2024年10月21日、「教員の長時間勤務を解消し、教員の抜本的増員と給特法の改正を求める決議」
教員の長時間勤務を解消し、教員の抜本的増員と給特法の改正を求める決議
1 中教審答申の発表
本年8月27日、教員の長時間勤務の問題に関し、文科省・中央教育審議会(中教審)が、答申「『令和の日本型教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について」(以下「中教審答申」)を発表した。来年の通常国会には、中教審答申を踏まえた義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(以下「給特法」という)の改正案を提出する方針とされる。
しかしながら、中教審答申で提言されている対策は、教員の長時間勤務解消のためには極めて不十分である。
2 教員の長時間勤務の深刻な実態と不十分な対策
現在、教師の長時間勤務の実態は深刻である。2016年の文科省の調査では、小中学校教員の1日あたりの平均勤務時間は11時間を超え、中学校教員の約6割が、過労死ラインを超える勤務をしているとの実態が明らかとなった。精神疾患によって休職せざるを得ない教員も、この10年、毎年5000名程度出ており、2022年度は6500名を超え過去最多となった。
この間、文科省は「学校における働き方改革」として、業務の見直しなどを行ってきたが、教員は依然として過酷な勤務実態にある。中教審答申も、教員の長時間勤務について、「教育の質の低下を招きかねない」、「我が国の未来を左右しかねない危機的状況にある」と、強い危機感を表明している。
ところが、中教審答申で提言された長時間勤務の改善策は、業務の適正な管理など「働き方改革」の継続や、支援スタッフの配置拡充などであって、十分な成果が出ていないこれまでの施策の延長でしかない。
なお、中教審答申では、学校の組織的・機動的なマネジメント体制を構築するとして「新たな職」や「新たな級」の創設が提言されている。
これは、現在の主幹教諭と教諭の間に、学校内外との連携・調整機能や、若手教師へのサポートを担う中間的な職階を新たに設け、給与も教諭と区別するというものである。東京都の一部で実施されている「主任教諭」制度が想定される。
しかし、「新たな職」や「新たな級」の創設は、長時間勤務の削減に結び付く制度ではなく、むしろ、人事評価や管理をさらに強化し、その結果を昇進や昇給に反映させることで、学校現場の階層化が進み、教員が対等な立場での共同を困難にするおそれがあり導入すべきでない。
3 長時間勤務解消には抜本的な教員の増員が不可欠
教員の長時間勤務は、教員1人あたりの業務が過大になっている状況であるが、これまで文科省がすすめてきた「業務量の適正化」は十分な効果を上げていない。不登校やいじめ問題、貧困問題など、子どもの抱える問題は複雑化しており、業務縮減による勤務時間短縮には限界もある。教員の長時間勤務の解消には、教員定数の抜本的な増員を行うことを避けて通ることはできない。
政府は、財政が厳しいことを口実に教員定数の抜本的増員には消極的である。しかし、日本は、GDPに占める教育への公的支出はOECD加盟国中最低水準にある。教育に対して支出している税金は、国際水準からすればむしろ少ないというべきである。現在、軍事費の増額が推し進められているが、予算を投じれば確実に将来の日本の社会の基盤となる教育にこそ、予算措置を行うべきである。
4 残業代は支給されなければならない
教員に給与の4%を調整給として支給しつつ、残業代を支払わない給特法について、中教審答申では、残業代を支払わない枠組みはそのままで、調整給を10%以上に増額することが提言された。
しかし、この枠組みによって、教員の時間外勤務は「自主的・自発的」な勤務であるとされ、教員は何時間働こうとも残業代が支給されず、いわゆる「定額働かせ放題」の状態となってきた。これが、長時間勤務が蔓延する大きな原因である。もはや、残業代を支給しない扱いは著しく不合理である。国立学校や私立学校で残業代が支給されていることと比較しても、不当な取り扱いである。教員の長時間勤務の改善のためには、少なくとも教員の実際の勤務時間に応じた残業代が支給されるよう、給特法の改正がなされなければならない。
5 まとめ
以上、教員の長時間勤務を解消するために、第一に、教員定数の抜本的増員を早急に実現するための財政その他の措置を講じることを求め、同時に「定額働かせ放題」の不当な状況に置かれている教員に対し、実際の勤務時間に応じた残業代が支払われるように給特法を改正することを求める。
以上
2024年10月21日
自 由 法 曹 団
2024年岐阜・下呂温泉総会