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意見書 |
イラク特措法=イラク参戦法に 関する意見書 −無法なイラク戦争への加担か、平和の道か− |
2003年6月25日 自由法曹団 |
第1 無法・非道なイラク戦争に参戦・加担するイラク特措法
1 「イラク特別事態」とは何か
2 理不尽きわまりないブッシュの戦争
3 崩壊した小泉政権のブッシュ支持表明の根拠
第2 戦闘地域への陸上自衛隊の派兵
1 今も戦争状態の継続しているイラク
2 戦闘地域と非戦闘地域の区別は困難
第3 海外派兵と武力行使の拡大
1 無限定に進められる海外派兵
2 無限定な活動範囲
3 武力行使と一体の活動
4 「武力行使」に発展する武器使用の要件緩和
(1) 武器使用による武力行使
(2) 拡大される武器使用
5 国会無視の計画決定・実施手続き
第4 テロ対策特措法「改正」による派遣期間の延長は許されない
去る6月13日、小泉内閣は、「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法」(以下「イラク特措法」、「イラク参戦法」または「本法」という)を国会に提出した。会期を7月28日まで40日間も延長し、会期中に同法案を成立させようとしている。
今国会で小泉内閣は、米英軍の起こしたイラク攻撃にいち早く支持を表明し、また6月6日には有事関連法案の成立を強行したばかりである。それに続き、このイラク特措法案により自衛隊を1000人規模で海外に派兵しようとするのである。さらに、このイラク特措法と同時に、テロ対策特措法に基づくインド洋への自衛艦派遣の期間も、2年間延長する「改正」案を国会に提出した。平和憲法を無視して戦争への道をひたすら突き進むのかといわざるをえない。
弁護士で構成する自由法曹団としても、このような異常な事態、そして法案の問題点を検討し、今、どうしても、これに歯止めをかけなければならないことを明らかにしたい。
イラク特措法は、「イラク特別事態」を受けて、国家の速やかな再建を図るため、人道復興支援活動と安全確保支援活動を行い、もって国際社会の平和及び安全の確保に資することを目的にするのだという(第1条)。
しかし、特措法のいう「イラク特別事態」とは何か。それは、偶然発生した事故や災害ではない。米英両国によって人為的に引き起された「戦争」という名の殺戮行為にほかならない。カタールの衛星テレビ、アルジャジーラが1枚の写真を世界に配信した。砂埃にまみれた顔、見ひらかれた目、後頭部をえぐり取られた少年の写真である。特措法のいう「イラク特別事態」とは、これら無数の屍の集積だといわねばならない。
米ブッシュ政権は、フセイン体制を打倒するとして3月20日、英国とともにイラクへの軍事攻撃を開始した。米国は、フセイン大統領らを直接狙ったバグダッド攻撃を皮切りに、「衝撃と恐怖」と名づけた大規模空爆を敢行した。爆撃には、艦船から発射される巡航ミサイルトマホーク、戦闘機から発射される誘導爆弾のほか、無差別殺傷型クラスター爆弾、特殊貫通爆弾バンカーバスター、デージーカッター、より洗練された劣化ウラン弾等々、ほとんど核兵器以外のありとあらゆる「近代的」兵器が用いられ、これらによりイラク国土は昼夜を問わず破壊された。軍事施設や政府施設ばかりではない。市場、住宅地、病院までが標的にされ、おびただしい数の罪のない市民や兵士が犠牲となった。イラク戦争での民間人の死者数を集計している英米の研究者・平和活動家の調査グループ「イラク・ボディー・カウント」は、イラク戦争での民間人の死者を7000人としている。その様(さま)は、戦争というものではない。米英軍の圧倒的軍事力による殲滅、ほとんど「害虫駆除」に等しい過剰殺戮であった。
しかもブッシュによるイラク戦争には一片の正当性すらなかった。
ブッシュによる今回のイラク討伐戦争は、他国の政治体制の転覆を公言したうえで、これを実行したものであり、世界の平和と安定に対する公然たる挑戦であった。ブッシュは、イラクに対する最後通告と開戦演説において、イラク・フセイン政権のテロリスト支援と大量破壊兵器開発から自国を防衛するのだと宣言した。しかし、ブッシュ政権は今日に至るも、テロリストとの関連性を示す証拠、大量破壊兵器の存在を示す痕跡すら発見しえていない。加えて、チェイニー副大統領がCIAに対し圧力を加え、イラクの大量破棄兵器に関する報告書を書き換えさせた疑惑すら報道されている(6月5日付ワシントン・ポスト紙)。
