2021年5月集会in東京決議『「国民の裁判を受ける権利」を蔑ろにする、民事裁判手続のIT化を許さない決議』

カテゴリ:市民・消費者,決議

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「国民の裁判を受ける権利」を蔑ろにする、民事裁判手続のIT化を許さない決議

 

1 民事裁判手続のIT化に向けて、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会は、本年2月26日に、中間試案を発表し、同日から同年5月7日にかけてパブリックコメントが募集された。
 民事裁判手続のIT化は、国民の立場に立って、国民の「裁判を受ける権利」がより一層保障される形で実現されるべきであるが、この中間試案は、当事者主義や直接主義、口頭主義、公開主義の後退など、国民の裁判を受ける権利を蔑ろにするような問題点を含むものである。
 以下のとおり、自由法曹団は、このような国民の裁判を受ける権利を蔑ろにする民事訴訟手続のIT化には、断固として反対である。

2 まず、提案されているオンライン提出の義務化については、主張書面や証拠のオンライン提出が義務化された場合、パソコン等のIT機器やネット環境を利用できない者や不得手な者は、訴えを起こす側であれ起こされる側であれ、サポートを受けなければ民事裁判手続を行うことそのものが困難もしくは不可能になる。このような義務化は、国民の「裁判を受ける権利」の侵害に他ならない。
 しかも、オンライン提出の義務化においては、新たなシステムの導入が前提とされているが、どのようなシステムになるのかも未だ明らかではない。まずはセキュリティを含めた信頼性、安定性、利便性の確保されたシステムの構築を先行させるべきであり、このようなシステムが導入されれば、必然的に利用者は増えていく。オンライン提出を義務化する必要は皆無である。

3 中間試案の「ウェブ会議等の方法による口頭弁論期日」については、当事者が異議を述べた場合でも、裁判所の判断でその実施を強行することができてしまう。このような制度は、民事裁判の大原則である直接主義や口頭主義、公開主義の否定であり、国民の「裁判を受ける権利」の侵害に他ならない。
 公害事件、労働事件、国や行政を相手にする事件などを中心に、当事者が裁判官の面前で自らの言葉で弁論することが行われてきた。そして、このような弁論や証言が、当事者の家族、事件の支援者、記者らが見つめる中で行われることによって、裁判官の心を動かし、時には相手方関係者の心さえ動かし、解決への大きな力を発揮することもある。中間試案では、このような口頭弁論期日の意義が無視されるおそれがある。

4 中間試案では、ハイブリッド方式の証拠調べは「口頭弁論期日」でないとされ、現行法185条の「裁判所外における証拠調べ」に位置づけるとされている。
 しかし、このように位置づけてしまうと、裁判所の判断だけで実施することができ、遠隔地要件(中間試案の提案では出頭が困難と認められる場合)さえも不要とされてしまう上に、本人尋問・証人尋問等が非公開とされてしまう。当事者の意見を無視して、裁判所の判断で、ハイブリッド方式による証拠調べの開催を強制することを可能とすることは、直接主義を減殺し、憲法の公開原則に反するものであり、裁判を受ける権利の侵害という他ない。

5 訴訟制度は、十分な主張立証が保障されなければならない。ところが、中間試案の「新たな訴訟手続」は、審理期間が制限され、必然的に主張や立証の機会が制限される制度であり、その結果、粗雑な審理や誤った判断がなされる危険性が高い。このような制度は、国民の「裁判を受ける権利」の侵害に他ならず、諸外国にも存在しない。そもそもIT化とは無関係な制度である。
 また、「新たな訴訟手続」の制度趣旨は、裁判の迅速化や期間予測の明確化のためとされているが、日本の平均審理期間は諸外国と比べて遜色ない。しかも、弊害を懸念して、通常の訴訟手続に移行することが可能とされているが、移行後に十分な審理が保障されるか不明である。仮に移行後に十分な審理を保障するのであれば、今度は、「迅速化」「期間予測の明確化」の制度趣旨とは食い違うことになる。根本的に矛盾を抱えた制度なのである。

6 中間試案では、和解を試みたが、和解が整わない場合に、裁判所が和解に代わる決定をすることができる制度の創設が提案されている。この制度は、対象事件や決定の時期・内容等に縛りがないに等しく、裁判所に広範な裁量を認めるものであって、事件を早く処理するために、あるいは、理由を書かなければならない判決を回避するために、濫用されるおそれがある。当該制度も、国民の「裁判を受ける権利」の侵害に他ならない。
 また、そもそも、当該制度は、IT化と全く関係がない制度である。現在でも、一旦、調停手続に切り替えた上で、「調停に代わる決定」という制度を利用することが可能であり、法改正せずとも何ら不都合はなく、立法事実がない。

7 以上のように、国民の裁判を受ける権利や大衆的裁判闘争に対する重大な影響を与えかねない問題点をふくむ法改正は、到底容認できるものではない。
 ところが、民事訴訟手続のIT化については、年内にも法制審部会が答申案を作成し、2022年通常国会には民事訴訟法改正案を提出する動きが伝えられている。自由法曹団は、拙速な議論に反対するとともに、大衆的裁判闘争を支えてきた各弁護団や関係諸団体と連携し、問題点を広く国民に訴え、国民の裁判を受ける権利を蔑ろにする法改正を阻止するため全力をあげていく所存である。

 

2021年5月22日

自  由  法  曹  団
2021年5月研究討論集会

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