような世代でも、改定安保条約の発効は生まれる前の出来事だから、この国で暮らすほとんどの人々は安保条約のない世界を知らない。加えて歴代自民党政権は日米同盟命と言い続けてきたのであり、わが国の安全は安保体制と共にあると深く刷り込まれてきた。だから恐らく沖縄以外の人々のほとんどは安保のない世界を想像さえしたことがなかったのではないかと思う。9条の会の運動も、
 安保条約に対する態度を一致点としてこなかったし、できなかった。それを批判するものではないが、議論そのものが棚上げされたまま放置されてこなかっただろうか。安保条約に否定的な人々も、現実的な政治課題として安保条約の廃棄を掲げ、それに向けて世論を結集しようなどとは言ってこなかったように思う。団もそうだろう。
 考えてみれば、これは実に異常な事で、まるで集団催眠にかかったかのようだ。他国の利益のために自国の人々の命を差し出すなんて、もはや奴隷以下である。
 大軍拡は、確かに中国の脅威等に対するanswerとはなり得ている。しかし、それは相当にできの悪いanswerであることは多くの人が気づいているのではないか。力には力をでは限界があり、かつ緊張関係を高めることにしかならないのだから。でも安保の呪縛に囚われる中で、それ以外のanswerを思いつかないから、消去法的に支持しているに過ぎないと思える。他方「外交努力」によって緊張要因を取り除いていくということは間違っていないが、具体的にどうするのかというリアリティがないため、世論を獲得するに至っていない。
 でも「外交努力」の前提として日米安保条約を廃棄し、まず米中両国と対等な関係を作るとしたらどうだろうか。そして日本とアジアの安全のための協議の場を設定し、そこに中国にもアメリカにも参加を呼びかける。その中心に日本が立つ。何故なら憲法9条があるからだ。あらゆる軍事同盟の廃棄を世界に向かって呼びかける。それができるのは日本だけなのだ。これは現在の日本の安全保障環境を抜本的に転換させる具体的な政策イメージであり、政権構想の中核にだってなりうるだろう。これは果たして非現実的で、夢想家の戯言であろうか。私には、自らが招いたものでない危機に対処するために、憲法を棄てて大軍拡し、そこに市民の命を差し出そうとしている現在において、最も効果的な対案に思える。その行程表の策定のための議論は無駄だろうか。
 もし安保廃棄にリスクや問題があるとすれば、その対処こそが現実的な議論の対象となるべきだ。例えば軍事的空白が他国からの軍事介入を招来するリスクがあるいうのなら(本当か?)、中国とだって北朝鮮とだって戦略的により緊密な経済関係を構築するとか、人的交流を劇的に広げるとか、ボクが思いつくのは陳腐なものしかないかもしれないけど、もっと知恵を出せる人はいるだろう。アメリカの核の傘から脱却することが直ちに核攻撃のリスクに晒されることになるのかということについても大いに議論し、答えを見つける努力をすればいい。できない言い訳を探すのでなく、憂いなく安保廃棄できる知恵こそ出し合おう。なくすことを前提にしない限り、議論さえできない。
 屈辱の歴史と戦争と直面する危機にピリオドを打つべき時がきている。闘いは沖縄だけではなく、むしろ東京であり日本全国なのだ。我々の求める世界(自らの生存に最適な異世界)を想像し、そして創造していくことを今まさに始める時ではないだろうか。多くの人々とともに理想を共有し、そこに至る道筋を探っていけないか。戦争の危機が現実化しつつある中、それに対峙する「現実的な」対抗軸はそこにあるのではないと思えてならない。もちろん、安保を廃棄しない限り直面する課題を克服する方策はないなどといいたいのではない。しかし、大局的な対案をパッケージで示すことに大きな意味があると思っているのだ。団内外の叡智を結集するようなプロジェクトを組むことはできないだろうか。団は安保破棄中央実行委員会の常任幹事団体でもあるのだ。

 

陸自宮古島駐屯地と石垣島駐屯地の現況の報告(前編)