また、米英によるイラク戦争が国連憲章に違反した無法な戦争であることは、これまでにも繰返し指摘されてきた。いうまでもなく国連憲章(国際法)が武力行使を認めているのは、自衛権行使の場合と国連安保理決議の備わった場合に限定されている。イラクがアメリカに対し武力攻撃を加えてはおらず自衛権行使は問題とはならない。もっともブッシュ・ドクトリンのいう先制攻撃理論が国際社会に受入れられるのであれば別であるが、危険が現実化する前の先制的自衛は、国際社会の容認するところとはなっていない(1981年のイスラエル軍によるバクダッド近郊の原子炉爆撃に対し「国連憲章の明白な違反」とする安保理決議487)。安保理も、アメリカのイラク攻撃を承認していない。イラク攻撃を正当化するためにアメリカが自ら提出した「修正決議案」を、安保理において受入れられないと見るや、これを取下げて開戦に踏み切った経過からも明らかである。
このアメリカの傍若無人、無法ぶりに世界の人々が反対と抗議の声を上げた。世界で数千万の人々が街頭に出て、反戦・非戦をアピールした。また「西側同盟」の一員たるフランス、ドイツはアメリカの行動を公然と批判し、長年の同盟国である隣国カナダも最後までアメリカの行動を支持しなかった。
アメリカのイラク討伐戦争は、国際世論に逆らい国連決議に違反した「戦争」なのである。この無法な戦争に、日本と日本の軍隊=自衛隊が加担しようというのが「イラク特措法」であり、その実質は、イラク参戦法にほかならない。
一片の正当性すらないイラク討伐戦争に、小泉政権は早々と支持表明を行った。小泉政権は、アメリカのイラク討伐戦争を安保理決議にもとづく適法な武力行使だと強弁し、そのアメリカの同盟国たる日本はこれを支持するとしたのである。
小泉首相は「イラクは、12年間にわたり、17本に及ぶ国連安保理決議に違反し続けてきました。イラクは、国際社会が与えた平和的解決の機会を一切活かそうとせず、最後の最後まで国際社会の真摯な努力に応えようとしませんでした。このような認識の下で、我が国は、我が国自身の国益を踏まえ、かつ国際社会の責任ある一員として、我が国の同盟国である米国をはじめとする国々によるこの度のイラクに対する武力行使を支持」する(内閣総理大臣談話、3月20日付閣議決定)とし、川口外務大臣も「今戦争が出来る理由というのは2つしかないわけですよね。安保理の決議か、自衛のためかという、その側面に注目して言えば、安保理の決議に則ってやる。自衛のための戦争ではない。そういう整理です・・・・ブッシュ米大統領はスピーチの中で、678、687を引いて・・・・米国及び同盟国は大量破壊兵器を破壊するために、イラクに武力行使をすると言っている」と、アメリカの武力行使を正当化しようとした(3月20日付外務大臣会見記録)。また、イラク特措法も「国連安保理決議678、687、1441並びに関連する決議に基づき国連加盟国によりイラクに対して行われた武力行使」(第1条)だとして、アメリカのイラク攻撃が、安保理決議678、687、1441に基づく戦争だとしている。
しかし、安保理決議678(90年11月29日採択)は、イラクによるクウェート侵攻を非難し、イラク部隊の即時、無条件撤退を求め、これをイラクが履行しない場合の武力行使を容認した決議であり、同決議687(91年4月3日採択)は、イラクが国際的監視下で大量破壊兵器や射程150キロ以上の弾道ミサイルなどの破壊・撤去・無害化受入れを条件とする停戦決議であり、同決議1441(2002年11月8日採択)は、イラクに即時・無妨害・無条件・無制限の査察受け入れを求め、申告書に虚偽や省略があった場合等「重大な違反」があったとみなされ「深刻な結果に直面する」と警告した決議である。安保理がイラクに対する武力行使を明確に認めたのは、90年の湾岸戦争の際のクウェートからの撤退に関する決議678のみであり、決議687は武力行使など容認していない。決議1441は、「深刻な結果」を警告したにすぎず、武力行使を直接的には認めていない。しかも「重大な違反」が要件となっているが、アメリカが武力攻撃を開始した時点においては査察継続中であったし、査察対象となった大量破壊兵器の存在は、今もって確認されてはいないのである。
