第1701号 / 4 / 11

カテゴリ:団通信

【今号の内容】

* 千葉支部特集 *
○千葉支部の取り組みについて  藤岡 拓郎
○千葉県内の憲法運動  田村 陽平
○千葉支部の公害・環境問題の取り組み  井出 達希

 

●だれにでもわかる明快な無罪判決 ~湖東記念病院事件の再審無罪が確定~  杉本 周平

●水害訴訟で営造物責任を肯定
 ~平成24年九州北部豪雨馬場楠堰水害事件で画期的判決~  板井 俊介

●山陽新聞労働組合の2つのたたかい(上)  鷲見 賢一 郎

●防衛大における人権侵害裁判について(上)  井下  顕

●埼玉弁護士会「死刑廃止に関する総会 決議」のご報告  小木  出

●国民の知る権利を侵し、辺野古新基地 の違法工事を隠すドローン規制法  仲松 正人


 

* 千葉支部特集 *
千葉支部の取り組みについて  千葉支部 藤 岡 拓 郎

一 千葉支部特集にあわせて、近時の千葉支部の状況を簡単に報告します。
 昨年六月の支部総会にて、一〇数年ぶりに三役が交代となり、新たに支部長として藤野善夫団員、幹事長に岩橋進吾団員、事務局長に私藤岡が就任しました。また、副支部長の役職を新たに設け、市川清文団員が就任しました。
 また、事務局次長には、六〇期台後半の団員に複数名就いてもらっています。
 うれしいニュースとして、七二期の新規登録弁護士が三人、団員として登録されました。支部の五〇年近い歴史の中で、三人は過去最大です。

二 千葉支部の団員は、個々の取り組みとして事件や運動を若手からベテランまで頑張っています。大型の労働事件や公害環境事件、原発避難者訴訟、年金訴訟など、多くの事件で団員が中心になって活動しています。
 また、弁護士会の会務でも積極的な意見を発信しています。弁護士会では、今年二月に総会があり、そこで死刑廃止決議案が上程されました。残念ながら議案は否決されましたが、ここに至るには死刑廃止検討委員会の中心的な委員として舩澤弘行団員が大いに活躍しました。詳しくは、守川幸男団員より別途出される特別報告をご参照ください。

三 支部としての取り組みですが、昨年九月、成田空港の運用時間延長(夜間午後一一時以降の離発着)に伴う騒音公害の実態調査として、現地運動団体とともに空港周辺の会社寮で騒音調査を行いました。短時間の調査でしたが一〇機程について80db前後の騒音が記録されました。羽田空港の機能拡大を前に専ら成田空港としての生き残りを目的としたもので近隣住民の被害が置き去りにされています。今後現地住民からの聞き取り等、被害の掘り下げが課題です。

四 今年一月には、例会兼新人学習会を実施しました。東金ビラまき事件という千葉県内で起きた著名な弾圧事件を題材に、同事件の弁護人を務めた市川清文団員を講師として、現在の弾圧対策を考えました。近年にはない盛況ぶりで二〇名以上の参加がありました。
 事件は、人通りのほとんどない東金駅前付近の路上で核廃絶等を訴えるビラ配りをしていた二〇代の青年が突然警察官から道交法違反にあたるとして逮捕された、まさに典型的な違法弾圧事件といえるものです。この事件では、警察の弁護人に対する接見妨害等を理由に国賠訴訟を起こし全面勝訴しており、判例タイムズ等にも掲載されています。判示の中に「自由法曹団所属弁護士」という言葉が何度も出てくる団員にとっては誇らしい裁判ではないかと思います。

五 また、今年二月には、毎年恒例の古希団員を囲む会を開きました。毎年、お酒を酌み交わしながら、古希団員から弁護士人生を振り返って、思い出の事件などを好きなだけ語ったいただく場で、若手団員にとっては、団の歴史も知ることができ、また、事件に取り組む姿勢や大衆的裁判闘争の意義を学べる貴重な機会となっています。今年は、古希団員として藤野善夫支部長より東電思想差別事件について大いに語っていただきました。
 三月には、国民救援会千葉県本部と、再審法の改正について学習会を開催しました。再審手続がほぼ裁判所の裁量となっている実情を踏まえ証拠開示や検察官の抗告制限等の課題について確認し、弁護士会を通じた意見表明等の今後の取り組みを協議しました。

六 そして、直近では、千葉地区とは比較的距離があり中々接点のない松戸地区の団員との交流を深めるため、松戸での例会を企画していました。しかし、新型コロナの影響で延期が続いています。その他にも団員個々に様々な取り組みがありますが、これらは他の千葉支部特集の投稿に委ねたいと思います。

 

千葉県内の憲法運動  千葉支部 田 村 陽 平

一 二〇一五年の戦争法廃止のたたかい以来、千葉県でも戦争法廃止・立憲主義回復を軸とした憲法運動が続いている。
 千葉では憲法共同センターと千葉県憲法会議が憲法運動の中心を担ってきたが、二〇一五年以来、千葉県でも市民と野党の共闘が広がりをみせ、これまで互いにかかわったことがない団体同士で集会や宣伝をするようになった。例えば、安保法廃止を目的とした「オール千葉」の枠組みで憲法共同センターと一〇〇〇人委員会がともに集会を行うようになったし、県市民連合が立憲野党の候補者を具体的に推薦するという状況になっている。以下、各団体の憲法運動を紹介する。

二 各団体の憲法運動
(1) オール千葉の活動
 戦争法廃止・立憲主義民主主義を取り戻すという一点で共闘が広がり「オール千葉」という憲法共同センターや一〇〇〇人委員会が中心となった共闘の運動がある。これまで二〇〇〇人規模の安倍改憲反対の県民集会等を成功させている。
(2) 千葉県憲法会議の活動
 千葉県憲法会議は、一九六五年秋に発足し、千葉県の憲法運動の中心として活動してきた。最近は憲法共同センターとともに活動をしている。
 五月三日には毎年憲法記念日の集いを開催している。参加者は五〇〇人を超えている。近年では、二〇一九年五月三日山内敏弘氏、二〇一八年五月五日小沢隆一氏、二〇一七年五月三日永山茂樹氏を講師に迎えている。
 また、定例街頭宣伝活動を行っている。憲法を守り生かす共同センターとともに二〇一五年六月から火曜日の昼宣伝を開始し、現在は第二、第四火曜日の昼に千葉駅前で宣伝している。
 月一回程度の幹事会を開催し、情勢議論を通じて憲法運動の認識を深めている。
(3) 千葉県市民連合の発足と地域市民連合
 二〇一七年一月二九日、千葉県市民連合が発足した。急な呼びかけにもかかわらず、県内各地から三五〇名の人々がかけつけ、千葉県弁護士会館が満席となった。
 その後、一三の選挙区全てに地域市民連合が発足し、各地域における活動を活発にしている。この間知事選、衆院選、参院選及び統一地方選などがあり、選挙を経る度に共闘は深化している。
 二〇一九年の参議選では、千葉県選挙区から野党候補の複数当選を目指し、立憲民主党と日本共産党の候補者に県市民連合として推薦を出し、応援することができた。各地域の集会にも二人の候補者が参加し、最初は同席しなかった二人の候補者は選挙が近づくにつれ一緒に壇上に上がる姿もあった。選挙戦では最後の三議席目を自民党と日本共産党が争い、結果敗れるものの、自治体によっては日本共産党の候補者の得票が上回るという結果もあり、共闘に確かな手ごたえがあった。

