7月17日付、栃木県大田原市教育委員会に対する「育鵬社版歴史・公民教科書を採択したことに抗議する」を発表しました

カテゴリ:声明,教科書問題

育鵬社版歴史・公民教科書を採択したことに抗議する

 

2020年7月17日

栃木県大田原市教育委員会 御中

 

自  由  法  曹  団

団長 吉  田  健  一

 

 栃木県大田原市教育委員会は、本年7月15日、市立中学校で2021年度から4年間使用する歴史及び公民教科書に育鵬社版教科書を採択した。

 育鵬社版歴史教科書は、「自虐史観」からの脱却を唱え、日本の引き起こしたアジア太平洋戦争が、アジア諸国を欧米の植民地支配から解放することを目的としていたかのように教え、日本の加害責任については曖昧な記述にとどまっている。

 また、同社版公民教科書は、国民主権よりも天皇の役割を情緒的に強調し、基本的人権を軽視して、日本国憲法及び平和主義を連合国から押し付けられた憲法であって「改正」すべきものであるかのように教え、国際紛争の平和的な解決よりも、自衛隊を海外に派遣する必要性を強調する内容となっている。

 このように育鵬社版教科書は、その記述に多くの誤りを含むものであるとともに、憲法に対する見方があまりにも一面的で、教育基本法や学習指導要領に照らしても問題がある。さらに、育鵬社版教科書は憲法について不正確あるいは不十分な記述がなされているため、高校入試問題でも他の教科書に比較して解きづらい場合が生じる。このことは、私たち自由法曹団で、今回の教科書採択に先立って、育鵬社版公民教科書の問題点を明らかにする意見書を公表し、大田原市教育委員会にも届けてきた。

 これまでも大田原市では、育鵬社版歴史・公民教科書を採択されたきたが、これに対しても市民から強く批判がなされてきた。今回の採択は、かかる批判・反対の声を全く無視して行われたものである。

 採択された育鵬社版教科書で教育を受けることになる中学生は、人格的成長の途上の重要な時期にあり、育鵬社版教科書によって、上記のような一面的で偏った教育を受けることにより、生徒に回復しがたい重大な悪影響が及ぼされることが強く危惧される。

 さらに、日本の侵略戦争の事実を否定し、国際問題の平和的な解決を軽視する教科書による学習を強いられる生徒がいることは、日本の将来に重大な問題を引き起こし、国内はもちろん、アジア近隣諸国だけでなく国際社会からも厳しい批判を受けることは確実である。

 私たち自由法曹団は、栃木県大田原市教育委員会の今回の歴史・公民教科書の採択に対し抗議するとともに、同委員会に対し、改めて採択をやり直し、育鵬社教科書を採択しないよう求めるものである。

以上

 

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