日本政府は、アメリカのイラク攻撃を支持する最大の理由を、イラク・フセイン政権の大量破壊兵器保有に求めた。しかし、あるとされた大量破壊兵器は実戦使用されなかったばかりか、発見すらされていない。加えて、政府原案に当初は存在した対応措置−(1)人道・復興支援活動、(2)安全確保支援活動、(3)大量破壊兵器等処理支援活動−のうち、3番目の大量破壊兵器処理支援が国会提出法案からは削除された。これは大量破壊兵器など存在せず、その処理活動など不要であることを、政府自らが認めたに等しいのである。大量破壊兵器の存在こそが、国際社会の関心事ではなかったか。「我が国を含む国際社会の平和及び安全の確保に資する」というイラク特措法の目的(第1条)が、まやかしであることの証左である。
米英の圧倒的な軍事力により、開戦後3週間でバグダッドは制圧され、フセイン政権は事実上崩壊した。米軍は、4月15日までにはイラクの主要都市すべてを軍事的に制圧し、その後は、イラクの軍事占領と治安維持に重点を移している。ブッシュ大統領は、5月1日、帰還中の空母リンカーンの艦上で主要な戦闘の終結を宣言した。
しかし、この宣言はイラクにおける戦争の終結を宣言したものではない。あくまで「主要な」戦闘が終結したと宣言したにすぎず、ブッシュ大統領も、軍事占領や治安維持などのための戦闘行為は継続すると公言している。
現にイラク各地では、依然として戦闘が続き、米兵の死者も後を絶たない(5月以降も10人以上の戦死者を出している)。米国の軍事占領に対する反発から、米英軍に抵抗するゲリラ闘争がイラク国内のどこで起こってもおかしくない状況なのである。また、政権崩壊後のイラク国内では、略奪と暴力が横行し治安の悪化も深刻だといわれている。そして、軍事占領の性質上、抵抗勢力の制圧や治安の維持のために、米英軍は武力の行使をためらわない。米英軍は、軍事占領後にバグダッドで相次いでいる民衆のデモにまで発砲している。今後も、各地で戦闘行為が続くことは必至である。
イラク特措法は、戦争状態の継続しているイラクに、占領軍たるアメリカ軍の支援のために自衛隊、地上部隊たる陸上自衛隊を送り込もうというものである。
そもそも、人道・復興支援活動のためであれば、軍隊(自衛隊)など派遣する必要がなく、自衛隊派遣による安全確保支援活動にこそイラク特措法の眼目がある。自衛隊が支援する安全確保活動を実施している国といえば、イラクに戦争を仕掛け、現に占領軍としてイラクに駐留している米英軍である。したがって安全確保支援活動とは、この米英軍の行動を支援するものである。いわば昨日の攻撃部隊が今日の占領部隊なのであって、その実体は継続しており、部隊の戦闘行動が占領にともない安全確保活動と名前を変えただけにすぎない。自衛隊の支援活動はこのような一連の行動を支援するものにほかならない。自衛隊の行動は、イラクの民衆の目には、「敵国」アメリカを支援するとしか映らないであろう。
法案は、派兵された自衛隊の活動範囲について、「現に戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為)が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる」地域としている(2条3項)。法案上、このような限定をかけることにより、自衛隊の活動が米英軍の武力行使と一体化するとの批判をかわそうとしている。
しかし、現に戦争が継続し、各地で戦闘が繰り返されているイラク国内においては、いつ、どこで戦闘行為がおこるかの予想などできない。「戦闘地域」と「非戦闘地域」を区別することはおよそ困難である。
