<<目次へ 【意見書】自由法曹団


議事の公開についての申入書

中央教育審議会 御中

1 昨年の11月26日,遠山文部科学大臣は,中央教育審議会に対し,「教育振興基本計画について」及び「新しい時代にふさわしい教育基本法の在り方について」という2項目に関し,理由を添えて諮問をした。諮問理由では,教育基本法に関して,「教育基本法は,教育の基本理念及び基本原則について定める法律として,昭和22年に公布・施行され,以来,我が国の教育は,50年以上にわたって教育基本法の下で進められてきた。しかしながら,・・・制定当時とは社会が大きく変化しており,また,高校,大学進学率の著しい上昇や生涯学習社会への移行など教育の在り方も変容を遂げてきている。さらに,教育全般について様々な問題が生じており,21世紀を迎えた今日,将来に向かって,新しい時代の教育の基本像を明確に提示し,それを確実に実現していくことが求められている。このため,新しい時代にふさわしい教育基本法の在り方を考え,その見直しに取り組み,教育の根本にさかのぼった改革を進めることが必要である。」などと述べられている。

そして,中央教育審議会は,この諮問を受けて,第13回総会(2002年1月22日)で,「新しい時代にふさわしい教育基本法の在り方に関する自由討議」を行うとともに,基本問題部会の設置を決定し,この部会において,「教育振興基本計画の策定について」及び「新しい時代にふさわしい教育基本法の在り方について」専門的な調査審議を行うこととし,鳥居泰彦中央教育審議会長を初めとする11名の委員と,石弘光一橋大学長を初めとする5名の臨時委員が選任された。

2 言うまでもなく,教育基本法は,我が国における教育の根本を定めている法律であり,その前文において,「この理想(憲法)の実現は,根本において教育の力にまつべきものである。」としているように,日本国憲法の制定を受けて,その精神の実現を基本理念として制定されたものであり,憲法と一体をなし,準憲法とも言える法律である。したがって,その「改正」は憲法改正に準ずるものであり,厳格かつ慎重な手続の下に行われるべきものである。  

また,教育の根本の変更は,国家の将来にとって重大な問題であり,国民に対しても多大な影響を与える重大関心事であって,今教育基本法を「改正」する必要が本当にあるのかを含めて,主権者たる国民に広く情報を公開して,その意見を十分尊重しながら議論をすることが当然のテーマである。

3 しかるに,今回設置をされた基本問題部会は,先に開かれた第1回の会合(2002年2月8日)において,会議の公開についてきわめて制限的な決定を行った。

すなわち,会議の公開に関しては,「次に掲げる場合を除き,公開して行う。」としつつ,除外ケースの1つとして,「文部科学大臣の諮問に対する答申又は文部科学大臣に対する意見の案を審議する場合」をあげている。この除外ケースが,「諮問に対する答申」又は「意見の案」を審議する場合に限る趣旨であるのか不明確であるが,そもそも基本問題部会は,「教育振興基本計画の策定について」及び「新しい時代にふさわしい教育基本法の在り方について」という文部科学大臣の諮問事項について審議を行うために設置をされている。したがって,今後の運用にもよるが,ほとんどの場合が,「諮問に対する答申」を審議する場合であると解釈されて,非公開とされかねない規定の仕方である。そして,仮に,上記除外ケースが,「諮問に対する答申」又は「意見の案」を審議する場合に限る趣旨であるとしても,その場合に会議を非公開とする理由が存するとは思われない。

また,会議の傍聴に関しては,マスコミ各社に対し,1社につき1名と定めただけであり,一般市民の傍聴を全く排除している。教育が国民的問題であり,広く各分野の人々の声を聞きながら審議すべきことに鑑みれば,国民の傍聴の途が全く閉ざされていることはきわめて問題である。

さらに,部会は,議事要旨の公表について,「議事の概要を記載した書類を作成し,これを公表しなければならない。」とするが,概要の公開では,部会においてどのような議論がされているのか,国民はくわしく知ることができず,それに対しての意見を述べることも全くできない。これらのことは,先に述べた教育基本法の性格から言って,全く許されないことである。

4 自由法曹団は,全国で約1600名,全国の弁護士の約1割が参加をしている法律家団体であり,国民の人権を擁護すべき立場から,現在教育改革の問題についても対策本部を設けて教育の在り方について議論を進めている。そして,今回の文部科学大臣の諮問を受けた中央教育審議会の審議,基本問題部会の審議についても重大な関心を持って注目をしている。

そこで,自由法曹団としては,中央教育審議会及び基本問題部会の審議が,密室での審議に陥ることなく,国民からの意見の反映がなされるよう,会議の徹底的な公開,すなわち,除外ケースの縮小,傍聴者の要件の拡大ないしリアルタイムモニターの設置,発言者名を含めた詳細な議事録を会議後に速やかに発表すべきことの3点を強く求め,中央教育審議会及び基本問題部会に対して,この申入れをするものである。



2002年3月5日          

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