2024年5月17日、「経済秘密保護法の成立に強く抗議し、運用の監視と廃止に向けた取り組みの継続を決意する」声明を発表しました

カテゴリ:声明,憲法・平和,治安警察

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経済秘密保護法の成立に強く抗議し、運用の監視と廃止に向けた取り組みの継続を決意する

 

 2024年5月10日、参議院は、経済秘密保護法案(重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案)を本会議で採択して可決し、同法案を成立させた。
 本法案は、「秘密保護法」(特定秘密の保護に関する法律)においては対象となっていなかった「重要経済安保情報」を新たに保全されるべき秘密と指定し、それらの情報を活用するとともに、その「漏えい」について5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するという重罰を科すこと、秘密を取り扱おうとする者について、適性評価(セキュリティクリアランス)を行うことを内容とするものである。

 本法案は、「秘密保護法」や「安保三文書」(2022年12月閣議決定)、「経済安保法」(経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律)と一体となって、日米同盟を中心とした共通の安全保障戦略を具体化し、民生・軍事双方に技術を用いる「デュアルユース」の研究開発促進、軍事産業の育成を図るための環境整備を行うことを目指したものである。政府も、本法案にもとづいて「国際的な共同開発」のために情報活用を進めることを再三にわたって強調しており、日米で共同してミサイルの開発・生産を促進することや、AUKUSとの先進軍事技術協力を行うことを確認した本年4月10日の日米首脳共同声明の具体化のために運用されることは明らかである。まさに安倍政権から岸田政権に続く「戦争する国づくり」の一環に他ならない。

 また、本法案は、適性評価(セキュリティクリアランス)の対象を、「秘密保護法」においては約97%が公務員となっているものを、民間労働者・研究者に大幅に拡大するものであり、国家による監視の機会が大幅に広げるものである。とりわけ、国会の法案審議では、対象者について勤務先の上司・同僚、医療機関や金融機関、さらには警察や公安調査庁の把握している個人情報まで身辺調査され、継続的に監視されるおそれがあることが明らかにされ、適性評価を受けなければ職場の仕事や研究から外され物が言えなくなることも指摘された。市民のプライバシー権を侵害するとともに、思想・信条の自由、学術・研究の自由、労働運動・市民活動の自由が害される危険性が極めて高いことがいっそう明らかとなった。

 そもそも、法案では「重要経済安保情報」というあいまいな秘密保護規定により、処罰の対象が拡大され、広く国民の知る権利が制限され、これを知ろうとする活動が弾圧されるおそれがある。さらに、「重要経済安保情報」は「秘密保護法」の「特定秘密」(防衛・外交・テロ防止・スパイ防止の4分野から指定される)の範囲には含まれないとされていたにもかかわらず、国会審議では、「経済安保情報の中にも、特定秘密として秘密保護法で保護されるべき秘密が含まれる」などとして、「特定秘密」の範囲をも拡大しようとしている。しかも、その範囲拡大を「秘密保護法」の改定ではなく、「運用基準」を閣議決定で変更することにより行おうとしている。罪刑法定主義に反するほか、国会を軽視し、民主主義を破壊する暴挙と言うしかない。

 このように本法案は、日本国憲法の平和主義、思想・信条の自由等に反する違憲の法案であり、法案の重大な問題点が次々と浮き彫りにされた。にもかかわらず、国会での審議はきわめて不十分のまま、与党のほか、立憲民主、維新、国民民主ら一部野党も賛成して衆参両院で採択された。国会としての責任を放棄したといわざるを得ない。そして、秘密指定の基準や、適性評価の方法等の制度の核心部分については、国会で議論をせずに閣議決定される「運用基準」によってこれを定めることが企図されており、民主主義及び罪刑法定主義の見地からも重大な問題であることは明らかである。

 自由法曹団は、憲法の基本的人権保障や平和主義に反する経済秘密保護法の成立に強く抗議する。そして、不適切な秘密指定、不当な適性評価が行われることにより、市民の権利が害されることを許さないため、法の運用を監視するとともに、経済秘密保護法、そして秘密保護法を廃止に追い込むため、市民・労働者とともに、引き続きたたかう決意を表明する。

 

2024年5月17日

自 由 法 曹 団
団 長 岩田研二郎

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