具体的に考えてみても、イラクに派兵された自衛隊は、イラク国民に対する人道・復興支援とともに、米英軍の行う治安維持活動の支援として、米英軍のために医療、輸送、保管、通信、建設、修理若しくは整備、補給又は消毒などを実施するのである。要するに米英軍と行動を共にすることになる。だとすると、米英軍が常に抵抗勢力からの攻撃の対象となるのは当然であるから、自衛隊が活動をしようとする場所が「非戦闘地域」となりうるはずがないのである。イラク国内において、「非戦闘地域」に自衛隊を派兵するというのは机上の空論でしかない。
そのことを承知してか、石破防衛庁長官は、「組織的、計画的でない、国または国に準ずる者でない者による、例えば強盗などは戦闘行為とはいわない」と述べている。法文上は「国際的な武力紛争の一環として」という文言を意識していると思われる。しかし、戦闘行為の主体に「国または国に準ずる者」という絞り込みをかけるとしたら、いま現在、米英軍と反対勢力との間で行われている戦闘さえも戦闘行為ではないということになりかねない。政府が戦闘行為についてそのような認定をするのだとしたら、「非戦闘地域」の限定などないに等しく、結局は、政府の恣意的判断によって、自衛隊はイラク国内のどこにでも派兵されることになるであろう。加えて、イラク国土に関する情報はすべて米軍が掌握している。日本の自衛隊をどの地域に派兵するかという問題も、事実上米軍の指揮に従うことになるのであるから、政府の判断は、米軍の判断をそのまま受け容れたものとならざるをえないであろう。
しかも、米英の占領軍の活動を法的にいえば、交戦権の行使に該当するものである。自衛隊の支援も、このような米英軍の活動を対象として行われ、これと一体の活動を展開することとなる。自衛隊の活動そのものも、交戦権の行使に該当するといわざるを得ないのである。これは、交戦権の行使を禁止した憲法9条2項に明白に違反する。
そもそも、法案では、自衛隊の海外派兵について、国連安保理決議1483号を引用しているけれども、同決議に応え、イラクの人道・復興支援を実現するためには、自衛隊を派兵し憲法に明白に違反する占領軍への支援活動をあえて行う必要はないことはすでに指摘したとおりである。
アーミテージ米国務副長官の、「観客席での観戦ではなく、グラウンドでのプレーを」(地上部隊の派遣)という求めに応じ、日本は戦後はじめて戦争地域に地上軍を投入しようとしている。しかし、それは無法なアメリカの戦争に加担することであり、イラクの民衆との間に決定的不信感と敵対関係をもたらすものである。自由法曹団はとうていこれを認めることはできない。
最初に自衛隊の海外派兵を認めたPKO法は、専守防衛という自衛隊の任務を超えて自衛隊を海外派兵させるにあたり、その目的や活動をきわめて限定して、1992年6月、ようやく国会で成立した。PKOすなわち国連の平和維持活動(PKO)のうちのPKF(平和維持軍)の本体業務は武力行使に及ぶおそれがあるとして、これを除外したうえ、さらに5原則というPKO参加のための条件が確認された。この5原則とは、(1)紛争当事国間に停戦合意が存在すること、(2)派遣先の受け入れ同意が存在すること、(3)中立性、(4)(1)〜(3)の前提が崩れた場合に業務を中断し、撤収すること、(5)武器使用は、隊員個人の生命防護のための必要最小限にかぎること(組織的な武器使用は行わないこと)である。
しかし、近年にいたり、周辺事態法やテロ特措法などPKO法の限定を次々超えて、海外派兵の歯止めをなし崩しにしてきた。
そして、今回のイラク特措法は、第1に、広く外国領域・公海を活動領域とするものである。のみならず、現在占領している米英軍などの了解さえあれば、戦闘も終結していないイラク国内まで自衛隊を派兵するものである。受入国の同意も、中立性をも投げ捨てて海外派兵に踏み切ろうとするのである。第2に、政府自身が否定してきた武力行使と一体となる活動をも海外で自衛隊が展開する。第3に、テロ特措法と同様に組織的な武器の使用まで認めるものであって、自衛隊による海外での武力行使をさらにいっそう拡大する。第4に、このような自衛隊の海外派兵について国会の事前承認なくして実施する。
以下、これら法案の問題点を具体的に指摘する。
今回の法案の定める活動地域は、「外国の領域」及び「公海及びその上空」とされているだけである。しかも、「外国の領域」については当該外国の同意を要件としながらも、イラクにあっては国連決議によりイラクで施政を行う機関(米英軍)の同意があればよいとされている(2条3項)。そこには、受入国の同意や中立性を確保しようとする姿勢は示されていない。
