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人権救済制度の在り方をめぐって

人権擁護推進審議会中間取りまとめに対する意見

自由法曹団
2001年1月

意見書発表にあたってー本意見書の性格と限界についてー

人権擁護推進審議会は、2000年11月28日「中間取りまとめ」を公表し、2001年1月19日を期限として、「意見募集」を行いました。この意見書は、この募集に対応して自由法曹団としての意見を述べたもので変更を加えていません。
 意見募集要項では、意見を募集する「論点」を分け、1論点について1000字程度の意見と、100字以内の意見の要旨を付けることを求めています。この意見書はその要領に沿うように作成したものです。
 本来であれば、人権侵害について豊富な事実をあげて実状を分析し、その対策を詳しく論じるべきものです。重要な論点について詳しく論じることが出来ず、意を尽くしきれていないのはそのような事情によるものです。ご了承下さい。

第1 調査審議の進め方について

「第1 はじめに 〜調査審議の対象とその経過〜 」について

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  審議会の審議の経過は、国民に公開され、資料請求できるようにし、かつ、意見も
随時べられるようにすべきです。少なくとも、最終答申にいたる前に各界各団体に意見
を述べる機会を付与すべきです。                                               
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 司法制度改革審議会では、その議事録が公表され、ホームページ等々を通じ随時国民からの意見を聴取しています。人権擁護推進審議会の審議の重要性に照らすならば、こうした公開は是非とも必要です。公権力からの人権侵害事案については救済の対象から除外しようと言う姿勢をとっていますが、率直に言って、「中間取りまとめ」の他の部分と相矛盾する理由付けによって取り扱い対象から除外しようとしています。このような在り方は無責任きわまりなく、審議が密室で行われていることと無関係とは思えないのです。審議会委員の責任を明確にするうえからも、是非とも公開の審議に移行することを求めます。
 加えて、国民からの意見聴取の不足の問題があります。例えば東京都女性相談センターによる行政説明が第37回に行われましたが、その利用者の事情聴取なり、アンケート調査はなされたのでしょうか。各種人権団体からの「ヒアリング」で調査したことにしたのでしょうか。こうした調査も尽くすべきです。
 審議経過を見ると、差別、虐待に焦点をあてていると思われるのですが、公権力からの人権侵害事案についてもともと軽視していることさえ伺われます。もっとも深刻で重大な行政機関からの人権侵害についての調査を位置づけてやるべきです。
 さらに、今回の意見募集にしても年末年始の期間を挟んだ時期に3ヶ月に限って意見を募集するというのではあまりに不充分です。本来、随時意見を受け付けるべきです。すくなくとも、最終答申にいたる経過のなかで各種団体、個人が意見を述べる機会が保障されるべきです。

第2 わが国の人権侵害の現状と被害救済制度の実状について

「第2 わが国における人権侵害の現状と被害者救済制度の実状」について

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 人権擁護推進審議会(以下、審議会と言います)のとりまとめでは、人権侵害の
現状把握として5項目の整理をしてますが、公権力による人権侵害および企業内の
人権侵害といった問題があまりに軽視され、また、救済制度の実状としても司法  
的救済があまりに時間を要し、被害者に過酷な負担を課している点について、問  
題点の指摘がかけています。                                                
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1 わが国における人権侵害の現状

 人権侵害の問題を把握するためにもっとも重要な視点は、加害者と被害者との関係が支配、従属関係にあることから生ずるもので、そのために被害のみならずその回復にも重大な支障がある問題を正確に捉えることであると考えます。
 このような視点から言えば、公権力による人権侵害および雇用者、特に大企業と労働者の間に生ずる問題がもっとも重視されるべきものです。行政が私人に比肩すべくもない強大な実力と権限を有していることは論をまたないところです。また現代社会において企業の持つ実力も労働者の人生を左右する支配力を有しています。こうした実状からするならば人権侵害の類型のなかで公権力による人権侵害が3番目と位置づけられ、かつ企業における人権侵害が特別の類型として分類されることもなく、さらには人権侵害を受ける側からの問題として思想信条による差別がまったく記載されていないことは問題です。関西電力、東京電力の各裁判をまつまでもなく、政党所属・支持、労働組合運動を理由とする差別など様々な人権侵害が広範に存在しています。また、女性差別についてですが、「女性」という文言が一言入っているもののその差別の深刻さから言えばいっそう突っ込んだ調査に基づく、具体的な指摘が必要です。これらについての検討のあとがないことは重大な欠陥です。加えて、行政も絡んだ人権侵害の大きな問題であったハンセン氏病患者に対する人権侵害は単に出所後の差別にとどまるものではありません。らい予防法そのものがもたらした災禍がその根本問題です。こうした行政ぐるみの差別、大企業が主体となった人権侵害を救済するとの視点が決定的に欠如していることを指摘せざるを得ません。

