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子どもたちを見張れ!

検証 警察・学校相互連絡制度

2004年10月 8日
自由法曹団「警察・学校相互連絡制度」問題プロジェクト

 発行にあたって
PartT 報告=相互連絡制度とは
 警察・学校相互連絡制度とその展開
 警察・学校相互連絡制度の問題点
PartU 論稿=相互連絡制度を考える
 監視型非行対策と国に役立つ人材作り政策
 連絡制度は本当に学校や子どもに必要か
 学校が治安維持の場に、子どもたちを治安対策の対象に
 石原都政が示す警察・学校相互連絡制度の危険な本質
 監視と密告の中の安全−監視カメラをめぐって
 排除と鎮圧による「安全」か、平和と共生の社会か
PartV 資料=連絡協定、要領、展開状況
 東京都の協定と要領
 警視庁の要領
 文京区の協定と要綱
 杉並区の指針
 全国状況、東京都下の状況


 

 「子どもたちを見張れ! 検証 警察・学校相互連絡制度」について

 この小冊子は、東京都での相互連絡協定の調印を期に、自由法曹団本部と自由法曹団東京支部が合同で設置した「警察・学校相互連絡制度」問題プロジェクトが作成した。プロジェクトは、全国各都道府県と東京都下の区市町村に広がりつつある相互連絡制度について、調査・資料収集を行うとともに、制度の内容や問題点について集団的に検討した。小冊子の報告・論稿は、こうした検討を踏まえて、執筆者がそれぞれの責任で取りまとめている。

 PartT(報告)では、連絡制度の内容および東京と全国での展開を整理するとともに、制度の問題点を明らかにした。PartU(論稿)は、青少年問題、教育問題、警察問題、石原都政問題、監視社会問題、「生活安全条例」問題、有事法制問題といった自由法曹団がたずさわってきた多面的な問題から、相互連絡制度の意味を考察した6本の論稿で構成している。PartV(資料)には、収集した資料から、最も典型的と思われる東京関係の協定・要領等を収録し、全国都道府県と東京都下での展開状況を示す一覧表を付している。

 下記執筆者は、いずれもプロジェクトに参加した自由法曹団員の弁護士である。

発行にあたって  松井繁明(東京)
警察・学校相互連絡制度とその展開  田中 隆(東京)
警察・学校相互連絡制度の問題点  長澤 彰(東京)
監視型非行対策と国に役立つ人材作り政策  草場裕之(宮城)
連絡制度は本当に学校や子どもに必要か  村田智子(東京)
学校が治安維持の場に、子どもたちを治安対策の対象に  渡辺登代美(神奈川)
石原都政が示す警察・学校相互連絡制度の危険な本質  滝沢 香(東京)
監視と密告の中の安全−監視カメラをめぐって  松島 暁(東京)
排除と鎮圧による「安全」か、平和と共生の社会か  田中 隆(東京)


 

 

発行にあたって

 教育関係者のあいだでも「警察・学校相互連絡制度」のことを知らない人が、まだ多いのではないだろうか。自由法曹団東京支部がその存在を知ったのも、かなり偶然的な経過からであった。しかしその内容を検討してみると、これは子どもの教育と人権にとってきわめて重要な問題をはらむものと判断せざるをえない。

 われわれも、事案の性質によっては警察と学校が相互に連絡・協力しあう必要を否定するものではない。また、これまでも警察署管内ごとに学校・警察連絡協議会が常設され、そこで一定の情報交換がおこなわれていることも知っている。しかし全国各地に新設されつつある「警察・学校相互連絡制度」は、これらとは異なり、生徒の非行・犯行等に関する情報を、単純な基準で機械的に連絡しあおうとするものである。

 この制度がもつ危険性・問題点の具体的指摘は後の論稿にゆずるが、最大の特徴は、生徒が、未熟ではあっても成長しつつある存在としてではなく、犯罪・非行取締りの対象としてしか捉えられていないことである。生徒に対する教育的配慮やその人権を尊重する姿勢がまったく欠如しているのである。子どもは教師にも警察官にも自己の秘密を保持することが許されず、それを恐れて犯罪・非行が一時的・部分的には抑制されるかもしれない。しかしそれでは、子どもの反省的自覚が育つ余地はなく、真の更生にはつながらない。

 こうした乱暴な制度について、いかに警察からの圧力があるとはいえ、教育行政に責任をもち、個人情報保護の責務をもになう行政当局が安易に合意している状況には、信じ難い想いがする。「警察・学校相互連絡制度」自体が天下の大問題だというつもりはない。しかしこの制度が単独で存在するのではなく、他の諸法令・制度と結びつき、現在この国をおおう顕著な傾向と離れがたく結びついていることに強い警告を発したい。

 財界・大企業本位のグローバリゼーションや「規制緩和」など新自由主義的政策が強行されるこの国では、社会の緊張や亀裂がはげしくなるのは避けられない。犯罪は、ある意味では、その社会を映し出す正確な鏡である。社会の緊張や亀裂の激化は、警察が誇張するほどではないにしろ、犯罪の増大と凶悪化を予感させる。わが国の支配層はそれを警察権力によって抑えつけようと試みる。それが「生活安全条例」による監視社会の実現などとして現れる。「警察・学校相互連絡制度」もまた、その一環としてとりくまれているのである。これは、われわれが目指そうとする社会―自由と寛容、豊かさと伸びやかさが並存する社会とは逆方向であることを指摘しておきたい。

 自由法曹団本部と自由法曹団東京支部の合同プロジェクトがこの問題についての報告をまとめたのが、この小冊子である。おおくの人びとに読んでもらい、これからの国民的論議の素材としていただくことを願っている。

    2004年10月

          自由法曹団常任幹事・東京支部長  松井繁明




PartT 報告=相互連絡制度とは

警察・学校相互連絡制度とその展開

1 「相互連絡制度」ってどんなもの?

 都道府県の警察本部(東京では警視庁)と教育委員会が、警察と学校が連絡をとりあうための協定を結ぶケースが増えてきている。正式名称は「警察・学校相互連絡制度」だが、「青少年の健全育成のためのサポートシステム」などの耳ざわりのいい言葉で語られてもいる。高校などを管轄する県の教育委員会だけではなく、市町村の教育委員会にも広がっているから、多くの小中学校もすでに「サポートシステム」のもとに入っている。

 警察と学校がなにを連絡しあうか。ひと言で言えば、学校が知った子どもたち(児童・生徒)の問題行動の情報を警察に連絡し、警察は逮捕したり補導したりした子どもたちの情報を学校に連絡する。「そうすれば、学校内外を問わず警察官と教職員が目を光らせることになるから、青少年犯罪や非行が防止できるだろう」。こんな考え方が背景にある。

 本当にそれでいいのか。学校の教育はおかしくならないか。警察がこんなことまで立ち入っていいのか。子どもたちや保護者のプライバシーはどうなる。憲法や人権に抵触しないのか。連絡制度をめぐるさまざまな問題を考えるために、まずは連絡制度の内容と展開をスケッチする。

2 東京都から区市町村へ ―― 2004年4月〜9月

 (1) 警視庁と都教委の相互連絡協定

 a 相互連絡協定と連絡対象事案

 2004年4月5日、警視庁と東京都教育委員会(都教委)は、「児童・生徒の健全育成に関する警察と学校との相互連絡制度の協定書」に調印した。署名捺印したのは警視庁生活安全部長と都教委教育長である。

 東京都の協定で相互連絡の対象となる事案は以下のものである。

 (1)

警察から学校への連絡
「逮捕事案」「ぐ犯事案」「非行少年等及び児童・生徒の被害に係る事案で警察署長が学校への連絡の必要を認めた事案」

 (2)

学校から警察への連絡
「児童・生徒の非行等問題行動及びこれらによる被害の未然防止等のため、校長が警察署との連携を特に必要と認める事案」「学校内外における児童・生徒の安全確保及び犯罪被害の未然防止等のため、校長が警察署との連携を特に必要と認める事案」

 警察からの連絡事案にある「ぐ犯」とは、「保護者の正当な監督に服しない性癖がある」「正当な理由がなく家庭に寄り付かない」などの事由があって、「将来、罪を犯し、または刑罰法令に触れる行為をするおそれのある」場合であって(少年法第3条(1))、犯罪をやった場合ではない。学校からの連絡は「未然防止のため」だから、「犯罪が起こる前の通報」が原則、ねらいは「防犯・未然防止のための問題行動の相互通報」なのである。

 b 協定に至る経過と高校生への適用

 相互連絡制度は条例によるものではないから、東京都議会での審議もないまま締結された。また、東京都個人情報保護条例には、「他の機関に提供する場合で、事務に必要な限度で使用し、かつ、使用するときに相当な理由があると認められるとき」には「目的外使用・提供」が認められることになっているため、個人情報保護条例の実施機関である学校から警察への情報提供が個人情報保護審議会の検討・審議を経ないまま実行に移されることになった(後に見る区市の場合と対照的である)。

 東京都の協定は5月1日から実施され、都立高校や都立養護学校等で相互連絡が行われつつある。「これまで高校生を逮捕しても必ずしも学校に連絡していなかったが、協定ができたので連絡することになった」(担当警察官)との事態が、すでに発生してきている。

 (2) 区市町村の連絡制度

 a 都教委の要請と区市の対応

 東京都の連絡制度が適用されるのは高等学校などの都立学校で、区市町村立の小中学校には及ばない。小中学校に相互連絡制度を導入するために、都教委は「警視庁と区市教委の協定のモデル案」を添えて区市教委に通知した。

 「4月中にいっせい調印」というのが都教委のもくろみであり、そのための教育長会も行われたが、区市教委の足並みは必ずしも揃わず、予定どおり調印した区は品川・千代田・江東・板橋・練馬・江戸川の6区にとどまった。「教育長会としては突然の話で、すぐ結ぶというのはなかなか難しいのではないか」「個人情報の問題もあるのでちゃんと手続を踏む必要がある」などの論議があって、多くの区市は慎重検討の姿勢をとったためである。

 b 個人情報保護条例と審議会

 区や市が逡巡した理由のひとつは、学校が実施機関になっている個人情報保護条例にあった。多くの区市の条例では、行政機関が取得した個人情報目的外利用を厳しく規制しており、許容されるのは「本人の同意」「法令等の定め」「報道等で公知」「生命等を守るための緊急かつやむを得ないとき」等に限定されている(東京都条例のように「他の行政機関への提供」の許容はない)。これ以外の目的外利用には、個人情報保護審議会への諮問が要求されているため、学校から警察への連絡には審議会を経ねばならないのである(警察は条例の実施機関になっていない)。

 こうして個人情報保護審議会で「学校から警察への連絡」をめぐる論議が続けられることになり、「強い反対意見があったが激論の末に多数決で強行された」(杉並)、「弁護士や学者の委員が強く反対して継続審議になった」(豊島)といった事態が続出した。区市教委によって提起されながらいまだに締結に至っていない区市は、審議会の慎重な検討があずかって大きい。

 c 教育委員会での論議、自由法曹団東京支部の要望

 審議会の論議に触発されるかたちで、区市の教育委員会でも「学校における教育的配慮の問題」「生徒や保護者の知らないうちに学校から警察に通報されることの問題」「プライバシーの問題」などの積極的な論議が行われることになった(文京区教委議事録などから)。こうした論議が行われていることには積極的な意味があるだろう。批判検討をうながすため、自由法曹団東京支部は区市町村の審議会と教育委員会に要望書や資料を提出している。

 警視庁と都教委の調印から6か月を経た9月末現在、協定を締結したのは23区中15区、26市中14市と連絡制度はいまだ全都を覆うには至っていない(13の町村は初期に調印)。区市町村の協定は、都教委が配布した「モデル案」どおりのもので、署名捺印しているのは警視庁生活安全部少年育成課長と区市町村教委の教育長である。

3 道府県の相互連絡制度 ―― 2002年にはじまり2004年に全国化

 (1) 宮城県協定と2003年までの拡大

 東京都から区市町村に拡大した相互連絡協定は、東京都が「オリジナル」ではない。全国ではじめての相互連絡協定は、2002年10月に宮城県で締結されている。10月4日、宮城県警本部は宮城県教育委員会、仙台市教育委員会と協定書を取り交わし、「みやぎ児童生徒サポート制度」を発足させた。「サポート」とは警察と学校の相互連絡であり、連絡の対象にされた事案も東京の協定とほとんど変わらない(平成14年10月4日付の県警本部・県教委・仙台市教委の「お知らせ」による)。

 2002年には宮城だけだった連絡制度は、2003年になって滋賀・大分・石川・埼玉などに広がった。石川・埼玉は宮城や東京と同じく「警察と学校の相互連絡」(双方向)だが、滋賀・広島・大分は「警察から学校への連絡」という「一方方向」のものである(「一方方向」のものは、協定ではなく要綱などで処理されている)。あえて「一方方向」にした自治体には、学校の情報を警察に通報することへの慎重姿勢があったものと考えられる。また、学校と警察の間にはこれまでも事件発生の際の連絡や一般的な意見交換などを行っていた「学校警察連絡協議会」(学警連)があったから、協定になっていない連絡システムは「学警連の延長線上のもの」と理解されている可能性も否定できない。

 連絡制度については、「平成15年中の連絡数は2,676件で,連絡率は83.3%であった。本制度は非行の抑止効果が認められ,学校との連携強化を推進するなどの報告を受けた」(04年3月24日 広島県公安委員会議事録)、「県教委によると、3月末までに学校に情報提供があった309人のうち『再犯』は9人。『抑止効果がうかがえる』と担当者は評価している」(04年4月 朝日新聞・石川版)などの報告・報道が行われている。

 (2) 2004年の本格展開

 2003年までは全国各地に散在していた「相互連絡協定」本格展開をはじめたのが2004年であり、4月5日の東京都での調印はその画期にあたっている。自由法曹団の調査では、1〜9月までの調印は15道県を越えており、すでに半数以上の都道府県でなんらかの連絡制度がつくられていることになる。これら2004年にはじめられた連絡制度は鳥山口・鳥取を除いて「双方向」型の協定であり、宮城・東京型が「本流」の位置を占めていることがわかる。

 8月に調印された北海道の協定は、通報対象事案には「縛りをかけた」と説明されていた。「警察から学校へ」の通報対象が具体的に列挙されて「縛り」がかかったようにも読めるが、実質的には差異はない。他方、「学校から警察へ」の通報対象の表現は他の協定とまったく変わっておらず、「明らかな犯罪や事故については、これまでどおり通常の110番通報などで対応することになるので、対象事案には該当しない」との「除外」が注記されている(8月11日付教育委員会の「通知」)。

 北海道の協定は、相互連絡制度の眼目が、「これまでの110番通報などでは得られなかった兆候段階の情報の学校から警察への通報」にあることを、あけすけに語っているのである。

4 連絡制度の実際 ―― 教育委員会と警察の実施要領

 (1) それぞれの要領

 警察と学校というまったく性格の違う機関の相互連絡は、それぞれの実施要領・実施要綱・実施指針(以下、これらを「要領」)にもとづいて実施に移されていくことになる。

 相互連絡制度の要領の特徴は、「警察本部・警視庁−警察署」と「教育委員会−学校」の2つのルートの要領がつくられていること、警察側の要領と学校側のそれとで微妙に扱いが違っていることにある。警察側、学校側のそれぞれの要領に、詳細な「書式」や「記載例」が付されていることも、微妙な問題をはらむ連絡制度の特徴と言えるだろう。