活動地域についていえば、地球を分類すると公海と日本及び外国領域しかないのであるから、いわば、地球上のどこでも、海外派兵できることになる。このように地域的な限定は全く存在しない。現在、アメリカは、イラクの隣国であるイランにも矛先を向けているが、米軍がイランに武力行使に踏み切る事態になれば、イラクの安全確保等という口実で、その戦争のためにも自衛隊の参加が拡大されることとなる。現に、日本政府は、テロ特措法によりアフガニスタンへの武力行使を支援するためにインド洋アラビア海に派遣した自衛艦により、イラク攻撃に参加した米艦船などへの給油等を行うことを容認し、イラク戦争に事実上参戦した。
自衛隊の海外派兵の限界については、周辺事態法でも「我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」に限定して、自衛隊の海外派兵を認めるにとどまっていた。しかし、報復戦争への参加のために海外派兵を認めるテロ特措法に続いて、今回の法案でも、このような限界を突破して、無制限な海外派兵が実現されることとなる。
なお、海外派兵された自衛隊の活動範囲について、法案は、「現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる」地域としている(2条3項)。けれども、前述したイラクの現状を見れば明らかなように、「戦闘行為が行われることがないと認められる地域」などは、存在しない。このような法案は、それ自体、虚構の前提のもとにつくられた欠陥法案といわなければならない。
法案の第2条は、基本原則を定め、この法案にもとづく活動を、人道復興支援活動または安全確保支援活動としている(2条1項)。
前述したように、これらの活動は、米英軍等による占領行為を支援の対象としている。法案は、米英軍による違法な侵略戦争を前提としてこれを追認するものであって、その占領支援の軍事活動を自衛隊に担当させるものにほかならない。
しかも、自衛隊の担当することが予定されている安全確保支援活動には、イラク国内の治安確保及びこれを維持するための活動はもとより、フセイン大統領をはじめ、フセイン政権側に対する掃討作戦も含まれることとなる。のみならず、人道的復興や安全確保のための米英軍等の活動を進めるうえで、妨害を排除するためと称して戦闘行為に及ぶことも当然予想される。
このように自衛隊の支援活動は、米英軍などによる武力行使が前提とされている。そのような武力行使と一体となる支援活動を自衛隊が担当することとなるのである。
安全確保支援活動として法案が掲げている活動は、「医療、輸送、保管(備蓄も含む)、通信、建設、修理若しくは整備、補給又は消毒(これらの業務にそれぞれ付帯する業務を含む)」である(3条3項)
法案は、自衛隊の部隊等は、「武器(弾薬を含む)の提供」及び「戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備」を含まないとしている(8条6項)。これは武力行使との一体性の強い活動を除外するかのごとき印象を与える趣旨で規定したものと思われる。けれども、ここに記載された活動以外は、武力行使と一体とみられる行為であっても、何でも可能とするものであって、全くのまやかしといわなければならない。例えば、自衛隊は武器弾薬の陸上輸送を担うと言われているし、待機中の航空機に対しては給油も整備も排除されていない。のみならず、艦船や戦車等に対しては、発進準備中であろうとも、発進後であっても、給油が認められることとなるのである。
とりわけ、今回の法案では、外国領域内の陸地での活動をも予定している。前述の武器弾薬の陸上輸送はもとより、食料や水、燃料などを陸上輸送したり、野戦病院で負傷兵を治療する活動、外国の基地での補給や整備、さらには通信業務なども含むものである。まさに兵站業務すべてにわたる活動を担うこととなる。