三 そのほか、木更津へのオスプレイ暫定配備問題や幕張メッセでの武器見本市の問題といった地域における課題を共有した市民運動・憲法運動も活発である。今後も千葉県での憲法運動を団千葉支部として前進させていきたい。

 

千葉支部の公害・環境問題の取り組み  千葉支部 井 出 達 希

一 はじめに
 千葉県は、首都圏のベッドタウンであり、全国有数の農林水産県として農産物や海産物を出荷している。一方で、首都圏のごみ捨て場として、県内各地では風光明媚な里山が無残に廃棄物や残土の処分場と化している。こうした野放図な環境破壊の現状に抗すべく、住民たちが裁判闘争に立ち上がり、私たち支部団員も一定の成果を上げてきた。
 支部団員らの取り組む近年の大規模裁判を二つ紹介する。

二 鋸南町汚染土壌処理施設差し止め裁判
 房総半南東部の内房に、巨大な石切り場と、東洋一の石造りの大仏で有名な鋸山がある。鋸山の南が鋸南町である。昨年九月の台風で甚大な被害を受け、ニュースに何度も登場していたので、ご存じの方もいるかと思う。
 鋸南町は、漁業と農業が盛んなのどかな田舎である一方で、採石業が町のもう一つの産業として発達してきた。
 砕石をした跡地は広大な窪地となる。採石業の廃止にあたって土砂による埋め戻しが必要となるが、事業者は、まず許可を超えた深度まで深堀りして砕石する違法により利益を上げ、県からの指導を受けて一旦埋め戻した土砂を再び搬出・売却して利益を上げた。そして、挙句の果てには、カドミウムやヒ素などを含む人体に有害な汚染土壌を埋め立てる施設を作って利益を上げて、事業の廃止にしてしまおうと目論んでいる。
 なお、本件施設は、一四五万立米を埋め立てる巨大なもので、汚染土壌のみを埋め立てる専用施設としては日本で唯一の施設と言われている。
 事業者の数々の悪行は目に余るものがあるが、何より、汚染土壌処理施設が作られれば、人体に有害な物質が垂れ流され、川や地下水、そして海を汚染することになる。鋸南町では、まだまだ井戸水を飲用、生活用水、農業用水に利用し、海では漁業が盛んであることから、水の汚染は、身体健康や地域の産業に深刻な被害をもたらすことは必至である。
 そこで、地域の住民らは反対運動を展開し、二〇一四年一一月一四日に千葉地裁木更津支部に操業差し止めの仮処分の申し立てを行った。債権者は五二名であるが、その中には漁協も含まれる。
 千葉地裁木更津支部は人格権及び漁業権に基づき住民一六名の主張を認め、操業の差し止めの仮処分決定を下した。その後の千葉地裁の保全異議審でも住民側の勝利が維持されたが、二〇一九年三月二六日に東京高裁で業者側の保全抗告が認められたために住民側が敗訴した。
 二〇一九年六月七日に、住民側は千葉地裁に差し止めの本訴を提起し、現在も審理が続いている。
 また、二〇一五年二月一九日に許可権者である千葉県に対して、許可差し止めの行政訴訟を提起した(原告五〇名)。汚染土壌処理施設は、施設を完成させた後に、許可申請をする仕組みとなっているが、県は申請から五年経った今でも許可を出していない。
 これは裁判、住民運動、県議会での追及による成果によるものであるが、さすがに五年も経っていることから、業を煮やした業者が県に対して、不作為の違法確認と許可義務付けの行政訴訟を起こした。現在は、三つ巴の戦いになっている。
 鋸南町は、砕石場が多数あり、本件のようなビジネスモデルが成立するなら、汚染にまみれた町となる。絶対に負けられない戦いである。
 なお、弁護団は一一名体制で、本職のほか、田久保公規、山口仁団員が参加している。

三 新井総合施設産廃処分場差し止め裁判
 房総半島のド真ん中の久留里は、かつての里見氏の城下町であり、銘水百選に選ばれるほど水のきれいな土地である。かずさ堀により、地下六〇〇m付近から地下水が湧き出している。首都圏から水を求めて観光客が訪れ、清酒つくりも盛んである。
 この地下水源の地層の上流部の山中に建設計画されているのが、新井総合施設の管理型産廃処分場である。管理型処分場は、要するに穴を掘って周囲をビニールシートのようなもので覆って外部と遮断して(遮水工という)、そこに廃棄物を埋める構造である。埋められる廃棄物は、燃え殻、汚泥など有害なものが含まれるため、場内から出る汚水を処理する施設を設けるという特徴がある。原発事故後、八〇〇〇ベクレル以下の放射性廃棄物が持ち込まれていたことは記憶に新しい。
 管理型処分場は、遮水シートが破れるなどして場外に汚染水が漏れ出す事故などが後を絶たない。水源地に危険な処分場ができれば、地下水が汚染され、生命身体や観光への重大な影響が生じる危険性がある。
 そこで、本件処分場を差し止める住民運動が長年展開されてきたが、第一期、第二期と着々と処分場は建設操業されてきた。
 平成二四年に、第一期処分場から場内水が漏れ出す事故が起き、県の指導により、漏洩の対策が取られるまで第二期処分場への搬入が中止されたが、いまだその原因が解明されていない。
 このような状況の中、第一期、第二期を合わせた規模をしのぐ、第三期処分場の建設操業の許可を行ったため、ついに住民らが立ち上がり建設操業の差し止めを求めたのが、本裁判である。弁護団には、当職のほか、田久保公規、藤岡拓郎、兒島英樹、土居太郎団員が参加している。
 二〇一九年一月三一日原告一五二名が千葉県を被告として、許可取消しの行政訴訟を千葉地裁に提訴し、同年六月二八日に債権者二〇〇名が建設操業差し止めの仮処分を申し立て、現在も審理中である。
 本件では、地層の構造や久留里地区への地下水の到達経路などはあまり争いはなく、最大の争点は場内の汚染水が外部に漏れだすか、という点にある。なかなか立証が難しい争点であるが、漏水事故を起こしている業者であることや、昨年房総半島を襲った台風のような大規模災害などを踏まえれば、勝てない戦ではないと思っている。
 良い成果がでれば、また報告をしたい。

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だれにでもわかる明快な無罪判決 ~湖東記念病院事件の再審無罪が確定~  
                                                                                              滋賀支部  杉 本 周 平

 いわゆる「湖東記念病院事件」については、本年二月三日、同月一〇日に大津地裁(大西直樹裁判長)で再審公判が開かれ、本年三月三一日に再審無罪判決が言い渡された。そして、本年四月二日、検察官の上訴権放棄により、西山美香さんの再審無罪が確定した。

湖東記念病院事件とは
 本件は、二〇〇三年五月二二日午前四時三〇分ころ、滋賀県愛知郡湖東町(当時)所在の湖東記念病院で、看護助手として勤務していた西山さんが、人工呼吸器のチューブを外して、もとより重篤な症状にあった入院患者(当時七二歳)を殺害したとされる「事件」である。
 任意取調べで殺人の自白をした西山さんは、〇四年七月に逮捕された。公判において、「取調官に好意を抱いて嘘の自白をした」と事実を争い、弁護側も患者の死因や自白の信用性を争ったものの、一審の大津地裁は懲役一二年の有罪判決を言い渡し、〇七年五月に最高裁で有罪が確定した。
 その後、西山さんは二度にわたって再審請求を行い、満期出所後となる一七年一二月二〇日、大阪高裁第二刑事部(後藤眞理子裁判長)は、患者が自然死した合理的疑いがあるとして再審開始を認めた。一九年三月一八日、最高裁第二小法廷(菅野博之裁判長)も検察官の特別抗告を棄却したため、再審開始が確定し、再審公判手続が始まった。