 以下、東京で確認された要領から、どのように連絡が行われ、授受された情報がどのように管理され、活用されるかなどを検討する。

 (2) 教育委員会−学校の要領

 a 都教委の要領

 警視庁と協定を締結した都教委は、4月21日、警察・学校のそれぞれからの連絡事案の「イメージ図」を付した「連絡等実施要領」を都立学校長に通知した。この東京都の「要領」では、「個人にかかわる情報であることから、秘密保持の徹底に努める」等の注意規定が盛り込まれている以外は、具体的な情報の管理などに触れられていない。また、「連絡等の内容については、必要に応じて保護者に連絡するとともに、事実確認を行う」とされており、連絡の必要がなければ保護者や生徒・児童に知らせないまま警察と学校が通報しあうことが前提にされている。

 b 区市の要領・要綱・指針

 区市の教育委員会の要領には、情報の収集・管理から連絡の方法、授受した情報の取り扱いなどについて、詳細なシステムを組み上げたものが見られる。学校側での取り扱いについては、区市によってある程度独自性のある要領がつくられている。

 杉並区の実施指針では、(1)学校はあらかじめ「警察と学校との相互連絡票」に記載した内容にもとづいて電話または面接による口頭連絡を行い、(2)「相互連絡票」は施錠可能なロッカー等に保存して保存期間は1年とし、(3)連絡等の内容をコンピュータに入力して記録してはならない、とされている。文京区の実施要綱でも「事件が解決したときや学籍がなくなったときに廃棄する」「一定の場合を除いて連絡した事項を児童・生徒および保護者に告知する」等の規定が設けられている。

 こうした「システム化」は、情報の管理などをそれなりに厳格に処理しようとしたものと考えられる。だが、教育の場である学校において、子どもたちにかかわる情報をシステム的に処理することが妥当かどうかには厳密な検討が求められよう。文京区では、小中学校が「連絡した数」と「連絡を受けた数」を毎月教育委員会に報告することになっており、「連絡の励行度」を数字でチェックするシステムが、「連絡数の競いあい」を引き起こす危険性も黙視できない。

 (3) 警視庁−警察署の要領

 a 要領と「要領について」

 警視庁は、協定締結に伴って制定された「相互連絡制度実施要領」と、それを更に詳細にした少年育成課の「相互連絡制度の実施要領について」との冊子をつくっている。警視庁はすべての協定の当事者であり、警察側の相互連絡はこの要領などで画一的に処理されることになる。「執務資料」とされている「要領について」には警察からの通報対象事案について、具体的な「記載例」が示されている。「通行人とけんかし、相手に怪我をさせたので逮捕しました」「怠学していたので補導しました。学校内でいじめにあっているとのことですので、事実の調査と指導をよろしくお願いします」といった具合である。

 警視庁の要領では、「連絡対象事案と認められた事案については、保護者等に対し、学校に連絡する旨を確実に伝えるものとする」とされており、「必要に応じて保護者に連絡」とする都教委の要領と対照的な表現になっている。「学校から警察への連絡は『未然防止のため』でうかつに保護者に伝えるわけにはいかないが、警察から学校への連絡は逮捕や補導等が起こってからのものだから保護者に隠す理由はない」との考え方である。

 b 警察における情報の管理と活用

 警視庁・要領の情報の管理や利用については以下のような特徴がある。

 (1)

どこの警察署や警察関係機関が事案を取り扱った場合でも、情報は生徒・児童のいる学校とその学校を管轄地域とする警察署に連絡される仕組みになっていること

 (2)

「警察署長は、連絡対象事案を早期に把握するため、各課の連携を密にし、署内体制を確立させるとともに、情報の一元化を図るものとする」とされてこと

 (3)

個人情報の扱いについては「保管・管理の適正を期する」とあるだけで、情報の管理方法や保持の期限などは明記されていないこと

 警察側ではすべての情報が児童・生徒の所属する学校のある警察署に集約され、学校から送られた情報も含めて一元的に管理されることになっている。こうしてストックされた情報をもとに、警察の「防犯」のための活動が進められる。「青少年保護」を名目に、犯罪や事件が発生する以前から警察の事実上の捜査が行われることになるのである。

 「要領について」では、「『学校連絡検討表』等作成資料の保存期間は、当該児童・生徒が当該学校(警察から連絡を受けた学校)を卒業するまでの間」とされている。これはあくまで「学校への連絡のための資料の廃棄」を意味していて、「警察がその生徒・児童についてすべての情報を消去する」ことを意味していない。学校にとっては卒業が「終わり」であっても、警察にとっては決して「終わり」ではなく、「治安維持」のために問題行動を起こした青少年についての情報の保存や活用を続けることになる。

 学校から警察に送られた情報のゆくえは「ブラックボックスのなか」なのである。

5 相互連絡制度のチェックと監視を ―― 自分たちのまちと学校に

 これまで全国で発足が続いている「警察・学校相互連絡制度」をスケッチしてきた。

 簡単なスケッチだが、制度のアウトラインは理解いただけただろう。この制度は、教育の面でも、警察の役割の面でも、憲法や人権との関係でも、社会のあり方の面でも、深刻な問題をはらんでおり、そのことはこのあとの報告や論稿で明らかにする。だが、いっそう深刻なのは、連絡制度や問題点が、学校教育にたずさわる人たちや、青少年の人権擁護にたずさわる人たちにも十分知られておらず、ほとんどの児童・生徒や父母が知らないところで進められているところにある。

 「問題行動だと学校が考えれば、本人にだまって警察に通報がいく」「両親に知らされないままで、子どものことが警察に伝えられ、事実上の捜査が始められる」等々が起こってくる。それが子どもたちにとっていいことか、そんな方法で青少年を健全に育成することができるのか。少なくとも、教育や人権にたずさわる者が、父母や地域住民とともに真剣に考えねばならない問題をはらんでいることは明らかだろう。

 教育や人権にたずさわる者が、まずは地元の相互連絡制度をチェックし、父母や地域住民とともに本格的な検討・批判を加えねばならないのではないだろうか。

(田中 隆)




警察・学校相互連絡制度の問題点

1 「警察・学校相互連絡制度」の概要

 「警察・学校相互連絡制度」は、警察と学校が児童・生徒の問題行動等の情報を相互に連絡をとるものである。一部に「警察から学校へ」情報を連絡する「一方向型」(秋田・兵庫・滋賀・山口・鳥取・広島)も存在するが、多くは「学校から警察へ」も情報を連絡する「双方向型」である。

 連絡内容は、(1)「警察から学校へ」は、逮捕事案、ぐ犯事案など警察が身柄を拘束したり補導したりした事案である。(2)「学校から警察へ」は、非行等の問題行動で警察との連携が必要とみとめられた事案である。東京都の協定のようにいじめにあっている児童・生徒の「被害者情報」を含めているものもある。

 「協定書」の形式を取るため、条例などのように、議会での審議・採決の必要がない。しかし、学校が保有する、児童・生徒の個人情報を警察に連絡することは、個人情報保護条例の「目的外使用」に該当するので、個人情報保護審議会に諮問し、審議会の「同意」が必要となるケースが多い。同審議会の諮問がなされた時点で「協定書」締結の動きが明らかになる。

 連絡方法は、「電話又は面接による口頭連絡により、速やかに行うものとする。」(東京都協定書)とし、情報管理については、「当該情報の秘密保持に努め、本協定の趣旨を逸脱した取り扱いは、厳にこれを禁じるものとする。」(東京都協定書)としている。具体的情報理については、「実施指針」「実施要領」で定められている。例えば、「東京都杉並区教育委員会の実施指針」では、「ア 警察と学校との相互連絡票は、施錠可能なロッカー等に保存する。文書保存年限は1年とする。イ 連絡等の内容を『大型汎用コンピュータ』『オフィスコンピュータ』『パーソナルコンピュータ』等、与えられた一定の処理手順に従って事務を自動的に処理する電子的機器の組織としての電子計算組織に記録してはならない」としている。情報の本人確認では、警視庁は「保護者等へは学校に連絡する旨を確実に伝える」としているが、東京都の都立学校側は、「連絡等の内容については、必要に応じて保護者に連絡するとともに、事実確認を行う」(実施要領)としている。学校から警察に連絡した内容が保護者等へ確実に連絡される保障がない。

 公立学校については、教育委員会と警察との協定書で制度が普及しているが、警視庁は、「『私立学校』についても連絡制度を実施する。現在、協定書の取り交し方法について検討中。」としており、全国的に私立学校を含めた動きがある。

2 相互連絡制度の問題点

 (1) 憲法上の人権との関係

 憲法は、個人の尊厳を保障し(第13条)、子どもの教育を受ける権利を保障する(第26条)。これらは、子どもは、過ちを犯しながらも学習・教育によってそれを克服して人格を形成し自己実現を図っていくものであるから、教育課程においては、国家権力からの監視・監督を受けることなく自由な環境で学校教育を受ける権利が保障されているのである。

 ところが、この制度は、学校生活の中で学校が知りえた児童・生徒の個人情報を警察に連絡されることになり、問題行動情報が警察の管理下に置かれることになる。児童・生徒の一過性としての問題行動情報が警察に流れると言うことは、「国家権力の監視のない自由な環境で学校教育を受ける」権利に抵触するものである。

 (2) 学校教育の変質

 学校が児童・生徒の個性を伸ばし人格を形成する教育から問題行動を監視し摘発する機関に変質する。

 従来は、問題行動を学校内で解決できず警察に協力を求めることは校長の能力が低いと否定的に評価されたが、今後は、問題行動をもらさず把握し警察に連絡することが校長の能力として積極的に評価されることになる。東京都文京区においては「月例報告」が定められており、各学校長の報告件数が一覧表となって学校長の能力評価がなされることになる。その結果、学校が児童・生徒の人格形成をはかり個性を伸ばす教育の場から、児童・生徒の問題行動を監視・摘発する場に変質し、学校が警察の下部機関となってしまう。教育の根幹である、教師と児童・生徒の信頼と期待が損なわれ、学校が児童・生徒の個人情報を「警察に売る」ことになり、学校が児童・生徒に対する加害者となる。本来、信頼関係を基礎とした教育機関たる学校が、警察主導の相互監視システムに変貌する。

 従来から設置されていた「学校警察連絡協議会」での情報交換とは質的に異なる。従来は、児童・生徒の問題行動については、学校内で教育的に対応することを原則に、例外的に警察の協力がどうしても必要な場合に情報の交換をしていた。しかし、今後は、原則的に警察に通報することになる。また従来は、学校所在地域を管轄している警察と学校との間の情報交換であり、原則として管轄外の情報は学校に入ってこなかったが、今後は、管轄の内外を問わず、都道府県内の警察が把握した情報は全て学校に通報されることになる。

 (3) 警察権限の拡大

 警察に連絡された情報は、一元化され警察に長期間保管蓄積されることになる。しかし、警察に保管蓄積された情報は、非行など問題行動に関する情報が多い。これは、犯罪に直結する情報ではなく「予兆情報」に過ぎない。「予兆情報」を警察が一般に収集することは困難であるが、学校から児童・生徒の問題行動情報として収集できることが、この「警察学校相互連絡制度」の大きな問題点であり、警察権限の拡大に結びついている。

 「生活安全条例」においては、警察が学校の安全を主導的に作りあげることを狙い、児童・生徒を学校の外部からの犯罪者から守ることに留まらず、学校内部の児童・生徒の問題行動の「摘発」や「異端者の排除」に結びつく危険性が指摘されている。「警察・学校相互連絡制度」では、個人情報をダイレクトに連絡し合うことで、児童・生徒の非行・問題行動が具体的に把握され、児童・生徒に対する警察の監視の目が直接的に及ぶことになり、その問題性は著しく大きい。

 「生活安全条例」において、警察主導の住民の相互監視システムと連携すると地域の不審者・異端者の摘発・排除に警察情報が利用されることになる。

 (4) 個人情報の目的外使用の問題点

 警察と学校の相互連絡協定の締結に個人情報保護審議会の「同意」を得れば、以後、個別的連絡については「同意」が不要として運用される。この「包括的同意」の運用は、個人情報保護条例の制度趣旨を踏みにじるものである。「個人情報保護」の趣旨からは、個別的連絡情報についても、審議会での個別的「同意」が必要であると解すべきである。

 (5) 個人情報の管理の危険性

 警察については、どのように個人情報を保管するのかについて、一切明らかになっていない。警察情報という性格上、長期間にわたり、保管される可能性が高い。小学校・中学校の一時期の一過性的な問題行動記録が警察に長期間保管される悪影響ははかりしれない。

 学校については、「保管期間」「保管方法」など、各市区町村単位で「実施指針」「実施要領」を定めることになるが、統一した基準を設定されていない。

 学校が警察に連絡した記録の保管は「実施指針」「実施要領」で定められても、各教員、学年主任、教頭、校長が保有する児童・生徒の問題行動記録メモの保管については統一した定めがなく、その情報の流出などの危険性が新たに発生する。

 (6) 学校から警察に連絡した情報内容の確認手段の欠落

 警察から学校への連絡については、「保護者等へは学校に連絡する旨を確実に伝える」(警視庁の実施要領)とされる。これは、逮捕やぐ犯など児童・生徒を警察が身柄拘束したり補導したりする事案であり、本人と保護者は学校に連絡された情報の内容を確認できる。

 しかし、問題なのは学校が警察に連絡した児童・生徒の情報については保護者・本人にその内容を確実に連絡・確認する手段が保障されていないことである。東京都の実施要領では「連絡等の内容については、必要に応じて保護者に連絡するとともに、事実確認を行う」とあるが、「必要に応じて」とあり、連絡内容のすべてが本人と保護者に通知されるものではない。市区町村単位になると、「微妙な部分でケース・バイ・ケース」(品川区)「実施指針の要領としては盛り込んでいない」(杉並区)として、子どもや親は学校が警察に情報を流しても全く知らされない可能性が発生する(『サンデー毎日』2004年7月4日号「学校と警察の『相互連絡制度』で増大する不安」)。

 児童・生徒の連絡情報が本人に確認されないということは、その問題行動の連絡情報が正確であるかどうかの検証がなされない。誤った「虚偽情報」であっても警察に連絡され記録化され保管されることになる。本人は「虚偽情報」を警察に連絡され、それが長期間保存されていることについて、一切知らないで生活していることになる。極めて重大な人権侵害が多数発生するという制度上の致命的欠陥を内包しているのである。

(長澤 彰)




PartU 論稿=相互連絡制度を考える

非行対策の名目で進行する
監視型非行対策と国に役立つ人材作り政策

1 政府、与党の青少年対策、非行対策

 (1) グローバリゼーションの人材づくり政策の基本〜青少年健全育成基本法案〜

 与党は、2004年3月、参議院に「青少年健全育成基本法案」(以下「基本法案」と記す)を提出した。年金法案は有事関連法案の審議の影響を受け、「基本法案」は審議に入ることなく廃案となったが、同法案は与党の青少年政策の基本的な考え方を示すものであり、次期通常国会に再度提出されるであろう。「基本法案」には、憲法や教育基本法にならって前文が置かれており、自民党ホームページにおいては、教育基本法と車の両輪であるとの位置付けがなされていることからみて、「基本法案」には、青少年に対する施策の包括的基本的な法律としての高い位置付けが与えられていることは明らかである。