例えば、水や食料、燃料など自衛隊の輸送・補給した物資によってはじめて戦闘部隊の活動基盤は確保され、自衛隊が輸送した武器・弾薬によって、紛争地域の民衆に対する武力攻撃が行われることになる。これらの活動は、戦闘に不可欠であり、かつ源泉をなすものであって、武力行使に該当するといわざるを得ない。防衛庁の元最高幹部も、「広い戦争行為には、戦闘部隊も後方活動も全部包含されるはずです。ある意味では輸送とか通信というのは、前線で戦う歩兵より重要なくらいで、医療だって戦争行為の外側とはみなされない」(西広元防衛事務次官『文芸春秋』90年10月号)と述べているのである。
なお、法案は、「戦闘行為が行われることが予想される場合には、当該活動の実施を一時休止し、または避難するなどとして当該戦闘行為による危険を回避しつつ」、計画の変更命令等を待つという(8条5項)。けれども、これでは、支援を受ける米英軍の側から見て、いわば「本当に必要なときに、何ら支援にならない」ことを想定しているものであって、実際は不可能ないしきわめて困難な判断を強いるものであり、あまりにも非現実的である。この法案は、いわば無理を重ねる欠陥法案といわなければならない。
(1) 武器使用による武力行使
自衛隊は武装して海外派兵されるか、又は武装した状態で活動を展開するのであるから、当然に相手方から攻撃の対象とされる。このことは、武器・弾薬など戦争のための物資を交戦国に輸送する船舶は公海上でも拿捕の対象になるとした「海戦法規に関する宣言」(「ロンドン宣言」1909年署名)によっても明らかである。直接戦闘行為が行われていない基地や空港・港湾などでの支援活動も、明白な参戦行為なのであって、これらも、相手側から攻撃の対象となりうるのである。
攻撃を受けた自衛隊がこれに反撃して、新たに戦闘行為に突入するという事態にもなりかねない。自ら携帯・装備する武器によって、事実上の武力行使に突入する危険が大きいといわなければならないのである。
第1に、武器の使用は、「現場に上官が在るときは、その命令によらなけばならない。」(17条2項)とされており、「組織として武器を使用」することが前提とされている。このような上官の命令、指示による自衛隊の組織としての武器の使用は、それ自体、武力行使と同視される。
第2に、使用される武器については、PKO法(22条)が小型武器に限定しているのに比して、制限がつけられない。とすれば、機関銃や迫撃砲、無反動砲、さらにはロケット弾やミサイル、装甲車までも可能となる。
第3に、自衛隊法95条の適用が排除されていないのであるから、武器・弾薬や船舶・航空機・車両、燃料、通信設備などが攻撃された場合にも、自衛隊による武器等防護のための武器使用が認められることとなる。海外での武力行使をいっそう拡大するものである。
このように、自衛隊として憲法9条で厳に禁止されている武力行使に及ぶことが当然に想定されるのである。「武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない」(2条2項)とする法案の記載は、国民を欺罔するに等しい。
(2) 拡大される武器使用
法案では、「他の自衛隊員もしくはその職務を行うに伴い自己の管理下に入った者の生命又は身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で、武器を使用することができる」(17条1項)と規定し、武器使用の基準を拡大している。
ここでいう「職務を行うに伴い、自己の管理下に入った者」については、難民や診療中の傷病兵、輸送中の外国の兵員、現地機関や外国軍隊の連絡要員、視察者なども、これに含まれる(テロ特措法の同じ条項について2001年10月11日衆院特別委員会・福田官房長官答弁)。武器の使用が広範囲にわたって認められることとなる。
このように武器使用の基準を拡大するのであるから、その結果、武力行使の事態に発展する危険はいっそう大きくなる。
法案は、自衛隊の海外派兵には国会に遅滞なく報告すれば足りるとしている。閣議決定した基本計画決定又は変更そして終了について、内閣総理大臣が、活動開始後から20日以内に国会に付議して承認を求めなければならないというのである(5条、6条)。
政府がどのような情報及び判断をもとに支援の具体的内容を決定し、それをどのように実行するのか、国民に全く知らされないままに、自衛隊の海外派兵が先行することになる。
