<<目次へ 【意見書】自由法曹団
2001年10月4日
自 由 法 曹 団
目 次 第1 はじめに 2 第2 テロ問題の解決と軍事報復の問題点 3 第3 日本の軍事支援の問題点 9 |
去る9月11日午前(現地時間)、アメリカにおいて、民間航空機4機が短時間のうちに次々とハイジャックされ、そのうち2機がニューヨークの世界貿易センタービル2棟に、1機がワシントンの国防総省に突入し、他の1機もピッツバーグ付近に墜落して、おびただしい数の犠牲者を発生させた。このような残虐きわまりない行為は、いかなる宗教的信条や政治的見解に基づくものであっても、断じて許されるものでないのであって、根絶されなければならない。
私たちは、人権と平和・民主主義のためにたたうことを目的とし、日本の全弁護士の1割近くの約1600名の弁護士で構成する法律家の団体として、犠牲となった方々に心から追悼の意を表するとともに、今回のようなテロ事件の根絶を求めるものである。
ところが、今回の事件に関して、ブッシュ大統領は、「犯人だけでなくこれを匿い、支援する者も許さない」とし、報復のために空爆や地上軍の派遣も検討し、その準備に入っている。アメリカ上院及び下院の両議会も、報復のための武力行使を容認することを決議した。そして、日本政府は、この軍事報復を支援するとして、ひたすら自衛隊の海外派兵をもくろみ、インド洋に対する自衛隊の艦船の派遣をはじめ、新法を制定して軍事的な支援を進めようとしている。
しかし、このような軍事報復がひとたび実行されれば、罪のない多数の市民が犠牲にされることは明らかである。しかも、武力による報復は新たな報復を呼ぶ。
そもそも、アメリカの進めようとしている軍事報復は、どのような根拠にもとづくものなのか、そもそも国際法上認められるものなのか考えられなければならない。今回の同時多発テロに対しては、どのように対応しなければならないのか。それ自体は、国際的な犯罪行為に他ならないのであるから、それを前提とする手続きはどのように実行されなければならないのか検討する必要がある。あわせて、テロを根絶するためにはどのようにすべきなのか、その背景や原因についても考える必要がある。はじめに自衛隊の海外派兵ありきという露骨な動きが示され、軍事報復に対して当然のごとく日本の支援が進められようとしているけれども、準備されている新法を含め法的な観点からの検討が不可欠である。特に、戦争を放棄し、武力による威嚇や武力行使を禁止した日本国憲法との関係で生ずる重大な問題を看過することはできない。
私たちは、法律家の視点から、緊急に検討をすすめ、本意見書をまとめた。本意見書が、テロを根絶し、軍事報復、そして自衛隊の海外派兵を許さないために、世論を広め、国会での審議等で活用していただければ幸いである。
今回の同時多発テロの被害者は死者だけでも80ケ国、7000人近くにのぼると言われている。これらの人々が一瞬にして生命を奪われた。言語に絶する「大量殺人」と言わなければならない。
ブッシュ大統領は今回のテロ行為について「自由の敵は我々の国に戦争行為をなした」と述べた。しかし、「同時多発テロ」は、国家間の武力紛争ではないのであるから、「戦争」ではない。大統領自身、別の箇所では、犯罪であることを前提として、「犯行」という言葉を使い、「マフィアが罪を犯すのと同じだ」とか「このテロを罰する」とか繰り返し述べているのである。
国連安保理事会は事件の翌日である9月12日に今回のテロ行為について「国際の平和と安全に対する脅威とみなす」と決議した。現在の国際法上、「国際の平和と安全」という「国際社会の一般的な利益」を侵害する犯罪行為は国際犯罪と呼ばれる。そして20世紀後半、このような国際犯罪について「法に基づいて処罰する」仕組みが徐々に作りだされてきた。これらの行為に対して決して無防備ではないのである。
今回のテロ行為は現代国際法では「人道に対する罪」に該当すると考えられる。
2回の世界大戦を経験した人類は、20世紀の終わりまでに、ナチスのホロコーストなどの「集団虐殺」等を国際犯罪とする国際法を確立してきた。第一次世界大戦の際の講和条約であるベルサイユ講和条約は、戦争を引き起こしたドイツ皇帝を戦争犯罪人として裁判にかけることを決定した。そして第二次大戦の終結に際しては、国際軍事裁判所をニュールンベルグと東京に設置して、ナチスと軍国日本の戦争指導者や大量虐殺の責任者を裁いた。これらの裁判に適用された理念・原則は国連総会において「ニュールンベルグ原則」として確認された。これは「平和に対する罪・戦争犯罪・人道に対する罪」を国際犯罪とし、これらの犯罪を犯した者は処罰されることを宣言している。
この原則の具体化の一つとして国連は、1973年までに「集団殺害罪の防止および処罰に関する条約(ジェノサイド条約)」、「戦争犯罪時効不適用条約」、「アパルトヘイト条約」等を成立させた。さらに1990年代に入って、国連安保理は、「1991年以後旧ユーゴスラビアの領域内で行われた国際人道法の重大な違反について責任を有する者の訴追のための国際裁判所(ICTY)」や「ルワンダ領域で行われた集団殺害およびその他の国際人道法の重大な違反について責任を有する者等の訴追のための国際刑事裁判所(ICTR)」を設置して、具体的な裁判手続きも開始している。また国際テロ行為に対しても、国連はこれらを国際犯罪とする「航空機不法奪取防止条約」をはじめ12の国際条約を作成して犯行の処罰と防止に取り組んできた。
