<<目次へ 【意見書】自由法曹団
2001年10月22日
自 由 法 曹 団
「テロ対策特別措置法」案(報復戦争参加法案)及び自衛隊法「改正」案は、いずれも10月5日国会に提出され、わずか5日間の委員会審議で衆議院の採決が強行された。しかし、この短期間の審議を通じても、これらの法案には、いずれも憲法の基本原則、平和と人権・民主主義そのものに関わる重大な問題がある。
この法案を成立させてアメリカの報復戦争に日本が参戦するかどうかは、日本が実際に「戦争する国」となるのかどうかの岐路に他ならない。また、防衛機密保護のための処罰規定を飛躍的に拡大する条項を含む自衛隊法「改正」案は、衆議院ではほとんど議論されていないが、国民の知る権利や民主主義にとって到底看過できない。
このような法案について、主権者の国民を代表し国権の最高機関である国会において、拙速な審議で結論が出されることは決して許されない。
私たち自由法曹団は、全国の弁護士1600名で組織され平和と民主主義のために活動している法律家団体であるが、これまでの国会審議をふまえ、法案をあらためて検討し、参議院で解明すべき問題点を整理した。
良識の府である参議院においては、決して拙速な「法案処理」に終わることなく、これら重大な問題点について慎重かつ十分な審議を行い、国際法や憲法の基本に照らしてどう考えるべきか、国民の前に明らかにする責務がある。本書面で指摘した問題点を十分検討のうえ、参議院としての責務を果たされるよう願うものである。
国際連合憲章は第2条4項で武力行使を原則として禁止した。国連憲章が例外的に許容する武力行使は、自衛権行使(51条)と安全保障理事会の決定による軍事措置(42条)のみである。
(1) 鵜呑みにできないアメリカの「自衛権行使」
今回アメリカは同時多発テロはアメリカへの戦争行為だと規定し、自衛権行使を理由にアフガニスタンへの攻撃を正当化し、日本政府もそれを鵜呑みにしている。
けれども、国際法上の「戦争」は国と国との間の武力行使を言うのである。テログループという非国家的組織による武力行使に対して、自衛権行使としてアフガニスタンに武力行使するには、アフガニスタンによる正規軍の武力行使、もしくはこれと同視しうる実質的関与が必要である(ニカラグア事件に関する国際司法裁判所1984年11月26日判決)。タリバン政権がビンラディンのグループを匿っているということだけで、武力行使と同等の関与をしているとは到底いえない。仮に、同時多発テロ行為を国家の武力攻撃と同視したとしても、国連憲章51条の自衛権行使には「緊急性」の要件が必要である。テロ攻撃から4週間もの時間を経過した後は、すでに緊急性の要件を満たさず、自衛権行使はできない。
したがって、アメリカの攻撃を憲章51条で許容された自衛権行使と見ることはできない。
(2) 武力行使を認める国連安保理決議も不存在
今回の事件で安保理は軍事措置を認める決議もしていない。この点、国連安保理決議1368号の中で、「憲章に従い個別的または集団的自衛の固有の権利を認め」るという部分、「テロ攻撃に対処するためにあらゆる必要な措置をと」るという部分をもって、国連が武力行使を許可したという主張がある。しかし、前者は個別的集団的自衛権が認められることを確認しただけの意味であり、後者の主語は「安保理」であって、いずれも軍事措置を認める根拠にはならない。したがって、国連憲章42条に基づく武力行使と見ることもできない。
結局、アメリカのアフガニスタン攻撃は、「友好関係宣言」(1970年10月24日国連総会決議2625付属書)で禁じられている「武力行使を伴う復仇行為」なのであり、国際法上認められない違法な武力行使なのである。
(3) テロ根絶に向けての国際的努力の積み重ねに反する
そもそも、ビンラディンらのテログループの犯罪行為に対し、国連安保理は数回にわたる決議で、身柄の引き渡し勧告、資産の凍結など対応を積み重ねてきた。そして決議執行の実効性を確保するために安保理に委員会を設け、現在、2001年末まで期間を区切って制裁の実効性を検証している最中なのである(1333号決議)。
このような制裁を積み重ねて平和的解決を目指していくべきなのである。アメリカのアフガニスタン攻撃はこのような国際社会の努力をまったく無視するものと言わざるを得ないのであって、紛争を国連中心に理性で解決しようとする国際法秩序を自ら踏みにじるものである。
さらに、問題なのは、国連安保理決議による要請に対して、日本がまともに取り組もうともしてこなかったことである。例えば、1999年10月15日の国連安保理1267号決議では、ビンラディンの引き渡しを求めるとともに、タリバン関連の資産凍結が呼びかけられた。ところが、日本がこれを実際に実行したのは、今回の事件発生後の2001年9月22日になってからである(10月4日衆議院予算委員会、横路孝弘委員に対する田中外相の答弁)。このようにテロ対策を呼びかけた国連決議を実行しようともしなかった日本が、その努力を無視して、アメリカとともに突如として軍事行動に走ることは、国際法や国連の取り組みに二重に反すると言わなければならない。
(1) 犠牲を拡大する報復戦争
アメリカの武力攻撃は、罪のない多数の人々を殺戮している。日本の参戦は、この殺戮行為を共同して行うことである。
アメリカが報復戦争を開始してから約2週間が経ち、10月20日には特殊部隊が活動を開始した。報復戦争によって罪のない多数の人々が犠牲にあい、刻一刻と悲惨な状況が生じている。飢餓で苦しむ膨大な人々に対する国際機関の援助活動は中断し、放置されている。
