<<目次へ 【意見書】自由法曹団



中教審「今後の学校の管理運営の在り方について(中間報告)」に対する意見

2003年1月6日

自由法曹団
団 長 坂本  修

はじめに

 中央教育審議会は2003年12月16日に「今後の学校の管理運営の在り方について(中間報告)」を発表した。
 中間報告は、「今後の学校の管理運営の在り方」として、「地域が参画する新しいタイプの公立学校の運営(地域運営学校)」と「公立学校の管理運営の包括的な委託」の2点を中心に基本的な考え方をまとめている。
 この内容は,教育基本法6条など教育基本法「改正」問題と密接に係わる。そこで、以下、意見を述べる。

第1 今,わが国の教育に求められているのは過度な競争的な性格の改革

 国連子どもの権利委員会は、1998年6月24日日本審査・最終所見で「高度に競争的な教育制度によるストレスにさらされ、かつ、その結果として余暇、身体的活動および休息を欠くにいたっており、子どもが発達障害におちいっていること」について懸念をし、「過度なストレスおよび学校嫌いを防止し、かつ、それらを生み出す教育制度と闘うための適切な措置」と取るように勧告している。
 従って、学校の管理運営の在り方を検討する場合も、教育の過度な競争的な性格を克服するのか、反対に促進するのかを現実的に検討しなければならない。

第2 「地域が参画する新しいタイプの公立学校の運営(地域運営学校)」について

1 子どもの学校参加の視点が欠落

(1) 中間報告は「学校は地域社会を基盤として存在するものであり、充実した学校教育の実現には、学校・地域社会の連携・協力が不可欠である。」として「各学校の運営に保護者や地域社会が参画することと通じて、学校の教育方針の決定や教育活動の実践に、地域のニーズを的確かつ機動的に反映させるとともに、地域ならではの創意や工夫も生かした特色ある学校づくり進むことが期待される。」とする。
 確かに、地域に根ざし、保護者や地域住民が学校の運営に参画すること自体は積極的な意義がある。

(2) しかし、中間報告は子どもの学校への参加の視点が欠落している。
 子どもの権利条約12条は「締結国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合においては、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮される」として子どもの意見表明権を保障するが、子どもが学校や教育のことについて意見表明できるような子どもの学校参加を保障することが求められている。
 中間報告は子どもの学校参加については全く言及していない。

2 競争が激化する危険性

 中間報告は、地域運営学校は「新しい学校運営の選択肢の一つ」であり「すべての公立学校に一律に求められるものではない」とする。定員枠や通学可能距離など考えると、地域運営学校に通学するための競争が激化する危険性が高い。

3 校長の裁量権の拡大の問題

 中間報告は「校長の裁量権を拡大することが重要である。」として、教師職員人事、裁量経費の増額、非常勤講師の採用を可能にすることなどを提言する。しかし、他方で、「地方公共団体の教育委員会は、地域運営学校の教育活動を普段に点検・評価する」とする。
 「校長の裁量権の拡大」は、校長の経営方針が学校の経営方針として押し付けられ、教職員の合意による学校内民主主義が否定される危険性がある。
 他方で、校長自身が教育委員会から「普段に点検・評価」され、教育委員が意図する学校方針を忠実に従うことが強制される危険性がある。

4 点検・評価の問題

 前記のように「地方公共団体の教育委員会は、地域運営学校の教育活動を普段に点検・評価する」とする。
 この「点検・評価」が「進学実績」などを重点にしたものになるならば、受験教育などの競争が激化する危険性がある。

第3 「公立学校の管理運営の包括的な委託」について

1 憲法89条との関係を慎重に検討することが必要

 中間報告は「公立学校の管理運営を包括的に委託する可能性」を検討すべきであり「新たな学校の管理運営の形態であることから、米国の一部地域において行われている公立学校の管理運営の委託や、委託の一類型とも言えるチャーター・スクール制度において実際に明らかになっている課題等を踏まえ、慎重な制度設計を行うことが必要である。」とする。
 このようないわゆる「公設民営学校」と憲法89条との関係は慎重に検討されなければならない。

2 競争が激化する危険性

 中間報告は、地域運営学校は「多様な特色を持つ学校の設置を選択肢の一つとして検討する」としており、前記の地域運営学校と同様に、定員枠や通学可能距離など考えると、公設民営に通学するための競争が激化する危険性が高い。

3 点検・評価の問題

 前記のように「教育委員会による点検・評価の実施が不可欠」とする。前記の地域運営学校と同様に、この「点検・評価」が「進学実績」などを重点にしたものになるならば、競争が激化する危険性がある。

第4 株式会社の学校設置について

 中間報告は、「株式会社の学校設置について今度も検討する」とする。しかし、株式会社の学校経営を認めようという意見については断固反対する。教育は仮に利潤が上がらなくても社会的な事業として行われるべきものであり、そのことが教育が「公の性質」をもつ(教育基本法6条)という意味である。教育は公の性質を持っているのであり、営利目的の企業に経営することは認められない。

第5 まとめ

1 学校に子どもの参加と地域社会住民や父母の参加を認め、地域社会に開かれたものになっていかなければならないことは言うまでもない。

2 また、学校選択の自由も、私立学校の選択の自由など、公立学校の補助的なシステムとして積極的な意義を有している。また、例えば、公立学校においても不登校や登校拒否の子どもたちを受け入れている施設が親の呼掛けで作られ、公の学校として認定することも積極的に検討されて良い。

3 しかし、中間報告が検討している地域運営学校やチュータースクールなどの「公設民営学校」は、地域独自のニーズ、教育の多様化の名目の下に行われているが、明らかに教育の市場化を進めるものであり、教育の競争的な性格を強める危険性が高い。
 また「公設民営学校」は、他方では日本国民として国政に参加し、決定していくための最低の教育レベルを子どもに確保するという公教育の基本的命題をもなし崩し的にうやむやにしていくものであり問題である。

以 上

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