2 被害者の救済に関わる制度の実情など

 「中間取りまとめ」は司法的救済や各種裁判外の被害者救済制度に言及し、「実効性の観点から限界や問題点を指摘されているものもあり、」「これらの制度等は、そもそも総合的な人権救済の視点に立って設置されるなどしたものではないため、救済が必要な分野をすべてカバーしているわけではない。」(7頁)と述べています。このように現状の制度が不充分であることが認識されその指摘があることは重要で、ほかの行政機関による救済制度に「遠慮する」ことなく、そして「適切な役割分担」などという論理で行政機関による人権侵害の救済が棚上げされることのないよう強くもとめるものです。

第3 人権救済制度の果たすべき役割

1 人権救済制度の位置づけ

「第3人権救済制度の果たすべき役割の1 人権救済制度の位置付け」について

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 「中間とりまとめ」既に存在している個別的な救済制度について「当該機関の救済
を優先し」あるいは「役割分担を図る」としてますが、反対です。現状が不充分な
制度の補完・補充をすべきで既存の行政機関への遠慮は不要です。              
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 「中間取りまとめ」では一方で「人権救済制度は、被害者の視点から、簡易・迅速で利用しやすく、柔軟な救済を可能とする裁判外紛争処理の手法を中心として、最終的な紛争解決手段である司法的救済を補完し、従来くみ上げられなかったニーズに応える一般的、横断的な救済制度として位置付けられるべきでる。」との一般論を述べています。
 他方「中間取りまとめ」は「第2 我が国における人権侵害の実状と被害者救済制度の実状」の部分で、「行政機関や民間団体等による各種の裁判外紛争処理制度(ADR)等が用意されているが、これらは、実効的な救済という観点からは、それぞれ一定の制約や限界を有している。」として、現状に厳しい見解を示している。
 ところが、こうした認識にもかかわらず、「中間取りまとめ」の見解はこうした実状からかけ離れたものになっている。即ち、
「既に個別的な行政上の救済制度が設けられている分野、例えば、女性の雇用差別に関する都道府県労働局)(雇用均等室)・機会均等調停委員会や児童虐待に関する児童相談所など、被害者の救済にかかわる専門の機関が置かれている分野においては、当該機関による救済を優先し、人権救済機関は、当該機関との連携のなかで必要な協力機関として主体的な対応を行うなど、適正な役割分担を図るべきである。」として、現行の制度の不充分な権利救済の実状を改善しようとしていません。
 私たち自由法曹団の団員が実際に取り組んだ航空会社での女性昇格差別事件ではその不充分性が明白となっています。この事件で東京都女性少年室長は雇用機会均等法13条の定めに反し、「会社に対する昇格差別についての不満・苦情の正式申立をしていないのではないか」と述べて四ヶ月にわたって調停開始を拒んだのです。また、調停開始後は代理人は原則一人だとして、委任状の受領を拒否するなど信じがたい対応をしただけでなく、調停の過程では「昇格制度には立ち入らない。」として昇格差別事件の核心に踏み込まないとの調停委員の「見解」さえ示されのです。審議会の審議の経過を見ても第37回において「東京都女性相談センター」など、行政機関側からの行政説明を受けているようですが、その利用者の事情聴取をしているとの記載はありません。行政機関が現に設置している「救済機関」実状に何ら触れないままの制度では真に実効ある人権救済機関の設置は出来ないと言わざるを得ません。