米軍の空爆によって、地雷除去にとりくんでいた国連NGOの職員が死亡した。また、赤十字国際委員会の倉庫、小学校、カンダハルの市場なども爆撃され、死傷者は数百人という多数を数えるに至っている。
国外に逃れたアフガン難民は同時多発テロ事件前でも370万人いたが、毎日約2000人がパキスタンに脱出している状況にある。今後150万人の難民流出が予想されている。国連児童基金(ユニセフ)アフガニスタン事務所によれば、援助が数週間のうちに届かなければこの冬10万人の子どもたちが死亡してしまうという状況である。
テロ組織とのたたかいということであるが、何の罪もない一般人を多数犠牲にする権利はアメリカといえども絶対に有していない。
(2) 報復戦争と日本の参戦は問題解決に逆行する
テロの根絶のために何より重要なことは、イスラム世界を含め国際世論と国際政治の場でテロ勢力を追いつめる大同団結を築くことである。テロリストは世界各地にいると言われている。テロをなくしていくには、テロという国際犯罪がどこでも許されない犯罪として告発され、非難され、テロリストの逃げ場がない状態を世界中に作り出すことが必要不可欠である。
ところが、報復戦争によって罪のない犠牲者が増大することに伴い、テロ勢力を追いつめる国際的団結が壊れるというまったく逆の作用が生じている。
例えば、パキスタンやアフガン難民の多くの人々は、自分たちの肉親や知り合いが犠牲にあう中で、アメリカに対する憎悪と激しい非難を浴びせている。
パキスタンのクエッタでは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の事務所が襲われた。反西側、反米の感情が国連や人道援助機関にすら向かっている。
マレーシアのマハティール首相やインドネシアのメガワティ大統領は、厳しい反対の声を挙げ、イスラムの民衆の中から激しい抗議の行動が起こっている。
このようにテロ反対という点では、かつてない国際的一致が現に存在しているにもかかわらず、報復戦争が強行されたために、報復戦争を認めるか否かで大きな亀裂が生まれている。民衆の間でも報復戦争に対する反対運動が強まっている。テロ勢力は、テロ活動を正当化する口実を得た、自分たちの逃げ場や隠れ家をつくりだせる、テロリストを獲得できる新しい土壌が生まれたと判断しているのではないだろうか。
モハマド・アリ・アブタヒーイラン副大統領は、朝日新聞(10月19日付)に寄稿した論文の中で、次のように述べている。
「イスラムの人間が心から世界の平和を望んでいることを地球上すべての人々に理解してもらうために無数の研究がなされ、多くのシンポジウムが重ねられた。そうした努力の結果、イスラム過激派のテロや暴力思想は完全に否定され、民主的イスラムの方がいいと人々も納得した。真のイスラム精神に注意を払わない政府やイスラム過激派は反発したが、ビンラディン的思想は影を潜めていた。・・・米英のアフガン攻撃は間違いなくビンラディンを英雄にし、彼らの過激思想も息を吹き返すだろう。そこに我々の憂慮がある。」と。
報復戦争は、以上の意味で、テロ問題の解決に逆行するものである。日本の参戦もまた、同様の意味を持つ。すでに、パキスタンでは、反米とともに、小泉首相糾弾の声が挙がっている。衆議院特別委員会において、現地で活動しているNGOも、自衛隊派遣は、「当地の事情を考えて有害無益」と陳述している。
事態解決にとって重要なのは、テロ集団を拘束し、法の裁きのもとにおくことであるが、これは、1つの政権を軍事攻撃で打倒したり、1、2の幹部をとらえたからといって達成できるものではない。何より重要なのは、イスラム世界を含めた国際世論でテロ勢力を追いつめることなのである。
(3) 平和と安全にとって重大な危険を招く報復戦争と日本の参戦
第1に、パキスタンを中心として、とりわけイスラム諸国の間で反米運動が大きく盛り上がっており、緊張した状態が続いている。パキスタンでは、デモが拡大してきており、数万人規模で行われている。
ルベルス国連難民高等弁務官は、「政治的な解決が何よりも優先されるべきだ。・・・米英がアフガニスタンとその周辺地域から撤退し、国連や援助機関に地域安定の責任を委ねるのが早いほど、紛争の危険は少なくなる」と述べている。
他方、パレスチナにも緊張状態を招いている。イスラエルのゼービ観光相の暗殺に端を発し、パレスチナ人が少年も含め数人が死亡し、イスラエル軍がパレスチナ自治区ベツレヘムに戦車部隊を侵攻させ、市中心部近くまで占拠する事態となっている。
アメリカがアフガニスタン以外の国にも武力を行使する可能性を示していることもあわせ考えると、大規模戦争になる危険が生じている。日本の参戦は、こうした大規模戦争に共同するという危険を意味する。
第2に、テロを誘発する危険がある。
アメリカでは、炭疽菌がダシュル上院院内総務やテレビ局NBCのキャスターなどのマスコミに送られ、発症者は8人となった。同じ場所で培養されたことが明らかとなっており、テロの疑いがもたれている。
軍事報復はテロを続発させることが憂慮される。
第3に、日本が参戦すれば、日本にもテロが及ぶ重大な危険が生ずる。
すでに、米軍基地の集中する沖縄への修学旅行や団体旅行が次々にキャンセルされ、20万人の客を失うこととなり、沖縄経済は重大なピンチとなっている。
日本人が今までに経験したことのないテロの恐怖にさらされることになる。
(1) 首相自ら認める答弁不能
