愛知・西浦総会決議『「解雇の金銭解決制度」の創設と日雇派遣の年収要件の切下げに反対し、働く人に労働法の保護を及ぼす「労働者性の判断基準の適正化」を要求する決議』

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「解雇の金銭解決制度」の創設と日雇派遣の年収要件の切下げに反対し、働く人に労働法の保護を及ぼす「労働者性の判断基準の適正化」を要求する決議

 

1 「解雇の金銭解決制度」の創設に強く反対する
 「解雇の金銭解決制度」の創設を提言する「『日本再興戦略』改訂2015」(2015年6月30日閣議決定)及び「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」報告書(2017年5月31日公表)を受けて、厚生労働省は、2018年6月12日、「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」を発足させ、同検討会は、現在までに8回の検討会を行い、「解雇・雇止めが無効で、労働者が申し立てた場合に、使用者が労働契約解消金を支払って労働契約を終了させることができる」「解雇の金銭解決制度」を検討している。
 労働者申立の形をとっても、「労働契約解消金制度」という名の「解雇の金銭解決制度」が創設されれば、「違法な解雇・雇止めは行ってはならない。」との国民の意識が「違法な解雇・雇止めを行っても、金銭で解決すればよい。」へと変わり、違法な解雇・雇止めを容認しない国民の意識が大幅に変容させられることになる。また、労働契約解消金の算定方法と上下限が定められ、使用者は、この水準の金額を目安にして労働者にリストラ(退職)に応ずることを迫ることができるようになり、いま以上にリストラが横行することになる。財界は、まず「労働者申立による労働契約解消金制度」を認めさせ、その次には「使用者申立による労働契約解消金制度」の容認へと拡大することを狙っており、そうなれば、全面的な「解雇・雇止め自由の社会」、「リストラ自由の社会」が生まれることになる。
 自由法曹団は、「解雇の金銭解決制度」創設の検討をただちに中止し、整理解雇4要件や就労請求権の法制化等、解雇・雇止めから労働者を保護する制度を強化拡充することを強く要求する。

2 日雇派遣の年収要件の切下げに強く反対する
 2012年の労働者派遣法改定により、日雇労働者(日々又は30日以内の期間を定めて雇用する労働者)の労働者派遣(日雇派遣)は、原則禁止された(労働者派遣法35条の4)。例外として日雇派遣が認められるのは、①専門26業務のうちのソフトウェア開発等の17.5業務に労働者派遣する場合、②日雇労働者が60歳以上である場合、③日雇労働者が昼間学生である場合、④日雇労働者の収入の額が年間500万円以上である場合、④日雇労働者の属する世帯の他の世帯員の収入が年間500万円以上である場合の4つの場合だけである。
 ところが、2019年6月6日決定の規制改革推進会議の「規制改革推進に関する第5次答申」は、「政府の方針として副業の推進が挙げられている現在、日雇派遣の形態で副業を行うことについて、現行制度を見直し、より広く認められてしかるべきである。」、「しかし、年収500万円以上の者という条件を付した現行規制の下では、派遣形態での副業を選択できる労働者は限られる。」などとして、「日雇派遣に関して、労働者保護に留意しつつ、副業の雇用機会を広げるために、『副業として行う場合』の年収要件の見直しを検討し、速やかに結論を得る。」とした。次いで、安倍内閣は、2019年6月21日、「日雇派遣に関して、『副業として行う場合』の年収要件の見直しを検討し、速やかに結論を得る。」との内容を盛り込んだ規制改革実施計画を閣議決定した。現在、政府は、労働政策審議会労働力需給制度部会で、日雇派遣等の見直しの調査、審議を続けている。
 日雇派遣は、究極の不安定雇用であり、劣悪な労働条件、労働災害の多発、派遣元・派遣先の無責任等をもたらす雇用形態として、本来全面禁止すべきものである。労働者の権利保護のためには、日雇的短期雇用が必要な場合は、公的職業紹介と直接雇用で対応すべきである。現行制度は500万円以上の年収があれば日雇派遣の弊害も少ないとして例外的に日雇派遣を認めたものであり、500万円以上の年収要件を切り下げる根拠はまったくない。年収要件の切下げは、不安定・劣悪労働条件の日雇派遣の拡大に道を開くものであり、とうてい容認できない。

3 働く人に労働法の保護を及ぼす「労働者性の判断基準の適正化」を強く要求する
 「雇用類似の働き方に関する検討会」報告書(2018年3月30日公表)は雇用類似の働き方に関する実態や課題を報告したが、この報告書を受けて開催されていた「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会」は、2019年6月28日、「中間整理」を公表した。
 中間整理は、各論として、「契約条件の明示、契約の締結・変更・終了に関するルールの明確化等」や「報酬の支払確保、報酬額の適正化等」等を「本検討会で特に優先的に取り組むべき課題」とし、「発注者からのセクシュアルハラスメント等への対策」や「仕事が原因で負傷し又は疾病にかかった場合等の支援(セーフティネット関係)」を「専門的・技術的な検討の場において優先的に取り組むべき課題」とした。しかし、中間整理は、総論として、「働き方が多様化している経済実態を踏まえて、指揮命令を中心とした現在の労働者性が適当であるかを念頭に置いておくことは必要であり、検討すべき課題」としながら、「労働者性の見直しは、これまでの労働者性の判断基準を抜本的に再検討することとなるため、(中略)新たな判断基準について短期的に結論を得ることは困難」として、「経済実態に適合した労働者性の在り方については継続的な検討課題」とした。これでは、本検討会で、働く人に労働法の保護を及ぼす方向での「労働者性の判断基準の見直し」が検討される可能性はないと言わざるを得ない。
 労働基準法研究会の1985年12月19日公表の「労働基準法の『労働者』の判断基準について」は、「仕事の依頼等に対する諾否の自由の有無」、「業務遂行上の指揮監督の有無」、「勤務場所及び勤務時間の拘束性の有無」等の解釈を通じて、労働者性を認める範囲を極めて狭いものにしており、働く人の保護に背反するものになっている。雇用類似の働き方を検討するにあたって、「労働者性の判断基準の適正化」は喫緊の課題である。
 自由法曹団は、労働の従属性の実態、諸外国の取扱い等の調査研究等、必要な施策をただちに実施し、契約形態の如何を問わず働く人に労働法の保護を及ぼす方向で、「労働者性の判断基準」をすみやかに適正化することを要求する。

4 広範な人々と連帯して
 自由法曹団は、「解雇の金銭解決制度」の創設と日雇派遣の年収要件の切下げに反対し、働く人に労働法の保護を及ぼす「労働者性の判断基準の適正化」を実現するため、広範な人々と連帯し、奮闘する決意である。

 

2019年10月21日
自由法曹団 愛知・西浦総会


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