このように「平和に対する罪・戦争犯罪・人道に対する罪」や「国際テロ行為」を国際犯罪とすることは国際的に確立している。今回のテロ行為が「人道に対する罪」にも該当すると考えられ、国際犯罪として処罰される行為であると考えられることは(具体的には裁判の結果を待たなければ正確には言えないにしても)、国際法的にも確立しているのである。
このように、「平和に対する罪・戦争犯罪・人道に対する罪」等の審理のためにいくつもの裁判所が設立されてきたのであって、現代国際法は、このような行為をした犯人を国際的な裁判にかける仕組みも用意している。今回もこの方式にのっとって特別裁判所を設立することは十分可能である。この場合に、国際刑事裁判所の規程に準じた手続きが行われることとなろう。
今回のテロ行為に対してはアラブ諸国も含めた世界各国が反対していることは周知のとおりである。国連総会ないし国連安保理において特別裁判所を設置する決議をすることに障害はないと考えられる。
なお、1998年7月のローマ会議において「国際刑事裁判所ローマ規程」が採択された。この国際刑事裁判所は、常設の刑事裁判所であり、集団殺害罪・人道に対する罪・戦争犯罪および侵略の罪について審理するとなっている。今回のテロ行為が人道に対する罪に当たるとすれば、この国際刑事裁判所において裁判されるはずのものである。しかし、この条約は現在はまだ発効していない。この条約は60ケ国の批准によって発効するが、2001年9月27日現在でこの規程への署名国は144ケ国、批准国が38ケ国だからである。国際刑事裁判所には、アメリカが消極的な態度をとっいること自体、問題であるけれども、今回の事件をきっかけに批准国が増えれば、すぐにでも発効することを意味している。そしてこの条約の発効が、テロ行為の根絶という目標のためには極めて重要な意味を持っていることは火を見るより明らかである。
いま、国際的にテロを裁く仕組みを一日も早く具体化させることが急務である。それは、第1に、容疑者を特定し証拠の収集を行うこと、第2に、逮捕などにより身柄を確保すること、第3に、裁判にかけ処罰することである。
この手続きをきちんと実行することが、今回のテロ行為によって引き起こされた恐怖と不安とを解消する最も基本的なあり方である。それは、犯罪に対する不安と恐怖を解消する道として、世界各国で、刑法その他の刑事法の確立とこれを「法と正義」に基づいて判断する司法の確立、判決を正しく執行する刑務所の整備が不可欠となっていることと何ら異ならない。今回の国際犯罪の結果が重大であればあるほど、この常道を一日も早く確立することが求められるのである。
このことは、イスラム諸国を含めた国連加盟の諸国が協力すれば必ず実現できる。例えば、1988年、パン・アメリカン航空機が、イギリス上空でテロ行為のために爆発された事件の場合、リビアの政府関係者の二人が容疑者として特定され、起訴された。なかなか身柄引渡に応じなかったリビアも、国連の制裁決議が何度か繰り返される中で、身柄引渡に応じ、裁判が始まっている。
今回のテロ事件でも、湾岸協力会議(ペルシャ湾岸の6カ国)が、緊急外相会議を開き、「同時多発テロにかかわった者の捜査と、法による処罰をめざす国際社会の努力への全面協力」を確認した共同声明を発表するなど、イスラム諸国を含めた協力の条件が整いつつある。
去る9月24日、アナン事務総長は、国連総会での演説で「だれもが理解できる受け入れられる明確で透明な手続きを通じて、実行犯に法の裁きを受けさせるために、努力を惜しむべきでない」とし、「暴力を拒否し、現代の政治・経済問題は、平和的に解決できることを私たちの行動で証明しよう」と呼びかけている。このように、今回のテロ行為を含めたテロ行為根絶のためには、国連に結集する全ての国の英知を集め、全力を挙げて協力することこそ必要なのであり、アメリカの単独主義による性急な軍事制裁は、百害あって一利なしといわなけばらない。
アメリカ・ブッシュ大統領は今回の同時多発テロを、「これは単なるテロを超えた戦争行為だ」と位置付け、イスラム過激派の指導者ウサマ・ビンラディン氏を「第一容疑者」と名指しし、「犯人だけでなくこれを匿い、支援する者も許さない」としてビンラディン氏の即事引渡に応じないアフガニスタン・タリバンに対する軍事報復を宣言した。しかしながらこのような軍事報復は、明確に国連憲章、国際法に違反する。
人類は二度の世界大戦により多大な戦争の惨禍をこうむった経験に立脚して「われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から人類を救い」「国際の平和及び安全を維持するために」(国連憲章前文)国連を設立し、二度と多大な戦争の惨禍を繰り返さぬよう、国連憲章を制定し、国際法を形成してきた。
国際連合憲章は、2条4で、「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」と規定し、武力行使の原則禁止を明確に定めた。
そして、33条は、「いかなる紛争でもその継続が国際の平和及び安全の維持を危うくする虞のあるものについては、その当事者はまず第一に、交渉、審査、仲介、調停、仲裁裁判、司法的解決、地域的機関又は地域的取極の利用その他当事者が選ぶ平和的手段による解決を求めなければならない」と平和的解決を義務づけている。
国連憲章上武力行使が認められているのは、憲章51条で規定された自衛の場合と、国連安全保障理事会の決議により行われる国連の軍事的措置の場合(憲章42条)のみである。