小泉首相は、本法案における憲法解釈について「確かにあいまいさは認めますよ、あいまいさ。すっきりした、明確な、法律的な一貫性、明確性を問われれば、答弁に窮しちゃいますよ」と自ら答弁不能に陥ることを認めている(10月5日衆院予算委員会、中井洽委員に対する答弁)。そして、小泉首相は、「武力行使しないんですから、集団的自衛権には当たらない」と繰り返している(10月16日衆院特別委員会、岡田克也委員に対する答弁)。小泉首相は、積極的な憲法上の根拠を説明することは回避し、逆に、無理な憲法解釈をしていることを自ら認めていると言わざるを得ない。
(2) 武力行使だけでなく武力による威嚇も問題
アメリカがアフガニスタンで進めている武力行使に対し、これに不可欠な支援活動を、武装した自衛隊が担うとすれば、これは、とりもなおさず、日本も武力行使を行っていることに他ならない。しかも、武装した自衛隊が武力紛争地域の付近に派兵される、例えば攻撃力を備えた自衛隊のイージス艦や護衛艦がインド洋やアラビア海などで活動すること自体が、相手国ないし第三国に対する武力による威嚇となりうる。
のみならず、捜索救助活動は、戦闘中に際して又は陸上において、海上に墜落したり行方不明になった米軍等の将兵を自衛隊が捜索し、救助する活動である。自衛隊によって救助される戦闘員は、再び戦闘員として戦闘に赴くことになるのであるから相手国からみれば、自衛隊の行動は戦闘行為の一部とみなされ攻撃を受けるおそれがある。
被災民救援の活動を含めて、これらの活動に端を発して、自衛隊が武器を使用し武力行使に及ぶ事態は十分想定される。
日本国憲法は、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としてはこれを永久に放棄する」(9条1項)と明記しており、国際紛争としてテロ問題を解決するために武力を行使することは絶対に許されない。のみならず、「武力による威嚇」も許されないのであって、「武力による威嚇」には一言も触れない小泉首相の答弁は、二重の意味で憲法の明文を無視するものである。
(3) 「集団的自衛権の行使ではない」では通用しない
「集団的自衛権の行使でない」という説明は、アメリカが自ら自衛権の発動と説明し、NATOが集団的自衛権行使として支援を決定したこととも、明らかに矛盾する。NATOの支援内容は、以下の通りであって、これは、本法案で自衛隊が行うとされる「支援協力活動」等と内容とほぼ同一である。
すなわち、NATOは集団的自衛権行使として次のような支援を決定している。
「1は情報の共有及び協力の向上。2、テロリストによる脅威にさらされている、又はその可能性のある国家に対し、個別的または集団的に適切かつみずからの能力に応じて支援を提供すること。3、関連施設の安全を向上させるための必要な措置。4、テロに対する作戦を直接的に支援するために必要とされるNATOの責任地域における特定のアセット(資産)を補てんする。5、テロに対する作戦に関連する軍事飛行のために包括的上空飛行許可を提供する。6、給油を含むテロに対する作戦のために港湾及び飛行場へのアクセスを提供する。7、常設艦隊の一部を東地中海に展開する用意。8、空中早期警戒戦力の一部を展開する用意等」である(10月10日参院予算委員会、筆坂秀世委員に対する田中外相の答弁)。
結局、本法案による自衛隊の活動は、NATOも認めるとおり集団的自衛権行使そのものであって、「集団的自衛権の行使でない」とする政府の説明は国際的に通用しないものであり、国民を欺罔するものと言わざるを得ない。
(1) 場所のいかんを問わず協力支援活動は武力行使の不可欠の一環
法案2条に定められる協力支援活動の内容は、3条別表第1に列挙されているとおり、補給、輸送、修理、医療、通信、空港及び港湾業務並びに基地業務である。近代戦においてこれらが武力行使の不可欠の一環であることは明白である。旧日本軍のガダルカナル、インパールなどをひくまでもなく補給線の切断は戦闘の遂行そのものを不可能にする。補給線の切断により兵器・弾薬は枯渇し、兵士は疲弊し餓死したり病気に倒れる。
衆議院の論戦の中で日本の協力支援活動がまさにこうした武力行使の不可欠の一環を構成することが明白になった。小泉首相は、10月12日の特別委員会で、「どこの基地から武器が運ばれるか、この物資が、水にしてもあるいは医療器具にしても武器にしても、これ、どこで使われるから運びます、どこで使われないから運びません、そういうことはしないですよ。」と答弁しているのである(児玉健次委員に対する答弁)。
また、法案は、航空機であれば、「戦闘作戦行動のために発進準備中」は除外しているけれども、それ以外はすべて可能としており、例えば、待機中の航空機への給油も整備も可能である。航空機でないもの、艦船、戦車、車両などについては発進準備中であろうともまた、発進したあとでも給油が認められることになる。武力行使の不可欠の一環であるとともに、戦闘行為にきわめて密着した行為でも認める趣旨である。
第2次世界大戦中に日本の輸送船がアメリカ軍により多数撃沈され多くの民間人たる船員が命を失ったことは歴史の真実である。もともと補給活動は武力行使の不可欠の一環でありそれだからこそ攻撃を受ける可能性がきわめて強いものなのである。自衛隊が紛争の渦中に進んで突入して行くに等しいことは場所のいかんを問わないのである。
(2) 「コンバットゾーン」で行われる協力支援活動
