2021年4月20日付、「汚染水の海洋放出に抗議し撤回を求める」声明を発表しました
汚染水の海洋放出に抗議し撤回を求める
2021年4月20日
自 由 法 曹 団
団長 吉 田 健 一
1 政府は、4月13日、関係閣僚会議において、東京電力福島第一原子力発電所の敷地内に保管されているトリチウムを含む汚染水を海洋放出することを決定した。
自由法曹団は、この決定に強く抗議し、直ちに撤回することを求める。
2 そもそも汚染水に含まれるトリチウムの安全性については、現在のところ確立した知見が存するわけではなく、また、汚染水にはALPS(多核種除去設備)処理した水にトリチウム以外の核種が含まれていることも明らかになっており、汚染水の海洋放出による環境や生態系への影響は避けられない。そうである以上、汚染水を安易に環境中に放出することは許されない。今後も長期間陸上での保管を継続し、その間に、除去できていない放射性物質を取り除く技術を開発し、適用すべきであり、現に、そのための研究が進められてもいる。また、経産省の「トリチウム水タスクフォース」でも選択肢として検討されたモルタル固化や、堅固な大型タンクでの保存など、より環境の負荷の少ない方法について充分な検討がなされないままでの今回の決定は、最も費用がかからないとされる海洋放出の結論ありきであったといわざるを得ない。
3 政府は、福島第一原発敷地内にタンクを増設する敷地が足りないことや、保管の長期化に伴うタンクの老朽化などを、海洋放出を決定しなければならない根拠としている。
しかし、福島第一原発敷地内にはデブリの取り出しのための敷地が確保されている。現状でデブリ取り出しの工法さえ定まっておらず、そもそも取り出すことが可能かさえ不透明な状態の中で、そのための敷地確保を優先して汚染水の保管のタンクの設置場所が足りなくなるとして海洋放出の根拠とすることには何ら合理性がない。また、政府の計画によっても汚染水の全量を放出するまでに約40年の期間を要するのであり、その間のタンクによる長期保管は不可避であることから、汚染水タンクの耐久性や維持管理などの問題が、海洋放出によって解消されるわけでもない。
4 さらに、汚染水の処理について、国民的議論が尽くされているとはいえず、とくに福島県内では、漁業関係者はもとより、県内の7割を超える自治体で反対ないし慎重な決定を求める決議がなされている。
汚染水は、福島第一原発事故に由来するものであり、事故によって放射性物質を拡散させた責任を負うべき国と東京電力が、充分な検討を行わないまま、公共のものである海洋に汚染水を放出し、再度環境に影響を与えることなど断じて許されない。
国と東京電力は自らの責任において、自らの管理下で処理を行うべきであり、それは十分に可能である。にもかかわらず、海洋放出を現実的な選択肢とし、これを強行しようとするのは、本件事故への真摯な反省を欠くものであり、断じて受け入れられない。
5 汚染水の海洋放出は、将来に禍根を残すものであり、歴史的な汚点となる決定を容認することはできない。
自由法曹団は、汚染水の海洋放出の決定に強く抗議し、直ちに撤回することを求める。
以 上