突然「白旗をあげた」検察官
 一九年四月二三日の第一回三者協議の中で、検察官は、本件について有罪立証すると宣言し、同年六月五日付、同月二六日付及び、同年七月一二日付で「立証方針メモ」を提出して、具体的な主張立証計画を明らかにしていた。弁護団(井戸謙一団長)としても、本件再審公判では多数の証人尋問を実施することになると覚悟し、協力医の鑑定意見書を新たに作成するなど、その準備を進めていた。
 しかし、同年九月三〇日の三者協議において、検察官は「従前の主張立証方針を撤回する予定である」と口頭で伝え、同年一〇月一八日付「再審公判の主張等について」と題する書面では、正式に「検察官としては、公訴事実について、被告人が有罪である旨の新たな立証は行わない」「一回結審による早期終結を希望する」「年度内に判決が受けられるよう、期日を指定していただきたい」と裁判所へ提案するに至った。
 有罪立証の準備を進めていた検察官が、突然「白旗をあげた」背景には、後述する未送致証拠の存在があったものと推測される。弁護団としては、西山さんのすみやかな雪冤を何よりも優先すべきものと考え、かかる検察官の提案を受け入れることにした。

明らかとなった「証拠隠し」
 他方、弁護団は、できる限り本件の真相を解明するべく、未開示証拠の開示を粘り強く求め続けた。再審公判における証拠開示について法律上明確な規定はなく、当初は全面的な証拠開示と証拠一覧表の交付を求めていたものの、検察官は頑なに応じようとしなかった。
 そこで、弁護団は、通常審(公判前整理手続)における証拠開示規定を意識し、開示を求める証拠の内容と、開示を求める理由を具体的に示した上での開示請求を行ったところ、未開示であった相当数の証拠が数回に分けて開示され、同年一〇月一一日付及び同月三一日付で証拠一覧表が交付された。
 そして、同月三一日付で「令和元年七月二九日に新たに送致された別表記載の証拠を開示する」として、西山さん自筆の供述書や捜査報告書など五八点の証拠が開示された。この中には、患者が痰を詰まらせて死亡した可能性があるとする解剖医の所見を記載した〇四年三月二日付捜査報告書が含まれていた。仮にこの捜査報告書の存在が通常審段階で明らかとなっていれば、西山さんが無罪となっていた可能性はもちろん、そもそも起訴すらされなかった可能性がある。
 証拠開示によって、滋賀県警が西山さんにとって有利な証拠を検察官へ送致せず、再審公判に至るまで隠し続けていた実態が明らかとなったのである。

再審公判の概要
 再審公判は、本年二月三日午後と同月一〇日午前の二回に分けて行われた。大西裁判長は、再審被告人である西山さんのことを、終始「西山さん」と呼んだ。
 冒頭陳述で、検察官は、無罪判決を求めるわけでも、西山さんが有罪である具体的な根拠を示すわけでもなく、「適切な判断を求める」とだけ述べた。弁護団は、本件が「事件のないところに事件を作り上げた『空中の楼閣』」であり、ハッキリしない検察官の姿勢を「『公益の代表者』としてふさわしくない」と批判した。
 被告人質問で、西山さんは、取調官(Y刑事)に好意を抱くようになった経緯、自白に至る経緯、弁護人のアドバイスに従って否認をしても「逃げるな」「そんな弁護士を信用するな」などとY刑事らから言われたことのほか、取調べの際にY刑事からオレンジジュース、ハンバーガー、ドーナツ、ケーキといった飲食物の提供を受けていたことを明らかにした。検察官は、反対質問をしなかった。
 第二回期日における論告・弁論で、検察官は、やはり「適切な判断を求める」と述べるだけで、事実上論告を放棄した。弁護団は、協力医の鑑定意見書をもとに、患者が自然死したこと、西山さんの自白は医学的にありえない内容であること、西山さんが「供述弱者」であること、そして、自白採取の過程で種々の違法行為があったことなどを約三〇分かけて説明し、「だれにでもわかる明快な無罪判決」を求めた。
 最終陳述で、西山さんは、支援者への感謝の言葉を述べるとともに、検察官に対し、「特別抗告されて、家族がどんな思いをしているのか分かってほしい」「他の事件でも(再審開始決定に対して)抗告しないでほしい」、裁判所に対しては、「世の中には他にもえん罪被害者がいる」「その人たちにも早く無罪判決を出してあげてほしい」「その人たちと一緒に笑い合いたいと思う」「被告人一人ひとりの声を聴いてほしい」と述べ、他のえん罪被害者もすみやかに救済するよう訴えて、本件は結審した。

事件性のみならず自白の任意性も否定
 今回の再審無罪判決は、患者の死因が「酸素供給途絶による急性死」であるとする解剖医鑑定の信用性を新証拠によって明確に否定し、患者が他の原因で死亡した具体的可能性があり、自白以外の証拠だけでは「事件性を認めるに足りない」とした。
 そして、自白の任意性についても、①人権侵害の有無・程度、②捜査手続の違法・不当性の有無・程度、③当該自白供述に与えた影響の有無・程度(因果性)、④それらの事情により虚偽供述が誘発されたおそれ等を総合考慮して判断するのが相当であり、その際には、供述者側の事情(年齢、精神障害の有無・内容)も考慮して、実質的、具体的に判断すべきとの基準を示した。その上で、いわゆる「供述弱者」である西山さんの自白は、実質的にみて自発的になされたものではなく、防御権の侵害や捜査手続の不当によって誘発された疑いが強く、「任意になされたものでない疑がある」として、証拠から排除し、西山さんを無罪に導いた。
 このように、自白の任意性についても新たな判断基準を示した同判決は、再審事件のみならず、他の刑事事件一般にも少なからず影響を与えるものとなるであろう。私たち弁護団による今回の成果が、西山さん一人の救済だけでなく、他のえん罪被害者の救済にも役立てることができたなら、こんなに嬉しいことはない。

鬼の目にも涙「もう嘘は必要ありません」
 なお、大西裁判長は、判決宣告後、一〇分にも及ぶ異例の「説諭」を行い、「取調べや客観証拠の検討、証拠開示のどれか一つでも適切に行われていれば、このようなことにはならなかった」「今回の裁判は、刑事司法の在り方に大きな問題提起をすることは間違いない」と、現行制度の問題点にも言及した。
 そして、西山さんに対し、「嘘偽りのない西山さんを受け入れ、支えてくれる人たちに出会えた」「もう西山さんに嘘は必要ありません」「ありのままの自分と向き合い、自分自身を大切にして生きて下さい」「今日がその第一歩となることを願い、信じています」と、目を赤くし、声を詰まらせながら語りかけた。西山さんも、大西裁判長の言葉に聞き入り、書記官から渡されたティッシュペーパーで何度も目を拭っていた。
 末筆ながら、本件について、これまで惜しみない支援を続けていただいた団員各位に、改めて心よりお礼を申し上げたい。どうもありがとうございました。

 

