2020年4月8日付、『新型コロナウイルス感染拡大に伴う「緊急事態宣言」に際して,憲法を生かし,いのちと暮らしを徹底して守る感染拡大防止策の確立を求める』声明を発表しました

カテゴリ:声明,憲法・平和

新型コロナウイルス感染拡大に伴う「緊急事態宣言」に際して,憲法を生かし,いのちと暮らしを徹底して守る感染拡大防止策の確立を求める

1 安倍首相は,新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためとして,2020年4月7日,新型インフルエンザ等特別措置法第32条に基づき,対象区域を,東京都,神奈川県,千葉県,埼玉県,大阪府,兵庫県,福岡県の7都府県,対象期間を1か月間とする緊急事態宣言を発出した。これを受けた各都府県知事は,同特措法45条に基づく生活維持に必要な場合を除く外出自粛,学校等の施設利用の制限,映画や音楽,スポーツ施設の使用制限,各種イベントの開催の制限を求めることとなる。

2 新型コロナウイルスの世界的感染拡大により,今日までに世界で127万人もの感染者が発生し,死者は72,000人に及び,日本国内においても,4月7日までに4,000人を超える感染者と100人に迫る死者が出ており,感染拡大がいつ収束するかの目途も立っていない。
 このような状況下において,政府がまず取り組むべきは,緊急を要する人命の救済であり,これ以上の感染者拡大を防ぐことである。政府は,国民の命と健康を守るため,最大限の措置を最優先に行う責務を果たさなければならない。

3 新型コロナウイルス感染拡大を防止する取組みを実効あるものとするためには,取り組みと一体のものとして,感染拡大防止措置のよって生じる事業者や労働者の損失を最小限に抑える措置が講じられなければならない。
 特措法に基づく緊急事態宣言による外出自粛や施設の利用制限により,生活費が途絶えたり,収入が激減する事業者や個人に対して,生活保障を含む損失補償に踏み出してこそ,自粛要請にこたえて安心して休業することができ,緊急事態宣言発出の目的である感染拡大防止の実効性を確保することにもつながるものである。
 しかし,今回発出された緊急事態宣言により,外出自粛や施設利用制限要請に法的根拠が与えられた一方で,これらの要請・指示による施設利用の停止や各種イベント開催の制限によって生じた損失の補償に関する規定や具体的な措置は整備されていない。
 特措法に基づく施設利用制限によって営業休止を求められた事業者に生じる損失は,感染拡大防止という「公共のため」に営業の機会が奪われたことにより生じる損失であり,その損失は各事業者に「特別の犠牲」を強いるものであるから,今回の緊急事態宣言発出前後を問わず,その損失を国が補償することは,「私有財産は,正当な補償の下に,これを公共のために用ひることができる」とする憲法29条3項の要請であると解される。
 したがって,特措法に基づく「自粛要請と一体として損失補償を行う」ことが政府の基本方針に据えられなければならない。
 同時に,感染が拡大するもとで,医療体制を維持するために,必要な病床,人員,機材等が確保されるよう,財政措置を含めた万全の措置をとることは,喫緊の課題である。

4 特措法では,緊急事態宣言下において,総合調整に基づく措置の実施の指示(法33条1項)の対象となる指定公共機関に日本放送協会(NHK)が含まれており(施行令3条7号),表現の自由や知る権利(憲法21条1項)が制限されるおそれがある。今回の緊急事態宣言においては,放送・通信事業者に対する措置の指示はされていないが,むしろ政府は,国民に対して,徹底した情報開示をしなければならないのであって,政府の恣意的な判断で,国民の人権が広汎に侵害されるようなことは,決してあってはならない。

5 この間,自民党内から,ウイルスの感染が国会議員に拡大した場合や国会議員について必要な選挙が実施できない場合等「緊急事態」を想定した議論を行うために憲法審査会の開催を求める声が上がっている。が,これは,これらの議論をきっかけとして憲法への緊急事態条項の導入を含む自民党改憲案の審議につなげる狙いがあるものというほかない。
 さらに,安倍首相は,4月7日の衆議院議院運営委員会において,「新型コロナウイルス感染症への対応も踏まえつつ,国会の憲法審査会の場で与野党の枠を超えた活発な議論を期待したい」などと述べたが,新型コロナウイルス感染拡大という現況を改憲論議に利用しようとするものであって許されるものではない。
 いま国会と政府がなすべきことは,現行法に基づいて,感染拡大防止措置に全力をあげることであり,改憲を論じることではない。自由法曹団は,今回の緊急事態宣言に便乗した改憲論議には断固反対する。

6 自由法曹団は,新型コロナウイルスの感染拡大防止と治療のために日夜奮闘している関係者に心から敬意を表するとともに,政府および関係諸機関に対し,いまこそ,幸福追求権(憲法13条)・生存権(憲法25条)を保障している憲法を生かし,国民の健康と命,そして生活を守るために,「自粛要請と一体の損失補償」の実施及び万全な医療体制の確保に全力をあげることを強く求めるものである。

以上

2020年4月8日

自  由  法  曹  団
団長 吉  田  健  一

 


(PDFはこちらから)
新型インフルエンザ特措法32条に基づく緊急事態宣言の発出に当たって

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