 「基本法案」の第1の特徴は、(1)青少年の健全育成は「我が国社会の将来の発展にとって不可欠の礎」であることが強調されていることである。読みとばしてしまいそうな文章であるが、教育基本法や子どもの権利条約における子ども自身の成長発達する権利を支援するという子ども観、教育観を、お国のための青少年育成という子ども観、教育観に変更しようとする意思が明確に打ち出されている。

 2003年3月の中教審答申は、「人格の完成」という教育基本法の教育目的として、グローバリズム・大競争時代の「21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成」を掲げるべきであるとした。2004年6月の教育基本法についての与党協議会中間報告もこのような観点を引き継いでいる。国家社会のための人材育成という基本的視点において、「基本法案」と教育基本法改悪の方向とは完全に軌を一にしている。

 第2の特徴は、お国のための青少年の健全育成は親や国民の責務であると規定されていることである。東京都が本年8月にコンビニなど販売店に対して、万引を発見した場合は説諭などで処理することなく、警察、保護者、学校に連絡することを呼びかけたり、本書別稿の学校・警察の連繋制度など、関係機関や地域住民が一体となって子どもを監視する政策、あるいは非行少年の親に対するサンクションの制度を作りあげる基本的根拠法となる可能性がある。青少年健全育成の責務を果たさない者は、国家社会の礎を損なう者として、非難の対象とされる雰囲気が作りあげられるであろう。

 第3の特徴は、「基本法案」は、理念や政策実行組織についてのみ記載された簡潔な法案であることである。具体的施策は、内閣府の青少年健全育成推進本部が策定する青少年健全育成大綱に定めることになっている。既に昨年閣議決定されている「青少年育成施策大綱」(以下「大綱」)が青少年健全育成基本法にもとづく大綱とみなされることになっており、お国のための青少年育成という「基本法案」の危険な内容を如実に示す具体的な施策内容については国会審議を回避しようとしている。既に閣議決定されている以上、「大綱」に基づく施策が実行に移されていることも意味している。 

 (2) 青少年育成施策大綱と2004年法制審少年法部会諮問

 現在、国家に役立つ人材づくりという子ども観、教育観に基づく青少年問題対策の内容を理解するために、「大綱」の内容を検討しておく。「大綱」は、ゼロ歳児から20歳を超える青年に至るまでの広い世代に関する教育・福祉政策や非行対策等、様々な施策が規定されている。子どもの権利条約に規定された諸権利の実現、国連子どもの権利委員会の日本政府に対する2回の総括所見(1998年、2004年)における指摘に全く無関心であること、障害児の早期隔離政策が盛り込まれていることなど批判すべき点は多々あるが、ここでは2つの重大な問題点を指摘するにとどめる。

 第1の問題点は、警察中心の監視型非行対策を強化し、児童福祉を非行から撤退させて少年司法に押しやり、少年司法等を厳罰化、刑事裁判化しようとしていることである。

 「大綱」は、14歳未満の触法少年について警察の捜査(調査という文言を使ってはいるが強制力の行使が前提となる以上、実態は捜査である)や少年院収容を可能にし、保護観察中の遵守事項違反少年を少年院に収容する法律改正、問題行動を行う特定の少年について警察と学校の情報交換を可能にする法的措置について提言している。

 触法少年の事件についての警察の捜査、少年院収容、保護観察制度の改変については、本年9月、法制審議会少年法部会への諮問内容となっており、内閣府主導による綿密な青写真のもとで、少年法分野の改悪が推しすすめられていることがわかる。責任主義のもとで犯罪とされない触法事件について、犯罪の抑圧、防止を責務(警察法2条1項)とする警察の権限を拡大することは権限の逸脱であるとともに、児童相談所本来の権限の簒奪であり、その情熱を枯渇させてしまうであろう。

 14歳未満の触法少年の少年院収容は、重大犯罪を犯した触法少年の更生に対して家族的な暖かさを提供することによってその更生のために役割を果たしてきた児童自立支援施設の否定である。30年前の触法少年による殺人が年間平均3人台であり、ここ10年は年平均2人台に減少しており、かつ児童自立支援施設からの問題提起もなされていないにもかかわらず、なぜこのような提案がなされるのであろうか。結果が重大であれば年齢に関係なく少年院における矯正という強力な制度の対象としようとする結果主義、規範主義を子どもにも貫徹しようとしているのである。

 保護観察制度の改変にも重大な問題がある。新たな犯罪を犯すことなく、新たな虞犯要件も存在しないにもかかわらず、少年院収容がありうるという制度は、保護司との面会などの遵守事項の違反を理由にサンクションを与える制度であり、脅しによって非行を犯した少年を監視し続けるというものである。もはや保護観察は保護処分とは似て非なるものとなってしまうであろう。

 「大綱」発表に先だって公表され、「大綱」の非行対策施策の柱となった、「少年非行対策のための提案」(鴻池大臣の私案)において、少年法の理念として、保護主義に加えて少年犯罪からの社会防衛という理念を盛り込むことが明言された。結果の重大さ、残虐さも少年の未熟成の表れであり、更生の困難性を示すものではなく、教育によって立ち直りを支え、その結果として社会の安全に寄与するという保護主義の理念の変容が企てられている。

 「大綱」の第2の問題点は、学童期からの学校教育において、規範意識を醸成する教育を行うべきことが繰り返し強調されていることである。これは、少年非行の増加、凶悪化、低年齢化の原因を、少年の道徳心の欠如、規範意識の喪失に求めているからであろう。しかし、内閣府に設置された青少年育成に関する有識者懇談会の2003年4月報告書(ホームページで入手することが可能)の少年非行の現状評価は、少年非行増加論にたっておらず、「少年非行の現状は憂うべき状況にある」との認識にはたっていない。「大綱」が強調する規範意識の醸成の真の狙いは、非行対策を口実として、法律や現体制に従順な子どもに洗脳しようとするところにあると思われる。「大綱」の規範意識醸成教育の施策は、事実上の国定道徳教科書として全国の小中学生に配布されている『心のノート』と符合する。

 (3) 少年警察活動規則制定と補導法制化の動き

 警察庁は、2002年9月、従来の少年警察活動要綱(警察庁次長通達)を廃止し、国家公安委員会は、委員会規則として「少年警察活動規則」を制定した。この規則は、2003年1月1日に施行され、少年警察活動の準則は、従来の警察庁内部の通達から、法令へと格上げされたのである。

 少年警察活動は、1970年代、80年代を通じて、補導の対象の拡大、継続的補導と称する警察による継続的関与等、法律の根拠なくその活動領域を広げてきた。

 少年警察活動規則は、このような従来の少年警察活動の拡大を規則として法令化したものであるが、法形式の変化にとどまらない重大な問題点を含んでいる。

 第1に、「青少年の健全育成」が少年警察活動の目的として正面から掲げていることである。従来の少年警察活動要綱においては、非行の摘発、防止にあたって青少年の健全育成を念頭に置くという非行少年の処理における理念的位置付けとは明らかに異なり、一般的に青少年の健全育成を少年警察活動の目的としているのである。

 第2に、「不良行為少年」に対する積極的補導が強調されていることであり、第3に、少年非行の防止のために、学校や他の機関、地域との連携の必要性が強調されていることである。

 第2、第3の問題は人権制約の内容を含むが、法律の根拠が存在しないため、現在、補導法制の法案化の作業が進められている(2004年8月 警察庁安全局諮問機関「少年非行防止法制に関する研究会」の「少年非行防止法制に関する中間報告」)。「少年非行防止法制に関する中間報告」においては、虞犯要件を備えない「不良行為少年」を対象とした補導(少年保護主義の理念のもとで、犯罪を犯していないのに警察の介入が合理化される最低限の線引であった虞犯要件を超えての警察介入)、地域住民に対する補導権限の付与、少年に対する更生処遇としての警察による継続補導、親に対する強制的措置を盛り込むこと等、驚くべき内容を含めた法律の制定が提案されている。

 このように、青少年の健全育成、少年非行防止の名のもとに、犯罪行為を為しておらず虞犯要件も備えない「不良行為少年」を非行予備軍として警察による補導の対象として捉え、かつ、教育、福祉、矯正の役割であるはずの非行少年の処遇までが警察活動の領域に侵蝕されようとしている。こうした動きは、1970年代から進行していたものであるが、今、法律によって「合法化」されようとする段階に至っている。

2 警察庁主導の青少年対策の危険性

 (1) 有害無益な警察主導の監視型非行対策

 前項で述べたような警察主導の監視型非行対策は、非行対策の国際準則とは正反対のものである。「少年非行予防のための国連ガイドライン」(リヤドガイドライン)は、「少年非行の予防は、・・・社会に対するヒューマニスティックな人生観を受け入れることによって、青少年は非犯罪的な態度を発達させることができる。」「少年非行の予防が成功するためには、幼い時期からその人格の尊重と向上を念頭において、調和のとれた青年期の発達を確保する努力を社会全体が行う必要がある」と述べ、非行少年と保護者に対する教育的福祉的援助こそが非行対策の基本であると述べている。

 警察の強制的な権力を背景にした威嚇は非行化した子どもの抱える問題点の克服にとって有害無益である。警察は、少年非行の発見、検挙という本来の責務を十全に果たすことによって、少年非行対策に寄与すべきである。「不良行為少年」に対する補導対象の拡大は、少年の反発を生むだけである。子どもが立ち直るためには、信頼関係を基礎にした支援が必要である。時間と手間がかかっても、対話と説得こそが大事であり、権力的な対応、脅しは逆効果である。また、教育福祉的処遇の分野、矯正処遇の分野への領域への警察権限の拡大は、福祉教育、矯正分野の活力と配分されるべき予算を奪うことになろう。

 (2) 国民一般に対する警察権限拡大のおそれ

 警察の責務は警察法2条により犯罪の抑圧と防止であると規定され、警察の権限発動は警察官職務執行法によって厳格に規定されている。しかし、上記のような少年警察規則の内容や補導法制化の動きは、警察権限発動の厳格な制限を取り払い、戦前の行政警察の復活に繋がるものである。これは、少年のみならず、国民一般の市民生活の自由の領域に対する侵害としても重大な問題をはらんでいる。

 (3) 警察主導の学校との連繋の動き

 警察と学校との連繋については、2002年の宮城県をかわきりに、各都道府県教育委員会と都道府県警察との間において協定が結ばれつつあり、特定少年についての情報交換、行動連繋が推進されている。従来の学校警察連絡協議会を通じて、個々の教師の判断において情報交換が行われていたという実態はあったが、今回の動きは、協定により、情報交換を一般化、原則化しようとするものである。

 文部科学省は、2004年3月、「学校と関係機関等との行動連携を一層推進するために」を発表して教育委員会や学校が警察との連繋を積極的に行うように指導を強めている。都道府県によっては、教育委員会側が消極的なために、協定化が進まぬことへの焦りがあると同時に、この制度を推進すべき国家政策としての強い構えが窺われる。

 警察と学校の連繋の内容上の問題点については別稿に譲るが、少年の情報連繋は警察が保護者の情報を把握する手段となりうることについて留意すべきである。

 次の例は、警察と学校の連携を利用した情報収集網の構築を予感させる。

 「駐在所にも、中学校からの名簿が届けられている。おどろくべきことに。いろいろなマークで、父兄が区別されているのだ。たとえば、首長選挙で、だれはどの派に属するかということさえ識別されている。名簿を治安当局に提供することは、子どもの問題であると同時に、親たちの選別にもなっている」(法学セミナー増刊「少年非行」所収斉藤重一レポート)。

3 諸政策の狙いは戦争国家体制づくり

 これらの諸政策の真の狙いは何か。前項で述べたような政府の青少年政策を概観するならば、政府・与党の青少年、非行政策の全体の構図を次のように読みとることができる。

 第1に、青少年健全育成基本法制定と教育基本法改悪により、青少年の育成は国家社会発展の礎として位置付けられ、その名目のもとに親や国民一般に青少年健全育成義務を負わせる。第2に、子どもは学校で『心のノート』が示すような道徳、規範を教えこまれ、第3に、子どもが、このような国の青少年健全育成政策から逸脱しないように、警察主導で学校や地域を一体的に組織して監視し、非行化を予防する体制を作る。第4に、逸脱して非行化した少年には少年法の厳罰化で対処する。

 明治憲法下の子どもは、学校で教育勅語によって忠君愛国の思想道徳をたたきこまれ、学校の外ではオイコラ警察に監視されていた。今行われてようとしていることは、忠君愛国の「君」を「公」と言い換えただけのことで、明治憲法下で行われたことの再現であろう。明治憲法下で行われたことは侵略戦争を可能にする国家体制づくりためであったことを考えれば、現在の青少年対策の動きが、有事立法体制の進行、憲法9条改悪の動きと密接に連動していることは明確であろう。

 憲法9条改悪の闘いと、教育基本法改悪反対等の教育、青少年対策立法反対の闘いを、結合させなければならない。

(草場裕之)




連絡制度は本当に学校や子どもに必要か

1 教育の基本を壊し、子どもの権利を侵害する連絡制度

 (1) 聞こえはいい「連絡制度」

 子どもを学校に通わせている保護者が「学校と警察の連絡制度」のことを聞いたとき、どう感じるだろうか。

 「こういうのがあるのも仕方がないよね」というのが大半の感想ではないだろうか。「こういう制度も必要だよ」と積極的に歓迎する人も多いかもしれない。それも無理もない。2004年におきた小学校6年生の女児が構内で同級生を刃物で刺し殺した事件は、私たちを震撼させた。私も小学校5年生の女の子の母親であるが、娘をみていても、女の子同士のトラブルの些細なトラブルは始終あり、私も娘の悩みを聞きながら、適度に相談に乗ったりときには聞き流したりしているが、まさか、そのような女の子同士のトラブルが校内での殺人事件につながるなど、想像さえできなかった。

 このような情勢のもとで、子どもを学校に通わせている親たちは、「我が子がいじめなどの被害に遭っているのではないか」という不安、逆に「我が子が実際に何をしているのか分からない」という不安が尽きない。

 「非行情報を互いに連絡する」という連絡制度は、そのような親の気持ちに素直にフィットする。

 では、連絡制度を手放しで歓迎してよいのだろうか。

 (2) 教育の根幹を破壊する連絡制度

 教育に一番大切なものは、子ども、教師、保護者、相互間の信頼関係である。

 子どもは教師を信じるからこそ、自分が犯した間違いを告白したり、友人に対する感情を吐露したりする。場合によっては、「私は〇〇さんが死ぬほど憎い」と話すことだってあるかもしれない。そのように子どもが教師を信頼して話したことが、警察にまで伝えられてしまうとなれば、子どもの教師に対する根幹から信頼は崩れてしまう。

 保護者と教師との関係も同様である。保護者は教師を信用しているからこそ、家庭での状況を話したり、教育上の悩みを打ち明けたりする。「うちの子、この頃、ちょっとしたことですぐに反抗するので困ってしまうんです」というようなことは、多くの保護者が大なり小なり、教師に話したことがあるであろう。そのような情報が、教師から警察に伝えられてしまったら、保護者はもう教師に何も話せなくなってしまう。