2 人権救済制度の具体的役割について

「第3 人権救済制度の果たすべき役割のうち 2具体的役割」について

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 被害者の積極的な救済を抽象的に述べるだけでは新たな「人権侵害の救済」の名の
下にあらたな人権侵害が発生するおそれもある。積極的救済は侵害者が行政機関やか
りに私人であっても大企業の場合に限るなど具体的かつ慎重な検討をもとめます。  
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 人権救済制度においては、「あらゆる人権侵害を対象として、あっせん、指導等の手法による簡易な救済」を図ることに反対するものではありません。しかし、問題は実際には強大な実力を持つ行政機関、大企業を対象としてもあっせん、指導などの手法がとられるかどうかです。現に第2の部分で被害者救済制度の実状について次のように述べています。
「(法務省の人権擁護機関は)政府の内部部局である法務省の人権擁護局を中心とした制度であり、公権力による人権侵害事案について公正な調査処理が確保される制度的保障に欠けている。」(6頁)
 つまり、あっせん、指導などの手法においてさえ、いままでの制度では実効性が疑われるものなのです。行政機関や、大企業など人権侵害の結果が重大な事案でこそ、あっせん、指導など簡易・迅速な救済が活用されなければなりません。いままでの欠陥を是正し、行政機関、そしてそれが警察であっても積極的、迅速に被害救済の機能を果たせるようにするべきです。
 これに加えて、「中間取りまとめ」では「自主的解決が困難な状況にある被害者の積極的救済」の項目をあげ、「差別や虐待の被害者など、一般に自らの人権を自ら守ることが困難な状況にある人々に対しては、より実効性の高い調査手続きや救済方法を整備して積極的救済を図っていく必要がある」(9頁)と述べています。さらに「そもそも被害意識が希薄である場合すらあり、被害が潜在化している実情にある。」(9頁)とまで述べています。
 積極的救済は言葉自体としては、異論を差し挟みにくいものですが、具体的な内容抜きにして「中間取りまとめ」としたりこれに対する意見を求めることは率直に言って無責任です。具体的な内容を明らかにして改めて意見を求めるべきでしょう。しかも、前記の「被害意識が希薄である場合」とは一体何を指しているのでしょうか。このような表現からすると被害者の意志を度外視しての「人権救済」となったり、私人の間に「人権救済」に名を借りて私的紛争に行政が介入する危険さえ危惧されます。「積極的救済」については主として、行政機関、かりに私人が主体の場合であっても大企業などからの人権侵害に対してこそ発動されるべきものです。「積極的救済」の内容を具体的にした上で、被害者当人の意思との関係はどうするかも含めた対処を提案し、意見を求めるべきです。より、慎重な対処をもとめます。

第4 必要な救済措置と手法について

1 差別

「第4 必要な救済措置とこれを実現するための手法 のうち1(1)」について

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 同和問題に関する差別的扱いないし差別表現の問題では、過去に強制や一部の運動団
体が特定に考え方を強制し、逆に国民の人権を侵害し、あるいは自由な意見交換を妨
げてきた事実を反省し、慎重に対処すべきです。                                
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1 同和問題を中心とする差別問題では,マスコミや出版界等におけるタブー が長くわが国の言論・報道等を支配してきた事実を真摯に反省することから出発すべきです。これと関連して,政府の地域改善対策協議会が昭和59年から62年にかけて発表した意見具申や指針でも,同和問題における啓発活動のあり方における行政の主体性の欠如と一部民間運動団体が差別問題についての教育・啓発だとして行なってきた確認・糾弾行為が同和問題に関する国民各層の批判や意見の公表を抑制してしまっているとして,逆に啓発活 動阻害原因となっている等と指摘されているところです。
2 昭和49年9月から11月にかけて兵庫県の南但馬地方で発生し,多数の負傷者を出した兵庫県立八鹿高校事件を中心とする民間運動団体による集団暴力事件では,行政が一部の運動団体と迎合ないし癒着し,それが刑事・民事・行政などの各訴訟事件や,「差別」を指摘された側の事件被害者による弁護士会への人権侵害救済申立事件等に発展しました。
 これらの紛争では,運動団体の側が関わった全事件,全被告人が有罪判決を受け,また民事事件でも被害者に対する慰謝料を含む多額の損害賠償支払義務を負う判決が出され,さらに行政が運動団体などと連携した各種措置行為がいずれも「違法」であるとする住民訴訟の判決が言い渡され,それぞれ平成8年までに判決が確定しています。
 これらの事例では,運動団体の被告人と国(検察官)だけが当事者となった刑事事件の判決では,事件被害者らの行動や印刷配布物における表現等が「差別的」と評価された部分があったものの,同じ運動団体と事件被害者が直接当事者として争った同じ内容の民事事件の判決では,被害者の行動などは正当なものであり「何ら差別とはいえない」,刑事事件の判決のような評価は,事件の経過や実態を正しく捉えたものではなく,「正鵠を得たものとはいえない」と判断されているのです。そして行政が「差別是正のため」として行った各種の措置がいずれも「違法」であるともされたのです。
 このように,「差別的取扱い」とか「差別表現」などといわれるものは,極めて多義的で評価の分かれる類の問題であり,安易に差止めや削除等の措置が許されないものであることも深く認識しておくべきです。
とりわけ「差別表現」の問題は,言論表現の自由や文化の問題と対向するだけでなく,思想信条の自由とも深く関わるものであることを銘記しておくべきです。

