<<目次へ 【意見書】自由法曹団
厚生労働省労働基準局総務課 法規第2係 御中 |
「労働基準法の一部を改正する法律(平成15年法律第104号)の施行に伴う関係省令の改正等について」
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2003年10月8日 自由法曹団労働問題委員会 |
先の国会で成立した労働基準法の改正部分の施行に伴う省令・大臣告示案が公表され、これについて本日を期限として意見募集が行われている。自由法曹団は、これまでの私たちの立場と改正法案審議の経過等を踏まえて、以下のとおり意見を提出する。
1 「労働条件の明示」について
(1) 省令案は「労働基準法(以下「法」という。)第15条第1項で定める事項のうち、退職に関する事項に解雇の事由を含むことを明らかにするものとすること。」としている。
(2) しかし、「退職に関する事項」に解雇の事由を含むことを明らかにするというのは、「退職」と「解雇」の違いを無視するものであるばかりか、今回の法改正をめぐる国会審議のなかで、解雇を原則自由とする旨を規定しようとしていた当初法案を修正のうえ、「解雇は、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当として認められない場合には権利濫用として無効となる。」との規定(第18条の2)を新設するにいたった経過及び改正の趣旨を無視するものである。
すなわち、この規定については、衆議院・参議院ともに「本法における解雇ルールの策定については、最高裁判所判決で確立した解雇権濫用法理とこれに基づく民事裁判実務の通例に則して作成されたものであることを踏まえ、解雇権濫用の評価の前提となる事実のうち圧倒的に多くのものについて使用者側に主張立証責任を負わせている現在の裁判上の実務を変更するものではないとの立法者の意思及び本法の精神の周知徹底に努めること。」との附帯決議(参議院においては「また、使用者に対し、東洋酸素事件(東京高裁昭和五十四年十月二十九日判決)等整理解雇四要件に関するものを含む裁判例の内容の周知を図ること。」も付加)がなされているところである。
したがって、政府としては、たんに解雇の事由を明示すべきこととするのではまったく不十分であって、明示すべき解雇の事由は客観的合理的なものであるべきこと及び整理解雇の場合にあっては判例上の四要件に合致するものであるべきことを徹底すべきである。
2 裁量労働制について
(1) 省令案は、専門業務型裁量労働制については、(1)労使協定において定めるべき事項に有効期限の定めを加えること、(2)労働者の労働時間の状況並びに当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置として講じた措置、労働者からの苦情の処理に関する措置として講じた措置について、労働者ごとの記録を上記(1)の労使協定の有効期間中及びその満了後3年間保存すること、としている。
また、企画業務型裁量労働制については、(1)行政官庁に対して定期的に報告すべき事項を「労働者の労働時間の状況及び当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置の実施状況について行うものとすること。」とし、(2)行政官庁に届け出るべき労使委員会の決議についてその「有効期間については、1年以内の期間に限らないものとすること。」としている。
(2) しかし、第1に、専門業務型裁量労働制について言えば、(1)その導入要件である労使協定に有効期間を定めるべきことは当然であるが、(2)労働者の労働時間の状況並びに当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置として講じた措置、労働者からの苦情の処理に関する措置として講じた措置について、労働者ごとの記録につき、その保存期間を労使協定の有効期間及びその後3年間に限る点は了解できない。
長期間・過密労働が横行するなかで「ジャパニーズ・カローシ」が国際語となるにまでいたって久しいが、過労死は未だなくならないどころか、若年労働者の過労死・過労自殺に見られるように裾野が広がってきてさえいる。裁量労働制が導入されている職場では実労働時間の把握が杜撰・困難となり、長時間労働が蔓延している実態が覆い隠されているのが実情である。
したがって、使用者が記録を保管すべき「労働時間の状況」は、労働者ごとに日々実際の実労働時間を記録したものとすることとし、また、上記の各事項に関する記録の保存期間は、使用者に対する安全配慮義務違反等の債務不履行に基づく責任追及の道を閉ざすことのないよう、労使協定の有効期間との合計が10年となるよう定めるべきである。