以上に加えて衆議院の論議の中で明らかになった一つに、協力支援活動が行われる地域の問題がある。アメリカの中央軍はコンバットゾーンとして、アフガニスタンとその空域、及びその近海として設定するよう要請している。これに対して小泉首相は「米軍が指定するコンバットゾーンと、日本が今この法律で指定している戦場と、定義が違うんです。」(10月12日衆院特別委員会、児玉健次委員に対する答弁)。このようにして、政府はアメリカのコンバットゾーンにおいて協力支援活動をすることを事実上認めている。法案と政府が予定している活動地域は決して「後方」などではなく、アメリカで言えば戦闘地域も含まれる地域なのである。
政府は、ペルシャ湾の艦上からミサイルが発射されたときでも「人の誘導などを受けて初めて目標に到達して爆発する構造になっている場合は、その当該ミサイル発射事態は、直ちに人を殺傷し、又はものを破壊する行為には当たらないというふうに考えておりまして……」「(情報を)総合的に分析することによって、我が国として主体的かつ合理的な判断をおこなう」などとしている(10月16日衆院特別委員会、木島日出夫委員に対する中谷防衛庁長官の答弁)。また、「空母があるところでそういうふうな行為(人を殺傷し物を破壊する行為)が行われていない」とか「なにも発射していない時間帯も十分あります」とも説明している(10月15日衆院特別委員会、山口富男委員に対する中谷防衛庁長官の答弁)。この点だけ見ても、法案でいう「戦闘行為が行われていない地域」というのが、判断者の主観で伸縮自在のあやふやな概念であり、一瞬のときを捉えて戦闘行為が行われていないと言ったりすることも含め、実際は際限なく拡がるものであることもまた明らかになった。もともと戦闘行為は部隊なり艦船が展開していれば何時、どのようなかたちで攻撃が仕掛けられるか予測がつかないはずのものである。「相手の所在と相手が保有している武器が100パーセント正確に把握できており、かつ射程の範囲外であるとき」以外は、すべて「戦闘地域内」のはずである。衆院での今国会の政府答弁によって協力支援活動は、最前線に限りなく近づいたところで行われ、武力攻撃にさらされる可能性のあることがあらためて明らかになった。
(1) 停戦・中立性の欠如など決定的違い
政府は、自衛隊がザイールに派遣され平成6年12月までルワンダ難民支援で活動した経験などを紹介し、本法案の規定がPKO法で定める人道的な国際救援活動とほぼ同様だとして、本法案による難民支援の活動を正当化しようしている(10月16日衆院特別委員会、川村勇委員の質疑及び中谷防衛庁長官の答弁)。
けれども、本法案は、PKO法と全く異なる。すなわち、PKO法は、「わが国の国際平和協力として『国連平和維持活動への協力』、『人道的な国際救援活動への協力』、『国際的な選挙監視活動への協力』の三つの柱を規定するとともに、いわゆる参加5原則(表参照)に従って活動を行うべきことを定めています。」とし、この参加5原則は、「@ 停戦の合意が存在している、A 受入れ国などの同意が存在している、B 中立性を保って活動する、C 上記@ABの原則のいずれかが満たされなくなった場合には一時業務を中断し、さらに短期間のうちにその原則が回復しない場合には派遣を終了させる、D 武器の使用は自己または他の隊員の生命、身体の防衛のために必要な最小限度に限る」と政府も説明している(内閣府国際平和協力本部ホームページより)。
今回の法案では、このような限定がことごとく取り払われてしまうこととなる。
また、ルワンダ難民支援では、内戦が終了した後に、中立的立場にあった日本の自衛隊がルワンダの隣国のザイールに派遣された事例である。これに対して、本法案で当面、想定されているのはアフガニスタン難民に対する活動であるが、ルワンダ難民支援の時と異なり、アフガニスタンでは停戦合意も成立していないばかりか、むしろ戦闘が行われている状態のもとで、自衛隊を海外派兵させようというのである。もちろん、アフガニスタンの同意などは得られようはずもない。
問題なのは、日本の行う難民支援が中立的な立場での活動にならないということである。このことは、小泉首相も「テロとの闘いに中立的立場はとりません」と明言しているとおりである(10月12日衆院特別委員会、辻元清美委員に対する答弁)。そもそも、日本は、アメリカ軍等の支援のために参戦し、海外派兵された自衛隊が武力行使の活動を展開しているのであるから、難民救援の活動においても、中立と見なされることはないのである。
(2) 武力行使に及ぶ危険
しかも、パキスタンとの国境が封鎖されたもとで多数の難民が生じているおり、空爆が開始された後はさらに難民は増加するばかりである。その支援のためにパキスタンやウズベキスタン等で活動するとすれば、そこは、いわば紛争地域であって、アフガニスタン側からみれば、敵側と見なされ、攻撃の対象となる可能性が大である。
さらに、今回の法案は、後述のように武器使用の範囲も大幅に拡大した。別項で指摘するように発生した暴動に対する武器使用も否定されていない。
結局、そのような地域で武装した自衛隊が活動することは、相手方から攻撃を受ける危険性を拡大する。実際、難民の中にいるテロリストやゲリラからの攻撃も十分あり得ると言われている。これでは、自衛隊が紛争の渦中に自らを投じるといっても過言でない。自らが直接武力行使の当事者となる危険が大である。
(1) 限定のない武器の種類
使用される武器の種類については、PKO法(22条)が小型武器に限定しているのに比して、制限がつけられない。とすれば、機関銃や迫撃砲、さらにはロケット弾やミサイルまでも可能となる。