2 虐待

「第4 必要な救済措置とこれを実現するための手法 のうち1(2)」について

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 「中間取りまとめ」は虐待の現状について企業内の事態を指摘して居らず、かつ行 
政機関とりわけ警察等での虐待に目を向けず、私人間のみに対象を絞っており、問  
題です。行政による虐待の調査・検討をすべきです。                            
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 私人間での虐待で重大な問題が数多く存在することは否定するものではありません。しかし、私人間ではありますが、個人の間ではなく大企業のなかで多くの過労死が発生していることは周知の通りです。しかも、企業内で経営者に正論を言うもの、できるだけ排除したい者に対し、仕事を取り上げ、左遷し、賃金を差別し、ときには暴力も振るうという事態が実際に発生しています。しかし、こうした事態については多くの労働者は生活の糧を失う危険を冒して告発することを困難です。こうした虐待を救済の対象として位置づけるべきです。「人権侵害の現状と救済の実状」のなかに「学校・職場等におけるいじめ等の問題」としてあたかも子供同士と同列に社員同士の問題であるかのようにとらえるのは皮相・浅薄に過ぎます。会社の政策として組織的にとられている実状を把握すべきです。
 さらに忘れてはならないのが、行政機関特に警察や刑務所による虐待の問題です。捜査段階では容疑を否認する者を長期にわたって身柄拘束し、身柄拘束を自白強要のてことしている実状があります。これが多くのえん罪の温床となったことは、死刑台から生還した再審無罪事件が雄弁に証明しています。また、警察署内で現実に暴行をうけていることもいくつもの裁判で明らかになっています。しかし、「中間取りまとめ」が指摘するように裁判には多大な負担がかかります。裁判で明らかになった例も一部の者が大きな負担を負った努力の結果で、氷山の一角です。刑務所での人権侵害も多発しています。こうした人権侵害は「虐待」と評価すべきものでこれらを除外して「虐待」を論じるのでははなはだ不足です。