そして、いわゆる「友好関係宣言」(国際連合憲章にしたがった諸国家間の友好関係と協力に関する国際法の諸原則についての宣言、1970年10月24日国連総会決議2625付属書)は、武力行使禁止の原則を再確認し、「武力行使をともなう復仇行為」を明確に禁止している。
武力行使禁止の原則は、憲章上の義務にとどまらず、一般国際法の強行法規であり、その重大な違反は、それ自体国際犯罪を構成するものである。
今回計画されているアフガニスタンへの軍事報復は、国連憲章の許容する自衛権行使にも国連安保理の軍事的措置にも該当しない。
まず、国連憲章の許容する自衛権行使は、国連加盟国に対する武力攻撃の発生を要件とするが、この武力攻撃の主体はあくまで国家である。
自衛権発動には、国家による正規軍の武力攻撃ないしは、これと同視しうる国家の実質的関与が必要とされる(ニカラグァ事件に関する国際司法裁判所1984年11月26日判決)。しかし、今回のテロは国際犯罪であって、国家による武力攻撃ではなく、国家の実質的関与も認められない。アフガニスタンは武力攻撃の主体ではなく、単にビンラディン氏の即時引渡に応じないことを理由としてアフガニスタンに武力行使をすることは、明らかに自衛権を逸脱した行為であり、国連憲章上自衛権として許容されない。そもそも、現在、アメリカ側からは、ビンラディン氏と本件テロとの関係、ましてやアフガニスタンの関与に関する何らの証拠も示されていない。
また、自衛のために取られる措置は、「安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持について必要な措置を取るまでの間」、他の措置をとることができない緊急やむを得ない場合に限って、攻撃を除去するのに必要かつ相当な限度に限られる。アメリカは外交努力など他に取りうる手段があるにも関わらずアフガニスタン・タリバンとの交渉を一方的に打ち切り、テロ行為とは関係ない一般のアフガニスタン国民も巻き込んだ大規模な「報復戦争」を行おうとしており、必要性・相当性は認められない。そもそもアメリカが公言するとおり、予定されるアフガニスタンへの武力攻撃の本質は、「自衛」ではなく「報復」「復仇」であって自衛権行使に該当しない。
次に、軍事報復は、アメリカが独自に進めているものであって、その武力行使については、国連が何ら容認するものではない。
今回のテロ事件に関連して国連安保理決議1368号・1373号が採択された。まず、1368号決議は今回のテロ事件を「平和に対する脅威」(憲章39条)とみなし、「テロ攻撃の実行犯と組織者、後援者に法の裁きを受けさせるための共同の緊急行動をすべての国に呼び掛け、こうした行為の実行犯、組織者、後援者を援助、支援、匿うものは責任を負わなければならないことを強調する。」とし、いかなる動機からであれ、あらゆるゆるテロ行為を非難し、テロ根絶の国際協力の強化が必要だと訴えた1999年の決議1269など国連の諸決議を全面的に実行するよう呼び掛けたものである。この1368号決議は、確かに、「テロ行為が国際的な平和と安全に及ぼす脅威とあらゆる手段でたたかうことを決意し、憲章に従い個別的または集団的自衛の固有の権利を認め」るとしている。けれども、これは、自衛権についての憲章51条の規定を確認したにとどまるのであって、この決議には、武力行使を容認する文言は何ら存在しない。そもそも、本件のように自衛権行使はその要件がないのに、この決議を口実に武力攻撃をすることは許されない。また、「あらゆる手段でたたかうことを決意し」たのは、あくまで国連であって、それがアメリカによる軍事行動を容認したものでないことも明らかである。前記アナン事務総長が国連総会での演説で訴えたように、国連の立場では、当然のことながら、非軍事的な「措置」を活用しながら平和的解決を目指することとなるのである。
また、1373号決議はテロリストの資金を凍結する非軍事措置(憲章41条)をとることを決定した。これも、何ら軍事的制裁について決定していない。
しかも、国連安保理では、アフガニスタンに対する軍事的措置は何ら決議されていない。のみならず、アフガニスタンを名宛人とする勧告(憲章39条)や、非軍事的措置(憲章41条 なお、パンナム機事件犯人不引渡の際には、リビアに対し安保理決議748,883号が非軍事的措置として決定された)すら決議されていない。アメリカの軍事報復を、憲章42条によって根拠づけることもできないのである。
以上のとおり、アメリカの計画する軍事的報復は国連憲章と国際法上何らの根拠もない明らかな国際法違反行為であり、断じて許されない。
テロを根絶するためには、前述したように国連憲章と国際法に基づき、テロを犯罪として裁くことである。テロ犯罪の土壌を根本から絶つことも不可欠である。ここでは、特に後者について述べる。
世界には、武力によって抑圧されている人たちが多数いること、貧富の差の著しい拡大が生まれていることがテロ犯罪の土壌となっていることを指摘しなければならない。また、イスラエルは、パレスチナ自治区に対し、アメリカの提供した武器によって攻撃を加え、罪のない一般市民が毎日のように殺されている。彼らの中には、イスラエルとアメリカに対し憎しみを持つ者も多数生まれている。
例えば、アフガンは、干ばつ、赤痢、食糧不足など、飢餓が深刻で、とりわけ国際機関の援助が閉ざされた今、500万人以上の民間人、とくに女性と子どもが生存の危機にあると言われている。国際医療援助団体の非政府組織(NGO)「世界の医師団」は、今回のテロ事件前から飢えと病気にあえいできたアフガニスタン難民の声を紹介し、一日も早く人道支援ができるよう訴えている。
