2024年3月12日、『「経済安保版秘密保護法」の国会提出に抗議し、同法案の即時廃案を求める声明』を発表しました

カテゴリ:声明,憲法・平和,治安警察

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「経済安保版秘密保護法」の国会提出に抗議し、同法案の即時廃案を求める声明

1 2024年2月27日、政府は「セキュリティ・クリアランス」制度を盛り込んだ「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」を本年度の通常国会に提出することを閣議決定した。
 本法案は、政府が指定した「重要経済安保情報」の取扱いの業務を行うことができるのは、適性評価(セキュリティ・クリアランス)においてこれを公に漏らすおそれがないと認められたもののみであるとし、重要経済情報を漏えいした者等に対する処罰規定を設けている。
 本法案の実質は、秘密保護法において特定秘密の対象となっていた4分野(外交、防衛、テロ、スパイ活動)に加えて、更に経済情報についても「重要経済安保情報」として秘密に指定することによって秘密保護法制を拡大する、「経済安保版秘密保護法案」に他ならない。
 秘密保護法が国民の知る権利を侵害する立法であることは明白である。そして、本法案が秘密の対象を経済分野にまで拡大することは、国民の知る権利に対するさらなる制約をもたらし、民主主義を破壊する。加えて、「セキュリティ・クリアランス=適性評価」は、公務員のみならず、広く民間人の身辺調査を行いうるとするものであってプライバシーを侵害し、国民監視を強める。
 現在、政府は、2015年に成立した安保法制(戦争法体制)のもとで、2022年12月16日に閣議決定した安保関連三文書を具体化させるなど、「戦争をする国」に向けた策動を続けている。なかでも、経済安保法(「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」)によって経済活動にも軍事を優先させる体制をつくり、政府が軍事産業を強化し武器輸出の大幅拡大を進めているもとで、本法案は、デュアルユース等の先端技術をも射程に含めた経済情報を国家統制下におき、経済分野における戦争する国づくりをねらうものである。

2 経済情報の国家統制により、軍事国家化を推し進める危険性がある
 「重要経済安保情報」とは、「重要経済基盤」(同第2条3項)に関する情報のうち、同第2条4項1号~4号に定められた事項に該当する「重要経済基盤保護情報」であって、「公になっていないもののうち、その漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの」とされている。そして、「重要経済基盤」とは、「我が国の国民生活又は経済活動の基盤となる公共的な役務であってその安定的な提供に支障が生じた場合に我が国及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれがあるものの提供体制並びに国民の生存に必要不可欠な又は広く我が国の国民生活若しくは経済活動が依拠し、若しくは依拠することが見込まれる重要な物資(プログラムを含む。)の供給網をいう」ものとされている。
 法案の規定ぶりからして明らかなとおり、「重要経済基盤」や「重要経済安保情報」の範囲は極めて不明確であり、時の政権によって恣意的に解釈される危険性がある。加えて、特定秘密保護法の特定秘密の要件には、日本の安全保障に「著しい支障を与えるおそれ」があるものとして、一定の制限が存在したが、本法案における「重要経済安保情報」は、安全保障に「支障を与えるおそれ」があれば指定することができ、特定秘密と比してさらに広範な情報が秘密として指定されることになる。デュアルユース等の先端技術研究を含めた様々な技術的情報等にまで及ぶおそれがある。
 このように本法案は、経済安保情報を広範に秘密とするものであって、それらにかかわる経済活動や政府の関与などが国民の目から隠されることになる。

3 民間企業・大学・研究機関で働く技術者等をはじめとする広範な民間人のプライバシー権が侵害され、国民監視が強化される。
 上記のとおり、本法案においては、重要経済安保情報を取り扱うことのできる者の範囲を、適性評価においてこれを公に漏らすおそれがないと認められたものに限定している。そして、本法案において適性評価の対象とされている者の範囲には、公務員のみならず、サプライチェーンや基幹インフラに関与する多数の民間事業者、先端的・重要なデュアルユース技術の研究開発に関与する大学・研究機関・民間事業者の研究者・技術者・実務担当者など、広範な民間人が適性評価の対象となることが想定される。
 適性評価においては、①重要経済基盤毀損活動との関係に関する事項、②犯罪及び懲戒の経歴に関する事項、③情報の取扱いに係る非違の経歴に関する事項、④薬物の濫用及び影響に関する事項、⑤精神疾患に関する事項、⑥飲酒についての節度に関する事項、⑦信用状態その他の経済的な状況に関する事項について調査が行われ、その結果に基づき評価が実施される。いわゆる身辺調査が国によって行われることになるのである。これらの調査は、秘密情報を直接に取り扱う者のみならず、それらの者の家族等にもおよぶものであって、広範な人々のプライバシーが侵害され、国民への監視が強化される危険がある。
 なお、適性評価は評価対象者の同意を得て行うものとされている(同法案第12条)が、評価対象者が同意しなかったことを理由として、その者が不利益取扱いを受けないことは法案上明記されていない。そして、適性評価に同意しなければ、企業等において当該評価対象者が業務から排除されるなど実質的な不利益取扱いを受けることが優に想定できる。労働者としての地位を不安定にさせることは必至である。

4 国民に萎縮効果を与え、民主主義を破壊する
 本法案は重要経済安保情報を漏洩する行為や取得する行為等について、5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するとして、重い刑罰を設けている。また、漏えい又は取得行為については共謀・教唆・煽動した者も処罰対象としており、冤罪の温床になる危険がある。加えて、重要経済安保情報が上記のとおりきわめて不明確かつ広範にわたるものであることとあいまって、ジャーナリストや市民が情報を取得しようとする場合に萎縮効果が生じる。
 言論の自由市場を担保するのが情報であることはいうまでもなく、国家による情報統制を内容とする本法案は、言論の自由市場、ひいては民主主義の破壊をもたらしかねない。
 しかも、本法案が戦争する国づくりと一体となって、安全保障すなわち軍事を優先する仕組みとして制定され、運用されることにより、国民の自由や人権、民主主義がいっそうないがしろにされる危険を指摘せざるを得ない。

5 「経済安保版秘密保護法」の廃案を
 上記のとおり、本法案は、国民の知る権利、プライバシー権を侵害し、民主主義の破壊をもたらし、日本の軍事国家化を推し進める「経済安保版秘密保護法案」である。
 自由法曹団は、本法案の国会提出に断固として抗議し、同法案の即時廃案を求める。

以上

 

2024年3月12日

自 由 法 曹 団  
団長 岩田研二郎

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