広島支部  井 上 正 信

1 宮古島駐屯地と石垣島駐屯地の調査
 2023年4月8日から10日の2泊3日で陸自宮古島駐屯地(保良地区弾薬庫を含む)と開設直後の石垣島駐屯地を川口創弁護士、佐藤博文弁護士と私の3名で現地調査を行いました。この調査は川口弁護士が呼び掛けたもので、彼は宮古島に何度か訪問しており、以前からの知己が住んでいることから、彼のつてで実現しました。川口弁護士と佐藤弁護士は11日には与那国島を訪れて、沿岸警備隊、空自防空レーダー部隊や今年度から始まる陸自中SAM部隊が配備される場所を見て回っています。お二人から詳しい報告がされるでしょう。私から以下の報告を致します。
2 宮古島駐屯地の現状
 宮古島駐屯地は2019年3月に奄美大島の陸自駐屯地と同時に開設され、12式ミサイルを装備する第302対艦ミサイル中隊、中SAMを装備した第7高射特化群、普通科部隊である宮古警備隊が配備されている。地理的には宮古島の中心辺りで、宮古空港から近距離にある。島の南東端に陸自保良訓練場がある。保良訓練場には二つの覆土式弾薬庫と、100メートルの長さの覆道式射撃場を備えている。今後弾薬庫が増設される予定だ。
 宮古駐屯地は、部隊人員約700名で、同種の陸自駐屯地である奄美大島と石垣島よりも配備人員が多い。宮古駐屯地が他の二島の駐屯地よりも格上とのこと。
 宮古駐屯地正面ゲートには、陸自宮古警備隊と第7高射特化群の看板が設置してある。敷地内には各種車両が整然と並んで駐車しているが、遠目なため種類まではっきり特定できないが、車両の形状から中SAMと12式対艦ミサイルの発射車両と思われる車両が確認できる。弾薬庫と思われる土盛りがある。
 基地の管理業務、司令部、隊舎、車両整備棟、弾薬庫などが狭い敷地内に密集している。
 開設3年前の住民説明会の資料を入手したが、2019年3月開設時の住民説明会の資料は入手できなかったため、詳細な駐屯地の状態は分からない。
3 宮古島駐屯地反対運動
 ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会が反対運動を継続している。駐屯地ゲート前の公道を挟んだ反対側には、「琉球弧の島々にミサイル基地いらない!」との横断幕を反対派住民が所有する農地の道路わきへ設置している。私有地内への設置のため、目障りであっても陸自は手が出ないのであろう。
 反対運動を行っている市民連絡会事務局の石嶺香織氏と川口弁護士の知己でイラストレーターの山田光氏と意見交換した。石嶺香織氏は反対の立場から宮古市議であったこともあり、その間に産経新聞の中傷記事が出たことから、現在神原元弁護士を代理人として東京地裁で勝訴判決があり、現在は東京高で闘っている。染織工房を主宰している。反対運動の内部でいろんな軋轢がある様子であり、反対運動は複雑な様子と見えた。
4 宮古島駐屯地の今後
 宮古駐屯地は未だ完成していない。23年度予算で約100億の予算がついているとのこと。保良弾薬庫の増設を含む施設の拡張、強化が行われるのであろう。
 情勢が緊迫すれば、沖縄本島第51旅団(今年度中に1個連隊が増員されて師団となる予定)や、熊本第8師団から事前配備部隊が機動展開する。それに伴う大量の装備や車両、兵站物資が運び込まれる。これらの部隊は、現在の宮古駐屯地内へ宿営することは不可能であろう。別の箇所へ宿営地を開設するのかもしれない。車両や兵站物資の保管場所も必要になる。
5 空自宮古島分屯地
 空自宮古島分屯地は陸自宮古島駐屯地よりも早く開設された。沖縄施政権返還直後の1973年2月に米軍航空警戒監視部隊を引き継いで配備された。第53警戒隊が配備され、防空レーダーと他国(中国)の電波情報探知のための施設で、陸自宮古島駐屯地から直線で数百メートルの至近距離にある。宮古島の「へそ」のような位置で、断層により作られた高台(宮古島で最も高い約100mの標高)の上に設置されている。もともとは帝国陸軍第28師団司令部が設置されており、高台からは宮古島全体が見通せる位置である。
 2022年には宮古島分屯地から与那国島へ移動式防空レーダーが移駐している。
6 陸自石垣駐屯地の現状