もちろん、テロの土壌をなくすことは、簡単にできることではないけれども、この点では、ねばり強い努力が求められている。
そこで、まず、テロの土壌をなくす方向性を明確にすべきである。例えば、国連が暴力による迫害や支配を許さない決議をあげたり、武器の提供を禁止したり、常設国際刑事裁判所を実効あるものにするなどである。武力による支配や紛争解決を優先するブッシュ政権の力の政策は改める必要があるのではないだろうか。さらに、貧富の差の著しい拡大については、債務国の膨大な債務を免除したり、国連による技術等の援助を抜本的に強化するなどの対策が必要である。
こうした方向性が明確になって、アメリカも含めあらゆる国々と人々が真摯に努力を続ければ、テロ犯罪の起こる可能性は格段に少なくなるはずである。少なくとも、今回のような組織的な大がかりなテロ犯罪を行うことは著しく困難になるのではないだろうか。
小泉首相は、9月19日の記者会見で、軍事報復を進めようとしている「米国の姿勢を強く支持し、日本としての援助、助力は惜しまない」との態度を明らかにしたうえ、「米国における同時多発テロへの対応に関する我が国の措置について」を発表した。そこで示された当面の措置は、「米軍等に対して、医療、輸送・補給等の支援活動を実施する目的で、自衛隊を派遣するため所要の措置を早急に講ずる。」とか 「情報収集のための自衛隊艦艇を速やかに派遣する。」さらには、「避難民の発生に応じ、自衛隊による人道支援の可能性を含め、避難民支援を行う。」というものであって、自衛隊をインド・中東方面に海外派兵しようするものである。
また、「我が国における米軍施設・区域及び我が国重要施設の警備を更に強化するため所要の措置を早急に講ずる。」として、自衛隊の任務を拡大する内容も含まれる。
これらの措置を具体化するために、政府・与党は、今臨時国会において、新法の成立と自衛隊法の「改正」をもくろんでいる。しかし、そもそも、国際法上も問題のあるアメリカの軍事報復に対する支援そのものが問題であるのみならず、自衛隊を海外派兵する等の今回の新法は、戦争を放棄し、武力による威嚇と武力行使を禁止した憲法9条に明確に反するものである。しかも、それは、これまで自民党政府ですら自ら認めてきた憲法上の制約も公然と突破するものであり、それは、今回の事件が発生する前から、アメリカから要請され、自民党などがもくろんできた内容をふくむものである。そして、それは平和憲法の破壊をいっそう進めるものである。
以下、これらの点について、具体的に述べる。
アメリカの軍事報復は、すでに明らかにしたように、国際法上も根拠のないものであって、それ自体国際法に違反するものである。国連憲章で認められてた自衛権の行使にも該当しないのであるから、そもそも、集団的自衛権をも行使できる場合でないのである。アメリカ自身による自衛権の行使が認められない以上、いくら日本がアメリカの同盟国であるといっても、これを支援することは許されない。しかも、日本の集団的自衛権の行使が日本国憲法により否定されている以上、軍事支援はなおさら許されない。
したがって、日本の支援は、憲法違反となるのみならず、明白な国際法違反にもなる。
10月2日夕刊で報道されたアメリカの軍事報復を支援する法案の要綱よると、法案は、実施する支援活動として、協力支援活動(米軍などへの物品・役務の提供)、捜索救助活動(米軍兵などの捜索救助)、被災民救援活動を挙げている。そして、「物品・役務の提供」では、補給、輸送、修理・整備、医療、通信、空港及び港湾業務並びに基地業務、宿泊、消毒を列挙している。
物品・役務の提供については、周辺事態法とほぼ同様の内容であるが、その活動内容は、きわめて多岐にわたるものであり、かつ戦闘部隊の活動に不可欠で直結するものである。例えば、補給は、給水、給油、食事の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供するものであり、輸送は、人員及び物品の輸送、輸送用資材の提供並びにこれらに類する物品及び役務を提供するものである。また、修理及び整備は、修理及び整備用機器、部品及び構成品の提供並びこれらに類する物品及び役務の提供も含むこととなる。医療は、傷病者に対する医療、衛生器具の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供であって、野戦病院などでの活動も予想される。さらに、通信は、通信設備の利用、通信機器の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供ということになる。
ただし、これが実施される場所は、後述のよう地理的に全く無限定で世界全域に及ぶことになる。のみならず、周辺事態法における「後方地域支援」という表現をあえて使用せず、「協力支援活動」としている。しかも、武器・弾薬の補給は禁じているが、これを輸送する活動は含まれる。結局、水や食料、燃料など自衛隊の輸送・補給した物資により戦闘部隊の活動基盤が確保され、自衛隊が輸送した武器・弾薬によって、紛争地域の民衆に対する武力攻撃が行われることになる。
戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備を含まないとするものの、それ以外は何でもできるというものであり、武力行使と一体化した活動が想定されているといわざるをえない。