水害訴訟で営造物責任を肯定
~平成二四年九州北部豪雨馬場(ばば)楠堰(ぐすぜき)水害事件で画期的判決~
                                  熊本支部 板 井 俊 介

一 国賠法二条製造物責任を一部肯定
 二〇二〇年三月一八日午後一時一〇分、熊本地方裁判所民事第三部(小野寺優子裁判長)は、平成二四年七月一二日未明、阿蘇地方から熊本地方にかけて発生した集中豪雨(平成二四年九州北部豪雨)により、熊本市を流れる一級河川である白川下流域に設置された農業用水取水口に端を発し、熊本市が管理する馬場(ばば)楠堰(ぐすぜき)用水路に設置された転倒堰(てんとうぜき)(熊本市東区石原)から大量に流出した排水が、民間のゴルフ練習場の外壁を突き破って破壊したことに基づき、同ゴルフ練習場運営会社が原告となり、熊本市を被告として国家賠償法二条の営造物責任を問うて提起した国家賠償請求事件において、原告の請求を一部認容し、熊本市に四二万三七〇五円の支払いを命ずる極めて画期的な判決を下した。
 この判決は、①昭和五九年大東水害最高裁判決の判断枠組みを普通河川の場合にも基本的に踏襲した平成八年七月一二日平作川水害最高裁判決の判断枠組みを採用しつつ、②原告の主張を裏付けた今本博健京都大学名誉教授の意見書の内容について「本件被害当日の状況を合理的に説明するもの」で、同教授の意見は「多くの水理模型実験の経験に基づいた定性的な検討の結果」であって「十分に説得力がある」と判示して、これに反する大本教授の見解は「合理性に疑問がある」と否定した上で、③「本件転倒堰が完全に倒伏する」状況においては流末水路沿いの建物に被害を与える危険性があった」が、それは本件用水路等に構造上の問題があったとする一方で、その危険性は、流末水路の合流点付近に高さ二m程度のシル(擁壁)を設置していれば防げたと判示して、「流末水路が満水となった状況で本件転倒堰が倒伏した場合、排水を管理できずに本件駐車場に排水が一気に溢れ出す構造となっていた点については、同種規模の河川の管理の一般的水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていなかったと言わざるを得」ず、「本件水路等の設置又は保存の瑕疵」があるとして、国賠法二条の営造物責任を肯定したものである。

二 余りに長い水害訴訟の冬の時代
 周知のとおり、河川水害により流域住民らが被った損害については、昭和五九年大東水害訴訟最高裁判決が、河川は道路等とは本質的に異なり制御困難であること、河川整備には財政的制約があるため容易には行政責任を問えないとすることを基本的な考え方とした住民側敗訴判決を下して以降、被害住民が全く勝訴できない冬の時代が到来し、多摩川水害最高裁判決を唯一の例外として、その後も河川管理の瑕疵が認められた裁判例は全く存在しない(なお、ダム放流水による被害については、北海道二風谷ダム訴訟平成二四年九月二一日札幌高裁判決のみが勝訴判決)状況にあった。このような司法判断が故に、住民の生命・身体や財産を守ることを最優先とする河川管理が実施されてこなかったとの批判があった。
 その中にあって、この判決は、水害訴訟における従来の司法判断が不十分であったことを直視し、専門家意見に依拠しつつ、たとえ一部であっても行政の河川管理に瑕疵があったことを明確に肯定したものである。本判決は、これまでの我が国の水害訴訟の裁判例を見る限り、少なくとも二~三〇年に一度しか登場しないような極めて画期的な請求認容判決であって、今後の我が国の河川管理の在り方について一石を投ずる役割を果たすものとして重要な意義を有するものである。
 昨今の地球温暖化に起因する気候変動は、我が国にも影響を及ぼし、この数年間においても、九州・沖縄地方に限らず、全国各地で河川の大規模な氾濫を招きうる集中豪雨が多発している状況にある。また、これに応じて各地で水害訴訟が提起されることも必至である。
 この判決は、現在、あるいは将来、各地で係属する水害訴訟の審理に影響を与えるものであることは勿論のこと、行政の河川管理の姿勢を正すものである。
 事実、判決後、京都、岡山、久留米(福岡)などの弁護士から情報提供を求められた。今回の判決がこれらの訴訟に役立つことを心から祈念している。

三 立証のポイント
 本件は、河川法の適用のない「普通河川」に関する裁判例であり、一級河川のような河川整備計画などの議論はないが、それでも、瑕疵の認定に関しては、大東水害訴訟の流れをくむ平作川水害最高裁判決(平成八年七月一二日)を判断枠組みとして踏襲し、被害発生の予見が可能であり、壁をつくっておけば結果回避が可能であるという具体的な認定をしている。この点は、全ての水害訴訟と共通すると思われる。
 当初の裁判官(前任者)は、全く関心がない裁判官で非常につらい訴訟進行であった。三年前、現在の裁判長(小野寺優子裁判官)が赴任したため、私は、小野寺裁判官に全てをかけて判決を目指してきた。
 なお、小野寺裁判官は、本年二月二六日、菊池事件違憲判決を書いた裁判官である。
 具体的な立証のポイントとしては、
①熊本の立野ダム反対運動で知り合った今本博健京大名誉教授に現地を見て頂き、本件水害の機序を説明する意見書(計三通)を率先して提出した。これにより、因果関係と予見可能性、回避可能性を立証した。
 これに対し、被告熊本市側は、熊本大学の教授に意見書を依頼して、こちらも計三通の意見書を提出し、学者意見の応酬となった。
②平成二四年以降も、本件事件に類似する降雨時の川の状況を撮影し、証拠として提出して、裁判官にイメージをもってもらうように努めた。
③その上で、現地進行協議として裁判官三名を現地に連れて行き、私がハンドマイク片手に十分に説明をして、裁判官の事件の機序の理解を確実なものとした
④最期に、学者尋問(書面による尋問)を実施して、敵側に尋問事項を自由に作らせた上で、今本先生に回答してもらった、
 という流れであった。
 本件は、本来であれば弁護団を組むような事件であったと思うが、私一人で取り組んだため、大変な苦労であった(この種の事件は、若手から中堅・ベテランまで一緒にやるべきとは思うが、非常に厳しい事件であり、当時は若手に声をかけることができなかったというのが真実である)。
 しかしながら、主張整理で苦しみながら、今本意見書で裁判所を説得し、さらに、現地進行協議でその度合いを深めた結果、原告の主張をほぼ受け入れさせたという経験は得難いものであり、まさに住民と専門家が力を合わせて事実を積み重ねれば、必ず活路を見いだせることを実感した次第である。
 本日現在、まだ熊本市は控訴していないが、本判決が他事件の糧となることを心から祈るものである。

 

山陽新聞労働組合の二つのたたかい(上)  東京支部 鷲 見 賢 一 郎

一 二つのたたかい
 私は、二〇一五年六月二四日(岡山県労働委員会の調査期日に出席)から二〇二〇年二月九日(山陽新聞争議勝利報告集会)までの約四年七か月、岡山県労働委員会等に通い、山陽新聞労働組合(以下「山陽労組」といいます。)(「日本新聞労働組合連合」加盟)の二つのたたかいに参加しました。一つは、年間一時金についての口頭の労使合意を守らせるたたかいです。もう一つは、山陽労組の委員長、副委員長を印刷職場から排除する組合攻撃とのたたかいです。
 以下、(上)(下)の二回に分けてたたかいの概要を報告します。