3 公権力による人権侵害

「第4 必要な救済措置とこれを実現するための手法 のうち1(3)」について

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 「中間取りまとめ」は公権力による人権侵害の実状について詳細な調査をしてその 
実状を把握する努力をしていないと言わざるを得ず、また、他のシステムにゆだねて
救済の対象から除外するものです。全面的な再検討をもとめます。                
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 人権侵害のなかでもっとも重大でその回復も困難なのは言うまでもなく公権力からの人権侵害です。とりわけ、実力を有するである警察や刑務所など人の意に反して強制する機能を有することからその行き過ぎで人権侵害が頻発しています。自由法曹団も破壊活動とはまったく無縁の組織であるにもかかわらず、公安調査庁から調査対象とされていることが先頃内部文書の流出で判明しました。国会でも当局はこれを否定できずにいます。これは、団体活動の自由に対する重大な侵害です。しかしこれに対する救済の方法が今のところありません。この例一つとってみても行政機関による人権侵害という重大な問題に対する対処ができないことは軽視できません。
 「中間とりまとめ」はこれについて次のように言っています。
「行政処分に対しては一般的な行政不服審査や個別の不服申し立てに手続きが整備されている。」
「また、捜査手続きや拘禁・収容施設内での虐待等については、付審判請求を含む刑事訴訟手続きのほか、内部的監査・監察約定処理のシステムがもうけられている。」
「各種行政処分に対しては一般又は個別の不服申し立て制度が整備されており、」(以上、いずれも16頁)
「また、人権救済機関がえん罪や公害・薬害等の問題にまで幅広く対応することは、関係諸制度との適正な役割分担の観点からも適当でないことから、公権力による人権侵害すべてを積極的救済の対象とすることは相当でない。」
結局、公安調査庁の違法な事実行為を例にとっても人権救済手続きを整備してこれを救済するということにならないのです。「中間とりまとめ」は他方で次のように言っています。
「(司法的救済は)簡易・迅速な救済や事案に応じた柔軟な救済が困難な場合がある。」(6頁)
「(司法的救済は、証拠収集や訴訟の負担で)自らの力で裁判手続きを利用することが困難な状況にある被害者がいる、といった問題がある。」(6頁)
「(法務省人権擁護局の救済は)政府内部部局である法務省の人権擁護局を中心とした制度であり、公権力による人権侵害事案について公正な調査処理が確保される制度的保証に欠けている。」(6頁)
これは、裁判制度(付審判手続きを含む)や問題を起こした行政機関自体に問題解決能力がないことを他の記載部分では認めながら公権力による人権侵害事案についてだけは、「問題解決能力がある」とするものでご都合主義の理由付け、あるいは、もともと公権力の人権侵害には対処するつもりがないものと言われても仕方がないものです。見識ある委員を揃えているはずの人権擁護推進審議会の名に恥じることのないよう少なくとも前後矛盾の理由付けまでして行政からの人権侵害の救済を拒むような答申を出すことのないよう切望する次第です。そして、別項でも書きましたが、各委員の先生方の責任を明確にするうえでも審議の公開を強く求めるゆえんでもあります。

4 メディアによる人権侵害について

「第4 必要な救済措置とこれを実現するための手法 のうち1(4)」について

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 メディアによる人権侵害に第一次は報道機関が共同で設置する自主的監視機関ゆだ 
ねるべきであり、独立といえども行政機関による制約は極力さしひかえられるべきで
す。                                                                        
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 マスメディアの報道には問題なしとしないものが散見されるのは否定しがたいものです。しかし、これがひとたび行政機関の監視にさらされるならば表現の自由、報道の自由は危殆に瀕することになります。報道機関においても「報道評議会」を設立して相互監視をする動きも出始めています。報道機関の相互監視を優先させ、「中間取りまとめ」が予定するような行政的な介入は極力控えられるべきものです。そして、報道内容についての評価にわたることは、行政機関がなすべきものでなく、仮に人権侵害への救済制度を検討するにしてもその手段は任意的な方法に限り、対象としても行き過ぎた取材態様・名誉プライバシー侵害になどの外形的なものに限るべきです。なお、政治家、各省庁幹部職員の場合には公益的側面が強く、救済の対象から外されるべきです。
 また、憲法上の要請からも検閲ができないことは当然です。行政による事前の差し止め等の措置はいかなる形式にせよ検閲との疑いを払拭できないものです。人権救済の措置がありうるとしても、公表などに限定するなど、慎重な考慮がなされるべきです。

5 救済手法の整備

「第4 必要な救済措置とこれ実現するための手法のうち2」について

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  救済措置のうち強制的手法については、行政機関による人権侵害などに限るなど、
慎重な対処を求めます。人権擁護委員をそのまま調停・仲裁に参加させることはは 
適当とは思えません。再検討を求めます。                                     
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 「中間取りまとめ」は人権救済機関の救済機能を、もっぱら任意的方法によるものと積極的救済に区分しています。そして、調停について「一定の専門性等を有する人権擁護委員の参加を含め、調停手続きやこれを担う体制の整備を図るべきである。」として、人権擁護委員をいわば横滑りさせてこれにあたらせることを予定しています。これは、第1に、法務省管轄の人権擁護局を改組して人権救済機関としようとするものであり、人権救済機関が重大な限界を持つことになります。そして第2に、人権擁護委員のいままでの実績は「公権力による人権侵害事案について公正な調査処理確保される制度的保障に欠けている」人権擁護局でのものしかなく、全く検証されていません。再検討を求めます。
 また、「(7)特定の事案に関する強制的手法」として「差別を助長・誘発するおそれの高い一定の表現行為や慣行的な差別的取り扱い等、被害者個人による訴訟提起が法律上又は事実上著しく困難であったり、それだけでは問題の実質的解決にならない事案に関する救済に在り方」について特別の制度を検討するとしています。しかし、人権侵害事案のなかでどうしてこれだけが特別に取り上げられるかが明らかでありません。救済の必要性が高い事案はさまざまな形態で存在しています。強制的手法については、新たな人権侵害を含む問題を発生させる危険を常に意識すべきです。この点については「中間取りまとめ」の記載だけではとうてい賛同することは出来ません。
 なお、この点については、第4の1の(1)差別についての当団体の意見も参照されたい。特定の団体が差別是正に名を借りて人権侵害を引き起こすことのないよう格段の配慮が絶対に必要です。