連絡制度は、教育に一番必要な、子ども、教師、保護者間の信頼関係を破壊してしまうのである。

 (3) 問題児としてのレッテルを貼られる恐ろしさ

 連絡制度の対象となっている子どもの行為は、「不良行為」等、曖昧で広範囲のものであり、かなり幅広い情報が学校から警察に提供されてしまう危険がある。

 成長の過程で、誰しも一度くらいは何か、「良くないこと」、「社会規範に照らして奨励されないこと」をする。いじめはもちろん、友人の文房具等をとったり、「あんたなんか嫌い」というメモを気に入らない級友の引き出しにしのばせたりは日常的にあるのであろう。特に思春期の一時期は、心の中を吹き荒れる嵐に振り回されながら、子どもたちは数々の経験をして成長をしていく。

 でも、一度、教師から警察に提供された情報はいつまでも残る危険がある。少年法に触れる行為であれば仕方がないかもしれないが、少年法に触れないような情報まで蓄積され、「問題児」としてレッテルが消えないのはあんまりではないだろうか。

 (4) 誤報だったらどうするのか

 前述のように、子どもの側には提供された情報が正しいかどうか確認する権利はないし、仮に情報の内容が知らされたとしてもその内容が虚偽であるとただす手段が与えられていない。

 特にいじめの問題などについては、よく事情を把握しないと、どちらが本当に被害者なのか分からない事例も多い。それでも、一見したところ加害者と見られる生徒についてのみ、「いじめっ子」「問題児」というレッテルが貼られかねない。そのような誤まった情報が警察に提供されても、子どもの側はなすすべがないのである。

 (5) 学校による子どもたちへの管理に利用される危険性

 連絡制度の主眼は、「学校から警察に対して子どもの情報を幅広く提供できる」ということにある。これを違う側面からみると、学校側は、子どもや保護者に対して、「どうしても学校の言うことを聞けないのであれば、あなた(ないしはあなたの子ども)のことを警察に連絡するしかないかもしれませんね」と言ったり、ないしはそのように態度で示すことができることになる。言ってみれば、連絡制度は、学校が子どもたち及び保護者を威嚇する手段になり得るのである。

 このような連絡制度の威嚇的効果が、子どもたちへの管理に利用される危険は大きい。それも、いわゆる通常の意味での「不良行為」に対する威嚇となるだけではない。政治的・宗教的に学校側の見解とは違う見解を持つ子どもに対する威嚇ともなりうるのである。たとえば、ある子どもが何度か君が代斉唱のときに起立せず、歌わなかったという例を考えてみよう。連絡制度によって、「教師の指導に服さない=不良行為」として警察に情報提供される可能性は否定できない。とすると、仮に教師や学校がその子どもや保護者に対して、「どうしても嫌だと言うのであれば、警察に言わざるを得ないかもしれませんね」と言ったり、態度で示されたりしたら、子どもや保護者は震え上がるであろう。このような事態は冗談だと思われるかもしれないが、東京都における異常な日の丸・君が代の強制の実態を考えると、あながち冗談ではない。

 (6) 子どもの権利を侵害する連絡制度

 このように、連絡制度は、子どものプライバシーの権利(自己情報コントロール権)を侵害するという意味で、憲法第13条、及び子どもの権利条約第16条に違反するものである。

 また、それにとどまらず、教育の基本条件である信頼関係を破壊するという意味で、子どもの権利条約が定める成長・発達の権利を全面的に阻害するものなのである(同第29条)。

 (7) 多用される危険

 このように書くと、「そんなことはあり得ない。良心的な教師や学校は、子どもや保護者から聞いた大切な話を簡単に警察に伝えたりしないし、誤った情報を提供したりはしないよ」と思う向きもあるかもしれない。たしかに、良心的な教師であれば、好き好んで警察に情報提供したいと思うことはないであろう。

 しかし、そのような教師や学校でさえ、事実上強制されて情報を提供せざるを得ない場面も出てくるかもしれない。

 仮に教育的な配慮からほとんど情報を提供しない学校があったとして、「ここの学校からはちゃんと情報が提供されているのに、あそこの学校からは情報が提供されていない。おかしい」ということになれば、事実上、情報を提供する方向での圧力がかけられるかもしれないのである。

 連絡制度の抱える問題はあまりにも大きい。

 (8) 連絡制度で何が防げるのか

 それでもなお、「でも、今の情勢では連絡制度は必要ではないか」という考え方も強いであろうと思う。

 そこで、翻って考えてみたい。連絡制度によって、何が防げるのであろうか。

 冷静に考えてみると、連絡制度は、学校内の犯罪の予防などにあまり役に立たないのではないだろうか。

 たとえば、前述の、小学校6年生の女児が同級生を校内で刃物で殺害した事件が防げたであろうか。報道されている限りでは、加害児童はどちらかというとおとなしく、普段の生活において「不良行為」などを行っていたのではないようである。他の事件でも、おとなしく目立たない子が引き起こした事件というのは多いが、そのような児童については、連絡制度によって防ぎようがないのである。

 もし徹底して校内での犯罪などを防ごうと思ったら、学校内に入るときには厳しい荷物検査をし、校内にくまなく監視カメラをつけ、生徒が読んでいる本や漫画を把握し、生徒がホームページをつくっている場合にはそのホームページを徹底して監視する・・・ということまでしなくてはならない。

 そこまですることが本当に適切なのであろうか。

 そのような監視された社会は、たしかに安全かもしれない。でも、そのような閉塞的な環境の中で子どもはまっとうに成長できるのであろうか。そのような環境に順応できる「良い子」は息苦しさを覚えるであろうし、他方で、環境に順応できない「悪い子」はいつまでたっても「悪い子」のレッテルを貼られ続け、下手をすると立ち直りの機会を奪われる。校内の犯罪等を防ぐことは確かに重要な課題であるが、「防犯」のみが大事にされればそれでよいというものでは決して無い。何よりも、学校は子どもたちの生きる場所であり、教育の場であることを忘れてはならない。

 (9) メリットよりデメリットが大きい

 このように、連絡制度にはメリットはほとんどない代わりに、デメリットはきわめて大きい。いまの学校や子どもたちに連絡制度は決して必要ではない。むしろ危険きわまりないといわざるを得ない。

2 教育基本法「改正」問題とのかかわり

 (1) 相互連絡制度と教育基本法「改正」の関係

 相互連絡制度は、教育基本法「改正」問題とは一応別個に考案されたものであるが、その基本にある子ども観は共通しており、また、目指す方向性も共通である。

 (2) 基本にある子ども観

 連絡制度の基本にある子ども観は、「子どもを『良い子』『悪い子』『その他大勢の普通の子』に分け、『悪い子』と、『その他大勢の普通の子』の中で『悪い子』の方向に行きかねない子を、学校が警察の力を借りて監視する」というものである。

 教育基本法「改正」については、2003年3月に発表された中央教育審議会の最終答申、及び2004年6月に発表された自民党・公明党の協議会の中間報告が出ているが、その両方に共通するのは、「子どもを『できる子』『できない子』『その他大勢の普通の子』に分け、『できる子』にはエリート教育を施し、『できない子』『普通の子』にはそれに応じた最小限の教育のみを施してそれで足りるとする。そのような中で拡大するであろう矛盾を押し込めるために、『新しい公共』や『国を愛する心(あるいは『大切にする心』)という概念を子どもたちに教え込む』」というものである。

 すなわち、連絡制度にも教育基本法「改正」にも、子どもの選別及び子どもたちへの監視・統制という視点が貫かれているのである。そこには、「子どもの権利」という視点は無い。

 (3) 日の丸・君が代の強制等との関連性

 このような「子ども観」は、近年の教育改革や子どもたちや教職員らに対する数々の統制に共通するものである。

 子どもたちを選別する手段として学区の自由化や学校間区分の弾力化、習熟度別学級の導入などの教育改革があり、統制の一形態として度を越した都教委の日の丸・君が代の押し付けがある。都教委による日の丸・君が代の強制は、単なる統制の側面を持っているにとどまらず、多数の処分者を出すなど、「言うことを聞かない教職員や子どもを排除する」という側面も持っているが、連絡制度は、また別の意味で「言うことを聞かない」子どもを監視し排除するものである。

 (4) 子どもたちをめぐる情勢のなかで

 このような子どもたちをめぐる情勢全体を考えたとき、連絡制度の抱える問題は重大である。決して、連絡制度が安易に制定・運用されることがあってはならない。

(村田智子)




学校が治安維持の場に、子どもたちを治安対策の対象に

1 治安強化の要因

 1990年代初め、日本企業の海外進出が盛んになったが、このころから日本企業の競争力が落ち始めた。日本企業は海外での競争力を回復させるため、リストラと称して大量の失業者を創出し、青年層を派遣社員・契約社員などの不安定雇用に落とし込んだ。生産現場をコストの安い海外に展開し、これによって国内産業の空洞化は非常に深刻な状態になった。それまで社会構造安定の要因であった企業型社会構造が崩壊を始めたのである。

 一方、政府・財界も、グローバル化に対応する構造改革として、公共投資を削減せずに大企業を保護するための社会保障の大幅切り下げ、規制緩和による農業や都市の自営業の切り捨てなどを行なってきた。

 この両者が相俟って、1990年代後半、ホームレスの増大、自殺者の急増、強盗と傷害、暴行や脅迫などの犯罪の増加など、社会不安の増大、治安の悪化状況が顕著になってきた。ちょうどこの時期に重なり、警察内部の腐敗問題がさまざまな不祥事事件として明らかにされた。神奈川県警の機動警ら隊員の暴行事件、覚せい剤容疑者の隠匿、新潟県警の柏崎少女誘拐事件、埼玉県警の桶川事件などである。

 グローバル化に伴う社会の不安定化、治安の悪化などに対し、政府はこれを力で押さえ込む方法により解決しようとした。警察権限の拡大による治安対策の強化である。不祥事の発覚による権威の失墜を何とか回復しようとしていた警察にとって、この政策はまさに渡りに船であった。

 このため警察は、恥部であるはずの検挙率の低下をことさらに宣伝し、政府も必要以上に治安の悪化を煽り立てた。2003年8月、警察庁は「緊急治安対策プログラム」を発表し、政府も同年12月、「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」を出した。同年11月の総選挙でも、自民党・民主党のマニュフェストの中で治安問題が非常に重要視されていた。

 グローバル化と構造改革による旧来の日本社会が解体するのを力で押さえつけるため、いままさに治安の悪化の大宣伝なのであり、警察権限の拡大なのである。そして、「これは政府や警察の力だけではできない、住民ひとりひとりの自助、地域ぐるみの共助が必要なのだ。」と国民全体に治安意識を植えつける。この治安キャンペーン、生活安全条例等による監視社会化の動向は、有事法制化における後方構築としての意味も併せもっている。

2 治安対策の名による警察権限の拡大

 緊急治安対策プログラムは、「体感治安の低下」「犯罪検挙率の低下」を繰り返し、社会の安全が脅かされていると強調する。その上で警察庁は、2003年を「治安回復元年」として「日本の誇る治安の復活」「新たな脅威への対応(組織犯罪・サイバー犯罪対策の強化とテロの未然防止)」「警察改革の持続的断行」に取り組んでいるが、未だこれが不十分であるとして「危険水域にある治安情勢の下、犯罪の増加の基調に早急に歯止めをかけ、国民の不安を解消するため」当面の緊急且つ重点的に取り組むべき治安対策としてプログラムを策定したとしている。

 本年8月に退官した佐藤英彦元警察庁長官は、2003年12月1日、全国警察本部長会議で、治安対策が国政の最重要課題になっていると指摘し、2003年の治安状況につき、警察が街頭犯罪対策を展開すると同時に、地方自治体が「安全なまちづくり」を推進し、住民にも「自分たちの街は自分たちで守る」という機運が高まったと分析した。

 治安対策の眼目は街頭犯罪・侵入犯罪である。そのターゲットは、外国人と暴力団、そして少年だ。

 犯罪の未然防止ということを考える場合、犯罪の兆候として、いわゆる不審者を補足しなければならない。本来、警察活動は犯罪が発生した場合に、犯人を捜査・検挙することにあった。しかし、国民の「不安感」の解消、「体感治安」の向上ということになると、それでは間に合わない。警察活動の権限を質的に転換して、犯罪が発生する前の情報収集活動に重点がおかれることになる。

 犯罪に至りそうな兆候の補足ということになれば、もはや警察の力だけでは十分でない。各種関係機関と協力し、住民全体の力をあわせ、犯罪の芽を摘みとろうということになる。またこれは、犯罪に至る前の段階、本来は犯罪ではない段階にまで警察権限を及ぼすことにつながる。監視カメラによって、犯罪行為だけではなく、通常の、何の変哲もない市民活動まで監視されることになる。住民の自主的な防犯活動は、住民が相互にその日常生活を監視し合うことになる。秋の臨時国会で審議が予定されている「共謀罪」の創設なども、犯罪に至る以前の内心の状態にまで警察権限を及ぼそうというものである。

 警察活動は国民の自由や権利と厳しく対立するものであるため、できるだけ謙抑的でなければならない。しかし治安対策という錦の御旗によって、警察活動は犯罪捜査をはるかに超えて、国民の日常生活を監視するまでに拡大しようとしている。

 プログラムの中で、少年犯罪に関しては、「1 犯罪抑止のための総合対策」の重要な柱として位置づけられている。すなわち、(1)街頭犯罪・侵入犯罪抑止総合対策の推進、及び(3)重要犯罪等に対する捜査の強化と並び、「(2) 深刻化する少年犯罪への対応」としてとりあげられている。冒頭で、「平成14年中の刑法犯検挙人員の約4割、街頭犯罪の検挙人員の約7割を少年が占める。特に、暴走族、非行少年グループ等の非行集団は街頭犯罪等の各種の違法行為を行っており、その解体補導に向けた対策の強化が犯罪抑止を図る上で重要である。」とし、対策として「関係省庁による共同研究チームを設置し、警察、学校、児童相談所等と情報を共有することにより、諸対策や地域社会への情報還元に資する仕組み作りを検討する。」などを掲げている。

3 警察と学校の相互連絡制度

 警察と学校の相互連絡制度は、少年犯罪を治安対策の重要な柱のひとつとし、警察と学校の情報共有をめざす警察戦略に合致している。「児童・生徒の健全育成」と銘打っているが、その実態は学校を警察主導の治安機関化するものである。

 警察の戦略からみた場合、重要なのは学校から警察への連絡である。警察から学校への連絡は焦点ではない。学校から警察へ連絡されるのは、非行等の問題行動など犯罪被害の未然防止などのため必要な事案等とされる。要は、犯罪どころか、虞犯にも至らないような行動であっても、警察でそれを個人情報として管理できるのである。

 伝達された情報が、警察でどのように保管・処理されるのかは、全く不明である。学校から児童・生徒に関する情報を仕入れるのは非常に簡単である。そこから芋づる式に、父兄や兄弟姉妹、友人に関する情報も仕入れられるだろう。当該児童・生徒がその学校を卒業もしくは中退したとき、それが制度目的に則って廃棄されるという保証はどこにもない。現在、児童・生徒である者は、何年後かに成人する。警察が児童・生徒時代の情報を保管しておけば、そのうちそれはそのまま成人の問題行動に関するデータファイルになり得る。

