2025年3月24日付、「刑事IT化法案に反対する意見書」を発表しました。

カテゴリ:意見書,治安警察

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はじめに

 2024年2月15日、法制審議会(総会)は、刑事法(情報通信技術関係)部会の取りまとめに基づき、「情報通信技術の進展等に対応するための刑事法の整備に関する要綱(骨子)」(以下、「本要綱」ないし「要綱」という。)を採択し、法務大臣に答申した。本要綱は、電磁的記録による令状の発付や電磁的記録提供命令など捜査機関の利便に資する多くの制度の導入を提案する一方で、弁護人によるオンライン接見や電磁的記録である書類の授受に関する規定の創設を見送るなど、被疑者、被告人を含む市民の権利を侵害するものであり、自由法曹団は、本要綱に基づく法改正に反対する。
 以下、本要綱中、特に問題のある事項について、意見を述べる。
 なお、本要綱に基づき作成された法律案(情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案、以下、「刑事IT化法案」ないし単に「法案」という。)が、本年2月28日に閣議決定され国会に提出されている。以下では、対応する法案(法律名の記載がない場合は刑事訴訟法を指す)と本要綱を各々引用した上で、項目ごとに意見を述べる形式となっている。

 

問題のある事項について(詳細はPDFをご覧ください)

第1-1 訴訟に関する書類の電子化

第1-2 電磁的記録による令状の発付・執行等に関する規定の整備

第1-3 電磁的記録を提供させる強制処分の創設

第2-2 映像と音声の送受信による裁判所の手続への出席・出頭を可能とする制度の創設

第2-3 証人尋問等を映像と音声の送受信により実施する制度の拡充

第3-4 通信傍受の対象犯罪の追加

 

さいごに

 昨今、あらゆる分野での“IT化”“オンライン化”が進められていることは事実であるが、IT技術を用いるべき分野とそうでない分野については慎重に判断する必要がある。特に、司法という分野では、人権に関わる以上は、単に効率性さえ向上すればよいものではない。常に人権の観点を出発点として議論が進められなければならない。
 こうした観点からすると、本要綱は、効率性の観点ばかりが出発点となっていると考えざるを得ない。個々の論点の問題点については上述の通りであるが、この傾向は、本要綱に基づく改正対象分野自体からも見て取れる。例えば、本要綱にかかる法制審刑事法(情報通信技術関係)部会においては、当初、弁護人と被疑者とのオンライン接見が検討されていた。接見は、全ての刑事弁護の起点となる活動であると同時に、被疑者の防御権の実質化には欠かせないものである。オンライン接見は、その定義や方法、範囲などについて種々議論があるものの、被疑者被告人の防御権の向上にもつながりうるものである。しかしながら、結局、その部分は本要綱の対象から排除された。捜査の効率性を向上させる内容については人権的観点から異論が生じていても対象としているにもかかわらず、である。また、そもそもとして刑事弁護ないし弁護権の実質化にかかる論点は置き去りにされている。例えば、参考人を含めたすべての取り調べの録音録画など、“IT化”よりも、早期かつ簡易に実現可能な内容については一向に議論がなされず、上記の捜査の効率化を求める内容ばかりが議論の対象となった。
 上記の通り、司法の議論は、人権の観点から進められるべきである。しかしながら、本要綱に至る議論は、そうした観点が全く看過されているものであり、到底容認することはできない。
 また、特に捜査機関による電磁的記録提供命令の創設は、現代のデジタル化社会にあっては、刑事事件の被疑者・被告人の情報はもちろん、さらには他の多数の第三者(国民)の情報も包括的に捜査機関に把握される危険があり、それは、捜査機関に国民監視の強力な手段を与えるものでもあることは、本文で述べたとおりである。
 以上のとおり、本要綱に基づき法案化された刑事IT化法案は被疑者・被告人ひいては国民全般の人権を侵害するものであり反対する。

以上

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