実際、政府も、自衛隊が海外で装備・携行する武器は、不測の事態に適切に対処しうる必要最小限のものとしながら、(武器の)「具体的な種類等につきましては、実際に派遣する場合に、それぞれの具体的な活動内容、現地の状況を総合的に勘案して決めたいというふうに思っております」と説明している(10月16日衆院特別委員会、井上喜一委員に対する中谷防衛庁長官の答弁)。これは、武器の種類について限定がないことを認めたものにほかならない。
(2) 武器等防護のための武器使用の許容
しかも、本法案では、自衛隊法「95条の武器防護も認めております」という(10月15日衆院特別委員会、玄葉光一郎委員に対する中谷防衛庁長官答弁)。つまり、武器・弾薬や船舶・航空機・車両、燃料、通信設備などが攻撃された場合にも、自衛隊による武器使用が認められるということになる。そのために必要な武器となると小火器でなく、相当な重装備ということになってしまうばかりか、武力行使に及ぶ危険も、いっそう広がる。
(3) 現地の暴動にも武器使用を許容
本法案では、「他の自衛隊員もしくはその職務を行うに伴い自己の管理下に入った者の生命又は身体の防護のため」の武器使用も認められることとなる。難民以外でも、野戦病院で診療中の傷病兵、輸送中の外国の兵員、現地機関や外国軍隊の連絡要員、視察者、救助した戦闘員、視察者、招待者なども含まれることになり、例えば、PKO法による場合よりも、武器が使用できる範囲が拡大することを政府も認めている(10月11日衆院特別委員会、河合正智委員に対する福田官房長官の答弁)。そして、反米デモ等が発生した場合等に関して、政府は、暴動に対しても、「急迫不正の侵害が継続をしていると判断した場合」、武器を使用して「人に危害を加えることはできる」と説明している(10月15日衆院特別委員会、山口富男委員に対する中谷防衛庁長官の答弁)。
(4) ROE(交戦規則)にもとづく違憲の武器使用は自然権行使といえるか
政府は、武器の使用は現場の判断による場合があることを認めている(10月15日衆院特別委員会、山口富男委員に対する福田官房長官答弁)。他方で、「ROEという武器使用のルールを定めて」ルールに基づいて使用統制すると説明している(同中谷防衛庁長官答弁)。しかし、ROEというのは、「rules of engagement」の略称であり、交戦規則を意味するものであって、「武力行使の条件や限界など軍事行動の基本的枠組みを定めたもの」である。これを作成することもそれが存在することも、交戦権を否定した憲法9条2項に明らかに違反する。
さらに、法案による武器使用を、「自己保存のための自然権的権利」として「認められている武力行使の範囲である」と説明している(同上福田官房長官答弁)。けれども、その判断は、結局は、現場に任せられるのであって、これでは実際の武器使用の基準が限定されないのに等しい。のみならず、前述のように自衛隊法95条により武器・弾薬や船舶・航空機・車両、燃料、通信設備が攻撃されたときにも、これを防護するために自衛隊に武器の使用が認められるのであるから、「自己保存のための自然権的権利」では到底説明がつかない。
衆議院では、本法案が「対応措置の実施につき」事後20日以内に、国会での承認を要すると修正された。
しかし、事前承認は要しないとされているため、政府がどのような判断をもとに支援の具体的内容を決定し、それをどのように実行するのか、国民に全く知らされないままに、世界のどこへでも派兵が先行することになるおそれがある。さらに、アメリカとの協議や情報交換は、軍事上の機密(防衛秘密)とされ、国会へも明らかにされない可能性がある。このことは、後述するように自衛隊法「改正」により防衛秘密保護規定が提案されていることとあわせて、きわめて重大である。
しかも、事後の承認を要する対象は、「対応措置の実施」に絞られてしまうのであり、基本計画そのものについて承認を要するとされていない。そのこと自体、国会の意思を軽視するものに他ならない。
そもそも、自衛隊法では、防衛出動について、「特に緊急の必要がある場合」を除いては、事前の国会承認が求められている。不承認となれば、出動できないことになるし、事後に不承認の議決があった場合には、直ちに撤収を命じなければならない(自衛隊法76条、78条)。
小泉首相は、「それは突き詰めていけば、政府を信頼できるか信頼できないかということだと思います。」(10月16日衆院特別委員会、岡田克也委員に対する答弁)等と答弁しているけれども、この答弁は、民主主義の基本原則に対する誤った理解に基づくものであり、国権の最高機関として政府をチェックするための国会の役割を軽視し、主権者国民の意思を無視するものに他ならない。
今回の法案は、防衛秘密に関する現行自衛隊法の処罰規定より対象者・処罰範囲とも拡大し、罰則を強化した点で重大である。
(1) 国民に矛先を向ける処罰対象の拡大
まず対象者となる「防衛秘密を取り扱うことを業務とする者」は、現行自衛隊法に規定される自衛隊員のみならず、防衛庁以外の国の行政機関の職員と民間人にも拡大している。そして故意の秘密漏洩を5年以下の懲役(自衛隊法では1年以下)、過失による漏洩を1年以下の禁錮または罰金(現行法では処罰なし)として処罰する。そしてこれら全ての場合に、「共謀」「教唆」「煽動」を3年以下の懲役とする。