二 年間一時金についての口頭の労使合意を守らせるたたかい
1 口頭の労使合意
 株式会社山陽新聞社は、「広告、販売収入の減少がこのまま進めば、早ければ五年後にも、年間売上高は一三〇億円にダウンすることを覚悟しておかなくてはならない。」などと言って、二〇〇九年一二月七日、山陽労組(組合員三名)と山陽新聞第一労働組合(組合員約三〇〇名)(以下「第一労組」といいます。)に対し、従来の基準内賃金(本給、資格給、住宅手当、家族手当、管理職手当)を一五・五%削減する新賃金制度を提案し、山陽新聞社と山陽労組は、二〇一〇年九月二九日の団体交渉で、新賃金制度に合意しました。なお、第一労組は、一〇月六日、新賃金制度に合意しています。
 山陽新聞社は、二〇一〇年一月二七日の第五回労使協議会や九月二九日の団体交渉で、激変緩和措置あるいは代償措置として、山陽労組との間で、「新賃金制度の下では、年間売上高が一四〇億円以上あれば、年間一時金を新基準内賃金(本給、資格給、管理職手当、家族手当、教育手当)の最低七か月分支払う。」、「予測がはずれて儲かれば、年間一時金を新基準内賃金の八か月分以上支払う。」と口頭で労使合意しました。
2 岡山県労働委員会のたたかい
(1)あっせん応諾を求める不当労働行為救済申立
 山陽新聞社の二〇一四年度の経営状況は、売上高一五八億六三〇〇万円、純利益四億九三〇〇万円等、予測がはずれて大きく儲かっている状況でした。二〇一五年度以降の経営状況も、同様の状況が続いています。しかし、山陽新聞社は、「予測がはずれて儲かれば、年間一時金を新基準内賃金の八か月分以上支払う。」との労使合意を守ろうとせず、年間一時金を七・二か月分しか支払おうとしませんでした。
 山陽労組は、二〇一四年七月四日、八月二五日の二度にわたって、山陽新聞社を被申請者として、岡山県労働委員会に、調整事項を「新賃金交渉時における約束の誠実な履行」等とするあっせんを申請しました(岡労委第八六号事件、岡労委第一三三号事件)。しかし、山陽新聞社は、二度ともあっせんに応じることを拒否しました。
 そこで、山陽労組は、「あっせんに誠実に応ずる義務を課している」労働協約九七条に基づき、二〇一四年一二月四日、山陽新聞社を被申立人として、岡労委に、「山陽新聞社は、山陽労組が岡労委に申請するあっせんに誠実に応ずること」を求める不当労働行為救済申立をしました(岡委平成二六年(不)第三号事件)。
(2)年間一時金を八か月分以上支払うことを求める不当労働行為 救済申立
 次いで、山陽労組は、山陽新聞社を被申立人として、二〇一五年五月七日、二〇一四年夏季及び冬季一時金について、二〇一六年五月一八日、二〇一五年夏季及び冬季一時金について、年間一時金を八か月分以上支払うことを求めて、岡労委に不当労働行為救済申立をしました(岡委平成二七年(不)第一号事件、岡委平成二八年(不)第二号事件)。
(3)岡山県労働委員会命令
 岡労委は、前記の三件を併合し、岡委平成二六年(不)第三号・岡委平成二七年(不)第一号・岡委平成二八年(不)第二号併合事件として審査を行い、二〇一七年六月三〇日、労使双方に命令書を交付しました。
①あっせん申請に応じなかったことについて支配介入を否定
 岡労委命令は、あっせん応諾の請求について、「協約第九七条の規定は、労使の一方当事者に対して、他方当事者が申請した労働委員会のあっせん又は調停に出席する義務を定めたものといえる。」、「会社があっせんに応じなかったことは、協約第九七条に違反する。」と判断しながら、「本件あっせん申請に応じなかったことにつき、会社に反組合的意思ないし組合を弱体化させる意図があったとまでは認めることはできず、組合への支配介入があったとは認められない。」と判断し、申立を棄却しました。
②年間一時金を八か月分以上支給する具体的な支払義務の発生を否定
 岡労委命令は、年間一時金の最低七か月分の請求について、「新賃金制度移行後も、売上げが一四〇億円台を維持していれば、特段の事情のない限り、会社には、年間七か月分程度の一時金を支払うとの信義則に基づく具体的な支払義務が発生しているものと認められる。」と判断しました。しかし、岡労委命令は、年間一時金の八か月分以上の請求については、「予測を上回るような利益が生じたような場合には年間一時金を八か月分以上支給する信義則に基づく具体的な支払義務が生じていたというべきである。」と判断しながら、「山労の主張する会社の利益状況から直ちに、年間一時金を八か月分以上支給する信義則に基づく具体的な支払義務が発生している状況と認めることは困難である。」と判断し、申立を棄却しました。
3 中央労働委員会のたたかい
 山陽労組は、二〇一七年七月一八日、中央労働委員会に再審査申立をしました(中労委平成二九年(不再)第三六号事件)。中労委は、二〇一八年一二月一〇日、労使双方に命令書を交付しました。
 中労委命令は、「労働協約第九七条は、相手方があっせん申請に応じることを義務付けていることを根拠付ける文理上の記載はない。」、「本件第五回労使協議会で、本件組合と会社との間において、『予測が外れてもうかれば』、新基準内賃金の八か月分以上支払うことを合意する意思を形成していたとまで認めるのは困難」などと判断し、再審査申立をすべて棄却しました。
4 たたかいの収束
 山陽労組は、後述する「山陽労組の委員長、副委員長を印刷職場から排除する組合攻撃とのたたかい」に力を注ぐことにし、中労委命令に対して行政訴訟を提起せず、年間一時金についてのたたかいを収束することにしました。
 山陽労組は、山陽新聞社を被申立人として、二〇一七年五月八日、二〇一六年夏季及び冬季一時金について、二〇一八年五月二一日、二〇一七年夏季及び冬季一時金について、年間一時金を八か月分以上支払うことを求めて、岡労委に不当労働行為救済申立をしていましたが(岡委平成二九年(不)第一号・平成三〇年(不)第三号併合事件)、二〇一八年一二月二六日、これらの事件を取り下げました。
5 年間一時金を七・二か月分支払わせ、会社内外で支持と共感を広げる
 山陽新聞社は、二〇一〇年一〇月一日から新賃金制度を実施しましたが、年間売上高が一四〇億円を大きく上回っているのにもかかわらず、二〇一〇年冬季一時金から二〇一二年冬季一時金まで年間七か月分を下回る一時金しか支払わず、二〇一三年一時金でようやく年間七か月分の一時金を支払いました。
山陽労組の年間一時金についてのたたかいは、岡労委命令、中労委命令では勝てませんでしたが、二〇一四年から二〇一九年までの間、年間一時金を七・二か月分支払わせ、会社内外でたたかいへの支持と共感を広げることができました。(下)に続く

 

防衛大における人権侵害裁判について(上)  福岡支部 井 下   顕

一 事案の概要
 本件は、二〇一三年四月に防衛大学校(以下、防衛大)に入校した原告(現在は、福岡高裁に控訴中)が、二四時間三六五日施設内で訓練生活を余儀なくされながら、徹底した上命下服の中、様々ないじめや暴力、虐待行為を受け、二〇一四年途中休学を余儀なくされ、二〇一五年三月には退校に追いやられ、重度ストレス障害(PTSD)を発症したため、いじめ等に加担した元学生八名と防衛大(国)を相手取って、損害賠償請求を提起している事件である。