 一言でいえば「仮オープン状態」。22年会計年度内に開設するとの至上命令があったためか、3月18日の開設となった。そのため弾薬庫1棟、覆道射撃場、車両整備場1棟、倉庫、訓練場、グランドは未完成で、現在も工事が継続している。完成は2026年以降で、完成時期は未定のようだ。
 覆道射撃場がないため、八重山警備隊員の射撃訓練は石垣駐屯地ではできない。そこで沖縄本島か宮古駐屯地で行うことになるはず。射撃訓練をしなければ、警備部隊特に小銃部隊の練度は向上しない。
 駐屯地正面ゲートには八重山警備隊と石垣駐屯地の看板が両脇に設置してある。施設は於茂登岳の中腹に位置しているため、施設全体を見渡せる良いビューポイントがない。一般には直線距離で2キロ以上離れているバンナ公園から見るが、これでは距離がありすぎて豆粒くらいにしか見えない。偶然石垣ダムにある水鳥観察公園に設置されたカンムリワシ観察タワーの頂上から駐屯地全体が近くで見渡せた。狭い敷地内に隊舎、司令部などが入る管理棟、食堂・福利厚生施設(多分体育館)、医療施設、車両整備場などが密集している。その中に覆道射撃場と覆土式弾薬庫が4棟設置される(現在3棟設置)。有事に弾薬庫が攻撃されれば、施設全体はひとたまりもないであろう。この点は宮古島駐屯地も同様だ。どこまで本気で有事を想定しているのか疑問だ。石垣島は平地が少ないためこのような駐屯地になったのであろうか。
7 石垣島駐屯地反対運動
 「石垣島に軍事基地をつくらせない市民連絡会」が反対運動を継続している。その事務局で運動の中心となっている藤井幸子氏と面談。彼女の夫は私と27期同期の藤井光男弁護士であり、お二人が大阪から石垣島へ移住して以降の再開であり、夕食を共にして旧交を温めることができた。
 石垣島の反対運動は、駐屯地ができるまでは作らせないことを目指す運動であったが、現在は駐屯地ができたことから、これにより派生する被害、とりわけ駐屯地からの排水問題に取り組んでいるとのこと。しかし石垣市が2019年に有事の際の国民保護法に基づく「避難実施要領のパターン」を作成し、航空機を1日当たり45機運行し、全島避難には9.67日を要すると見込んでいることや、2023年3月17日に沖縄県が有事での住民避難の図上演習を行い、宮古島・石垣島とその周辺の有人離島の島民全体を九州へ避難させるのに6日を要するとの結果が新聞で報道されていたり、有事の際の出来事が次第に身近な問題となりつつある。
 藤井氏は、全島住民避難は到底現実的なものではない、避難できない住民が多数いること、生活・生業の基盤を投げ捨てて避難することはできない住民がいる、避難先の生活がどうなるのか不安等の話をされた。
 石垣市民の反応も変化してきているとのこと。定期的に連絡会は街頭宣伝しているが、市民の反応が違ってきているとのこと。武力ではなく有事を防ぐ外交を求める考えが増えているのかもしれない。
8 スタンド・オフミサイル配備問題
 安保三文書が閣議決定されてからすぐに那覇防衛局は島をめぐる説明会を行っている。その中で12式対艦ミサイル能力向上型(射程1000キロ)の配備がされるのではないかとの質問に対して、未だ配備が決まっていないとして回答を拒んでいる。しかし、射程1000キロのミサイルで中国本土を敵基地攻撃しようとすれば、配備個所は沖縄本島と宮古、石垣島しか考えられないため、宮古・石垣への配備は間違いない。
 石垣、宮古島へスタンド・オフミサイルが配備されれば、陸自の部隊の任務は大きく変化する。現時点では射程200キロの12式ミサイルと射程50キロの中SAMであるから、宮古、石垣島へ侵攻しようとする敵部隊を攻撃する、宮古島と沖縄本島との間の宮古海峡(幅約300㌔)を通過して西太平洋へ進出する中国艦船を攻撃するくらいであるが、スタンド・オフミサイルの配備により、中国本土を攻撃する部隊になることから、台湾有事では真っ先にこれらの駐屯地が標的になる。
 「優れた抑止力は優れた標的になる」とは著名な戦略家の格言だ。
 駐屯地をグーグルアースで検索すれば、その緯度経度が秒単位迄表示される。このことは逆に精密誘導ミサイルの誘導装置へ標的の座標を入力して容易に精密攻撃できることを物語っている。おそらく有事になれば緒戦で確実に壊滅させられるであろう。