現在自衛隊がその装備調達の発注をしている企業は膨大な数に上る。これらの膨大な企業に関わる情報が「防衛秘密」のなかにとりこまれる。そして、これら「防衛秘密」に関与する労働者・技術者・業者ということになると、兵器・艦船・航空機の製造・修理のみならず、航空、港湾、海運、建設、陸運、医療、情報産業等きわめて広範な産業に従事する労働者が対象者になりうる。これら民間人・労働者が防衛庁長官の指定により、「防衛秘密を取り扱うことを業務とする者」とされ、秘密保護の義務を負わされ、故意過失を問わず漏洩を処罰されることとなる。国民多数に処罰の矛先が向けられる点で重大問題である。
(2) 独立に処罰される教唆・扇動
法案は、「共謀」「教唆」「扇動」を独立構成要件とし、3年以下の懲役刑で処罰するとしている。国民や報道機関が、防衛情報の公開を求める行動を起こす正当な行為自体が「共謀」「教唆」「煽動」として処罰されかねないこととなる。とりわけ、問題なのは、教唆・扇動が独立して処罰されることである。国民の知る権利、取材・報道の自由を著しく制約する重大問題である。
「教唆」とは他人をそそのかして犯罪の実行を決意させることをいう。教唆犯の故意は確定的故意であることを要さず、未必的なもので足りるとされている。法案では、教唆された者が実行に至らなくても、教唆行為そのものが処罰の対象となる。これによれば、防衛庁長官が指定した秘密の開示を求める要請行動や要求活動、取材行為などが、独立教唆罪に問われ、3年以下の懲役刑の対象となる危険性がある。
さらに、「改正」案は、新たに秘密漏洩の「煽動」をも処罰の対象としている。これもきわめて重大である。「煽動」とは、他人に犯罪の実行を決意させ、あるいはすでにある決意を助長するような勢いのある刺激を与えることをいう。この場合、煽動された者が現実に決意したり、決意を助長される必要はなく、また煽動の相手方は不特定又は多数であればよいとされている。これは独立教唆に比べてもさらに曖昧であり、処罰範囲は著しく拡大される。
(3) 知る権利・報道の自由を萎縮・抑圧する処罰規定
中谷防衛庁長官は、外務省漏洩事件最高裁判決(いわゆる「西山記者事件」)を引用し「報道機関者による教唆は、手段・方法が刑罰法令に触れる、例えば贈賄、脅迫といった犯罪行為を用いるような場合、また当該防衛秘密を取り扱うことを業務とする者の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙するなど、法秩序全体の精神に照らして社会観念上是認することができない形態でなければ教唆に該当いたしません」と述べ、「改正」案についても「考え方は西山事件と同様」と答弁している(10月16日衆院特別委員会、今川正美委員に対する答弁)。
しかし、この答弁のような限定は、法文には一切明確に記載されていない。
ここで引用された西山記者事件は、国家公務員法上の秘密漏洩罪の「そそのかし」罪の合憲性と取材行為への適用が争われた事件である。この事件の一審は無罪、控訴審は「そそのかし」罪を合憲限定解釈して西山記者を有罪とした。最高裁判決は、取材行為も国家公務員法上の「そそのかし」という犯罪構成要件に該当するとしたうえで、しかし正当な取材活動であれば、刑法でいう「正当業務行為」にあたるとして、違法性を阻却する余地を示した。
前記防衛庁長官の答弁のとおり、今回の「改正」案で西山事件最高裁判決に従った運用がされるとすれば、防衛庁長官の指定した秘密についての開示を要請する取材行為は、「教唆」の構成要件に該当することになる。
実務上、犯罪構成要件に該当すれば違法性が推定され、違法性阻却事由の有無は訴追された側の立証責任となる。犯罪構成要件に該当する行為があれば、逮捕を含む強制捜査、起訴がなされる可能性が高いことは実務の通例である。したがって、防衛秘密に対する取材行為を理由にして、報道関係者に逮捕・捜索などの強制捜査が実施され、さらには起訴される可能性が広がる。
これは、明らかに言論弾圧の危険性を内包するとともに、防衛情報に関する正当な取材行為を萎縮させることを狙ったものである。取材・報道の自由に対する影響は極めて甚大である。
取材行為が「改正」法案の構成要件に該当しないというのであれば、その旨を法律上明記すべきである。しかるに「改正」案は、漠然として不明確な「教唆」という文言で取材行為をあくまで処罰の対象としている。報道の自由に対する萎縮・抑圧が生じることを意図したものであり、「本法案が報道の自由を侵す危険を有するものであるということはありません」という中谷防衛庁長官の答弁がまやかしであることは明白である。
(4) 国政調査権行使や市民の活動に及ぼす抑圧・萎縮
この「改正」法案により抑圧・萎縮の効果が及ぶのは、報道機関だけではない。国会議員ないし秘書、政党職員が国会外で調査活動として防衛秘密の開示を求める行為、民間のシンクタンクやNGO、平和団体、市民団体、個人が防衛情報の開示を要請する行為なども、「教唆」として処罰の対象となる。これは議員の国政調査の行使を抑圧・侵害するのみならず、国民一般の知る権利の行使を萎縮させ抑圧しようとするものである。
特に、煽動罪は市民運動、大衆運動の抑圧・弾圧に悪用される危険性が極めて高い。情報公開を求める市民の活動や運動、請願等も「煽動」に該当するとされる危険がある。
政府に軍事情報の情報公開を求める宣伝行動やビラ配布も、そして軍需産業の労働者に現状告発を訴える行為も、「煽動」として処罰される危険性がある。
以上のように、国民の知る権利の正当な行使や、報道機関、国会議員の活動まで萎縮させ、抑圧することを狙う処罰規定は、個人の尊厳を定めた憲法13条、表現の自由を定めた同21条、適正手続きの保障を定めた同31条、議院の国政調査権を定めた同62条のいずれにも違反するものである。
(1) 秘匿対象は防衛情報全てに及ぶ