攻撃を支援する自衛隊の活動は、攻撃を受けた側からは、まさに、反撃の対象となる。このことは、武器・弾薬など戦争のための物資を交戦国に輸送する船舶は公海上でも拿捕の対象になるとした「海戦法規に関する宣言」(「ロンドン宣言」1909年署名)によっても、明らかである。
直接戦闘行為が行われていないアメリカ側の基地や空港・港湾などでの支援活動も、明白な参戦行為となるのであって、これらも、相手側から反撃の対象となる。
自衛隊は武装して海外派兵されるのである。自衛隊が攻撃を受ければ、これに対して当然に自衛隊側からも武器が使用され、自衛隊として憲法9条で厳に禁止されている武力行使に及ぶことになる。
実際、小泉首相は、9月25日に行われたワシントンでの記者会見において、「自衛隊は危険なところに出してはいけないということでは話にならなくなった」とし、例えば、「危険を伴うかもしれないが、医療活動にしても難民支援にしても、武力行使はしないが、自衛隊にも貢献してもらう」と明確に述べている。すでに明らかにしたように、武力行使に及ぶ事態は、自衛隊の支援活動において不可避と考えられるのであり、武力行使しないなどという小泉首相の発言や支援活動が「武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない」とする法案の記載は、国民を欺罔するに等しい。
このように自衛隊による軍事報復の支援は、武力行使を禁じた憲法9条に明確に違反する。
捜索救助活動も参戦行為となり武力行使に及ぶものである。つまり、この活動は、戦闘行為中に海上に墜落したり行方不明になった米兵を自衛隊が捜索し、救助する活動である。自衛隊によって救助された米兵は、再び戦闘員として戦闘に赴くことになるのであるから、戦闘の相手国からみれば、自衛隊の行動は戦闘行為の一部とみなされることになる。戦闘機の事故は、空母からの離発艦の際に起きることが多い。そこで、空母の付近で捜索・救出用の駆逐艦などが待機しているのが通常である。捜索救助活動の名の下に、自衛艦が米空母を中心とする艦隊にあらかじめ組み込まれて活動することも予想される。にもかかわらず、「弾が飛んでこない場所だから戦争行為ではない」などというのはとうてい通用しない議論である。
実際、周辺事態法では、「後方地域捜索救助活動」と規定していたものを、あえて「後方地域」という文言を削除した。後方地域は、戦闘行為が行われることが認められる我が国周辺の「公海及びその上空の範囲」とされていたのである。
しかも、周辺事態法では、当該外国の同意のもとに隣接する外国の領海での活動も認められていたけれども、今回は、当該外国の同意のもとに外国での活動を広く認める。当然、外国陸地での活動も予定しているものである。
このように、今回の新法は、米軍の戦闘活動と一体の活動範囲を一気に拡大するものといわざるを得ない。
想定されているのはアフガニスタン難民に対する活動である。
パキスタンとの国境が封鎖されたもとで多数の難民が生じている。空爆が開始されたりすれば、いっそう多数の難民が生れる。その支援のためにパキスタンで活動するとすれば、そこは、いわば紛争地域であって、アフガニスタン側からみれば、敵側と見なされ、攻撃の対象となる可能性が大である。中立的な活動とは見なされないのである。
しかも、そのような地域で武装した自衛隊が活動していることは、攻撃を受ける危険性を拡大する。
米軍支援のための新法では、難民の防護等という目的で、さらに武器使用の基準を拡大するという。しかも、使用される武器については、PKO法(22条)が小型武器に限定しているのに比して、制限がつけられないという。とすれば、機関銃や迫撃砲、さらにはロケット弾やミサイルまでも可能となるととなる。
これまで、海外での武器使用については、例えば、周辺事態法では、自衛隊の部隊等の自衛官が、「自己又は自己と共に当該職務に従事するものの生命又は身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合に、その事態に応じ合理的に必要とされる限度で」武器を使用することを認めている。この場合であっても、武器の使用は、自衛官が「職務に際して実施するもので、現場にいる上官の命令に従うことが前提」であり、「組織として武器を使用」することになるのであるから武力の行使に及ぶこととなる。
今回、このような武器使用の基準を、国際基準を適用又はそれに近づける方向で、さらに拡大しようというのであるから、武力行使に及ぶ危険がいっそう大きくなる。
以上、新法によって認めようとする自衛隊の海外派兵や支援活動は、いずれも、武力行使を伴う活動となるものであるから、それ自体、憲法9条に明確に違反する。これに加えて、小泉内閣は、新法の成立にかかわりなく、情報活動の名を借りて、武装した自衛隊の艦船をインド洋方面に派遣しようとしている。しかも、その根拠を「調査研究」というのであるから、国民を欺瞞することもはなはだしい。法的な根拠がないことは明らかである。
そもそも、日本国憲法は、その前文で明らかにしているように、「政府の行為によって再び戦争の惨禍の起こることのないやうにすることを決意し」て制定された。そして、「日本国民は」「平和を愛する諸国民の公正と正義に信頼してわれらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において名誉ある地位を占めたいと思ふ。」と高らかに宣言している。この憲法前文が、決して武力に頼ることなく、あくまで平和的手段による紛争解決を大前提としていることは、疑問の余地がない。軍事報復を支援するための自衛隊海外派兵によって「国際社会において名誉ある地位を占めたい」などという小泉首相の施政方針演説は、本末転倒もはなはだしい。