二 防衛大学校とは
(1)幹部自衛官を養成する教育・訓練施設
 防衛大は「大学」の名が付くものの、文科省が所管する「大学」ではなく、将来の幹部自衛官を養成する教育・訓練施設であって、学生の身分は自衛隊員であり、特別職の国家公務員である。神奈川県横須賀市に所在している。
(2)毎年六〇〇名の入学予定者、入校式までに一〇〇名前後が入 学辞退
 防衛大は一学年から四学年まであり、全寮制の下、二四時間三六五日、外部から遮断されて寮生活を送る。防衛大に合格した入学予定者は、毎年着校日である四月一日から入学式前日の四月五日までの五日間、実際に防衛大での生活を体験するが、そこで数十人、年によっては一〇〇名近い入学予定者が入学を辞退して帰路につく。着校日の五日後の入校式の日、門前では保護者とともに門をくぐる入学者と門からタクシーに荷物を乗せて帰路につく入学辞退者が交錯し、異様な光景だと言われている。
(3)〝学生間指導〟という特殊な上命下服の秩序
 防衛大では、上級生が下級生を「指導」する学生間指導が行われている。これは、将来の幹部自衛官として、部下自衛隊員を指揮するための訓練という位置付けもあるようだ。しかし、その実態は、いじめや暴力の温床となっているといって過言ではなく、防衛大において、学生を指導すべき立場にある教官も、学生間指導における暴力を見て見ぬふりをしているといわざるを得ない実態がある。うがった見方をすれば、学生間指導を通じて、上級生に逆らったり、権利意識の高い学生(命令に従わない学生)を早期に見つけ出し、防衛大から排除するために、学生間指導が機能しているのではないかと考えざるをえないのである。

三 原告が受けたいじめ・暴力等の数々
(1)ささいな命令拒絶から始まったいじめ、虐待
 原告が防衛大に入学して間もなく、「粗相ポイント制」が始まった。これは防衛大の寮の部屋ごとに存在するといわれているが、一年生が「粗相」をした場合に上級生がポイントを加算していく制度である。「粗相」といっても、たいしたことではなく、例えば、シャツにアイロン掛けしたものの、筋が入っていたら一点、糸くずがついていたら一点というふうに、粗相ポイントが加算されていく。粗相ポイントが二〇点程度になると罰ゲームが待っている。罰ゲームの種類は数多く存在する。例えば、風俗店に行って、そこで性行為をするよう命じられる。そして、性行為の最中の写真をSNSにアップするよう命じられるわけである。原告はそうした行為に及ぶことが嫌だったので、風俗行きを拒否したところ、上級生の命令に従わない反抗的な人間だということで、別の罰ゲームを課された。下腹部にアルコールを垂れるほど吹きかけられてライターで火を放たれた。大きな炎が上がって、原告は大やけどを負った。部屋では体毛が焼ける臭いが充満しており、そこに教官が入ってきたが、原告の被害確認もしないまま、「あまり騒ぐなよ」と言い残して立ち去っていったのである。原告は火傷の傷が癒えないまま、遠泳をさせられたり、火傷の傷がなかなか治らないという状況が続いた。
(2)次第にエスカレートしていく暴力・いじめ・虐待
 原告は、上級生の命令に従わない反抗的な人間というレッテルが貼られてしまい、特定の上級生らからターゲットにされた。そうした中、原告はことある毎に「反省文」を書かされるようになった。とくに、原告の体毛に火を放った上級生から、他の学生も自習時間にゲームをしたり漫画を読んだりしているにもかかわらず、たんに携帯電話を触っていたなどの理由で反省文を書くよう命じられた。しかも、何十回と書き直しを命じられ、朝、昼、晩、反省文の作成を命じられた。ボールペンでの作成のため、一字でも間違うと全部やり直し、夜中遅くに命じられて朝一番で提出させられ、次はお昼までと続いた。しかも、それが、進級がかかった試験期間中に集中して行われ、原告はほとんど勉強時間が確保できず、留年も覚悟のうえで、約一か月間にわたって同じ反省文を書かせられ続け、最後にはその暗誦まで命じられるという次第であった。
 原告は母親にこうした防衛大の実態について相談したところ、母親が防衛大に連絡をして教官と話した。しかし、教官は原告の被害も確認しないまま、反省文を書かせることも指導のうち、などという対応に終始しようとしたので、母親が、地元福岡県の自衛隊協力本部を通じて連絡してもらったところ、ようやく反省文の指導は止んだが、原告は親にチクった人間として、その直後から、別の上級生による反省文の指導が始まり、その三日後には、別の上級生から、朝起こさなかったという理由で顔面を殴られるなどのひどい暴力を受けた。
(3)防衛大から追い出そうとする意図に貫かれた集団いじめ
 原告はそうした一年時の辛い時期を乗り越え、何とか二年時に上がったが、原告は、自分が上級生になったら、暴力による「指導」は下級生にはしないと心に誓っていた。すると、同級生からお前の指導はなっていない、などとして、同級生からも指導を受けるようになっていった(同期間指導は禁じられている)。同級生の指導といっても、そうした指導を行うのは、教官らから「役職」を与えられた者たちであった。原告は、一年時に上級生に従わない反抗的な人間というレッテル、親にチクる人間というレッテルがすでに貼られていたが、おそらく、役職者クラスの学生は、こうした情報を共有し合い、原告は、上級生はもちろん同級生らからも、防衛大から追い出される対象として、暴力、いじめ等の指導の対象にされていったものと思われるのである(このことを防衛大では”ロックオン”されるという。ロックオンされたら防衛大を辞めるか、それこそ自死するまでいじめ等が続くといって過言ではない)。
(4)背景にある防大生のエリート意識
 ところで、本件事件が起こった後、防衛大において、いじめや暴力に関する全校アンケートが実施され、どうすればこうしたいじめや暴力がなくなるのか、防衛大でも検討されたようであるが、その中で、当時の防衛大学生隊学生長が「学生間指導の在り方について」という意見書を出している(防衛大学生隊学生長というのは学生のトップである)。
 意見書には、「現在、防衛大学校が置かれている状況は開校以来の最大の危機といえるものである。」との危機意識が語られるが、問題は「近年発生している暴力事案の原因となるのが、服務事故を起こした学生への指導により起きている」ところ、「服務事故を起こした学生への、学校としての処分は存在するが、学生間での明確な処分が存在しないため、学生が不満を抱き、その結果として当該学生の制裁として暴力事案が起きていると考える。」などとして、「学生舎生活において服務規律違反を犯した学生に対して学生間での明確な罰則規定を設ける必要がある」などとしているのである。
 「学生間での明確な罰則規定」を設けよ、というのは、「学生間指導」における指導学生による制裁の権限を与えよというものであり、全く真逆の方向の意見である。この「意見書」は、「防衛大学校に入校する前の選定段階において中学又は高校での運動部や生徒会活動への加入を原則義務化することが必要」などと述べ、「物事の了見を理解している学生を採用すべき」として、「これは何も文化系部活動を採用しないというわけではなく面接等で見極める必要もある」としながらも、「文化系部活動」をしていた学生は幹部自衛官にふさわしくないかのような偏見とエリート意識が垣間見られ、こうした学生を「もっと早い段階で振り分けることが必要なのではないだろうか」として、「振り分けは入試の段階で実施し、着校した学生を防大生として接するのが本分ではないだろうか。それが防衛大学校ひいては防衛省自衛隊のためになり日本のためになると考える」と締めくくられている。
 自分たちは選ばれたエリートであるという意識は、数年前に起こった、国会議員に対する「国賊」発言や、それこそ、二・二六事件等にも連なるような恐ろしい発想ではないだろうか。
(5)原告の自殺未遂
 原告は二年時のゴールデンウィークの際、祖父の命にかかわる病気のため、急きょ福岡の実家に帰省したが、その帰省手続の中でミスをしてしまう。教官は原告のミスを捉え、原告が所属していた中隊の学生長に対し、原告をしっかりと「指導」するよう命じた。そこから当該学生長による原告に対する朝、昼、晩と、凄まじい暴力が続き、原告は次第に追い詰められていった。
 そうした中、当該学生長と同部屋の原告の同級生から、同級生たち数十人が集まった前でさらに当該ミスを責められ、吊し上げられ、暴力をふるわれた。原告が当該学生長から凄まじい暴力を受けていたことに加え、さらに同級生までもが暴力で原告を追い詰めていったのである。原告はその直後、寮の屋上から飛び降り自殺をしようと考え、遺書を書いたが、遺書を走り書きした紙がたまたま母親から送られてきた手紙の裏面だったため、その手紙を読み返し、ぎりぎりのところで何とか思いとどまったのである。
(6)原告を命の危機から救った両親の支え
 原告の両親は、こうした原告の状況を聞き、連日、教官に連絡をとって対応を求めて強く訴えたが、教官は抜本的な対応をとらず、原告はさらに追い詰められていった。防衛大ではこうしたいじめなどを親や教官に〝チクる〟ことは絶対にやってはいけないこととされ、それ自体で、さらにいじめや虐待の対象とされる。原告は最後の救いの手を求めて、防衛大内にあるカウンセリングルームに行った。しかし、原告が必死になって訴えても、対応したカウンセラーは、「一か月もすればやむだろうから耐えろ」、「湿布でも貼っておけ」という対応で、原告はもはや防衛大の中ではどこにも助けはないと考えるに至った。原告は、ある日、駅のホームから最後に母親の声を聞こうと電話をかけた。その時、もはや一刻の猶予もならないと考えた母親は原告を必死にとどめ、実家に帰ってくるよう説得し、原告を福岡に連れ戻し、休学させた。原告の両親の連日にわたる懸命なサポートがなければ、最悪の事態を迎えていたといって過言ではない(原告が防衛大を出る段階で、すでに防衛大は原告が希死念慮を有していることを把握していた)。
(7)防衛大から出た後も引き続いたいじめ
 原告が防衛大を休学して帰省して約一ヶ月後、突然、原告のスマートフォン(グループライン)に、原告の写真を黒く縁取りした写真(遺影を模した写真)がアップされた。その後すぐに、同級生が「いいね!」ボタンを押し、さらに別の同級生が気持ちの悪いスタンプを実に七二四個もアップした。これはスタンプ爆撃(スタ爆)という、嫌がらせ行為の一種である。原告はもはやどこにも逃げ場所はないと考え、その後、受診した病院で重度ストレス障害と診断された。
 教官がいじめ問題に全く対応しなかったために、学生間でも原告の希死念慮等の精神状態すら共有されず、休学後もいじめの対象にされ続けたのである。(下)に続く