(後編へ続く)

 

「新しい戦前」としないために-『毎日』は「反戦リベラル」を排除するのか-

埼玉支部  大 久 保 賢 一

 3月4日付『毎日』朝刊で、伊藤智永専門編集委員が「新しい戦前」というコラムを書いている。「徹子の部屋」での「来年はどんな年になる」という問に対するタモリの「新しい戦前になるんじゃないでしょうか」という発言や「戦争が廊下の奥に立っていた」という渡辺白泉の1939年の川柳や「まさかそんなとは誰もが思うそんな日があった戦争の前」という永田和宏の短歌を紹介しながら、「いま別の方角からひんやりした風を感じ取る人たちがいる。風は見えない。鳴らない。臭いもしない。それをどう表すか。白泉の句を手かがりに考える」として、大岡信の「我が家の廊下の薄暗い奥に、戦争が突然立っていたという。ささやかな日常への凶悪な現実の侵入。その不安をブラックユーモア風にとらえ、言いとめた」という白泉理解を引用している。
 様々な表現を引きながら、現在の危険な世相に触れている。さすが伊藤さん。いい問題提起だねと感心しながら続きを読んだら、「プーチン大統領の戦争をなぜ支持するんだ。そういぶかる日本人も、2・3世代前は同じく不気味な国民だった」とされていた。更に、白泉が治安維持法で拘束され、執筆を禁止されたと書かれていた。
 そうだ、そうだ。これはいい。どのような結びになるのかと楽しみにしていたらこうだった。「廊下」が場所とは限らない。空想的反戦リベラルと現実主義を語る軍拡保守のいがみ合い。両側を閉ざされた政治の奥にも戦争は立っている。
 私はこのオチに拍子抜けというよりも憤りを覚えている。「新しい戦前」に異議を唱えるのだと思っていたら、あれこれの知識をひけらかしただけで、最後は「反戦リベラル」と「軍拡保守」を並立し、結局は、政府が進めている「新しい戦前」への抵抗は呼びかけられていないのである。しかも、反戦リベラルは「空想的」だというのである。
 私は、こういう訳知り顔で「左も右もダメ」と言い立てる姿勢が、この国を危険な方向へと導いてしまうことになると危惧している。そこに「嫌な臭いの風」を感じてしまうのである。きっと、2・3世代前の『毎日』も同じような役割を果たしていたのかもしれない。
 日本国憲法は、軍事力(戦力)を放棄して、「平和を愛する諸国民の公正と信義」を選択している。憲法は最高規範であって単なる思想ではない。最近、このことを完全に無視する言説が横行している。その憲法無視の政治の向こうに「核戦争」が待っているのかもしれない。「核を持つサルが滅ぼす青い星」という『毎日』に掲載された川柳を思い出す。

(2023年3月6日記)

 

