2021年3月23日、「生活保護申請時における本人の同意のない扶養照会は撤廃することを求める声明」を発表しました

カテゴリ:声明,活動報告,貧困・社会保障

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生活保護申請時における本人の同意のない扶養照会は撤廃することを求める

 

2021年3月23日
自  由  法  曹  団
団長 吉  田  健  一

 
1 新型コロナウィルス感染症は、未だに収束の目途は立たず、日本社会における雇用と生活への不安はさらに拡大している。2020年12月の生活保護申請件数は1万7308件と前年同月より6.5%増加し、4か月連続の増加となった。最後のセーフティネットである生活保護に頼らざるを得ない人々が明らかに増加している。
 しかし、日本における生活保護捕捉率は先進諸国と比較しても著しく低いと言わざるを得ず、本来生活保護を受ける権利を有する多くの人々に保護の手が届いていない。憲法で定められている生存権の保障が行き届いていない現状は、直ちに改善されなければならない。
 かかる生活保護捕捉率の低さの一因として、申請時における扶養照会があると考えられる。厚労省は、「扶養義務の履行が期待できない」と判断される場合を除き、生活保護申請の際に扶養照会を行うこととしている。

2 しかし、一般社団法人「つくろい東京ファンド」が実施したアンケート調査によれば、生活保護を利用しない理由として「家族に知られるのが嫌」が34.4%と最も多く、生活保護を利用している人も54.2%が扶養照会に抵抗があった旨回答している。また、実際に扶養照会を行った際に、何らかの援助が可能であると回答する割合は極めて低く(足立区2019年度で0.3%、荒川区2018~19年度で0%。)、扶養照会の実効性はほぼないに等しい。
 このように、生活保護申請時の扶養照会は、その効果が極めて乏しいにもかかわらず、生活保護の受給を著しく阻害しているのであり、憲法25条が保障する生存権を実質的に侵害するものである。
 加えて、扶養照会によりもともと関係の悪かった家族からとの関係がさらに一層悪化した、DV被害者が親族に居場所を知られてしまったなど、本人の生活の平穏を阻害するような事態も報告されており、有害となっている。

3 田村憲久厚生労働大臣は、2021年1月28日、参議院予算委員会において、扶養照会は義務ではない旨、明言した。しかし、厚労省が2021年2月26日に発した都道府県、指定都市、中核市の生活保護担当課宛の事務連絡「扶養義務履行が期待できない者の判断基準の留意点等について」は、原則的には扶養照会を行うものとし、例外的に「扶養義務の履行が期待できない」と判断された場合には扶養照会を行わない運用については何ら変更していない。同事務連絡は、「扶養義務履行が期待できない者」の例として挙げられていた「要保護者の生活歴等から特別な事情があり明らかに扶養ができない」場合の例示として挙げられていた「20年間音信不通である」を、「一定期間(例えば10年程度)音信不通」に変更し、「当該扶養義務者に借金を重ねている」等の個別の事情を考慮することとされた程度であり、全く根本的な解決になっていない。

4 そもそも、扶養照会は、生活保護法第4条2項が、民法上の扶養義務等は生活保護に優先して行われるものとすると定めていることから、扶養義務履行の期待ができないことを確認するために行われているものである。しかし、同規定は、上記厚労省事務連絡でも明記されている通り、「例えば、実際に扶養義務者からの金銭的扶養が行われたときに、これを被保護者の収入として取り扱うこと等を意味するものであり、扶養義務者による扶養の可否等が、保護の要否の判定に影響を及ぼすものではな」い。すなわち、「扶養義務の履行が期待できないこと」は生活保護受給のための要件ではないのである。  それにもかかわらず、実効性が極めて乏しい扶養照会が生活保護申請の際に原則的に実施され、かつ、それによって保護を受けるべき者が生活保護受給を控えざるを得ない状況に追い込まれている現状は到底看過しえない。
 扶養義務者に扶養を求めるか否かは、本人の自由な意思に基づき判断されるべきであり、生活保護申請に際して原則的に扶養照会を実施する運用は直ちに改めるべきである。また、かかる本人の同意を得るに際しては、実質的な強制(例えば、生活保護申請の必要書類に扶養照会の同意書を入れる等)に至ることのないよう十分な配慮を行う必要がある。具体的には、生活保護申請の際に、扶養照会は生活保護受給の要件ではなく、扶養照会を拒否したとしても不利益を被ることは一切ないことを明示し、その上で扶養照会に同意した場合に限定すべきである。

5 よって、自由法曹団は、生活保護申請に際し、「扶養義務の履行が期待できない場合」に該当しない限り扶養照会を行う現在の運用を直ちに改め、扶養照会は本人の自由な意思に基づく同意があった場合にのみ実施するものとする運用に変更することを求める。

以 上

 

 

 

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