 

埼玉弁護士会「死刑廃止に関する総会決議」のご報告  埼玉支部 小 木   出

 弁護士会の臨時総会において、死刑廃止の総会決議案が否決された(賛成一四九 反対二五六 棄権一五)約二年後の二〇二〇年三月二六日、再び臨時総会が開催されました。
 死刑は国家による生命権侵害という究極の人権侵害であり、「人の生命を守る社会」を実現するため、弁護士会として、死刑廃止を世に訴えていく必要があると考え、「死刑廃止に関する総会決議」案を審議することとなりました。
 この二年間、私が座長を務めている弁護士会の死刑廃止実現プロジェクトチームでは、市民集会や会員集会を開催し、死刑廃止に向けた諸活動を行いながら、代替刑の議論を繰り返すなどして、総会決議案を作成し、昨年の一二月の執行部会議で了解を得て、今年三月の常議員会で、総会決議案を上程することが承認されました。各支部(川越・熊谷・越谷)の支部例会において、総会決議案を説明し、決議への反対の意思を明確にしている犯罪被害者支援委員会に出向いて、同決議案の説明や質疑に対応するなどして、対応して参りました。
 総会当日は、会長の挨拶のあと、執行部の補助者として、私から、決議案の趣旨説明をさせていただきました。
 質疑においては、反対派の会員から、「決議案を作成するにあたり、被害者遺族等の聞き取りや被害者団体への問い合わせ・調査を行ったのか?」「市民集会や会員集会の出席人数は、何人か?出席人数が少なく、総会決議をするには、時期尚早ではないか?」「可決された場合に、被害者遺族等からの問い合わせに対応できるだけの準備をしているのか?」など、厳しい質問がなされました。
 その後の意見交換の場では、賛成派からは、袴田事件の弁護団員としての経験を踏まえ、証拠のねつ造等の危険性を訴える意見や、国家権力に人を殺す権限を与えるべきでないといった意見が、反対派からは、総会決議を行うよりも、具体的な事件における被告人の救済に注力すべきとの意見や被害者の生の声を全く聞いていないのはおかしいといった意見がありました。
 意見交換の中で一番印象的だったのが、城口順二団員が、えん罪による死刑執行を防ぐことを真剣に考えるべきと指摘し、「松川事件」の話や、「狭山事件」の経験談をお話ししてくださり、最後に、「この総会決議案に、大賛成だ。」と述べて下さったことです。この城口団員の発言がきっかけとなり、臨時総会の雰囲気が一気に引き締まったと記憶しています。
 三時間を超える議論の末、「死刑廃止に関する総会決議」が可決されました(賛成三五一 反対二四二 棄権二〇)。
 PTメンバーとして一緒にたたかってくださった松浦麻里沙団員、上記決議案の賛成の呼びかけに協力してくださった髙木太郎団員、竪十萌子団員、島田浩孝団員、岡本卓大団員、吉廣慶子団員、貴重なご意見をくださった大久保賢一団員など、たくさんの方々のご支援のもと、総会決議を可決することができました。
 この場を借りて、団員のみなさまには、深く御礼申し上げます。

 

国民の知る権利を侵し、辺野古新基地の違法工事を隠すドローン規制法  沖縄支部 仲 松 正 人

一 辺野古新基地建設での違法工事等をドローンで監視
 辺野古新基地建設においては、環境保全措置を講ずることが事業者(沖縄防衛局)に課せられている。ところが、護岸設置工事に投入される土砂の洗浄が不十分なため赤土が流出して濁りが発生し、さらにそれが汚濁防止膜で遮られずに海に流れ出てしまった。また、本来は海草保護のために設置しないとしていた汚濁防止膜を、条件に違反して二重・三重に設置し、それが海草を削り取ってしまっている。これらの違法工事は、工事現場に近づくのを阻止されているため、陸上からはもちろん、海上からも、肉眼では確認できない。
 しかし、ドローンを使えば、上空からその様子が確認できる。
 沖縄では、沖縄ドローンプロジェクト等の市民団体やマスコミ各社が、ドローンを使って辺野古新基地建設の進捗状況を上空から確認し、前述のような違法工事を発見して告発してきた。
 また、ドローンで撮影した写真を3D化し、辺野古の活断層の位置も確認している。
 さらには、東村高江で米海兵隊ヘリが炎上した事故では、ドローンによって事故直後の様子が撮影された。
 また、宮古島で建設されている自衛隊基地内の弾薬庫の存在も、ドローンで確認された。
 このように、辺野古新基地建設やその他の基地等の種々の問題をドローンで明らかにできるし、してきた。
 こうした中、政府はドローンの飛行についての規制を強化し、これらの活動を禁止しようと動き出した。