第2に、企画業務型裁量労働制について言えば、もともと改正法38条の4第4項第4号は、企画業務型裁量労働制についてその導入要件である労使委員会の決議を行政官庁に届け出た使用者は「命令で定めるところにより、定期的に、同項第4号に規定する措置の実施状況を行政官庁に報告しなければならない。」と定めているが、ここにいう「同項第4号に規定する措置」とは、「労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置」にほかならない。したがって、この行政官庁に対する定期的な報告について、今回の省令案が、「労働者の労働時間の状況及び当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置の実施状況について行うものとすること。」としているのは、実は、新たには何も定めないに等しいのである。
裁量労働制の要件緩和をはかる今回の法改正にさいしての国会審議では、過労死の防止と指導監督の徹底が衆参両院において附帯決議されているところである。したがって、法が定期的な報告について命令にその定めを委ねている趣旨に従い、省令においては、定期的な報告を行うべき間隔について、長期に及ばない然るべき期間を定めるべきである。
また、行政官庁に届け出るべき労使委員会の決議の有効期間を「1年以内の期間に限らないものとすること。」としている点についても、裁量労働制が労働者の健康を害する危険性等その弊害に鑑み、労使委員会決議は、少なくとも毎年の運用結果に基づき見直されるべきである。
したがって、その有効期間は最長1年とすべきであり、「1年以内の期間に限らない」とはすべきでない。
(1) 告示案は、今回の法改正により新たに上限5年の有期雇用契約が認められる対象となる高度専門職の範囲について、(1)博士の学位を持つ者、(2)公認会計士・医師・歯科医師・獣医師・弁護士・税理士・薬剤師・社会保険労務士・不動産鑑定士・弁理士の有資格者、(3)システムアナリスト試験合格者又はアクチュアリー資格試験(保険・年金数理試験)合格者、(4)特許発明の発明者、登録意匠の創作者、種苗登録品種の育成者、さらには、(5)システムエンジニア等の科学技術関係業務、衣服・室内装飾・工業製品・広告等のデザイナー等の業務に就こうとする者で、学校でその専門学科を修めて実務経験が一定年数(高卒7年、短大・専門学校卒6年、大卒5年)以上の者で年収1075万円以上が確実な者、(6)以上と同等の知識・技術又は経験があると国・地方公共団体・公益法人等により認定された者で労働基準局長が認める者、としている。
(2) この告示案は、現行の「専門職」の範囲を概ね引継ぐものとなっているが、これではあまりにも広範であり、労働者が主体的に働き方を選択できるようにするという法改定の趣旨を没却しかねない。
労働基準法は、生活の向上を願う労働者の退職の自由を保障するために有期契約期間の上限を原則として1年に限定し、「専門職」と評価されるものについては比較的使用者との交渉力があると想定されることから例外的に上限期間を3年としてきた。この基本趣旨は今般の法改定においても維持されている。
ところが、実際には「専門職」とされている者でも使用者と対等の交渉力はないのが通常である。しかも、今般の法改定により「専門職」に該当するとされる者は最長5年間退職の自由が保障されないことになるうえ、適用を受ける契約は「当該事業場で当該専門職が不足していること及び新規契約」に限るとの制約が外されたため、自ら主体的に働き方を選択できると言う趣旨説明に反し、これまで以上に長期にわたり拘束を受ける労働者がさらに増大する危険がある。
だからこそ、法案審議の経過のなかでも、対象を「弁護士、公認会計士など専門的な知識、技術及び経験を有しており、自らの労働条件を決めるに当たり、交渉上、劣位に立つことのない労働者」に限定することとの附帯決議が衆参両院揃ってなされているところであり、これに則して「専門職」の範囲は厳格に定めるべきである。
具体的な「専門職」の範囲を定めるにあたっては、高度の専門職と評されるべき大学教員についても退職の自由が保障されていることに鑑みるならば、「専門職」は大学教員よりも高度に専門的で、使用者と対等に近い交渉力のある者に限られるべきである。
そして、ほとんどの労働者は雇われずとも生活手段を得る道がある場合にはじめて使用者と対等に近い交渉力を有することになるから、具体的には、上記(2)に挙げられている国家資格のうち、通常当該資格を以って独立営業ができ、社会的にも高度の専門職と認められるもので、当該資格において相当程度の期間にわたる実務経験を有する者に限定すべきである。
1 契約締結時の明示事項等
