2021年2月2日、「国民の裁判を受ける権利の後退を許さない~民事裁判手続のIT化に関する意見書~」簡易版をアップしました

カテゴリ:声明,市民・消費者

≪2020年12月22日付け≫

「国民の裁判を受ける権利の後退を許さない ~民事裁判手続のIT化に関する意見書~」について

 

2021年2月2日
自由法曹団 市民問題委員会

 

◆ はじめに ~「裁判を受ける権利」が危ない

 法制審民訴法(IT化関係)部会(以下「法制審」といいます)では、民事裁判手続のIT化に向けた法改正の議論が行われています。法制審は、本年2月19日の部会で中間試案を取りまとめ、その後、2か月程度のパブリックコメントを実施する予定のようです。しかし、これまでの議論状況から、この中間試案に、国民の「裁判を受ける権利」の後退をもたらす改正項目が含まれることは避けられません。
 自由法曹団は、2020年12月22日、「国民の裁判を受ける権利の後退を許さない~民事裁判手続のIT化に関する意見書~」を作成しました。是非、本意見書を参考にしていただきたく、その概要をご説明いたします。

◆ 問題点①:オンライン提出の義務化 ~限定される訴訟の手続

 民事裁判でオンライン提出が義務化された場合、主張も証拠も紙で提出できなくなり、パソコン等のIT機器を利用できない者や苦手な者は、民事裁判の手続が困難になります。中間試案では「オンライン申立」との表現でわかりにくいですが、主張や証拠の提出のことで、裁判を起こす側も起こされる側も同じです。このような義務化は、国民の「裁判を受ける権利」の侵害です。
 また、オンライン提出の義務化においては、新たなシステムの導入が前提になっています。まずは、信頼性(セキュリティも含めて)、安定性、利便性の確保されたシステム作りから始めるべきです。そして、真に国民の利便性に資するシステムであれば、義務化しなくても、必然的に利用者は増えていきます。オンライン提出を義務化する必要はありません。

◆ 問題点②:口頭弁論の法廷が「ウェブ」に ~「リアル」な裁判も傍聴も制限

 現在、法制審で議論されている「ウェブ会議等の方法による口頭弁論期日」は、当事者が異議を述べた場合でも、裁判所の判断でその実施を強行することができます。
 しかし、公害事件、労働事件、国や行政を相手にする事件などを中心に、当事者が裁判官の面前で自らの言葉で弁論することが行われています。このような弁論が、当事者の家族、事件の支援者、記者らが見つめる中で行われることは、裁判官や敵対する当事者の心を動かすことがあります。「ウェブ会議等の方法による口頭弁論期日」を、異議のある当事者にも強制することは、民事裁判の大原則である直接主義や口頭主義、憲法の要請する公開主義の否定であり、国民の「裁判を受ける権利」の侵害です。

◆ 問題点③:新たな訴訟手続(特別な訴訟手続) ~制限される訴訟審理

 法制審では、「新たな訴訟手続」(前は「特別な訴訟手続」の名称)という名称の、審理期間を6か月以内とする訴訟制度の導入が議論されています(以下「特別訴訟」といいます。詳細は、意見書9~10頁をご覧ください)。
 審理期間が制限されるということにより、主張や証拠を提出する機会も必然的に制限されます。その結果、粗雑な審理や誤った判断がなされる危険性が高まります。このような制度は、国民の「裁判を受ける権利」の侵害に他なりません。このような制度は近代民事訴訟の原則に反することから、諸外国にも存在しません。
 また、特別訴訟は、裁判の迅速化や期間予測の明確化のために必要であると説明されていますが、日本の平均審理期間は諸外国と比べて遜色ありません。訴訟提起から第1回口頭弁論期日までの期間や審理の終結から判決(又は和解)までの期間が考慮されていませんし、批判を回避するために通常の訴訟手続に移行することが可能とされていますので、裁判の迅速化や期間予測の明確化という制度趣旨とも矛盾します。
 そもそも、特別訴訟制度は、IT化と全く関係がない制度です。裁判官が特別訴訟制度に慣れてしまった場合には、通常の訴訟手続でも、粗雑な審理、判断が行われるようになる可能性もあります。このような手続は設けないこと(丙案)しかありません。

◆ 問題点④:(新たな)和解に代わる決定制度 ~安易な事件処理のおそれ

 法制審では、「和解を試みたが、和解が整わない場合に、裁判所が和解に代わる決定をすることができる制度」の創設が提案されています。
 簡易裁判所に「和解に代わる決定」という制度がありますが、現在議論されている制度は、対象事件や決定の時期・内容等に縛りがありませんので(縛りがあっても緩すぎて縛りになりません)、裁判所に広範な裁量を認めることになります。裁判所が、事件を早く処理するために、あるいは、判決理由を示すことを回避するために、同制度を濫用するおそれがあります。同制度も、国民の「裁判を受ける権利」の侵害です。
 また、そもそも、IT化と全く関係がない制度ですし、現在でも、一旦、調停手続に切り替えた上で、「調停に代わる決定」という制度を利用することが可能です。法改正しなくても、何ら不都合はありません。

◆ おわりに ~パブコメで声を上げよう!

 2021年2月19日の中間試案の取りまとめ後にパブコメが実施されます。本意見書で取り上げた項目以外にも、ウェブ会議と裁判所外における手続を併用する「ハイブリッド方式」による非公開の証人尋問手続等、民事裁判の大原則を蔑ろにする改正項目が存在しますが、まずは、是非、本意見書をご一読ください。そして、拙速な民事裁判手続のIT化が行われないよう、パブコメで声を上げましょう!(意見提出方法や形式は、ホームページ(https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public)に掲載される「意見募集要領」をご確認ください)。

以上


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