 連絡が制度化されると、一定程度の情報は伝達されることが当然視される。現に文京区などは、月別連絡件数報告書の書式を用意している。そうなると、責任者である学校長は、何らかの情報を警察に伝達せざるを得なくなる。警察への連絡が少ない学校は、問題行動が少ない優良な学校だとみられるのではなく、学校長や教員の児童・生徒に対する目配りが足りない学校、教員が生徒指導をサボっている学校ととられかねないからである。万一事件が発生した場合、その児童・生徒に関する連絡が警察にいっていなかったりすると学校長の責任問題になる。そうなると、予防的にできるだけ多くの情報を警察に提供しておこう、ということになりかねない。

 警察に連絡をするためには、児童・生徒の問題行動を発見しなければならない。教師は子どもたちを常に監視していなければならなくなるし、自分の力だけでは情報収集が足りない場合には、子どもたちに頼らざるを得なくなる。児童・生徒を相互に監視させ、問題行動を教師に報告させるのである。ここで問題行動とされるのは犯罪に関係する行動だけではない。多数者と異なる行動様式は、「あの子おかしい」「変わってる」ということで教師に通報されるのだ。生活安全条例が、安全・安心の美名の下に住民相互の監視社会をつくり、「不審者」「異端者」の監視・排除を行なうのと全く同じ構造が、教育の場である学校に出現する。この中で、「監視する側の子ども」と「監視される側の子ども」が分離するであろうことも、「住民パトロール隊」に属する住民と「不審者・異端者」として監視の対象となる住民が階層分化していくのと同様であろう。ここには子どもたちを育成するという発想はなく、子どもたちさえも治安対策の対象としか捉えていない政府の姿勢がよく現れている。

(渡辺登代美)




石原都政が示す警察・学校相互連絡制度の危険な本質

1 東京での相互連絡協定

 警視庁生活安全部長と東京都教育委員会教育長は、2004年(以下、04年と表記)4月5日、「児童・生徒の健全育成に関する警察と学校との相互連絡制度の協定書」を調印・締結した。

 首都東京における協定締結は、未締結の各県に拡大することのはずみとなる影響だけに止まらない。石原都知事は「治安回復こそ最大の福祉」と豪語し、本来の福祉施策を切り捨て、治安対策を強化するとともに、教育への異常な介入を続けている。東京都においては、警察・学校相互連絡協定が、教育の変質をもたらし、子どもたちを治安の対象として監視する社会に導くという問題点がより鮮明になる。

2 石原都政における教育への異常な介入

 (1) 「つくる会」教科書を都立養護学校で採択

 石原知事は、就任間もない99年9月に、都立の府中療育センターを視察し、重度の障害児に対して、「この人たちにも人格はあるのか」と発言した。これに先立ついわゆる三国人発言やその後の女性蔑視発言などと相まって、石原知事の少数者・社会的弱者に対する差別・偏見を顕著に示している。そして、01年教科書採択において、都下区市町村すべての教育委員会が扶桑社発行の「新しい歴史教科書をつくる会」(以下「つくる会」と略)の歴史教科書の採択をしなかったにもかかわらず、都教委は障害児らが学ぶ一部の養護学校に同教科書を採択し、石原都知事は、これを受けて「一点突破」と評価した。

 (2) 養護学校における性教育への介入

 03年7月、土屋都議(民主党)は、都議会において都立七生養護学校で行われていた性教育を「不適切な性教育」と決めつけ、これを受けた都教委は、養護学校において使用されていた性教育の教材を没収するとともに、七生養護学校の校長を始めとする多数の教職員に対して、口実をつけて処分を行った。

 (3) 日の丸・君が代通達とこれに伴う大量処分と研修の強制

 都教委は、国歌国旗法審議の国会答弁において文科省自身が日の丸・君が代は強制されるものではないと明言しているにもかかわらず、03年10月「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施」の通達を出し、これに従わなかった教職員約200名に対して、04年3月に大量処分を行った。さらに同年8月には思想良心の自由を無視して被処分者に対して研修を強要した。

 (4) 都議会における教育基本法「改正」意見書採択

 石原知事の実質与党である都議会自民党・公明党・民主党は、04年6月議会において、従来の全会一致原則を踏みにじり、議会最終日に教育基本法の精神をないがしろにする全面見直しを求める意見書を都議会に提案し、これを多数決で採択した。

 (5) 都立中高一貫校における「つくる会」教科書の採択

 04年8月、都教委は、来年4月開校予定の都下最初の都立中高一貫校の教科書採択にあたって、広汎な市民の声を無視して、天皇崇拝を強調し、アジア太平洋戦争における日本の植民地支配・侵略の事実を歪曲する「つくる会」の歴史教科書の採択を決定した。

 石原知事は、近隣諸国の批判にもかかわらず、靖国神社を参拝し、「来年は首相だけでなく、天皇も靖国神社を参拝してほしい」などと発言し、日本を軍国主義に導く言動を繰り返している。本年6月に教育長の肩書で「つくる会」教科書の採択を支援する集会にパネリストとして参加した横山洋吉教育長を始めとして、都教委は、石原知事の意向を強く反映した委員が任命されている。

3 突出する警察主導の治安対策

 (1) 警察官僚を副知事に

 石原知事は、03年6月、竹花豊前広島県警本部長を副知事として任命し、東京都緊急治安対策本部長に就任させた。竹花副知事は、大分県警察本部長、警視庁地域部長、警視庁生活安全部長等を歴任していた。警察官僚を副知事に任命したのは全国で初めてであり、竹花副知事就任後、地域住民ぐるみの監視体制づくりが進められている。

 (2) 「生活安全条例」制定

 03年6月、都議会は「東京都安全・安心まちづくり条例(生活安全条例)」を制定した。同条例は、憲法で保障された人権保障の仕組みを壊し、都民あげて防犯活動に動員する「総動員体制」をつくり、地域社会を公権力の目となり耳となる「相互監視社会」へと変質させる重大な危険性を有するものである。

 (3) 青少年保護条例「改正」

 04年3月、都議会において東京都青少年健全育成条例が「改正」された。同「改正」によって、夜間外出、古物の購入、指定図書の包装など青少年の行動を包括的に規制し、警察官の立入権限が規定されるなど、青少年のための教育的配慮から治安条例としての傾向が強いものになった。さらに、04年9月には、「青少年の性行動について考える委員会」が設置され、中学生の性行為の禁止を条例に規定することの検討を始めている。

 (4) 「安全・安心まちづくりアカデミー」開催

 東京都は、04年5月、東京大学大学院教授を校長として、「東京都安全・安心まちづくりアカデミー」を開講した。地域における自主的防犯活動を行うボランティア団体のリーダー養成講座と位置づけ、警視庁生活安全部から講師を招き、非行少年等の発見活動と対応、学校・地域・警察等との連携強化についても講演をさせている。

4 青少年健全育成基本法案を先取りする非行対策

 (1) 万引防止協議会「万引をさせないための行動計画」策定

 04年7月、東京都に設置された万引防止協議会は、「万引をさせないための行動計画」を策定した。ここでは、少年の万引を発見した販売店は、「可能な限り少年の氏名、年齢、連絡先、学校等を確認する。全て警察、保護者に連絡する。警察に少年の身柄を確実に引き渡す。万引した少年の通学する学校が判明した場合は、学校に対し、少年の性別・学年と、連絡した警察の名称を連絡する」となっている。地域の中で、子どもたちの過ちを正し、育んでいくことを否定し、警察が地域住民に対して子どもの監視の担い手となることを強要するものである。

 (2) 東京都青少年育成総合対策推進本部の設置

 04年8月、竹花副知事を本部長とする東京都青少年育成総合対策推進本部が設置された。これは青少年健全育成基本法案23条において内閣府に青少年育成推進本部を設けると規定していることを先取りするものである。次代を担うことが出来る人材の育成を目標として掲げるが、都の関係部局や警視庁及び区、市、文部科学省から職員が結集し、協力して総合的な対策を進めるとして、子どもに対する治安対策が強く打ち出されている。

 都広報によれば、推進本部設置によって「児童虐待などに現れている親や家庭の問題の改善にも取り組むとともに、大人が子どもとの関わりを広げることを通じて、『心の東京革命』の提唱を浸透させて」いくと説明されている。「心の東京革命」は、石原知事が、「次代を担う子どもたちに対し、親と大人が責任を持って正義感や倫理観、思いやりの心を育み、人が生きている上で当然の心得を伝えていく取組」として推し進めている知事の価値観を反映するもので、02年4月には、青少年健全育成のための都民運動体と称して、「心の東京革命推進協議会(青少年育成協会)」を設置し、知事自らが名誉会長になり、会長には、教育基本法「改正」等を進める日本会議により設置された「『日本の教育改革』有識者懇談会」(民間教育臨調)の代表委員である多湖輝千葉大名誉教授を任命した。

 (3) 「非行防止教育及び被害防止教育に関する提言」発表

 04年8月、「非行防止教育及び被害防止教育に関する提言」が発表された。ここでは、非行防止等の教育プログラムを教える主体は一次的には教員であるが、二次的な主体として地域ボランティアや警察官などの専門職の協力を仰ぐとして、学校内に、非行防止・犯罪の被害防止に専任者を置き、外部からの教育支援を積極的に受け入れること、各教育委員会が学校管理運営規則に、問題を抱える児童・生徒の家庭に関する情報を収集し指導にあたる旨を示した条項を盛り込むことなど、非行・被害防止と称して、子どもや家庭の情報を収集して、警察との連携を強化することが打ち出されている。

5 東京都の警察・学校相互連絡協定がもたらす教育の変質

 石原知事は、憲法・教育基本法における平和・民主主義、個人の尊厳などの精神を踏みにじり、戦争をする国にしていくことを推し進めている。そして、教育現場では、この方針に従わない教職員や子どもたちは処分をもって威嚇され、監視されることになる。この監視体制は、警察主導で、学校のみならず、地域住民をもまき込んだものとして形づくられる。

 子どもたちを治安対策の対象とする監視の枠組みを実現するために、東京都は、警察・学校相互連絡協定によって双方が広汎な「非行」等に関する情報を共有する。これによって、教師と子どもの信頼関係が損なわれ、教育は管理・監視の関係に変質させられる。

 石原都政における警察・学校相互連絡協定は、教育現場に重大な弊害をもたらし、警察主導の監視社会を推し進めることにつながるのである。

 そして、石原都政で行われていることは、国が進めようとしている青少年に対する治安対策の先取りであって、この弊害は全国に広がる危険があるのだ。

(滝沢 香)




監視と密告の中の安全−監視カメラをめぐって

1 わが子を護るために

 2001年6月8日、大阪府池田市の大阪教育大付属池田小学校に男が出刃包丁を持って乱入、2時間目の授業が終わった直後の教室や廊下で子どもたちに次々と襲いかかり、8人を殺害、15人(内教師2人)に重軽傷を負わせた。いわゆる池田小学校事件である。

 この池田小学校事件は。子をもつ親や学校関係者に大きな衝撃を与えた*1。文科省は、事件直後の6月11日、「幼児児童生徒の安全確保及び学校の安全管理に関し緊急に対応すべき事項について」という緊急通知を出し、7月10日には、出入り口の制限、来訪者の身元確認、監視カメラの設置、非常通報装置の設置、構内巡回の実施強化等30項目にわたる緊急対策例を出した。

 また東京の杉並区では、犯罪防止を目的とする監視カメラ条例(防犯カメラ条例)を制定し*2、小学校や保育園など180カ所に386台の監視カメラを1億5000万円の予算*3で設置するとしている。

 文科省の『学校の安全管理に関する取組事例集』の中にも取り上げられている東京都武蔵野市立千川小学校では、(1)学校の出入り口を校舎棟と開放棟の2ヶ所に限定し、それぞれの出入り口に管理を行う警備スタッフが詰める窓口を設置、出入りのチェック、不審者の侵入防止、(2)防犯カメラを敷地内17カ所に設置、両詰所及び職員室の3カ所でモニターチェックを行い監視を実施している*4

 このようにこの国の教育現場において、子どもの安全を守ること学校のセキュリティーを高めることを名目にカメラをはじめとした監視網が張り巡らされようとしている。いわば外敵から子どもたちの生命と安全を、監視という手法により、カメラというハイテク機器によって確保しようという指向である。

2 監視と密告の中の安全

 しかし、衝撃は池田小学校事件にとどまらなかった。今度は外敵ではなく、学校内部によって引き起こされた。本年6月1日、佐世保市の小学校で、仲良しだと思われていた女子児童がカッターナイフで同級生に切りつけて死亡させるという事件が起きた。しかも、大阪府教育委員会のアンケート調査によると「身の回りでも同じような事件が起きるかも知れないと思うか」と答えた小学生が39%も存在する*5。かなりの子どもが不安を抱えていることが伺える。

 しかし、重要なことは事件の衝撃が大きいからといって、これを治安(セキュリティー)問題として捉えたり、子どもたちの生命と安全を、監視という手法、カメラ等の機材によって確保しようとする手法に頼ってはならないということである。監視カメラに頼るアメリカの学校がどの様な状態にあるのかを見てみたい*6

 一般人の間にも広く銃の行き渡っているアメリカと、庶民が武器の保有を禁じられている日本とを単純に比較することはできず、コロンバイン高校事件のような学校内での大量殺人事件が起きているわけでもない。しかし、アメリカにおいて安全やセキュリティーを優先した結果、教育の現場がどの様になっているのかを知ることは、監視社会、監視による教育現場の未来を占ううえでは有用だと考える。安全確保のために以下のような対策がとられている。

 (1)

学校に入る際には、入場検査と持物チェックを受ける。

 (2)

制服の警官や民間警備会社の警備員か校内巡視を行う。

 (3)

廊下や教室の壁あるいは天井に高性能の監視カメラ設置を設置し、常時モニターする。

 (4)

少しでも不審な点のある子どもを匿名で密告するための専用電話が設けられている。

 (5)

子どもたち同士の監視が奨励され*7、問題を起こしそうな子どもに関する密告に賞金が支払われる。

 (6)

子どもが開設している個人のホームページを学校側がチェックし監視する。

 テキサス州オデッサにあるパーミアン・ハイスクールは、ハイテク民間警備会社サンディア・ナショナル・ラボラトリース社*8と契約し、監視カメラ、麻薬検査キット、金属探知器、携帯用アルコール測定器、身分証明バッジ、爆発物をかぎ分ける犬、抜き打ち検査用の携帯型金属探知器を導入した。

 また、公立学校では子どもに関する詳細な資料が作成され、蓄積されたデータが他の公的機関と共有することは当たり前とされ、学校・警察・カウンセラーとの間では定期的な会合がもたれ、素行に問題のある子どもについての情報交換が行われている*9

 このように校内犯罪「先進国」アメリカは、監視と密告の中で子どもの生命と安全を確保しようとしている。本書のテーマである「警察学校相互連絡制度」も、アメリカにおいてすでに行われている「情報の交換と共有」という名の、換言すれば「相互チクリ」制度を日本に輸入しようとするものに他ならない。

3 何が問題か

 衝撃的事件が発生すると、刑罰を強化して治安を回復しなければならないであるとか、「体感治安」の低下を理由に、もっと高性能の機器を設置して防犯を強化しなければならないという声が沸き起る。しかし、その前に、(1)監視カメラや警察学校相互連絡制度を導入しなければならない状況のが本当にあるのか、制度の合理性を支える立法事実の有無が検討されなければならないし、同時に、(2)制度・システムを導入した場合の弊害、さらには、それが特定の人々のみを保護し、反面、特定の人々を差別化しないかを慎重に検討されなければならない。警察学校相互連絡制度それ自体の問題点については別稿が予定されているので、ここでは主として監視カメラをテーマとする。

 (1) 治安悪化は本当か?監視カメラは有用か?

