<<目次へ 【意見書】自由法曹団


既に(2000年2月29日以前)住居や店舗・事務所を借りている皆さんへ

定期借家契約は拒絶できる!?

−定期借家制度導入で何がかわるか−

2000年2月 自 由 法 曹 団

はじめに

 2000年3月1日からこれまでの賃貸借契約に加わり、定期借家契約をむすぶことができるように法律が変わりました。
 しかし、定期借家契約は契約で定めた期間がくると更新することなく賃貸借が終了するので、借家人には大変不利益な契約です。
 3月1日より前に契約した賃貸借契約でも、店舗・事務所(住居と兼ねているものは除く)については、それまでの賃貸借契約から定期借家契約に切り換えを迫られるおそれがあります。
 なお、住居及び住居兼店舗・事務所については、既にある賃貸借契約については、貸主と借主の合意によっても定期借家契約に切り換えることはできません(但し「当分の間」)。
 貸主の方から、「賃料を下げるから」とか「更新料はいらないから」と一見良い条件と思われることを言われて、あわてて定期借家契約に切り換えることのないよう、以下の説明を読んで心しておきましょう。


既存の契約(2000.2.29までに契約) 新規契約(2000.3.1以降)
居住用 定期借家契約は「当分の間」適用されない。合意しても無効。 適用
店舗・事業用 既存の契約を合意解除して定期借家契約をすることが可能 適用
店舗居住兼用 居住用と同じ 適用

定期借家契約はなぜ賃借人に不利か

1 定めた期間がきたら出なくてはならない
 定期借家契約は、賃貸借契約に定めた期限がきたならば、賃貸人に更新を拒否する正当な理由がなくとも、その期限で契約が終了するという賃貸借契約です。これまでは、賃貸借契約の期限を定めても、借地借家法の定めで、賃貸人に契約を更新しないことについて正当な理由がない限り、契約は更新されるということになっていました。これを法定更新の制度といいます。
 今回の法律の成立で、この法定更新の制度が適用されない定期借家契約(法律上の名称は「定期建物賃貸借」)という契約が認められることになったわけです。
 一般の賃貸借契約では、期限を2〜3年の短期間とするものが多いのですが、しかし、契約した当事者の間では当然に更新して長期間の定住、使用を予定するという場合がほとんどです。
 しかし、定期借家契約になると、契約期限で契約は終了し、更新の可能性はないことになります。したがって、定期借家契約では、借りる側の居住の安定、営業の継続性はなくなってしまいます。そのため、長期間定住、使用することを予定している場合には、定期借家は避けなければなりません。

2 期間がきて「再契約」する場合は、賃借人は立場が弱い
 この制度の下では、借家人の居住の安定ははなはだしく害されることになります。短期間で契約期間が終了し、賃借人が引き続き住みつづけることを望む場合は、新たに賃貸人の承諾を得なければなりませんので賃貸人が要求する通りの賃料値上げや礼金などの支払いを承諾しなければならなくなるでしょう。92年度の民間賃貸住宅等に居住する高齢者世帯は約81万6000世帯、母子世帯は約22万世帯にものぼります。これらの者の居住の安定が直ちに影響を受けることとなります。
 この法律は、これらの弱者に対しては、良質な賃貸住宅等の供給促進のために必要な措置をとるべき努力義務を国と自治体に負わせることにより配慮をするとしています。
 しかし、既に国、自治体の公共住宅政策の後退ははなはだしく、公共住宅政策は縮小されて予算は削減される一方である実情をみれば、このような単なる努力義務は全くのリップサービスにすぎません。
 また、従来の借地借家法「改正」案に対してなされていた批判を受けて、当分の間既存の賃貸借からの切り替えにはこの法律は適用しないとの制限もつけられていますが、しかし、これも居住用建物に限定し、しかも「当分の間」というにすぎません。結局、いずれ切り替えは自由となってしまうでしょう。

3 期間が来る前に解約することを一定の場合を除いてできない
 定期借家契約では、期間がくれば契約が終了するのですが、反面、中途解約もできないことになっています。
 但し、床面積が200平方メートル未満の居住用建物の賃貸借では、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情があれば、中途解約ができます。
 このやむを得ない事情は例示ですが、どのような場合がこれにあたるのかは事例の集積を待つことになります。ただ、単に家賃の支払いが困難になったという程度では、この場合にはあたらないでしょう。家賃を支払い続けることが生計の基盤を危機に陥れるまでの高度の事情が必要になるでしょう。それだけに、この制度は借り主側にとって厳しい制度となります。
中途解約が認められる場合には、解約すると1ヶ月で契約が終了します。

4 賃料増額の特約があると、減額請求(借地借家法第32条)ができない。
 定期借家契約では、法律上、賃料増額の特約がある場合は、減額請求(借地借家法第32条)の適用を排除しています。定められた期間は予め賃料がいくらなのか最初に決めて絶対に変えないためです。
 ですから、一旦賃料に関する特約を定めると、期間中はどんなに社会情勢が変化しても賃料を変えることはできないのです。