このようにして政府が軍事報復の支援を進めることは、一挙に憲法を踏みにじろうとするであり、絶対に許されない。
今回の軍事報復のための支援では、自衛隊の派兵される地域はアフガニスタン周辺といわれているが、活動地域としては公海及び外国の領域とされており、地域的な限定は全く存在しない。いわば世界中どこへでも、ということである。実際、ブッシュ米大統領は去る9月29日の全米ラジオ演説で、テロリストが潜むすべての場所が戦場であることを明言したうえ、「全軍が世界に展開中で、国の命令にこたえる準備を整えている」と説明している。二年間という年限などを設けたとしても、これでは、テロ組織がある限り、世界中どこでも、そしていつまでも、「戦争」が続くこととなる。それに対応して、国内外での自衛隊の支援が求められ続けることとなるのである。
これまで、政府は、周辺事態法に関して「インド洋とか中近東で発生したことが即我が国の平和と安全に重要な影響を及ぼすというような判定を下すような事態にはなかなかなりにくいんじゃないかと。」「そこが入らないと言わないけれども、入りにくい、入ることは極めてあり得ないんじゃないだろうか」と説明していた(98年4月16日3議院外交・防衛委員会、久間防衛長長官)。しかし、アメリカの軍事報復に対する支援の活動は、このような説明すら突破して、地理的にも、期間のうえでも、全く無制限な海外派兵が実現されることとなる。
このような海外への派兵は、そもそも自衛隊法自体が予定していない。自衛隊員にとっても、全く予想外の活動といわなければならないのであって、侵略に対する自衛のために勤務するという採用・雇用条件をも明確にはみ出る契約外の「任務」に他ならないことを付言しておく。
@ 証拠も根拠もない無限定な支援活動
政府・自民党は、自衛隊の海外での活動に関して、PKO法については国連の平和維持活動に対する協力を、また、周辺事態法については日米安保条約の円滑な遂行をそれぞれ目的にして、これらの法案の成立を強行してきた。
ところが、今回想定されている自衛隊の活動に関しては、その前提となる軍事報復について国連も武力行使を容認しておらず、また、日米安保条約によっても説明できないことが明らかである。しかも、9月29日のブッシュ大統領の演説に示されているように、国際的な広がりを持つと言われているテロ組織を対象としているだけに、どの範囲の組織を報復の目的とするのかも、どの地域で活動することになるのかも限定されていない。
しかも、アメリカ政府は、今回のテロ事件とテロ組織との関連について、明確な証拠をなんら提示しようとしていない。小泉首相も、渡米してブッシュ大統領と直接会談していながら、何ら証拠の提示を求めていないし、求めようとすらしていない。
このように、小泉内閣の態度は、結局は、アメリカの意向のままに、支援活動を進めるものといわなければならない。小泉首相は、主体的に判断したなどと説明しているけれども、今回の支援活動が日本政府の主体的な判断で行われるものでないことは、明らかである。
A 国会・国民無視の支援活動
自衛隊の海外派兵には、国会の承認すら要しないとするという。政府がどのような判断をもとに支援の具体的内容を決定し、それをどのように実行するのか、国民に全く知らされないままになるおそれもある。現に、イージス艦のインド洋派遣などが国会の議論もされないままに進められようとした。
さらに、日米間の協議や情報交換は、安全保障上の機密とされ、国会へも明らかにされない可能性がある。
これに対して、自衛隊法では、防衛出動及び治安出動について、いずれも、国会の承認を必要としている。しかも、防衛出動については、「特に緊急の必要がある場合」を除いては、事前の国会承認が求められている。不承認となれば、出動できないことになるし、事後に不承認の議決があった場合には、直ちに撤収を命じなければならない(自衛隊法76条、78条)。
今回の軍事報復の支援活動には、このような制約さえないのであるから、アメリカの判断を優先して、日本が自動的に参戦することになる。
アメリカの軍事報復のために、これまで政府自らがもうけてきた制限すら突破しようとしている。
前述したように武器の使用基準も国際基準を適用し、又はこれに近づけて拡大するという。実際上も、難民の防護に限らず、輸送や医療活動、情報活動などを妨害する勢力が攻撃してくれば、任務遂行上武器を使用することが不可避となるであろう。
しかも、今回の海外派兵される自衛隊は、武力行使・戦闘行為を行うことが明確となっている米軍に対する支援活動を行うというのである。このことは、すでに指摘したように戦闘地域とならない地域で活動することをいくら明らかにしても、自衛隊の支援活動が参戦行為と見なされ、自衛隊自体による武力行使を伴うこととなる可能性が極めて高いことを示すものである。
このように、今回の軍事報復支援では、武力行使を伴う自衛隊の海外への派遣が明確に実行されることとなる。
軍事報復の支援だといっても、その活動が開始されれば、日本そのものが参戦国となり、日本国内でも、軍事優先の施策が横行することになる。