 警察庁は、「体感治安の低下」、「犯罪検挙率の低下」、「危険水域にある治安情勢」等、犯罪増加の早急な歯止めや国民の不安の解消を強調する。しかし、この「不安」は「創られた不安」であり、警察力の強化拡大のためのプロパガンダの性格が強い*10

 そもそも監視カメラが犯罪抑止に本当に役立つのかについての証明はないばかりか、実効性に関しては疑問さえ出されている*11

 (2) 監視カメラのもたらす弊害

 監視カメラは個人のプライバシーを侵害するばかりではなく、監視カメラによって見張られた社会は、人と人との絆を切り裂いてしまう。

 監視カメラは、自らに関する映像を含むデータを他人が勝手に収集し蓄積することであり、自分に関する情報を自らが管理する権利、プライバシーの権利として憲法13条によって保護されており、監視カメラはこの権利を侵害する*12

 同時に、監視カメラの張りめぐらされた社会で生活することは、他人を常時猜疑心をもって見つめること、「誰かが自分に危害を加えるのではないか」という不安を常に抱えながら生活することを意味する*13。 監視によって犯罪や危険を防止しようとすれば、「目的は個人の特定とその行動の監視、将来の行動の予測と予防、そしてこれらを通じ、誰が仲間であり誰がよそ者なのか、誰を排除し誰を受け入れるのかを決めること*14」となるであろう。その結果、地域、街、家庭、学校等の様々な共同体における信頼関係、「人間の絆」を破壊されてしまうであろう。

 (3) 差別の恒常化

 監視による犯罪防止策は、「誰が仲間であり誰がよそ者なのか、誰を排除し誰を受け入れるのか」という眼差しを向ける結果、自分たちと異質な存在、特定の人々(国籍や思想、収入や生活レベル、身分や職業等によって階層化された特定の人々)、あるいは特定の地域(犯罪の多発地域と安全で安心、清潔で快適な地域*15)に対して差別的に機能する。監視カメラが最初に設置された場所が大阪市西成区「あいりん地区」(釜ヶ崎)であることに象徴されるように、設置者において犯罪多発地域と認定された場所や犯罪性向が高いと認められた人々を集中的に監視することになる。犯罪の発生率の低い地域に監視カメラを多数配備する意味はない*16。また、身なりのきちんとした高級官僚や一部上場企業の役員に対する職務質問や監視はまず行われないのに対して、ジャージ姿で渋谷のセンター街をうろうろする若者は常に職質と監視対象とされる*17

 このように監視カメラは一部の人々を特別の監視対象とすることによって、特権的人々の安全を確保しようとするものであり、本質的に差別構造を内蔵している。そしてこのことが更に他者への差別の眼差しを固定化し増幅するという悪循環に陥る。

4 おわりに

 監視によって安全を守ろうとする究極の形態は「要塞都市」であろう。外部からの侵入を完全に遮断し街全体をセキュリティー網でおおい、高額所得者のみ居住が許され、自前で警備会社と契約し巡回と死角のない監視カメラ網によって安全を維持するという、極めて歪(いびつ)な都市である。

 自由と平等を犠牲にした安全ではなく、犯罪の起きる社会的要因を根本的に除去すること、「構造改革」という名の弱者切り捨てや競争社会との決別こそが求められているのだ。

(松島 暁)




排除と鎮圧による「安全」か、平和と共生の社会か

―― 警察・学校相互連絡制度が問いかけるもの

1 相互連絡制度と「生活安全条例」

 (1) 連絡制度と警察・学校の変容

 警察・学校相互連絡制度とは、警察と学校が子どもたち(児童・生徒)の問題行動を相互に連絡して学校内外で目を光らせようとする制度であり、その眼目は犯罪や非行を未然に鎮圧・防止する「防犯」にある。

 警察は犯罪捜査とともに犯罪予防をも責務とする機関ではあるが(警察法第2条)、犯罪予防のために権限が発動できるのは「犯罪がまさに行われようとするのを認めたとき」(警察官職務執行法第5条)などの場合に限定されている。「防犯」の名目による警察の監視や介入を認めれば、プライバシーなどの人権への侵害を引き起こすからである。

 学校は、「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育」(教育基本法前文)のために設置された機関であり、子どもたちをめぐるさまざまな問題も教育的見地で解決すべきものとされてきた。学校や教職員が子どもたちの「監視者」「摘発者」に堕せば、「個人の尊厳」を尊重した教育など画餅に帰するからである。

 学校を監視と密告の場に変容させ、犯罪の切迫性も蓋然性もないもとで警察の情報収集を可能にする相互連絡制度は、こうした警察と学校のあり方を大きく逸脱している。

 なぜこのいま、こうした逸脱がまかりとおるのだろうか。

 (2) 地域ぐるみの防犯 ―― 相互連絡制度と「生活安全条例」

 「生活安全条例」(「安全・安心まちづくり条例」など)が全国の自治体に広がり、すでに市町村では半数近く、都道府県でも3分の1近くで制定されている。自治体や事業者・住民に「安全」を守る責務を課し、防犯のための施設設備(監視カメラなど)の設置を義務づけ、自主的防犯活動を推奨する条例である。「生活安全条例」の拡大と並行して、監視カメラの網が張りめぐらされ、「民間交番」「民間パトロール」も増え続けている。

 「生活安全条例」のコンセプトは、「犯罪が増えて不安感が高まっているから、自治体や住民ぐるみで安全を守らねばならない」。ここでも犯罪の蓋然性や切迫性がない段階で警察などの情報収集が進められ、多様な住民がコミュニティを形成しているはずの地域社会は「監視するもの」と「監視されるもの」に分断されてゆく。

 「住民ぐるみの監視・防犯」を掲げた「生活安全条例」と、「学校・警察の連携による監視・防犯」をうたう相互連絡制度が、同じ「哲学」に立っていることは直ちに見て取れるだろう。「民間パトロール」で住民を監視するのと同じように教職員は日々子どもたちの問題行動に目を光らせ、監視カメラが情報を蓄積するのと同じように相互連絡システムで記録された情報が学校と警察に蓄積されていく。住民や子どもたちは、「いつ問題行動を起こすかわからない者」として、監視の対象となり、ついで通報と排除の対象となるのである。

2 「住民ぐるみの安全」「警察・学校の連携による安全」を生んだもの

 (1) 地域の安全と国際化社会

 「生活安全条例」の制定がはじまったのは1994年だから、相互連絡制度より8年早い。警察庁に生活安全局が設置され、防犯を中心に地域社会の安全をはかろうとする生活安全警察が重点課題なったことが直接の背景である。この年に刊行された平成6年(94年)版「警察白書」のテーマには「安全で住みよい地域社会を目指して」が掲げられ、冒頭の第1章は「地域の安全確保と警察活動」となっている。

 この「地域の安全確保」はそれだけが孤立して存在したものではなかった。もうひとつの重点課題は「国際化社会への対応」であり、平成6年版「警察白書」の第2章は「国際化社会の警察活動」にあてられている。「ボーダーレス時代の警察活動」をテーマに据えた平成4年版「警察白書」には以下のような時代認識が掲げられていた。「現代は、『ボーダーレス』の時代である。最近における国際化の進展、交通手段の変化、女性の社会進出等をはじめとした社会経済情勢の変化は、従来当然のものと考えられていた様々な境界を消滅させつつあるが、これは、社会の病理を写す鏡である犯罪の分野においても例外ではない」。これが「安全確保」「防犯」が押し出された時代背景だった。

 「生活安全条例」と生活安全警察は、急速な多国籍企業化・国際化のもとで変容する地域社会や犯罪動向に対応するための警察戦略の一環であり、「グローバル化のもとでの治安戦略」だったのである。

 (2) 1994年 ―― グローバル化と構造改革の序曲

 「生活安全条例」の展開が開始された1994年は、政治や軍事の分野でも大きな変動が続いた年だった。94年1月には政治改革が強行されて、小選挙区比例代表並立制が導入された。90年代初頭から繰り返し強行がはかられてきた政治改革・小選挙区制導入のねらいは、国際国家に対応した果断な政治を可能にするための政治システムの変更にあった。この小選挙区制はその後の議会政治を大きく規定し、10年を経て同質的な保守2大政党を生み出しつつある。同じ94年6月、北朝鮮の核開発疑惑によって米朝関係が緊張し、アメリカは北朝鮮侵攻の「作戦計画5027」の発動寸前までいった。侵攻作戦の兵站拠点となる日本に港湾や空港の提供など1,057項目の要求が突きつけられたが、対応は不可能だった。作戦は発動されなかったが、アメリカに残った強い不満とこの国の支配層の「トラウマ」が、「新ガイドライン」やアーミテージ報告を経て、有事法制を生み出すことになる。

 94年とは、この国がグローバル化の道をひた走り、新自由主義にもとづく構造改革を強行し続ける序曲の年というべき年だった。「生活安全条例」の制定がはじまり、「検挙から防犯へ」とされる警察戦略の転換が行われたのは、「外に出て行く国際国家」に対応するためであり、市場原理万能の構造改革の社会に対応するためなのである。

 (3) 「失われた10年」 グローバリゼーション・構造改革のもとで

 政治改革が強行されてから10年が経過した。政治改革に端を発した構造改革が全ての分野で強行され、世界を市場化するグローバリゼーションを推進するアメリカは「反テロ戦争」に突き進み、この国は有事法制を強行して対米追随の軍事大国化の道をひた走った。これがこの10年の政治と経済の実相である。

 その10年になにが引き起こされたか。

 構造改革がすべての分野にわたって強行され、行政・地方自治・税制・産業・雇用・都市計画・社会保障・教育・医療など、あらゆる分野で「改革」がはやり言葉であり続けた。市場原理と自由競争がすべての分野の「指導理念」であるかのように語られ続け、それまでの日本社会を形成していた企業社会や地域社会は崩壊の道をたどった。リストラクションによって正規雇用労働者は減少の一途をたどり、膨大な失業者と不安定労働者が生み出され、雇用不安と負担増大のもとで購買力が圧縮されていつ果てるともない消費不況が続いた。都心部再開発で高層ビルが林立し続けるのと反比例するように、ローカル地域では店舗・事業所の閉鎖が続いて「死に瀕したまち」が随所で生み出された。失業と生活破綻が膨大な破産者を生み、生活の格差がそのまま子どもたちの就学や学校生活に直結するようになってきた。

 市場競争万能の構造改革とグローバリゼーションの10年を経て生み出されたものは、深刻な社会の亀裂であり、構造的なフラストレーションであった。その亀裂とフラストレーションのもとで、犯罪認知件数は増加し続け、体感治安の悪化(不安感の拡大)が叫ばれ続けた。「子育て」への不安と子どもたちの成育環境の悪化は、「青少年問題」への関心をクローズアップすることにもつながった。先行きの見えない消費不況と崩壊に瀕していく地域コミュニティは、「犯罪への衝動」と「被害を受ける不安感」を拡大せざるを得ないからである。ここ数年の警察の治安戦略が、「国際的組織犯罪」と「安全なまちづくり」と「青少年」を3本柱のようにして展開されてきたのは、こうした社会背景がある。

3 排除と鎮圧で「安全」は生み出せるか

 (1) 21世紀初頭 相互連絡制度が展開しつつあるとき

 宮城県で警察・学校相互連絡制度が「産声」をあげた2002年、「ローカル県」の市町村から制定が広がっていた「生活安全条例」が都道府県に拡大し、はじめての都道府県条例である「大阪府安全なまちづくり条例」が制定された。大阪府条例では、自治体・住民・事業者を含めた「自治体・民間ぐるみの防犯」が打ち出され、凶悪犯罪に用いられる可能性があるとの理由で鉄パイプやバット等を目的外で所持することが犯罪とされた。

 この2002年とは、「9・11事件」を機に、アメリカ・ブッシュ政権がアフガンへの報復戦争を強行し、この国の小泉政権が有事3法を国会に提出した年にあたっている。この年10月に発表されたアメリカ「国家安全保障戦略」(ブッシュ・ドクトリン)では、自由と民主主義と市場原理が「世界の公理」として宣言され、それを脅かすテロリストや同調者、大量破壊兵器やそれを保持する専制君主への先制攻撃が打ち出された。脅威を武力によって鎮圧し、「安全」を確保しようとするブッシュ・ドクトリンの「哲学」は、「生活安全条例」や警察・学校相互連絡制度の「哲学」と驚くほどの共通性をもっている。

 2003年3月、ブッシュ政権はアフガンからイラクに侵攻戦争を拡大し、この国は戦火のイラクに地上軍を送って公然たる対米軍事支援に乗り出した。2003年6月の有事3法の強行に続いて、2004年6月には国民保護法などの有事10案件(7法案、条約3案件)が強行され、それぞれの自治体で地域社会を戦争態勢に組み込むための「国民保護計画」の作成が進められようとしている。

 この2年間、宮城にはじまった連絡制度が全国に広がり、大阪府条例にはじまった都道府県の「生活安全条例」も各地に拡大しつつある。軍事と治安が「二人三脚のあゆみ」を続けているのが、21世紀初頭の特徴といっていい。

 (2) 東京都・懇談会報告の語るもの

 2003年3月、東京都の「安全・安心まちづくり有識者懇談会」は、「生活安全条例」制定を求める報告書を発表した。この報告書には、「住民ぐるみの防犯」などを提起する時代認識があけすけに語られている。

 報告書は「犯罪多発の背景にあるもの」として現代社会の諸問題を羅列する。高層マンション等に見られる住宅構造の変化や生活様式の多様化による地域社会の一体感・連帯意識の希薄化、家庭、学校、地域社会の教育力の低下や大人社会の自己啓発力の低下などによる少年非行の増加、日本の刑罰が軽く、刑罰効果が薄いことなどによる来日不良外国人の暗躍、長引く不況による経済情勢の悪化による失業者の増加、雇用に対する不安、生活の困窮などなどである。

 社会の問題を「住民の意識」に解消する報告書の論法には黙過できない問題点が介在している。だが、そのことをひとまずおけば、報告書も「国際化」「都市化」「情報化」「多様化」といった現代の社会現象が「犯罪多発」の背景にあることを認めていることになる。この「国際化」「都市化」「情報化」「多様化」こそ、グローバリゼーション・構造改革の路線が推し進めてきた道筋である。とすれば、「国際化」「都市化」などを生み出している政治や経済のあり方を見直し、是正することなしに、こうした背景をもった「犯罪多発」や「体感治安の悪化」を解決することは絶対にできない。

 だが、報告書は、国際化や情報化、都市空間の高層化を強行してきた政策の自省や見直しには向かわなかった。真の原因と責任を明らかにすることなく、「自分たちの安全は自分たちで守るしかない」と唱えて生み出したのが「生活安全条例」であり、住民が住民を監視する相互監視社会だった。これが「生活安全条例」の最大の誤りであり、警察・学校相互連絡制度も変わるところはない。