東北の山 ~栗駒山~

神奈川支部  中 野 直 樹

祭りから紅葉へ
 8月、東北の県都は祭りに彩られる。福島・わらじまつり、仙台・七夕まつり、山形・花笠まつり、盛岡・さんさまつり、秋田・竿灯まつり、青森・ねぶたまつり。2011年から6年間、東日本大震災被害の鎮魂を祈り6つの祭りが勢ぞろいをする「東北6魂祭」がローテーションで6県で開催された。
 9月から10月、東北の山々は紅葉に彩られる。ブナを始めとした広葉樹林におおわれた東北の山の紅葉は色の組み合わせに富み、山肌全体が黄紅葉に染めあげられる。
栗駒山
 東北新幹線がくりこま高原駅を過ぎ、一ノ関に向かう車窓の左手に存在を示す独立峰である。岩手県では須川岳、秋田県では大日岳と呼ばれてきたが、宮城県での呼称である栗駒山がポピュラーである。駒と名付けられた山は多いが、その由来は、山体の形が馬に似ていること、残雪期の雪形が馬に見えることからだと言われている。栗駒山は後者であり、そこに山麓である宮城県の栗原のひと字が当てられたと解説されている。火山性の山塊で、1944年に噴火している。
 山頂は1626m。四方から登山道が通じているが、最もらくちんコースは、東側のいわかがみ平まで車で上がって標高差500m、コースタイム2時間で山頂を踏むことができる。このいわかがみ平へのアクセス道路沿線は、2008年6月14日に発生した岩手宮城内陸地震の際に土砂崩壊に巻き込まれ、死者15名、行方不明者8名の惨事となった。公共交通の便の良さからは西側の須川温泉に一泊して、不思議な色を発している昭和湖(火口湖)とお花畑の草原を楽しめるコースが人気高い。
湯浜温泉コース
 私は、2020年10月16日、栗原市の道の駅(路田里はなやま)車中泊から移動し、7時過ぎに湯浜温泉・登山口の駐車場に着いた。急こう配の道を下り母沢にかけられた橋を渡ると一軒宿・三浦旅館があった。その庭先が登山道の入り口となっていた。標高620m。なだらかな裾野を辿って山頂に向かうこの道のコースタイムは登り4時間、下り3時間である。
 秋晴れの冷気の中を歩き始めた。黄色く色づき始めたブナの林に木漏れ日がそそぎ、実に美しい。さっそくこのコースを選んだことに満足した。勾配が気にならない平坦な道であるが、それでも30分も歩くと色づきがぐっと深まっていった。
 10時草原に出て、木道歩きとなった。目の前に円を3分の1くらいに切り取ったような虚空蔵山が現れた。虚空蔵菩薩のように無限の福と智を人々に分け与えてくれることになぞらえた命名だろうか。その穏やかな山肌は朱と黄色が競い合っていた。左手には、草紅葉の草原が緩やかに天をめざし、やがて灌木の紅葉帯に連なり、その先に青空と接合していた。この道をただ一人歩んでいる私が福を独占していた。
中央分水嶺
 11時、稜線・須川分岐に着いた。ここから左は天馬尾根コースと呼ばれ、秣岳(マツグサダケ)を経て須川温泉に下る。津軽半島・竜飛崎から八甲田、八幡平、秋田駒ケ岳、和賀岳、焼石岳と南下してきた中央分水嶺は、栗駒山の山頂から天馬尾根に沿って少し西に蛇行した後、船形山、蔵王に向かう。
 山頂に向かう右手に進んだ。宮城県側の東斜面は標高1400mあたりで植物相がくっきりと分かれる。そこから下はブナなどの広葉樹林におおわれている。
 紅葉は盛りを過ぎてやや色あせていた。そこから上はグリーンの笹が支配し、その中にツツジだろうか真っ赤な紅葉が点描となっていた。和賀岳でも見られた雪蝕地形が顕著だった。こちらの斜面を流れる水は南下する北上川に注いでいる
 山頂に向かう道は緩やかな尾根。左手(北西側)は秋田県東成瀬村であり、かつての火山活動によって形成されたと見てとれる、外輪山、険しい溶岩堆積、湿原、イオウがむき出しとなった火山灰盛、火口湖が巨大な庭となっている。秋色を深める自然庭園の端に須川温泉の駐車場、建物が見下ろせた。須川温泉施設は秋田県側にあるが温泉源は岩手県側であり、住所は岩手県一関市となっている。ここに落ちる雨は北上する雄物川の水となる。
山頂
 11時30分「栗駒国定公園 栗駒山山頂一、六二七米」の柱に着いた。空にはアキアカネが風乗りをしていた。大勢のハイカーでにぎわっていた。西の方角に出羽富士と呼ばれる鳥海山がどんと座っていた。北を向くと、焼石岳連峰が堂々の姿を見せていた。
 簡単な昼食をとって12時10分出発。須川分岐から天馬コースに入り、展望岩頭まで足をのばして須川温泉側の展望を楽しんだ。須川温泉の駐車場は満杯だった。昭和湖に降りる須川コースは火山性ガス発生を理由に立ち入り禁止だった。あちこちに監視カメラが設置してあった。来た道を下りながら、時折振り返って燃える秋に名残を惜しんだ。
 15時45分、湯浜温泉に到着。リードが付いていない飼い犬が尻尾を振って人懐こく寄ってきた。