例えば、軍事に関する情報及びそれに関連する情報が統制されて、一般国民に対する情報開示が一挙に後退する可能性が大である。ましてや、国家秘密法などの制定を進めることにもなる。
さらには、これらの支援活動のために、公務員や民間企業・一般国民に対する協力が提起される可能性も大である。
実際、小泉内閣は、もともと準備していた有事立法の制定について、いっそうピッチをあげて、その作業を進めるようとしている。土地や家屋などの施設など国民の財産の収用、軍用車両の優先、国家機密法の制定をはじめ、戦争を実施するための有事立法が一挙に制定されるおそれもある。
政府は、米国の報復戦争に参戦する新法の提出とともに、今国会に自衛隊法「改正」案を提出しようとしている。その内容は、テロなどから守ることを理由に、現行自衛隊法が定める「緊急事態」に至らなくとも、自衛隊に米軍基地、自衛隊施設などを警備させようというものである。
もともと自衛隊は、その存在自体が軍事組織であって憲法9条に違反し、その軍隊が「緊急事態」に「治安出動」の名で国内の治安に関与して国民に武器を向けることを認める現行法も、当然に違憲のものである。
「改正」案は、その違憲の構造をさらに、「緊急事態」でない場合にまで拡大し、自衛隊が常時国内秩序に対して武器をもって威嚇と抑圧の体制をとることにより軍事国家の道を一層すすめるものであって、違憲に違憲を重ねるものであり、断じて許されない。
そのうえ、「改正」案は、自衛隊が米軍基地を警備することを柱のひとつにしているが、それは、自衛隊が米国を「守る」ために日本国民に刃を向けることにほかならない。自衛隊は、米軍が国際法に違反した戦争を起こそうとすることに抗議してデモを行う人々、多発する米軍犯罪に抗議してデモを行う人々、米軍基地の異常な騒音に対して生活の平穏と健康の回復を求めてデモを行う人々など、国民が米軍基地に向かって当然の声をあげてきたとき、一体どういう行動をとるのであろうか。 テロの一般的な危険があると、軍服を着て銃口を向けるのであろうか。それを行ったら、自衛隊は今以上に米軍傘下の軍隊となり、もはや「日本の自衛力」とさえいいえない。
米軍施設の警備、防衛は、もともと安保条約や地位協定でも米国の役割となっている(地位協定第3条)。日本の役割はそれ以外の基地周辺の秩序維持であり、それは主として国民との関係になるから警察の任務となっていた。自衛隊の施設警備についても、国民との関係では警察の役割であった。
国民との関係で軍隊が直接接触するような権限が一般的に置かれていないのは、そもそも軍隊対国民という対抗関係は軍事独裁につながり、また国民との関係が生ずる警備業務は行政の根幹であって、その業務を本務とする組織が相応の研修と訓練を経て行うべきことだからである。その組織が警察であり、その法的保障が警察法、警察官職務執行法、刑事訴訟法などである。例えば、現在の実態と乖離があるにしても、警察法第1条は、警察組織を置く目的として、@個人の権利と自由の保障、A公共の安全と秩序維持、B民主的理念を基調とする管理運営を掲げている。自衛隊法3条は、@とBは完全に無視したものである。もちろん、自衛隊は警察業務を本務としていないし、必要な研修、訓練も何ら確保されていない。
したがって、自衛隊を対国民との直接接触が生ずる警察業務に従事させることは、国民の権利侵害を生じやすくさせるし、その行動が現在の警察以上に秘密的に(反国民的に)なることが容易に予想される。「改正」案は、現行の法体系の基本構造からも到底認めるべきものではないのである。
予定されている自衛隊法「改正」案では、武装工作員および不審船に対する対応のために、自衛隊の武器使用を含む活動、さらには武力行使に及ぶ危険性を拡大するものである。
また、国防上の秘密を取り扱う業務を防衛庁職員以外にも拡大し、あわせて、それらのものの秘密漏えいに対して、処罰規定を強化し重罰化をはかろうとする。
これらの自衛隊法「改正」は、軍事優先を露骨に強化するものに他ならないものであって、日本国憲法の平和原則をいっそうないがしろにするものといわざるを得ない。
1990年代の半ばから、日米両政府の間で、アメリカの世界戦略に日本の自衛隊を積極的に組み込んでいく動きが格段に加速されてきた。いま日本政府・与党が打ち出している米軍報復戦争支援策とそのための法案は、この日米両政府の軍事的な野望をさらに飛躍的に実現しようとするものである。
日米両政府は、1996年に安保共同宣言を行い、翌97年に新ガイドラインを合意した。これは日米安保を極東のみならずアジア・太平洋をもカバーする軍事同盟へと拡大するものである。この新ガイドラインを具体化するために、日本政府は99年、周辺事態法を国民の反対を押し切って成立させた。 2000年10月に、アメリカの対日研究グループが今後の対日・アジア政策の長期・計画的な方向性をつくる「アーミテージ・レポート」を出した。これがブッシュ政権の基本政策となった。このレポートは、総論に続いて、政治、安全保障、沖縄、情報、経済的な関係、外交の6つの個別テーマをもうけ、それぞれ現状と課題について踏み込んだ記述をしている。 安全保障の箇所で、現状について次のように記されている。 「アジアで紛争が起こる可能性は、米日防衛関係が周辺の目にはっきり映り、現実的なものであることが理解されることによって、劇的に低くなった。日本の提供による在日米軍基地の使用で、米国は太平洋からペルシャ湾に至る安保環境に影響力を行使することができる。日米防衛協力のためのガイドライン改訂版は、日米共同防衛計画の基礎となるものである。しかし、太平洋全域に広がった日本の役割の下限を定めたものとみなすべきで、上限を示すものではない」。