「改正」法案には、防衛庁長官が防衛秘密として専権指定できる情報が「別表4」として次の通り列挙されている。この情報は極めて広範である。
1 自衛隊の運用又はこれに関する見積り若しくは計画若しくは研究
2 防衛に関し収集した電波情報、図画情報その他の重要な情報
3 前号に掲げる情報の収集整理又はその能力
4 防衛力の整備に関する見積り若しくは計画又は研究
5 武器・弾薬・航空機その他の防衛の用に供する物(船舶を含む)の種類又は数量
6 防衛の用に供する通信網の構成又は通信の方法
7 防衛の用に供する暗号
8 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物又はこれらの物の研究開発時段階のものの仕様、性能又は使用方法
9 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物又はこれらの物の研究開発時段階のものの製作、検査、修理又は試験の方法
10 防衛の用に供する施設の設計、性能又は内部の用途
このような包括的かつ広範な情報がすべて防衛秘密の対象となって国民から秘匿されることとなる。国民は、防衛予算や基地機能、防衛計画、作戦運用の実態、日本に配備される武器・弾薬・航空機に関する情報から一切遠ざけられる危険がある。
とりわけ、「自衛隊の運用」(1号)のすべてが防衛庁長官の指定により秘密となりうるのであるから、自衛隊の行い、行おうとする活動すべてを防衛秘密として国民から秘匿することも可能となる。日本がアメリカとどのような憲法違反の共同作戦行動に突入しようと、一切国民に知らされない危険性がある。
(2) 防衛秘密の専権指定と内閣・国会のコントロール
「改正」案によれば上記のような広範な防衛情報の中で、何を防衛秘密として秘匿するかは、防衛庁長官の専権指定によるとされている。秘密の指定が、真に実質秘にあたるのか、違法秘密は含まれていないか、そのチェックはどこで、誰が行うのかについて何ら明確にされていない。
結局、防衛庁長官が何を「防衛秘密」として秘匿するかはフリーハンドで、防衛庁長官一人の裁量で秘匿対象が決まることとなる。
これは、防衛庁が防衛情報の秘匿をほしいままにする重大な危険をはらむものである。
まず、第1に、防衛秘密は内閣のコントロールを受けないかということである。
「改正」案には、防衛秘密の指定につき、内閣総理大臣の承認に関する規定はなく、秘密指定に関する事後報告も規定されていない。閣議における報告・承認についても規定が一切ない。
防衛庁長官が防衛情報のうちいかなる事項を自らの専権で秘密と指定したかにつき内閣総理大臣や閣議の承認も経ず、事後報告すらいらないということとなる。
防衛情報の広範な秘匿、ひいては自衛隊や防衛庁の活動そのものについてすら、内閣のチェックないしコントロールが及ばないことにすらなりかねない。
第2に、防衛秘密は国会のコントロールが及ばなくなるのかという問題である。
「改正」案には、防衛庁長官の専権指定した秘密に関する国会への報告や、秘密と指定された事項に関する国会議員への開示については何ら規定がない。
「改正」案は前記のとおり、防衛庁長官の専権指定で防衛に関する全ての情報を秘匿しうるとしているのであり、内閣のコントロールすら働かなくなるおそれがあるのであるから、極めて広範な防衛情報が秘匿されることは想像に難くない。
しかも、ひとたび「秘密」と指定されれば、その適否につき、国会のコントロールが及ばなくなる事態が憂慮される。そして、国民の代表者である国会議員が自衛隊の活動についても十分な資料に基づいてチェックできない結果が生ずる。広範な防衛情報に関する答弁拒否が正当化され、防衛に関する国会審議の空洞化を招くことになる。
(3) 防衛秘密に対する司法審査の形骸化
中谷防衛庁長官は、「実質秘性については、司法審査に服するものでありまして、防衛庁長官だけで判断するものではなく、きちんとした司法の場でやる」と答弁している(10月16日衆院特別委員会、赤嶺政賢委員に対する答弁)。しかし、司法は事後審査であるうえ、個別の事件に対する判断に過ぎず、防衛庁長官による秘密指定全般にわたる実質秘性のチェックを司法が行うものでないことは明白である。そして、防衛庁長官がいかなる事項を秘密として指定したかについて国民に公開されないのであれば、国民はいかなる情報から遠ざけられたか全く知りえず、従って情報公開を求めて提訴することすらできない。また、那覇市情報公開請求事件に照らしても、司法による判断には長期間を要し、司法による救済までの長きにわたり国民の前から防衛情報が秘匿されることとなるのである。
さらに、防衛庁長官の専権指定により「秘密」と指定された事項は、実質秘性の推定が働き、実質秘でないことの立証責任は国民の側が負わされ、司法による審査が形骸化する危険性が高い。防衛庁長官の上記答弁がまやかしに過ぎないことは明白である。
(4) 国民に対する防衛情報の秘匿
このようにして、防衛庁長官の専権で膨大な防衛に関する広範な情報が「秘密」とされ、内閣、国会、司法によるチェックによって是正し得ないとすれば、国民は広範な防衛情報から一切遠ざけられることとなる。日本がアメリカとどのような憲法違反の共同作戦行動を取ろうとも、防衛庁が極秘に新兵器を開発し、あるいは外国を攻撃する戦争や徴兵制などの総動員体制を計画しようとも、すべて「秘密」として国民から秘匿される危険がある。国民は防衛情報に関する有効な批判・監視を行えず、選挙を通じて防衛に関する意思決定をすることもできない。国民の目がとどかないところで、防衛庁が秘密裏に独走することすら許しかねない。これでは戦前の二の舞である。