(1) 告示案は、(1)使用者は、期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)の締結に際し、労働者に対して当該契約の期間の満了後における当該契約に係る更新の有無を明示しなければならないものとすること、(2)この場合、使用者が当該契約を更新する場合がある旨明示したときは、使用者は、労働者に対して、当該契約を更新する場合又はしない場合の判断の基準を明示しなければならないものとすること、(3)使用者は、有期労働契約の締結後に(1)又は(2)に規定する事項に関して変更した場合には、当該契約を締結した労働者に対して、速やかにその内容を明示しなければならないものとすること、としている。
(2) 猛烈な勢いで常用労働者から有期や派遣等の非正規労働者への置き換えが行われ、現在では非正規労働者は約1,451万人で雇用者の27.2%にものぼるにいたっている(平成15年版労働経済白書・参考資料57頁)。これら非正規労働者を雇用する理由は、「人件費が割安だから」が急増すると共に「雇用調整が容易だから」も増加しており(同61頁。なお、同白書218頁)、白書も「全体として正社員から非正社員への純流入が増加」(216頁)と指摘している。
本来、使用者は事業の遂行のために労働者を雇い入れるのであるから、事業が継続する限り労働力の提供を受け続けることになる。したがって、労働者を雇うに際しては期間の定めを設けないことを原則とすべきであって、有期雇用契約は合理的な理由がある例外的な場合に限って認められるべき契約形態である。ところが、現実には常用雇用と実態が変わらないにもかかわらず形式上「有期雇用」とすることにより低い労働条件で働かせる例が後を絶たないのである。
このように大規模に常用代替が進む状況の中で、今般労働契約の期間の上限を引き上げる改定が行われたが、我々は、これは安易な常用代替を促進することになると批判してきた。そして、国会審議のなかでも常用代替が進行することを懸念する質問が相次ぎ、衆参両院で「常用雇用の代替化を加速させないように配慮するとともに、有期雇用の無限定な拡大につながらないよう十分な配慮を行うこと」との附帯決議がなされるに至った。こうした経緯を踏まえて、まず基本姿勢として、雇用の安定に資するような「基準」を定めるべきである。
ア 案は、更新の有無及び更新をするか否かの判断基準を明示しなければならないとするが、大前提として、有期契約は合理的な理由にもとづいてのみ認められるべきものであるから、まずは契約締結にあたりその理由が明示されるべきであり、また、そうすることが後の更新をめぐる紛争の予防に資するものと考えられるが、案はこれにまったく触れていない。
そこで、有期労働契約の締結時において、(1)有期雇用とする理由、(2)期間の根拠、を文書で示すよう使用者に義務づけるべきである。
イ また、「更新の有無」の明示を求めたところで、たとえ更新を予定している場合であっても、契約締結時には「更新有り」とは明示せずに「更新は無い」と明示することを防ぐことはできない。使用者は、このようにしておいたうえで、期間満了時にいたってあたかも事情が変わったので例外であるかのように述べて更新を繰り返すことになるであろう。これでは明示をさせたところで何の意味もないばかりか、使用者に後に更新をめぐる紛争に備えて口実をつくる機会を提供することとなりかねない。こうした事態を防止するためには、期間を超えて就労した場合には期間の定めのない雇用契約となるものとすべきであるが、これをしないままに「更新の有無」の明示のみを求めることは有害である。
ウ さらに、今般の労働基準法の改正において、「解雇は、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当として認められない場合には権利濫用として無効となる。」(18条の2)との規定が新設されたが、雇い止めにおいてもこの理は妥当し、恣意的な「判断基準」を設けることは許されない。
ところが、告示案は「判断基準」の内容について全く触れていない。これでは、契約更新に際して解雇権濫用法理の類推適用がなされる場合があることに留意することを求めている「有期労働契約の締結及び更新・雇止めに関する指針」(平成12年12月28日)から後退しているとも受けとめられかねない。同指針を基本とするとした厚生労働大臣の答弁にうそ偽りがないのであれば、雇止めについての「判断基準」として、客観的に合理的なものを例示するなどして、当該基準に合致しない雇止めは無効となるべきことに留意するよう求めるべきである。
エ 告示案では、更新の有無及び判断基準を後に変更した場合には労働者に対して速やかにその内容を明示しなければならないとしているが、これは使用者による一方的な変更を前提とするものでとうてい容認できない。