さらに、アメリカとの協議や情報交換は、軍事上の機密(防衛秘密)とされ、国会へも明らかにされない可能性がある。このことは、2001年秋の臨時国会で成立した自衛隊法「改正」より防衛秘密保護規定が新設されたこととあわせて、きわめて重大である。
これに対して、自衛隊法では、防衛出動及び治安出動について、いずれも、国会の承認を必要としている。しかも、防衛出動については、「特に緊急の必要がある場合」を除いては、事前の国会承認が求められている。不承認となれば、出動できないことになるし、事後に不承認の議決があった場合には、直ちに撤収を命じなければならない(自衛隊法76条)。
今回の支援活動には、アメリカの判断が優先し、その判断・要請にもとづく活動がすすめられることとなるのであって、日本国憲法の国民主権と議会制民主主義の原則からの最小限の制約さえないといわなければならない。
1 政府は、イラク参戦法案の国会提出と同時に、テロ対策特措法「改正」案も提出して、今年11月1日までであった派遣期間(時限立法)をさらに2年間延長しようとしている。
2 海上自衛隊は、2001年12月以降、インド洋で米英軍などの艦船を対象に燃料補給を実施することにより、米国のアフガニスタン報復戦争を支援する兵站活動を行ってきた。日本の海上自衛隊は、テロ対策特措法によって、戦後はじめて戦争地域に派兵されたのである。
米国の報復戦争がもたらしたもの。それが罪なきアフガンの人々に対する大量殺戮という悲惨な結果であり、日本の自衛艦が燃料補給を行ったアメリカ艦船から飛び立った戦闘機の爆撃により、アフガン市民が犠牲にされ続けたことは紛れもない事実である。しかも、報復戦争はテロ問題を解決するどころかテロの連鎖をもたらしている。
さらに、2002年12月には、それまで派遣していた護衛艦に代え最新鋭イージス艦をもインド洋に派遣した。イージス艦は、本来、米海軍の空母を相手国のミサイルや航空機の空中よりの攻撃から護衛するために開発、建造された艦艇である。護衛隊群の旗艦として海上戦闘における本格的な指揮管制能力をもつ。海上自衛隊と米海軍との間には情報を共有するデータリンクのシステムがあり、イージス艦の取得した情報は瞬時に米艦艇に送信される。日本のイージス艦は米国の戦争体制に組み込まれ、まさに米軍の武力行使と一体化した作戦行動に参加している。
この間、テロ対策特措法に基づいて派遣された海上自衛隊の補給艦が、イラク戦争に参戦している米国空母キティーホーク機動部隊に間接給油を行っていたことも明らかになっている。もとより、テロ対策特措法に基づく海上自衛隊の活動はアフガニスタンでの対テロ作戦の支援に限定されている。海上自衛隊のキティーホーク機動部隊への支援はテロ対策特措法の逸脱というほかない。
3 現在、アフガニスタンでの米国の軍事行動はおおむね終結しており、この期に及んで海上自衛隊がインド洋で活動する必要は全く認められない。政府が海上自衛隊の派遣期間を延長するねらいは、イラク参戦法による陸上自衛隊の海外派兵と相まって、自衛隊の海外派兵を既成事実とすることにある。
これを許せば国際紛争を解決するための戦争を放棄した憲法第9条及び前文の精神は完全に蹂躙され、日本は常態的に「米国の戦争に加担する国」となるのである。
イラク特措法案を成立させ、テロ特措法の期間を延長させて、ひたすら海外への派兵を拡大し、戦争への道を突き進む道が、理不尽で非道なアメリカとともに歩むことになることはすでに明らかにしたとおりである。そのことは、戦争に反対する多数の国民や世界の人々の声を踏みにじるものである。
いまこそ理不尽きわまるアメリカの戦争に異議を唱え、悲惨な戦争に加担しない道、「平和の道」を選択することこそ、全世界の国民が平和のうちに生きる権利を宣言した憲法を有する日本の役割と言わなければならない。
そのためにも、イラク特措法は直ちに廃案にし、テロ特措法による海外派兵も速やかに取りやめ延長法案を廃案にする必要がある。本意見書で指摘した重大な問題点を多くの国民に広げることを訴えたい。
2003年6月25日
編 集 自由法曹団有事法制阻止闘争本部
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