<<目次へ 【意見書】自由法曹団
2002年9月13日 |
「仲裁法制に関する中間とりまとめ」に対する市民問題委員会の意見 |
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1 「中間とりまとめ」によれば
@適用範囲につき、国際商事仲裁に限らず、「外国仲裁及び内国仲裁並びに民事仲裁及び商事仲裁について統一的に規律」するものとし
Aまた仲裁契約の意義として、「契約に基づくものであると否と問わず、一定の法律関係について既に生じ、又は生ずる可能性のあるあらゆる紛争…を仲裁に付する旨の当事者の合意をいうものとする」としている。
このように適用範囲が非常に広範であり、対象も広く将来紛争を含むものとしている。
2 ところで、「一定の法律関係」を形成するものには、借地借家契約、下請取引契約、フランチャイズ契約、金融取引契約その他、契約当事者が社会的経済的に対等でない者の間でなされる契約がある。
そこで、「中間とりまとめ」による新仲裁法制が、これらの各契約に適用されるとした場合の問題点につき意見を述べる。
3 新仲裁法は仲裁契約の効力の一つとして妨訴抗弁を認めており、仲裁契約の存することが認められるときは、その訴えは却下される。すなわち、仲裁契約により訴権は放棄される。
しかし、借地借家契約など上記に記した各契約に基づく紛争について、訴権を放棄させてまでして、仲裁による紛争解決を図る必要があるだろうか。
仲裁は元来、国際商事紛争の解決方法として発達したものであり、その発達の理由として、仲裁の中立性(訴訟だと相手国の裁判による解決は、外観上の中立性が問題となる)、非公開性(企業が営業秘密について秘密保護が図れる)、国際性(現在120カ国以上もの国が締約国となっているニューヨーク条約が外国仲裁判断の承認・執行を一定の委任の下に保証している)、手続の柔軟性(当事者自治の原則がかなり認められている)のゆえであるといわれている。
ところが、国際商事紛争に対する仲裁についての以上の有用性は、上記借地借家契約などに対しては殆ど不要(中立性、国際性)であるばかりか、場合によっては不当(非公開性、手続の柔軟性)であると考えられる。
上記各契約については、当事者(とりわけ借家人、下請業者、フランチャイジー、借主など)が裁判所に提訴することを妨げるべきではない。
「中間とりまとめ」の補足説明は、「消費者保護に関する特則について」に関し、かかる特則を設けた趣旨について「消費者と事業者との間には、情報、交渉力との点で重大な格差があると考えられること、また、仲裁契約は、当事者の訴権を失わせるという重大な効果を伴うことを踏まえた」と述べている。
上記補足説明の述べるところは、消費者契約以外の上記各契約にも、そのままあてはまるものである。
4 対等な当事者間の契約ではない上記の各契約において更に懸念されることは、それらの契約締結の際に仲裁契約がなされる場合、その仲裁契約はたとえば借家人などに対して押し付けられたものではないか、あるいは借家人などが仲裁契約の意味を十分に理解して契約したのかという点である。
このような懸念がある以上、仮に仲裁契約が締結されていても、仲裁手続が実際になされようとする段階において、当事者が改めて仲裁手続に従う旨を承認した場合に限り仲裁契約は有効とすべきである。
5 最後に、仲裁手続による紛争の解決は、法の発展を阻害しないかという懸念がある。
これまで判例の蓄積によって、医療過誤の被害が賠償され、借家人の権利が保障され、不公正な取引が是正されるなどの成果が、年月の経過とともに少しずつ実現されてきた。
これは、判決は公開されるものであり、公開されることによってその判決は批評され、鍛えられてより適切な判例が形成されてきた。このように、公開された先の判例が後の判例の跳躍台となって判例および法理論の発展を導いてきたのである。
また、裁判は公開されるので、社会おいて生起している様々の解決すべき問題が多くの国民の前に明らかにされ、国民の注視の的になる。
しかし、仲裁手続および仲裁判断は非公開でなされるであろうから、紛争は秘密裡に解決され、裁判規範の形成に資することにならない。これでは同種の紛争が仲裁手続によっていくつ解決されようとも、その実績は紛争の解決のルールの確立・発展のためにならないのである。