一方的な変更を許せば、当初は更新をするとしておきながら、後に何ら合理的理由なく更新をしないこととすることや、更新しない場合の「判断基準」を一方的に労働者にとって不利になるように変更することが後を絶たなくなる恐れが多分にある。
そこで、契約期間中の変更は認められないとすべきである。少なくとも、更新の有無及び判断基準について労働者の不利益に変更する場合には、就業規則の不利益変更の法理などの労働条件の不利益変更の法理に従い、合理的理由があり、かつ変更後の内容が合理的でなければ変更はできないことを明示すべきである。
2 雇止めの予告
(1) 告示案は、「使用者は、有期労働契約(雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している者に係るものに限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く。3の(2)において同じ。)を更新しないこととしようとする場合には、少なくとも当該契約の期間の満了する日の30日前までに、その予告をしなければならないものとすること。」としている。
(2) ア 雇い止めは解雇に並ぶ契約終了の方法であるから、契約期間満了にあたり雇い止めの有無を予告することは、労働者に将来の予測をもたせることができる点で望ましい。
イ しかし、要綱案では、この予告を受けられる者を「雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している者」に限っている。勤務1年以下の者であっても更新への期待は小さいわけではなく、むしろ長年更新を繰り返していれば次も更新されるとの予測がたつのに対し、1年未満の場合には更新があるかどうか予測のたたない状態で期間の満了を迎えることになるのであるから、勤務1年以下の者についてもその契約期間の長さに応じた予告期間を設けるべきである。
ウ また、雇い止めが解雇と並ぶ契約終了の方法であることからすれば、労働基準法20条に準じた予告及び労基法22条1項に準じた雇止め理由書の交付義務を使用者に課すべきである。
3 雇止めの理由の明示
(1) 告示案は、(1)雇止めの予告の場合、使用者は、労働者が更新しないこととする理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならないものとするとともに、(2)有期労働契約が更新されなかった場合において、使用者は、労働者が更新しなかった理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならないものとすることとしている。
(2) 使用者に雇止めの理由を遅滞なく明示させることは、恣意的な雇止めを予防するとともに、紛争をいたずらに長期化させない効果も期待されるところであり、賛成する。
4 契約期間についての配慮
(1) 告示案は、「使用者は、有期労働契約(当該契約を1回以上更新し、かつ、雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している者に係るものに限る。)を更新しようとする場合においては、当該契約の実態及び当該労働者の希望に応じて、契約期間をできる限り長くするよう努めなければならないものとすること。」としている。
(2) 有期契約期間の上限の延長については、「雇用の安定に資する」との議論もあったが、これが現実のものとなるには、実際には3か月程度の単位で更新が繰り返されているような不安定な有期雇用契約について、当該労働者の希望に即してできるかぎり長期間の契約期間とすることが求められる。そうでなければ、企業はたとえば専門技術者のように拘束をしておきたい労働者については上限いっぱいの契約期間とし、その他の労働者はいつでも首が切れるように3か月や1か月といった短期の契約期間としたままにしておくようになり、使用者にとってのみ使い勝手のある有期雇用の形態が広がり、労働者の雇用と生活を今以上に不安定にさせる危険が高い。
そこで、有期労働契約の期間については当該労働者と十分に協議し、労働者の希望に沿うよう努めるべきこととすべきである。
1 対象事業場及び対象業務
(1) 告示案は、「適用対象事業場に関する基準について、当該事業場の属する企業等に係る事業の運営に影響を及ぼす決定が行われる事業場又は当該事業場に係る事業の運営に影響を及ぼす独自の事業戦略を策定している支社等である事業場とすること」とし、また、「対象業務について、支社等における当該事業場の属する企業等に係る事業の運営に影響を及ぼす業務又は当該事業場に係る事業の運営に影響を及ぼす独自の事業戦略を策定する業務を加えること。」としている。