 

北九州での憲法問題に関する活動報告

福岡支部  池 上  遊

 2010年12月に弁護士登録して長らく北九州地域における憲法問題に取り組んできました。私が現在携わっている活動について報告します。
1 弁護士会での活動について
 北九州のようないわゆる「地方」の弁護士は、事件活動以外では、弁護士会(委員会や執行部など)での活動が中心になることが多いと思います。北九州(部会)は、福岡県弁護士会内の一部会ということで、部会内にも委員会があります。憲法で言えば、私は、現在、日弁連憲法問題対策本部、九弁連憲法問題に関する連絡協議会、福岡県弁護士会憲法委員会、同会北九州部会憲法委員会の4つに所属しています。部会の委員会としてはこのほかにも多数所属しています。
 福岡県弁護士会でも他の単位会と同様、2014年集団的自衛権行使容認、2015年安保法制については、大々的に反対運動を展開し、特に、2015年9月6日には、福岡市で4000名、北九州市で4500名を集める集会を開催することに成功しました。
 弁護士会主催という構成にすることで、これまでの運動の枠組みを超えた幅広い結集を図ることができました。北九州部会では、部会の下に実行委員会を組織し、弁護士以外のさまざまな団体の方に参加してもらいました。当時の部会長が連合系労組にもつながりのある方だったのも幸いしたと思います。私は、部会の憲法委員会委員長として、事務局的に活動していました。
 北九州部会での活動としては、この集会以後は、それ以前と同様に、市民向けの憲法講座を続けています。コロナ禍も一段落したところで、6月には沖縄に視察へ行く予定です。
2 「平和をあきらめない北九州ネット」
 安保法制成立後も、前記実行委員会の結集をさらに発展させ、同法の廃止を目指す組織として、「平和をあきらめない北九州ネット」(平和ネット)を設立しました。初代代表には上記の部会長が就きましたが、2020年に逝去し、その後は、私の事務所の大先輩である前田憲德団員が代表となっています。私は引き続き事務局として携わっています。
 中心的な活動は、安保法制が成立した日である19日に毎月開催している街頭宣伝や集会です。昨年は、ウクライナ戦争が始まったタイミングで緊急の街頭宣伝を実施したところ、100人の市民が結集しました。5月3日や原爆の日、11月3日といった節目にも集会や写真展などを開催しています。
 2021年衆院選から新たに市民連合としての活動にも取り組むようになりました。北九州は、福岡9区と10区の選挙区がありますが、いずれも、自民党の議員を一掃することになりました。必ずしも私たちの活動の成果と断定することはできませんが、重要な成果であったと思います。なお、9区から当選した無所属候補者は衆院で「有志の会」を結成しており、同会派は今回の国会議員任期延長についての改憲案に賛同していることは既報の通りです。
3 雑感
 私が携わるもの以外にも、北九州地域では、「北九州憲法共同センター」、各地域の九条の会などの活動も展開されており、それぞれに団員が関わっています。毎週のように主要な駅前で、活発に宣伝活動がされている現状は良いですが、安保法制の反対運動のときのような盛り上がりに欠けます。
 ウクライナ戦争をはじめこちらの訴えが響きにくくなっているところがあるのかもしれません。大事なことは、「岸田大軍拡」や「9条改憲」などマジックワードを使わないようにすること、目の前の通行人、若い人たちにも響く言葉を選んでいく、世論喚起の力を身につけていくこと。ごく当たり前のことですが、街頭に立ち続けていて実感しています。
 また、私たちに対してけんか腰に話しかけてくる人もときどき現れます。そうした人たちと話していると(抑止力論にも通じるかもしれませんが)、「人を殺す」あるいは「人の死」ということに対する想像力の欠落を感じます。相手の国にも人がいて、その人の死を想像できない、というところに、簡単にヘイトスピーチに発展しかねない危うさを感じることもあります。
 引き続き、北九州でがんばりたいと思います。
 もしよければ、Twitterアカウントを開設していますので、団員の方々はもちろん、みなさんがそれぞれ取り組まれている団体のTwitterアカウントでフォローしていただけると幸いです!全国でのつながりを作って、インターネット上でも発信を強化できるともっと良いと思います。 @sensouhantai19

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