二 ドローン規制法の「改正」(改悪)とドローン規制の経過
 「国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等、外国公館等及び原子力事業所の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律」(以下「ドローン規制法」二〇一六年四月七日施行)が、二〇一九年五月一七日に「改正」され、六月一三日に施行された(以下「改悪法」)。改悪法は、名称を前述の長ったらしいものから「重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律」というシンプルなものに変えた。この名称変更自体が、国民の眼から改悪法の真の目的を隠そうとしていることを表している。
 ドローンなどの小型無人飛行機は、農薬散布などに使用される産業用無人ヘリコプターなど歴史は古いが、これに対する法規制は、航空法により、模型飛行機の一種として、原則として航空機の運航に危険を及ぼす可能性のある空域である上空二五〇m以上の飛行のみが禁止されていた。
 しかし、二〇一五年四月二二日に首相官邸の屋根にドローンが落下していた事件が発生して政府は慌てふためき、まず、同年一二月に航空法を改正して、①空港等の離発着周辺のルート、②地表又は水面から一五〇m以上の高さ、③国政調査の結果による人口密集地区(DID)の上空での飛行は国交大臣の許可を必要とし、その他夜間飛行など一定の飛行方法は国交大臣の承認を要するなどの規制を行った。これらに違反すると五〇万円以下の罰金に処せられる。これらの規制は、高度制限の強化は疑問はあるものの、航空機や人の安全を確保するという目的であり、一応是認できる。
 ところが政権は、これにとどまらずに、さらに規制を強化した。それがドローン規制法の制定である。すなわち、首相官邸屋上ドローン落下事件を、政府に対するテロの脅威であると捉えた政権は、テロ防止を口実に、「国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等、外国公館等及び原子力事業所の周辺地域」におけるドローンの飛行を禁止し、罰則も航空法同様の五〇万円以下に加えて一年以下の懲役刑を規定した。これにしたがって、具体的に、国会議事堂や首相官邸、各省庁、与野党の政党本部、そして外国公館や原子力発電所の上空とその周辺概ね三〇〇mの飛行禁止区域が指定された。なお、各施設上空(レッドゾーン)は飛行即罰則の対象であり、施設の周辺概ね三〇〇mの範囲(イエローゾーン)は、飛行した場合に、まず警察官の規制命令等がなされ、それに違反すると罰則の対象となる。この法律は、「テロ防止」という大義名分があり、国会でも反対は殆どなされずに成立した。
 なお、飛行禁止区域上空であっても、①対象施設の管理者等が行う飛行、②土地の所有者などが行う飛行、③国または地方公共団体の業務を実施するための飛行は、予め都道府県公安委員会に通報すれば、罰則の対象とはならない。

三 改悪法
 政府は、二〇一九年、突然、同年に開催されるラグビーワールドカップや二〇二〇年の東京オリ・パラ大会での「テロ防止」のためと称して、ドローン規制法での飛行禁止区域を前述の国等の重要施設以外にさらに拡大すべく、法案を国会に提案した。
 この二つの大会でのドローン規制に関しては、それぞれの大会終了までの時限法の特別法である。ところが政権は、この特別法にとどまらず、恒久法であるドローン規制法の改悪法案も、同時に提出したのである。
 すなわち、改悪法案は、対象施設に「防衛関係施設」を加え、保護法益に「我が国を防衛するための基盤」を加えた。これによって、従来は飛行禁止区域の対象ではなかった自衛隊施設・基地だけでなく、米軍基地・施設も飛行禁止区域の対象とされることとなったのである。区域指定は防衛大臣が行うが、指定基準は規定されていない。
 さらに、防衛施設上空は従来指定されていた国会議事堂や省庁上空とは異なり、規制対象外であった土地所有者などの飛行も、国または地方公共団体の業務を実施するための飛行も禁止され、当該防衛施設の管理者の同意がなければ飛行できなくされた。この同意の基準も規定されていない。なお、在沖米軍は、一切同意しないことを明言している。
 しかも、イエローゾーンでの飛行規制を行うため、従来と異なり、自衛官が基地・施設外に出てきて飛行禁止命令を行えるようにするという自衛隊の活動の拡大も規定された。基地外において自衛隊員が国民の活動に直接介入するということである。
 なお、飛行禁止区域は、昨年六月以降現在までの間に、改悪法以前から指定されていた防衛省市ヶ谷庁舎以外に、二六の自衛隊施設や基地・駐屯地が指定されている。現在(二〇二〇年三月二六日)のところ、米軍基地等はまだ指定されていない。

四 改悪法の真の狙い
 政府は、防衛施設へのテロ防止を改正理由にあげるが、これまでのところドローンを利用しての自衛隊基地や在日米軍施設に対するテロの企ては一切ない。すなわち、現時点で、これらを飛行禁止区域として指定すべき立法事実はない。
 現在それがあるとすれば、現に今進行している辺野古新基地での違法工事を隠すためであり、宮古島や石垣島での違法・不当な基地建設の実態を国民の眼から隠すためとしか言えない。
 そして、今後も自衛隊施設・基地の飛行禁止区域指定を拡大し、さらには米軍基地についても指定していくことによって、国民は基地の内部で何が行われているのかを知ることができなくなる。いわば現在の要塞地帯法であり、それは安倍政権の期間中に「やらねばならない」ということである。
 すなわち、規制法の改悪は、国家秘密法、共謀罪、盗聴法、安保法制、そして九条壊憲という、戦争ができる国づくりの一環である。改悪法の真の目的はここにある。

五 今後の闘い
 昨年五月、沖縄ドローンプロジェクトからの要請で、辺野古ドローン規制法対策弁護団を立ち上げた。そのときは既に改悪法案は衆議院を通過し、参議院の委員会でも採決直前という時期であった。私自身、ドローン規制法についてはそれまで全く何も知らない状態で、慌てて勉強し、その危険性を知り、できる限りの世論喚起をすべきだと提起し、市民集会に繋がった。成立後は防衛省交渉も行った。沖縄ドローンプロジェクトは、その後も、辺野古新基地問題や琉球弧の軍事基地問題を、ドローンで撮影してDVDにし、各地で講演会活動を行っている。一方で、宮古島での自衛隊基地監視のためにドローンを飛行させたところへ自衛隊員が現れて飛行の中止や撮影した映像データを引き渡すように求めるという改悪法先取りというべき事態が生じているし、辺野古新基地埋立に投入される土砂の積出港でドローンによって監視しているところへ警察官が近づいてきて干渉するなど、弾圧が予想される動きも始まっている。
 不当な飛行禁止区域の指定をさせないために、また知る権利を護るべきドローンによる監視活動を続けるために、さらに将来的には改悪法の廃止のためにも、世論作りが必要だし、そのための活動に力を入れる必要がある。全国の団員においても、改悪法について学習してもらいたい。

 

 

 

 

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