 (3) いま問われているもの 社会の亀裂の解決の道

 戦争で平和を構築できるか。武力でテロは根絶できるか・・。世界に問われている命題である。いまだ戦火やまぬアフガン、イラクの現状や「世界に拡散したテロ」の現実が、雄弁に答えているだろう。脅威や恐怖を拡大することによって「安全」を確保することは遂にできなかった・・これが戦火に彩られた21世紀初頭の教訓である。

 治安や犯罪の問題も本質的に変わるところはない。

 「都市化」「高層化」が「地域社会の一体感・連帯意識の希薄化」を招いていることが理解できるなら、抑止すべきはやみくもな都市再開発や高層化なのであって、住民の警察化や自警団化が「解決策」ではない。「家庭、学校、地域社会の教育力の低下」が青少年犯罪や非行の原因になっていると考えるなら、子どもの立場に立った学校教育の充実や地域コミュニティの再生こそがはかられねばならないのであって、学校に監視と通報を持ち込んで恐怖と脅威を拡大したところで、問題が解決することはありえない。

 警察・学校相互連絡制度が問いかけているのは、グローバリゼーション・構造改革が生み出してきた深刻な社会の亀裂を、人間社会の再構築によって解決するか、監視と排除、恐怖と脅威による鎮圧で対処するかの選択なのである。

(田中 隆)



*1 この事件が社会に与えた衝撃は極めて大きく、通常、刑の確定後すぐには執行せず、執行までに平均で7年程度の期間がもたれる死刑執行が、この件では死刑確定からおよそ1年で執行された。犯人の公判廷での態度等の影響は否定できないが、社会不安を、治安の強化=早期の死刑執行によって回復しようという意図が感じられる。


*2 http://www2.city.suginami.tokyo.jp/library/file/H16_J17.pdf


*3 学校の安全・セキュリティーは極めて有望な「市場」である。全国のすべての小学校(国公私立含め全国で約23万校が存在する)に監視カメラを設置するとすれば、設置等の初期投資が1校あたり100万円、月々のランニングコストを2万円程度と想定すると、設置関係で2300億円、年間維持費として552億円の「市場」が生まれていることになる。


*4 「安全と管理」2004年7月号(座談会・ハードとソフトの両面の充実が小学校の安全をつくる)では、千川小学校の取り組みが先駆的取り組みとして高く評価されている。


*5 http://kyushu.yomiuri.co.jp/spe-4/sasebo/fr_sasebo.htm


*6 以下は、ジム・レッデン『監視と密告のアメリカ』(2004年4月、成甲書房)より


*7 コロンバイン高校事件の直後、クリントン大統領(当時)は、全国放送のテレビで会見し、「『チクリ屋』と呼ばれることを恐れずに、反社会的な同級生を当局に通報するよう」にと呼びかけた。(同書188頁)


*8 核兵器研究所など極秘の核施設の警備で30年の実績を誇る警備会社で、1991年から学校の警備顧問を務め、小学校向けに子どもの識別装置を提供している(同書196頁)


*9 カンサツ州では州法によって校内暴力の警察への通報が義務づけられ、当該子どもが地域にとって脅威か否かを判定する専門施設が設立され、家族は「破壊的性格」の子どもをこれらの施設に連れて行くことが義務付けられ、子どもは親から隔離された状態でスクリーニングチェックを受ける。問題有りと判定された子どもは「矯正プログラム」に参加させられることとなる。(同書63頁)


*10 「法律時報」(75巻12号13頁以下)には、犯罪統計作成に直接携ってきた浜井浩一龍谷大教授による、犯罪数の増加・検挙率低下という数字のからくりが報告されている。


*11 2002年版警察白書は、新宿歌舞伎町における監視カメラ設置によって犯罪認知件数が大幅に減少したとしているが、2003年に入って、再び犯罪発生件数がカメラ設置前の水準にまで急増したことが指摘されている。小倉利丸編『路上に自由を−監視カメラ徹底批判』(インパクト出版会2003年11月、11頁)

 また、長崎の幼児誘拐殺人事件の解決に監視カメラが役立ち、監視カメラの「お手柄」として報道されているが、服装等の個人を特定できる明瞭な映像は映っておらず、監視カメラ映像が犯人特定の決め手ではなかった。(同書52頁)


*12 写真撮影や監視カメラは通常プライバシーや肖像権の問題として論じられる。デモ行進についての写真撮影が問題となった京都府学連事件(昭44年12月24日最大判・刑集23-12-16251)、釜ヶ崎の監視カメラ事件(平6年4月27日大阪地判・判例時報1515-116)。ある種の個人権的アプローチである。しかし、警察学校相互連絡制度の問題は、情報の流出が子どものプライバシー権に関わるとともに、子どもと教師、親と教師との間に、子どもの成長発達の上でなくてはならない信頼関係を根底から破壊し(自分やわが子の秘密に関わる事項について教師に打明けることは、警察への情報漏洩を常に伴うという危険を覚悟しなければならないのであるから)、教育という制度を崩壊させてしまうところにある。その意味において個人の権利をこえる制度そのものの破壊である。


*13 私たちの社会は相互に信頼によって成りたっている。決して経済的な合理性に基づいて自己利益を最大化することのみによって社会が成りたっているわけではない。スーパーからものをとらない、停電しても、震災があっても、基本的にはみんなルールを守り続けるというのは、実は警察があるからでも、法律があるからでもなく、私たちが相互に信頼し合って生きているからで・・・・「監視社会」はそういう信頼を突きくずす相互の不信に依存しそれを醸成する。(法律時報75巻12号26頁)


*14 小倉利丸「日本型監視社会に対抗するために」白石孝他編『世界のプライバシー権と監視社会』(明石書店2003年)


*15 もっとも監視カメラが普及しているイギリス(全世界の監視カメラの10%、250万台)において、それを下支えしているのが、政府の補助金制度である。工業の地盤沈下とサッチャー政権による構造改革・規制緩和による貧富の拡大と、郊外型ショッピングセンターの拡大による都市中心部の地盤沈下に対する、都市再生策の一環が監視カメラだった。「安全で・魅力があり・クリーン」な都市というイメージ戦略における救世主が監視カメラだった。山口響「監視カメラ大国イギリスの今」前記小倉編『路上に自由を』(82頁以下)

  杉並区の監視カメラ条例も、生活安全条例とともに、杉並区の「商品」価値を高め、他区との差別化を図ることにより、自治体間「競争」に勝ち抜こうとする意図が伺える。


*16 設置の必要があるとすれば別の目的、例えば、政府の中枢部周辺の治安維持目的であろう。国会周辺の監視カメラ設置については、角田富雄「暴走する国会−ひそかに市民をカメラで監視」前記小倉編『路上に自由を』(194頁以下)


*17 東京地裁・高裁の場合、「裁判官・検察官・弁護士」と「一般人」とは、入口において差別化されている。一般の人は金属探知器をくぐらなければ入場できない。つまり法曹関係者を「身内」として区別し、それ以外の一般人を「非身内」として差別化し、チェック・監視対象としている。




PartV 資料=相互連絡協定・要領・展開状況

【東京の協定と「要領」】

警視庁と東京都教育委員会(都教委)は、2004年4月5日、相互連絡制度の協定に調印した。都教委は、協定に都教委側の「要領」や「モデル案」を添えて区市町村教育委員会に配布し、制度の導入を求めた。東京都の協定・都教委の「要領」および「要領」の別紙とされた「図」を掲載する。


  児童・生徒の健全育成に関する警察と学校との相互連絡制度の協定書 (東京・協定)

 警視庁(以下「甲」という。)及び東京都教育委員会(以下「乙」という。)は、青少年の非行間題が多様化、深刻化している現状を踏まえ、東京都内における児童・生徒の非行及び犯罪被害の防止と健全育成対策を効果的に推進するため、相互の連携に関し、次のとおり協定する。

第1条(目的)

 この協定は、児童・生徒の健全育成のため、非行等問題行動の防止及び安全確保について警察と学校がそれぞれ自らの役割を果たしつつ、その役割を相互に理解し、緊密な連携の下で効果的な対応を図ることを目的とする。

第2条(名称)

 この協定に基づく名称は「警察・学校相互連絡制度」とする。

第3条(関係機関)

 この協定において連携を行う関係機関は、次の機関とする。

  (1) 甲及び東京都内に所在するすべての警察署(この協定書においで「警察署」という。)

  (2) 乙及び都立高等学校、都立盲・ろう・養護学校(この協定書において「学校」という。)

第4条(連携の内容)

(1) 関係機関は、非行等問題行動に関し、必要な情報の連絡を行うものとする。

(2) 関係機関は、非行等問題行動に関し必要に応じて、協議を行い、当該事案に係る具体的な対策を講ずるものとする。

第5条(連絡の対象等)

 この協定に係る相互連絡の対象事案は、下記の事案とする。

  (1) 警察から学校への連絡事案

   ア 逮捕事案

   イ ぐ犯事案

   ウ その他非行少年等及び児童・生徒の被害に係る事案で警察署長が学校への連絡の必要性を認めた事案

  (2) 学校から警察への連絡事案

   ア 児童・生徒の非行等問題行動及びこれらによる被害の未然防止等のため、校長が警察署との連携を特に必要と認める事案

   イ 学校内外における児童・生徒の安全確保及び犯罪被害の未然防止等のため、校長が警察署との連携を特に必要と認める事案

第6条(連絡の範囲)

 この協定に係る相互連絡の範囲は、対象事案に係る児童・生徒の氏名、事案の概要及び対象事案に関係する児童・生徒の健全育成に資するため、少年育成課長、警察署長又は校長が連絡を必要と認める事項とする。

第7条(連絡の方法)

 この協定に係る相互連絡の方法については、連絡の対象事案を取り扱った少年育成課長、警察署長及び校長を連絡責任者とし、連絡責任者又は連絡責任者の指定した者が、電話又は面接による口頭連絡により、速やかに行うものとする。

第8条(適正な情報管理)

 相互に提供された情報については、個人に係わる情報であり、児童・生徒の健全育成上の観点から、関係機関は当該情報の秘密保持に努め、本協定の趣旨を逸脱した取り扱いは、厳にこれを禁ずるものとする。

第9条(連携における対応)

 対象事案に関係した児童・生徒への対応に当たっては、本制度の趣旨を踏まえ、相互連絡の内容のみによって児童・生徒に不利益にならないよう適正な措置を行うものとする。

第10条(協議)

 本協定を円滑に実施するため、第3条に定める関係機関は、必要に応じて、協議を行うことができるものとする。

第11条(経費の負担)

 本協定の実施に係る費用は、関係機関がそれぞれ負担するものとする。

第12条(施行年月日)

 本協定に基づく警察・学校相互連絡制度は、平成16年5月1日から施行する。

第13条(検討)

 本協定については、必要があると認められるときは、甲、乙間において検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

 この協定の成立を証するため、本書2通を作成し、甲、乙が署名押印の上、各自その1通を保有する。

平成16年4月5日     

甲  警視庁生活安全部長          友渕宗治  印

乙  東京都教育委員会教育長       横山洋吉  印


 「児童・生徒の健全育成に関する警察と学校との相互連絡制度の協定書」に基づく連絡等実施要領

(都教委・要領)

1 趣旨

 この要領は、「児童・生徒の健全育成に関する警察と学校との相互連絡制度の協定書」に基づく連絡等(以下「連絡等」という。)を実施する上で必要な事項を定めるものとする。

2 連絡等に係る警察署

 連絡等を行う警察署は、学校所在地を管轄する警察署とし、必要に応じて事件等に関わるその他の警察署とする。

3 学校の役割

 (1) 学校は、警察署と個々の非行・問題行動に関し、必要な情報の連絡等を行うものとする。

 (2) 学校は、警察署と非行・問題行動に関し、必要に応じて協力して対策を講ずるものとする。

4 連絡等の対象

 学校に在籍する児童・生徒に関して、次の各号にあげる区分に応じ、それぞれあげる事案とする。

 (1) 警察署から学校への連絡事案(別紙1参照)

   ア 逮捕事案

   イ ぐ犯少年送致事案

   ウ その他非行少年等及び児童・生徒の被害に係る事案で警察署長が学校への連絡の必要と認める事案

 (2) 学校から警察署への連絡事案(別紙2参照)

   ア 児童・生徒の非行、問題行動及びこれらによる未然防止のため、校長が警察署との連携を特に必要と認められる事案

   イ 学校内外における児童・生徒の安全確保及び犯罪被害の未然防止のため、校長が警察署との連携を特に必要と認める事案

5 連絡等の範囲

 連絡等の範囲は、対象事案にかかる児童・生徒の氏名、事案の概要及び、対象事案に関係した児童・生徒の健全育成に資するため、警察署長等又は校長が連絡を必要と認める事項とする。

6 連絡等の方法

 (1) 連絡等の方法については、連絡の対象事案を取り扱った少年育成課長・警察署長等及び、校長等の連絡責任者又は連絡責任者が指定した者が連絡を行う。

 (2) 連絡等は、面接又は電話により行うものとする。

7 連絡等の適正な情報管理

 (1) 連絡等の内容については、個人にかかわる情報であることから、秘密保持の徹底に努めること。

 (2) 連絡等の内容の情報収集やその伝達には正確を期する。

 (3) 連絡等の内容については、必要に応じて保護者に連絡するとともに、事実確認を行う。

 (4) 校長は連絡等の内容の取扱について把握する。

8 連絡等に対する対応

 (1) 対象事案に関係した児童・生徒が健全な学校生活を送れるよう、継続的指導を行う。

 (2) 対象事案に関係した児童・生徒への対応に当たっては、本制度の趣旨を踏まえ、相互連絡の内容のみによって、当該児童・生徒の不利益にならないように、適正な措置を行う。

9 その他

 (1) 教職員に本制度の趣旨を周知徹底し、警察からの連絡に対して対応できる体制を確立する。

 (2) 児童・生徒に対して本制度の周知徹底を図るとともに、保護者に対して本制度の趣旨を説明し、十分な理解・協力を求める。

 (3) 本制度を円滑に実施するため、警視庁、教育庁は必要に応じて、必要な単位で協議を行う。



  (この頁に「別紙1」を貼り込む)


  (この頁に「別紙2」を貼り込む)




【警視庁の「要領」「要領について」】

教育委員会−学校の側でさまざまな「要領」がつくられ、公表されているのに対し、警察側の「要領」等は必ずしも明らかになっていない。警視庁では平成16年4月30日付警視庁報に掲載された「相互連絡制度実施要領」と、同日付「少年育成課執務資料」とされている「相互連絡制度実施要領について」が存在する。「要領」の全文と「要領について」の抜粋を掲載する。


  児童・生徒の健全育成に関する警察と学校との相互連絡制度実施要領 (警視庁・要領)

第1 目的

  この要領は、警察と学校との相互連絡制度の実施について、必要な事項を定めることを目的とする。

第2 連絡担当者等

 1 連絡担当者等の指定

 警察署長及び少年青成課長は、連絡責任者として、制度の適正な運用に努めるとともに、次により、連絡担当者及び連絡担当補助者(以下「連絡絡担当者等」という。)を指定するものとする。