そのうえで、このレポートは「日本による集団的自衛権の禁止は米日間同盟協力にとって束縛となっている。この禁止を取り払えば、もっと密接で、もっと有効な安保同盟となるだろう」と苛立ちを示す。そして「米国と英国のような特別な関係が米日同盟のモデルだと、われわれは思う」としたうえで、「新ガイドラインの誠実な履行。有事法制の国会通過を含む。PKFの参加凍結解除。TMDに関する日米協力の範囲を拡大しなければならない」と日本に対する露骨な要求を示した。
これを受けて、2001年1月、森首相(当時)は、施政方針演説で、現職首相として初めて、法制化を前提とした有事法制の検討を開始すると発言した。
2001年3月23日、自民党国防部会が「わが国の安全保障の確立と日米同盟」を発表した。
ここには「アーミテージ・レポート」を受けたものであることが明記され、軍事秘密保護法制の整備、有事法制を含む緊急事態法制の整備、武器使用の拡大、PKF本体業務の凍結の解除、政府解釈の変更により集団的自衛権の行使ができるようにする、との決意が述べられている。
2001年5月22日、防衛戦略研究会議が2年間にわたる討議結果をまとめた「報告書」を発表した。
報告書は「アーミテ−ジ・レポート」への返書と自からを位置付けている。報告書は2020年までに手をつけなければならない課題を優先順位で並べるとして,@PKFの本体業務の凍結解除、A多国籍軍後方支援法の制定、B有事法制は民主国家の基本要件として法制化、CRMA(軍事における革命)推進体制の整備、D集団的自衛権をめぐる憲法解釈の緩和、E憲法9条2項の緩和、を掲げる。
報告書は、PKFの解除と多国籍軍後方支援法は、日本の軍事活動の地理的な範囲を拡大することを目指すものと規定する。さらに報告書は、集団的自衛権をめぐる憲法解釈の変更を求めるのは、武力行使との「一体化論」が現実の場面に遭遇したときに不都合が生じるからだという。例えばとして、捜索・救助の必要性が生じるのは、普通はむしろ前線に接近した地域であり、いったん友軍である米軍が活動に入った場合、後方地域と前線との線引きは難しい。だとすれば憲法上の制約を理由に地理的範囲を厳密に制限することは周辺事態安全確保法を有名無実化したり、日本がミサイル防衛に取り組む場合の情報共有に支障が生ずるからだと説明する。
この報告書は最後に、あからさまに憲法9条2項の制約の実質的な緩和を行うことにアプローチすると宣言している。
この脈絡をみるならば、政府・与党の米軍軍事支援法化の動きは、同時テロによる6千人以上の犠牲、さらにアメリカが報復戦争に突入すれば多くの戦死者、難民の餓死者が生じる人類の不幸な事態を格好の機会として自分に都合のよいように利用して、一気にこれまでの歴代政府も超えなかった憲法9条2項の制約枠を撤廃しようとするものである。小泉首相がいくら「憲法の枠内で」を繰り返そうとも、それは規範力のない枕言葉にすぎず、小泉政権はまさに憲法9条2項を葬ろうとしている。
日本国憲法9条は、いかなる理由であれ、あらゆる戦争、武力行使・威嚇を否定した。それだけではなく日本に対して敵対的態度をとった外国に対しても、「平和を愛する諸国民」との連帯・連携によって、安全を確保することを求めている(前文)。今重要なのは、日本が憲法の立場にたって、国際紛争を平和的に解決する努力をすることである。今回のテロ問題でも、中東の紛争にさまざまに関与し、武器や資金を提供してきたアメリカと違い、日本は中東のいかなる紛争にも関与せず、武器輸出もしていない。西側先進国の一員であり、日米安保条約でアメリカと軍事的同盟関係にあることを自ら強調する一方で、中東に対しては、ある意味で適切な距離を保ってきたともいわれている。このような欧米諸国と異なる日本の立場を生かして、平和的外交手段を発揮することができる条件も十分あると考えられる。日本がこの立場を生かし、武力行使を望まない諸外国と連帯して積極的に外交努力を展開すれば、今回の問題でも平和的解決のために努力する道は十分存在する。
ところが、一方で、日本が「目に見える」支援をしなければ、「アメリカや国際社会から信頼をなくす」という意見が盛んに振りまかれている。しかし、このような意見こそ、アメリカのフィルターを通してしか見ない偏狭な見解に他ならない。現在、国際紛争を武力ではなく平和的手段で解決すべきであるという立場は、国際法秩序の中で主流の立場になりつつある。20世紀、幾多の戦争を通じて、国際社会は戦争を違法化してきた。不戦条約(1928年)では戦争の違法化を宣言し、国連憲章(1945年)では、戦争だけでなく武力による威嚇、武力行使までを一般的に違法化し、国際紛争の平和的解決の原則を宣言した。そして、1999年のハーグ市民平和会議では、世界秩序基本原則の第1に日本国憲法9条を挙げ、「自衛」も含めて国際紛争の解決に武力の行使をしないことを宣言したのである。国際紛争は武力でなく、平和的手段で解決すべきであることは、いまや世界の常識になりつつある。
憲法9条を有する日本こそ、あらゆる平和的手段を駆使して紛争解決のために積極的な努力を展開するべきであり、いま、この立場こそが世界各国からも求められている。
2001年10月4日
編 集 自由法曹団沖縄・改憲問題特別対策本部
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