(2) 「カローシ」という言葉が国際的な言葉として世に広まってからすでに10年以上が経過しているが、この間、過労死はなくなるどころか毎年のように数多く起きている。とりわけ、過酷なリストラが行われる中で労働者個々人の負担は増大するばかりで、そのなかから過労死・過労自殺者が後を絶たない。
こうした状況を是正するために、厚生労働省は、不払残業対策に乗り出し、間接的ではあるが働きすぎの防止を図ろうとしている。しかし、企画業務型裁量労働制は職種による限定がなく、広範な労働者に適用を広げうるものであるため、「残業隠し」に悪用される危険があり、残業代を支払わない口実にするために裁量労働制をとる会社も後を絶たなくなっている。今般の法改定がこのような傾向に拍車をかけるようなものであっては断じてならず、国会審議の中でもその旨の決議がなされている。
そうであれば、企画業務型裁量労働制の適用範囲については厳格に限定することが必要である。
今般の改定は、これまで本社に限られていた対象事業場を支社にも広げようというものであるが、この支社については、国会答弁において実質的な分社のケースを想定していることが述べられており、あくまで特定の事業については本社と同等の権限を分掌している事業場を指すものと理解すべきである。
ところが、案は、「当該事業場に係る事業の運営に影響を及ぼす独自の事業戦略を策定している支社等」を新たな対象事業場とする。これでは、本社からの独立性も、独自の決定権限も不問にされ、本社が定める事業計画を遂行するために独自の事業戦略を策定している支社が全て含まれることになりかねず、事業場を限定する意義はほとんど全く失われてしまう。
そこで、対象事業場については、特定の事業について、本社から独立し、独自に最高・最終の決定権限を有する事業場であって、本社が定める事業計画を独自に実施するにすぎない事業場は対象とはならないことを明確にすべきである。また、対象業務についても当該事業場が独自に最高・最終の決定権限を有する独自の事業戦略を策定する業務とすべきである。
2 健康・福祉確保措置
(1) 告示案は、(1)「働き過ぎによる健康障害防止の観点から、必要に応じて、使用者に産業医等による助言指導を受けさせることが考えられることに留意することが必要であることとすること」、(2)「使用者は、把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、当該対象労働者への企画業務型裁量労働制の適用について必要な見直しを行うことを決議に含めることが望ましいことに留意することが必要であることとすること」としている。
(2) 前述した労働者の健康破壊が進むなかで、裁量労働によるいっそうの健康破壊が懸念されることから、健康・福祉確保措置の充実は絶対に欠かすことができない。国会審議のなかでも、衆議院においては「裁量労働制を導入した事業場に対して、指導・監督を徹底するとともに、過労死を防止するための必要な措置を講ずること。」、参議院においては「裁量労働制を導入した事業場に対する労働基準監督官による臨検指導を徹底し、過労死を防止するための措置を講ずること」との附帯決議がなされているところである。
ところが、この点についての告示案はもって回った言い方に終始しており、およそ使用者に対して具体的な措置を求めるものとは言い難い。使用者に対しては、より具体的に、健康診断基準の充実、健康診断結果にもとづく配置変更・業務軽減その他所要の措置を講じるべきことが必要であることを明確にすべきである。
(1) 告示案は、「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準第3条に定める限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない特別の事情は、臨時的なものに限ることとすること。」としている。
(2) そもそも、労働基準法第36条が定める時間外労働は、戦後の復興期であることを考慮して例外的に時間外労働が許容されるための要件を定めたものであり、もともと「臨時的」な場合に限られるべきものである。高度経済成長期を経た今日、これ以上に例外を緩める必要は全くない。しかも、法律本条自体にその上限時間の定めがないことについてはかねてから強い批判が寄せられてきていたところである。
このような欠陥を補うものとしての「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」に特別条項を設けて、この「基準」が有する法の欠陥を補う機能を後退させることは本来望ましいことではない。したがって、例外の例外として、この「特別の事情」は、たとえば「災害その他避けることのできない事由がある場合に限る」など、厳しく限定すべきである。
以上