愛知・西浦総会決議『名張毒ぶどう酒事件をはじめとするえん罪被害者救済のため、速やかに再審法の改正を求める決議』

カテゴリ:決議,治安警察

名張毒ぶどう酒事件をはじめとするえん罪被害者救済のため、速やかに再審法の改正を求める決議

 

1 近年、足利事件、布川事件、東京電力女性社員殺人事件、東住吉事件、松橋事件が再審無罪判決を勝ち取り、湖東事件、日野町事件が再審開始決定という成果を上げ、再審やえん罪被害に対する市民の関心は非常に高まっている。
 しかし、今もなお、多くのえん罪被害者が、雪冤を果たすことを望んでいるにも関わらず、救済されていないというのが現状である。それどころか、本年6月25日、大崎事件第三次再審請求において最高裁第一小法廷が、地裁、高裁で認めた再審開始決定を取消して再審を認めない決定をしたように、最近の再審の流れに反し、えん罪被害者救済に逆行する“逆流現象”さえ生じてきている。日本の再審制度は、未だ、真にえん罪被害者救済のための制度として機能しているとは言い難い。

2 このような再審制度の機能不全は、現在の再審制度が抱える制度的・構造的な問題点に起因している。すなわち、日本国憲法が二重の危険を禁止したことから(憲法39条)、不利益再審は廃止され、現行再審法(刑事訴訟法第4編)は、えん罪被害者を救済するためだけの制度として位置づけられた。しかし、現行再審法の規定はわずか19条しか存在せず、裁判所の裁量に委ねられている点が非常に多く、その判断の公正さや適正さが制度的に担保される仕組みとなっていない。
 また、再審開始決定を獲得した事件の多くは、再審請求手続において開示された証拠が再審開始の判断に大きな影響を及ぼしており、再審請求手続における証拠開示はますます重要となっている。しかし、再審請求手続における証拠開示については明文の規定がなく、全て裁判所の裁量に委ねられている。そのため、裁判所の訴訟指揮によって証拠開示の実現に大きな差異が生じており、「再審格差」とも言われる事態が生じている。
 さらに、長い年月をかけて再審開始決定を獲得したとしても、検察官の不服申立てによって審理がさらに長期化し、時には再審開始決定が取り消され、振り出しに戻るという事態が繰り返されてきた。そのため、再審が長期化することによってえん罪被害者も高齢化し、ときには再審の途中で亡くなってしまうなど、人権救済にとって極めて由々しき状態となっている。
 このような問題点を抱えているにもかかわらず、現行刑事訴訟法が施行されて70年を経た今もなお、再審法は何ら改正されることなく現在に至っている。

3 以上のような、わが国の再審制度の病理を体現しているといっても過言ではない事件が、現在名古屋高裁で闘われている名張毒ぶどう酒事件である。
 名張毒ぶどう酒事件は、殺人犯とされた奥西勝さんが、通常審の第一審津地裁で無罪判決が言い渡されたにもかかわらず、検察官の控訴により、控訴審名古屋高裁で逆転死刑判決が言い渡された事件である。最高裁で死刑判決が確定した後も、奥西さんは自らの無実を主張して再審を請求してきた。そして、第7次となる再審請求において、名古屋高裁は2005年4月5日、再審開始を決定した(小出錞一裁判長)。この段階で再審開始が確定し、再審公判が始まっていれば、奥西さんは再審無罪判決を得て、自由の身になっていたかもしれない。しかし、検察官の異議申立てにより、異議審で再審開始は取り消され(門野博裁判長)、その後、特別抗告審で異議審決定は取り消されたものの、差戻審で再び再審請求は棄却された。結局、奥西勝さんは、再審無罪判決を得ることなく病に倒れ、2015年10月4日、帰らぬ人となってしまった。奥西勝さんは、再審開始に対する検察官の異議申立てを認める現行再審法の不備によって、雪冤を果たす機会を失ってしまったのである。
 また、現在、弁護団は奥西勝さんの親族を請求人として、第10次再審請求を申し立てているが、検察官は「膨大な未提出証拠がある」旨明言しているものの、これを全く開示しようとせず、裁判所も、弁護団の度重なる証拠開示請求にもかかわらず、証拠開示の実現に向けた訴訟指揮を行おうとしない。ここでも、再審請求段階において、証拠開示の規定が存在しないという現行再審制度の不備が、奥西勝さんの雪冤にとって大きな壁となってあらわれている。
 このように、名張毒ぶどう酒事件は、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを認め、全面的証拠開示を認めない、現行再審法の不備により、救済を阻まれてきた典型的事件の一つといえるのである。

4 生涯に渡ってえん罪を訴え続けながら、志半ばで亡くなった奥西勝さんの悲劇を二度と繰り返さないためにも、全面的証拠開示、検察官の不服申立の禁止、そして、公正かつ適正な訴訟指揮と判断を保障する再審法改正により、えん罪被害者の救済という再審の理念を実現することが必要である。
 自由法曹団は、日本弁護士連合会が、本年の人権擁護大会で採択した「えん罪被害者を一刻も早く救済するために再審法の速やかな改正を求める決議」を高く評価し、えん罪被害者の救済に取り組むとともに、再審法改正の実現に向けて、全力を挙げて取り組む決意である。
以上のとおり決議する。

 

2019年10月21日
自由法曹団 愛知・西浦総会


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