国民に対する防衛情報の秘匿は、知る権利を奪い、国民主権の根幹を揺るがす重大問題である。
(5) 「報復戦争参加法」と防衛秘密保護条項
「報復戦争参加法」は、基本計画は国会へ事後報告、自衛隊の活動は国会の事後承認を要するとされている。
しかし、自衛隊の運用、計画、武器・弾薬・航空機、防衛施設等に関する一切の情報が自衛隊法「改正」で秘匿対象とされるのであるから、いかに憲法9条に違反する計画や軍事作戦があろうと、それが「秘密」として、国会への報告事項や事後承認事項から除外され、一切国会のコントロールに服さない危険がある。
国民に一切を知らせないまま、日本が戦争に参加し、これを拡大するという事態も十分にありうるのであり、重大問題である。
このように防衛秘密全般につき、防衛庁長官の専権指定を認める「改正」案は、憲法が定める、国民主権、議会制民主主義、三権分立という立憲政治の根幹を揺るがす重大問題である。
(1) 表現の自由や集会等の権利を侵害するおそれ
「改正」案は、内閣総理大臣は、自衛隊の施設、米軍基地において、「政治上その他の主義主張に基づき、国家もしくは他人にこれを強要し、又は社会に不安もしくは恐怖を与える目的で多数の人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊する行為が行われるおそれがあり、かつ、その被害を防止するため特別の必要があると認める場合」に、自衛隊、米軍基地の警護のため自衛隊の出動を命ずる規定を新設するものである(81条の2)。
この「改正」案も日本の平和と国民の権利を侵害しかねない重大な問題がある。
まず、自衛隊の出動を命ずることのできる場合は、@「政治上その他の主義主張に基づき、国家もしくは他人にこれを強要」する行為、A「社会に不安もしくは恐怖を与える目的で多数の人を殺傷」する行為、B「重要な施設その他の物を破壊する行為」のいずれかが行われるおそれがあり、かつ、その被害を防止するため特別の必要があると認める場合との解釈が可能である。「政治上その他の主義主張に基づき、国家もしくは他人にこれを強要」する行為に対して、自衛隊が出動するということになれば、米軍基地周辺でのデモや集会などもその対象となり、表現の自由が侵害されるおそれが大である。
また、「おそれがある場合」という判断がきわめて拡大されるおそれがある。
さらに、「特別の必要がある場合」というのも、どのような場合を想定しているのか、限定がない。
このように自衛隊の出動が無限定に拡大されることになりかねないのである。
(2) 無限定な情報収集活動
「改正」案は、防衛庁長官が、武器を携行する自衛隊の部隊に情報の収集を命ずることができるとの規定(79条の2)及び情報収集に従事する自衛官が武器を使用できるとの規定(92条の2)を新設するものである。
第1に、「事態が緊迫し第78条第1項の規定による治安出動命令が発せられること及び小銃、機関銃(機関けん銃を含む)、砲、化学兵器、生物兵器その他その殺傷力がこれらに類する武器を所持した者による不法行為が行われることが予測される場合」に自衛隊の部隊に情報収集を命ずることができるとしているが、この「予測される場合」というのは、きわめて拡大して解釈されるおそれがある。
第2に、収集を命ずることのできるとされる「情報」は限定されないのか、限定されるとすればどのような情報に限定されるのかという点もきわめて不明確で拡大されるおそれがある。
第3に、命ずることのできる「情報収集」の方法は限定されないのか、限定されないとすれば、国民の権利侵害との関係で、重大な問題を生ずる。
第4に、「見込まれる場所及びその近傍」とあるが、どの程度の区域、広さを想定しているのかまったく不明確で無限定とされるおそれがある。
(3) 「待機命令」の拡大
「改正」案79条の2は、「治安出動命令が予測される場合」としている。それは、「治安出動待機命令」(現行法79条)の発動要件そのものにほかならない。「改正」案は、「待機命令」と同時点で、情報収集活動命令とそれに伴う武器使用を新設しようとするものである。待機命令の要件について、新たに「銃・・・等を所持した不法行為の予測」を追加して、権限として情報収集とこれに伴う武器使用を追加し、拡大しようとするものである。
(4) 「有事立法」の早期実施の布石
現行法(例えば、103条、80条、104条等)のもとでは、「有事法制」が適用、実施される時機、つまり「有事」は、防衛出動命令又は治安出動命令の下命時である。もっと早い時点で「有事」と認定できるようにしたいというのは、防衛庁等の積年の宿願と思われる。
ところが、「改正」案で79条の2と81条の2を新設することによって、これより早い時点から「有事」と認定できるようになる。有事法制をその時点から適用できるようにする。つまり、「テロの予測」の時点を「防衛出動、治安出動下命」と横並びにして取り扱う。例えば、現行103条の「土地、施設、物資収用命令」や「医療、土木建築、輸送の業者従事命令」がその時点からできるようにする。有事立法の早期実施の布石と考えられるのである。
そして、これは、次の有事立法制定そのものの布石といわなければならない。
重大問題であり、国会での徹底究明が不可欠である。
2001年10月22日
編 集 自由法曹団沖縄・改憲問題特別対策本部
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