定期借家契約はどのように結ばれるのか

1 居住用借家については、変更できない(定期借家契約は無効)
 居住用借家については、既存の契約を合意で終了させて定期建物賃貸借契約とすることはできません。したがって、家主がそれまでの契約について合意解約をせまって新たに定期借家契約にすることはできません。仮に定期借家契約を結んでも定期の部分は無効で、普通借家としての契約になります。
 契約書に記載された期限がきたとしてしも、契約は当然に法定更新されていますので、期限がきたからといって定期借家への変更を求めることもできません。
既存の営業用借家については、このような制限はありませんが、借地借家法が適用されますので、期限がきても法定更新されます。したがって、定期建物賃貸借への切り替えについては拒否することができます。また、居住用と営業用の併用の店舗、事務所の場合は、居住用とみなされます。

2 営業用借家(店舗・事務所)について定期借家契約に切り換える場合

  1. 題名には「定期借家契約」の文字はない
     必ずしも、「定期借家契約」と題名がなっていないことも考えられます。
     しかし、契約期間の表の欄の下に「契約終了の通知をすべき期間」という項目がありますから、これがあれば「定期借家契約」と考えてください。
     また、契約書本文に「第2条『本契約は、前項に規定する期間の満了により終了し、・更新がない・。』」と記載されていれば「定期借家契約」です。
  2. 契約書は市販の書面でよい。
     法文上、「公正証書」という例示があるのですが、書面であればよく、普通の契約書式でも定期借家契約は結べます。
  3. 定期借家契約を結ぶ前に、定期借家契約であることの説明が賃貸人により契約書とは別の書面で行われる
     契約締結前にする必要があります。また、建設省の標準書式では、借主から説明を受けた旨署名捺印する欄があります。これに説明を受けずに署名しても、説明を受けていないと反証できませんので、注意しましょう。
  4. 期間は1年以下でも20年を超えてもよい
     10年、20年を越えるような長期の契約であれば安心できるではないかと考えられるかもしれませんが、気をつけなければならないのは中途解約が認められないことです。長い期間の契約をすると今度は途中で移転することができなくなってしまいます。
  5. 中途解約はできない
     一切の中途解約ができません。そこで、建設省は標準書式として、賃借権の譲渡の承諾に関する書式や転貸に関する書式を作っています。中途解約ができないなら、誰か別の人に貸せばよいという考えです。しかし、あくまでも賃借権の譲渡の自由や転貸の自由が認められているのではありません。賃貸人の承諾が必要になります。
  6. 特約はいろいろつけられる
     家賃の改定について特約があれば、その特約にしたがうことになり、家賃の増減額請求はできなくなります。この規定は、実際は一定の期間ごとに家賃があがるという定めをすることに意味が出てくるものなのでしょう。減額改定の定めをするということはまずないでしょうから。
     この定めがあれば、どんなに周りの家賃が下がっても、減額を求めることはできず、定期的に家賃が上がることになります。借り主からの減額請求はできません。
     理論的には、「譲渡の自由の特約」も、「中途解約ができる場合の特約」も、つけることは可能ですが、賃貸人が同意しなければつけられないのです。
  7. 期限満了後もそのまま使用した場合も契約は通知から6ヵ月経過で終了する
     契約期限が1年以上の場合は、1年前から6月前までの間に終了通知をすることにより、契約期限に契約が終了します。しかし、この1年前から6ヶ月前という期間の経過後であっても、終了通知をするとその後6ヶ月経過により契約は終了します。
     したがって、このような通知によって契約が終了したときに賃貸人から出てくれと言われれば、出なければなりません。新たに賃貸借契約をすることは認められますので、家賃を増額して新たに定期借家契約をすることはありうるでしょう。しかし、この家賃増額に応じられなければ、やはり出なければなりません。

定期借家契約導入のねらい

 なぜこのような制度がつくられたのでしょうか。
 定期建物賃貸借契約(定期借家契約)を認める「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」が、大きな世論の反対の声を無視して、1999年12月9日、参議院本会議で可決、成立しました。
 この法案は1999年7月30日に前通常国会に提出され、継続審議となっていたもので、1998年6月5日に提出された定期借家制度導入を目的とする借地借家法「改正」案と同じものです。借地借家法「改正」案の方は、提出されはしたものの、反対世論の強い批判を受けて全く審議されることのないまま再三法務委員会で継続審議となり、前通常国会で廃案となっていました。
 法務委員会では成立させられないと考えた推進者は、同じ定期借家制度法案を衣替えして提出し、今度は建設委員会に審議させて、短期間で成立させてしまったのです。推進者は、この制度導入の理由を、良質な賃貸住宅等の供給を促進するためだと言います。期限に必ず明け渡してもらえれば、良質な賃貸住宅がどんどんできるというのです。しかし、このような効果は全く期待できません。
 良質な賃貸住宅とは、比較的規模の大きな借家をいうとされていますが、そのような規模の大きな借家の賃料は相当な高額になることが明らかです。もともと、借家人の多くは収入が少なく、したがってそのような家賃の高い借家の需要がどれだけあり得るかということを考えれば、これは簡単にわかることです。
 この制度をつくった真の理由は、この制度によって賃借人を追い出しやすくして都市再開発をし、建設需要を大きくする、また不動産の証券化などをするという景気対策にあります。定期借家契約が中途解約できないとされた点は、賃貸不動産の証券化をするのに有利な制度だとされています。賃貸人がわにとっては、家賃の増額の特約がほとんど無条件に認められることとあわせて、収益見通しが立つので、賃貸不動産を証券化しやすいということなのでしょう。
 借家人の居住権を侵して不動産証券化で金儲けをしようという財界とその先兵となって法案を提出した自自公の議員には本当に怒りを覚えます。