第5 調査手続・権限の整備

「第5 調査手続・権限の整備」について

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 強制調査権限については、重要な項目であるのにその記載はわずかです。詳細なプ
ランを明らかにしたうえで再度意見を聴取していただきたい。公的機関への実質的な
強制権限は工夫し、私人へは慎重にすべきです。仮に認めるとしても間接強制でかつ
最小限にすべきです。                                                        
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 人権救済機関の調査権限で、例えば警察・刑務所などへの調査は強制権限がなければその実を発揮できないものと考えられます。しかし、これについては公務所の協力義務などを法定することによって対処できるのではないかと考えられます。調査であっても強制権限は強い弊害を生むおそれがあります。極力慎重に対処すべきです。「中間取りまとめ」が述べるように、「直接的な強制を含む強い調査権限はまで認めるべきでない」という方向は理解するものですが、間接強制ならよい等のは大きな疑問があります。調査拒否は刑事犯罪となり、警察が直接介入するとなればことは重大です。人権侵害において従前警察が主体となった経緯もあり、こうした手続きで警察が関与することには大きな疑問があります。慎重な検討を求めるとともに、さらに内容を明らかにしたうえで再度国民各層からの意見を求めるべきです。

第6 人権救済機関の組織体制

1 独立性

「第6 人権救済機関の組織体制の整備のうち 1 人権救済機関の独立性等」について

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 人権救済機関の独立性は、何よりも公権力やこれと結びつく勢力からの人権侵害
に制約されることなく機能するため最も重要な要素であり、委員の人選や身分保障
等必要な制度的保障がなされるべきです。                                    
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 人権救済機関が公権力や、特定の勢力や団体から独立したものであることは最も重要なことです。特に公権力からの独立は、公権力からの人権侵害が深刻でかつこれを防止したり排除したりするのに一番の困難を伴うからです。いわゆるパリ原則でも政府からの独立性をとりわけ重視し、「国内機構は、活動の円滑な運営にふさわしい基盤、特に十分な財政的基盤を持つものとする。この財政基盤の目的は、国内機構が政府から独立し、その独立に影響を及ぼすような財政的コントロールに服することのないように、国内機構が独自の職員と事務所を持つことを可能にすることである。」としています。形式的にはいずれかの官庁の外局という外形が必要な場合でも、少なくとも法務省ではないものとするなど独立性の確保の工夫が必要です。「中間とりまとめ」では、「法務省の人権擁護局の改組も視野に入れて、体制の整備をはかるべきである。」として、従来の人権擁護局の延長の予定しているかのようですが、これには反対です。「改組」にとどまるもので終わってはなりません。
独立性の確保で最も重要なのは人的構成と予算です。人的には、独立機関にふさわしい人選をされた委員による合議組織があり、その下に事務職員が必要なだけ確保される必要があります。
 委員の人選としてはたとえば議会に議席を有する政党5党以上から同数ずつの推薦者を入れるなどして、政権政党の意に添う人事とならないよう格段の工夫が必要です。民間からは少なくとも日本弁護士連合会の推薦する委員を複数以上入れることが検討されるべきです。そのほかにも、労働組合でも連合だけでなく、全労連からも人選がなされるべきです。今までの多くの審議会のように官庁出身者と財界出身者で委員が大半、少なくとも過半数しめられ、民間からの意見が採り上げられにくいものであってはならないのです。
 事務職員は、国家公務員の特別職とし、他の官庁と別系列で構成すべきです。法務省や他の行政機関の職員が行ったり来たりという状況では、真の独立性の確保はできません。仮に当初法務省の職員が人権救済機関の職員となるにしても、法務省に復帰しないことを条件とするなど、厳格な独立性確保の方策が必要です。   財政的保障としては、独自の予算要求ができるようにすることが、最低限必要で、財務省の「査定」に服して予算要求するのでなく、実質的に直接国会に要求することが確保されるべきです。

2 人的構成について

「第6 人権救済機関の組織体制の整備のうち 4 人権救済機関の人的構成に関する留意点」について

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 人権救済機関の委員の構成においては、行政・司法の職にあった公務員出身者の割
合を低下させ、行政機関の役割は必要な協力にとどめるべきです。地方での組織で 
も、人権擁護局の改組の方式をとることは反対です。                           
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 人権救済機関の委員は、機関の独立性の確保の制度的保障とともに委員自体も独立性を保持できるよう選任、人事、処遇について格段の工夫が必要です。
 人選にあたっては、その基準の定立と透明性の確保が絶対に必要です。
 行政機関からの人権侵害事案に対処するためには行政機関からの独立が不可欠であることは多言を要しないでしょう。政権政党の意に添う人事とならないため、例えば議会に議席を有する政党5党以上から同数ずつの推薦をうけてこれを審査するなど格段の工夫がなされるべきです。また、行政機関からの独立のために民間からの人選を主とし、官庁出身の委員の数を制限することも検討すべきです。そして、民間からは日弁連からの推薦者を複数以上選任すること、労働界からは特定の労働団体だけでなく、全労連も含めてそこからの推薦者を委員とすべきです。国連人権委員会のパリ原則は委員の構成について触れ、さまざまな分野の人材を集めることをもとめています。これにしたがって人的構成が検討されるべきです。しかし、パリ原則で述べているように、行政機関からの参加は助言や、資料提供にとどめるべきです。しかも、民間の行政機関出身者を委員として外形だけ整えるようなことも排除されるべきです。今までの多くの審議会のように官庁出身者と財界出身者で委員が大半、少なくとも過半数しめられ、民間からの意見が採り上げられにくいものであってはならないのです。
「中間取りまとめ」では、「人権擁護委員が果たしてきた重要な役割に照らし」これらの委員をそのまま新しい人権機関の人的な構成に移行させるかのような記載がありますが、同意できません。従来、人権擁護局が不充分な役割しか果たしてこなかったことを真摯に反省するなら、人的な構成でそのまま移行させることはすべきではありません。
 人選の手順も、国会に委員の人事についての諮問委員会を設け、その推薦に基づいて国会での承認事項とするべきです。諮問委員会は政権政党が過半数を占め、その意に添うようなものであってはなりません。諮問委員会自体についても例えば議席を有する政党5党以上が同数ずつ諮問委員を出すなどの工夫が必要です。

3 人権救済機関が他になすべき事務

「第6 人権救済機関の組織体制の整備の6」について

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 人権救済機関の機能は、政府への助言、人権啓発にとどまるべきではありません。
行政機関には人権救済機関の勧告に従う義務を負わせるべきです。               
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 「中間取りまとめ」いままで述べたように、人権救済機関を法務省のもとに属する人権擁護局の改組組織にとどめることを念頭に置いているものとしか考えられません。
 行政機関による人権侵害の救済をもなし得る組織にするためには、そのようなものでは不足で、準司法機関といえる実態・実力を有するものでなければなりません。このことは繰り返し強調したい点です。
 そして、人権救済機関は政府に従属するものでなく、国内の人権救済のセンターであるとともに人権理念の普及のための権限を持つべきです。国連人権委員会は次のような見解を表明しています。
「委員会(注 人権委員会)は、規約で保障された人権について、裁判官、検察官、及び行政官に対する研修が何ら提供されていないことに懸念を有する。委員会は、このような研修を受講できるようにすることを強く勧告する。」(国際人権規約委員会第64会期)
 国際的水準から言って、裁判官、検察官、及び行政官に対する研修が果たして十分なのか当該官庁の立場でなく独自に判断し、勧告するのも人権救済機関の役割とし、かつ行政機関に対し、これに従わせる義務を負わせるべきです。