 (1) 警察署長は、生活安全担当課長又は同課長代理(島部警察署にあっては次長)を連絡担当者に、少年担当係長を連絡担当補助者に指定するものとする。

 (2) 少年育成課長は、警視庁少年センターの警部の階級にある者を連絡担当者に、警視庁少年センターの警部補の階級にある者を連絡担当補助者に指定するものとする。

 2 連絡担当者等の任務

 (1) 連絡担当者は、取り扱った事案に係る連絡の必要性を判断し、児童・生徒が在学する学校の校長又は教頭等(以下「学校の校長等」という。)に連絡を行うほか、当該学校と連携し、児童・生徒の健全育成のための具体的な対策を講ずるものとする。

 (2) 連絡担当補助者は、連絡担当者の任務を補助するものとする。

第3 連絡対象者

 相互連絡の対象者は、都立の高等学校、盲学校、ろう学校及び養護学校並びに各区市町村立小・中学校に在学し、かっ、第4の1に規定する連絡対象事案に係る児童・生徒とする。

第4 連絡対象事案及び連絡内容

 1 連絡対象事案は、連絡が必要と認められる次の事案とする。

 (1) 逮捕事案

 (2) ぐ犯事案

 (3) その他児童・生徒の非行等及び被害に係る事案のうち、次の場合で、学校における継続的な指導の必要性を認めた事案

  ア 事案の背景に学校内の非行集団又は不良グループの存在が認められる場合

  イ 他の児童・生徒に悪影響を与えると認められる場合

  ウ その他児童・生徒の指導上、連絡が必要と認められる場合

 2 連絡内容

 連絡内容は、連絡対象事案に係る児童・生徒の氏名、事案概要等必要と認める事項とする。

第5 連絡方法等

 1 連絡担当者は、連絡に当たっては、別記様式第1号の「学校連絡検討表」により連絡責任者の決裁を受けた後、連絡対象事案と認めた場合は、速やかに面接又は電話により、当該学校の校長等に連絡するものとする。

  また、連絡した内容については、連絡終了後、別記様式第2号の「学校への連絡概要」により、連絡責任者に報告するものとする。

 2 学校からの連絡は、原則として、連絡担当者等が受理し、別記様式第3号の「学校からの連絡経過表」に記載した上、連絡責任者に報告するものとする。

 3 警察署において、管轄区域外の学校に在学する児童・生徒の連絡対象事案を取り扱った場合及び少年育成課において連絡対象事案を取り扱った場合は、連絡担当者が当該学校に連絡した後、速やかに学校連絡検討表及び学校への連絡概要の写しを当該学校を管轄する警察署長に送付し、事案を引き継ぐものとする。

 4 警察署及び少年育成課以外の所属(以下「関係所属」という。〉において、連絡対象事案に該当すると認められる事案を取り扱った場合は、別記様式第4号の「児童・生徒に係る連絡対象事案について」により、当該児童・生徒が在学する学校を管轄する警察署長に通知するものとする。この場合において、当該警察署の連絡担当者は、前記1の手続により連絡を行うものとする。

第6 情報の管理

  運絡責任者は、連絡対象者の個人情報に係る事項及びその取扱いについては、保秘に留意するとともに、作成し、又は取得した文書等については、保管・管理の適正を期するものとする。

第7 留意事項

 1 情報の一元化

 警察署長は、連絡対象事案を早期に把握するため、各課の連携を密にし、署内体制を確立させるとともに、情報の一元化を図るものとする。

 2 関係所属との調整

 連絡担当者は、共同捜査に係る事案等の連絡に当たっては、連絡の時期、内容等について関係所属との調整を図るものとする。

 3 連絡の適正

 連絡担当者は、連絡に当たっては、連絡の正確性に努めるとともに、不用意な言動により関係者に誤解を与えることのないよう十分注意すること。

 4 保護者等への連絡

 連絡担当者等は、連絡対象事案と認められた事案については、保護者等に対し、学校に連絡する旨を確実に伝えるものとする。

第8 報告

 1 連絡責任者は、連絡対象事案については、その都度、学校連絡検討表及び学校への連絡概要の写しにより生活安全部長(少年育成課学校地域係経由。以下同じ。)に報告すること。

 2 連絡責任者は、連絡対象事案に関して苦情等があった場合は、電話又は書面により生活安全部長に報告すること。


  児童・生徒の健全育成に関する警察と学校との相互連絡制度実施要領について(抜粋)

       警視庁少年育成課執務資料(平成16年4月30日付)とされているもの

7 学校からの連絡受理
 連絡担当者等が受理し、「学校からの連絡経過表」に記載した上、連絡責任者に報告する。

 (1) 連絡担当者等は、別記様式第3号の「学校からの連絡経過表」により連絡責任者に報告(「報告受理時」欄の決裁を受ける。)するとともに、児童・生徒の健全育成のための措置を講ずるものとする。

 (2) 学校からの連絡は、その都度「学校からの連絡経過表」に記載するとともに、その連絡への対応(措置)について学校側に連絡した事項を記載し、連絡担当者の確認を受けるものとする。

 (3) 事案の最終措置(事件化等)については学校に確実に連絡するとともに、「学校からの連絡経過表」の末尾に措置状況を朱書し、連絡責任者に報告する(「事案結了時」欄の決裁を受ける。)ものとする。

  ※別添別記様式の記載要領を参考

8 情報管理
 保秘に留意し、関係文書等の保守管理を徹底する。

 相互に提供された情報は、個人に係る情報であり、保秘が厳守されるべき情報であることから、本制度の目的と趣旨を逸脱した取扱いは行わないこと。

 連絡担当者は、部下への指示教養を徹底し、適正な情報管理のための必要な措置を講ずるものとする。

【注】「学校連絡検討表」等作成資料の保存期間は、当該児童・生徒が当該学校(警察から連絡受けた学校)を卒業するまでの間とする。

9 連絡時における留意事項
 (1) 情報の一元化
 (2) 関係所属との調整
 (3) 連絡の適正
 (4) 保護者等への連絡

 (1) 情報の一元化

 刑事、交通等他課員が連絡対象事案を取り扱った場合において、同課の幹部(警部補以上)が「児童・生徒の対象別学校連絡基準表」により連絡対象事案に該当すると認めたときは、連絡担当者等に連絡をするものとする。

 【注】連絡担当者等が不在の場合は、少年係幹部に連絡するものとする。

 (2) 関係所属との調整

 連絡担当者は、共同捜査等他所属との事件・事案に係る連絡対象事案の連絡に当たっては、連絡の時期、内容について当該関係所属との調整を図るものとする。

 (3) 連絡の適正

  ア 連絡内容については正確を期すこと。特に、関係者多数の事案や複雑な事案については、連絡担当者等が情報内容を精査し、正確な連絡に努めること。

  イ 連絡担当者は、他の課員が扱った事案についても連絡の必要性に係る判断事項について正確に把握し、連絡責任者の的確な判断に資するものとする。

 (4) 保護者等への連絡

 連絡担当者が学校への連絡が必要と判断した場合、保護者等には学校に連絡する旨を確実に伝え、「学校への連絡概要」中の「連絡内容」の「保護者等への連絡」欄に記載し、連絡者は押印するものとする。

 【注】保護者等には、連絡の可否の決定がなされるまでの間、言動には十分に注意し不用意な言動によるトラブル発生を防ぐこと。




【文京区の協定と「要綱」】

東京都下の区市町村では警視庁との相互連絡制度の協定の調印が続いているが、協定は都教委が配布した「モデル案」どおりのものである。他方、区市町村教育委員会が作成している「要領」「要綱」「指針」には、ある程度の独自性も存在する。
2004年8月10日に調印された文京区の協定と、文京区教委の「要綱」の抜粋を掲載する。


  児童・生徒の健全育成に関する警察と学校との根互連絡制度の協定書 (文京・協定)

 警視庁(以下、「甲」という。)及び文京区教育委員会(以下、「乙」という。)は、青少年の非行問題が多様化、深刻化している現状を踏まえ、東京都内における児童・生徒の非行及び犯罪被害の防止と健全育成対策を効果的に推進するため、相互の連携に関し、次のとおり協定する。

第1条(目的)

 この協定は、児童・生徒の健全育成のため、非行等問題行動の防止及び安全確保について警察と学校がそれぞれ自らの役割を果たしつつ、その役割を相互に理解し、緊密な連携の下で効果的な対応を図ることを目的とする。

第2条(名称)

 この協定に基づく名称は「警察・学校相互連絡制度」とする。

第3条(関係機関)

 この協定において連携を行う関係機関は、次の機関とする。

  (1) 甲及び東京都内に所在するすべての警察署(この協定書において「警察署」という。)

  (2) 乙及び文京区立小中学校(この協定書において「学校」という。)

第4条(連携の内容)

(1) 関係機関は、非行等問題行動に関し、必要な情報の連絡を行うものとする。

(2) 関係機関は、非行等問題行動に関し必要に応じて、協議を行い、当該事案に係る具体的な対策を講ずるものとする。

第5条(連絡の対象等)

 この協定に係る相互連絡の対象事案は、下記の事案とする。

 (1) 警察から学校への連絡事案

  ア 逮捕事案

  イ ぐ犯事案

  ウ その他非行少年等及び児童・生徒の被害に係る事案で警察署長が学校への連絡の必要性を認めた事案

 (2) 学校から警察への連絡事案

  ア 児童・生徒の非行等問題行動及びこれらによる被害の未然防止等のため、校長が警察署との連携を特に必要と認める事案

  イ 学校内外における児童・生徒の安全確保及び犯罪被害の未然防止等のため、校長が警察署との連携を特に必要と認める事案

第6条(連絡の範囲)

 この協定に係る相互連絡の範囲は、対象事案に係る児童・生徒の氏名、事案の概要及び対象事案に関係する児童・生徒の健全育成に資するため、少年育成課長、警察署長又は校長が連絡を必要と認める事項とする。

第7条(連絡の方法)

 この協定に係る相互連絡の方法については、連絡の対象事案を取り扱った少年育成課長、警察署長及び校長を連絡責任者とし、連絡責任者又は連絡責任者の指定した者が、電話又は面接による口頭連絡により、速やかに行うものとする。

第8条(適正な情報管理)

 相互に提供された情報については、個人に係わる情報であり、児童・生徒の健全育成上の観点から、関係機関は当該情報の秘密保持に努め、本協定の趣旨を逸脱した取り扱いは、厳にこれを禁ずるものとする。

第9条(連携における対応)

 対象事案に関係した児童・生徒への対応に当たっては、本制度の趣旨を踏まえ、相互連絡の内容のみによって児童・生徒に不利益にならないよう適正な措置を行うものとする。

第10条(協議)

  本協定を円滑に実施するため、第3条に定める関係機関は、必要に応じて、協議を行うことができるものとする。

第11条(経費の負担)

 本協定の実施に係る費用は、関係機関がそれぞれ負担するものとする。

第12条(施行年月目)

 本協定に基づく警察・学校相互連絡制度は、平成16年8月13日から施行する。

第13条(検討)

 本協定については、必要があると認められるときは、甲、乙間において検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

 この協定の成立を証するため、本書2通を作成し、甲、乙が署名押印の上、各自その1通を保有する。

   平成16年8月11日

              甲  警視庁少年育成課長     藤田博之 印

              乙  文京区教育委員会教育長  中村満吉 印


   児童・生徒の健全育成に関する警察と学校の相互連絡に係る実施要綱 (抜粋)

                              (文京区教委・要綱)

 (前略)

第3条(本制度の対象事案)

 本制度により相互連絡の対象とする事案は、学校に在籍する児童・生徒に関する、次の各号に掲げるものとする。

 (1) 警察署長から学校長への連絡事案

  ア 逮捕事案

  イ ぐ犯少年送致事案

  ウ その他児童・生徒の問題行動及び児童・生徒が犯罪の被害者となり、又は被害者となる可能性のある事案で、警察署長が学校長への連絡を必要と認める事案

 (2) 学校長から警察署長への連絡事案

  ア 深刻な暴力を伴う事案や刃物を使った傷害事案など、児童・生徒が、現に重大な犯罪を犯し、あるいは犯罪を犯す強い蓋然性がある場合であって、学校だけでは解決が困難であるため、緊急に警察の対応が必要であると認められる事案

  イ 援助交際、薬物使用など深刻な問題行動又は犯罪に児童・生徒が関係し、学校だけでは解決が困難であるため、警察の協力が必要であると認められる事案

  ウ 集団的暴走行為や深刻な学校間抗争など、集団によって行われる問題行動に児童・生徒が関係し、学校だけでは解決が困難であるため、警察の協力が必要であると認められる事案

  エ 児童虐待など、児童・生徒が犯罪に巻き込まれたり、被害者となったりするおそれがある場合その他児童・生徒の生命、身体に重大な危険が生ずる恐れがあり、これを防ぐため、警察の協力が必要であると認められる事案

 (中略)

第9条(警察からの連絡の取り扱い)

(1) 学校長は、本制度により収集した情報について、その内容の正確性の確保に十分に留意して取り扱わなければならない。

(2) 本制度により収集した個人情報については、当該事案に関して、当該児童・生徒の指導に必要な範囲の利用に限るものとし、当該指導の目的を超えて、他の目的に利用し、又は外部に提供してはならない。

(3) 対象事案に関係した児童・生徒への対応に当たっては、本制度により収集した情報の内容のみに基づいて、当該児童・生徒に対して不利益となる措置や対応が行われてはならない。特に進学・就職に際して不利益になるようなことがあってはならない。

(4) 学校長は、対象事案に関係した児童・生徒が健全な学校生活を送れるよう、継続的指導を行う。また、犯罪被害者となった児童・生徒が円滑な学校生活を続けられるよう、十分に配慮し、必要な対策をとる。

第10条(記録の作成及び報告)

(1) 学校における連絡担当者は、警察署長への連絡を行った後、直ちに別記様式第1号「警察への連絡内容の記録」にその内容を記録する。連絡担当者が学校長以外の者である場合には、学校長は、その記録を確認しなければならない。

(2) 警察からの連絡は、連絡担当者が受け、内容を別記様式第2号「警察からの連絡内容記録」に記録する。連絡担当者が学校長でない場合は、学校長に報告する。

(3) 学校長は、本制度の実施状況を月ごとにまとめ、別紙様式第3号「警察と学校の情報連絡制度・月別報告」により、教育委員会指導室長に報告する。

第11条(学校における情報の適正な管理)

(1) 学校長は、前条第1項及び第2項により作成した文書その他本制度により収集した個人情報について、管理者を定め、適正な管理及び安全確保に努めなければならない。

(2) 前項の文書は複写し、あるいは電子計算組織に記録してはならない。また事案が解決した場合や児童・生徒の転籍、卒業などにより学籍がなくなった場合、その他保有する必要がなくなった場合は速やかに廃棄するものとする。

(3) 警察から連絡のあった事項及び警察へ連絡した事項は、連絡にかかる個人情報の本人である児童・生徒及び保護者に通知しなければならない。ただし、次の場合は本人又は保護者への通知を省略できる。

 (1) 本人に通知することが、当該児童・生徒に対する指導の障害となり、事案の解決をかえって困難にすることが明らかである場合

 (2) 対象事案が犯罪に関係する場合であって、犯罪捜査過程の情報など警察の業務の円滑な実施を困難にすることが明らかである場合

 (中略)

 付 則

  この要綱は平成16年8月13日より施行する。




【杉並区の指針】

杉並区では、2004年6月18日に、警視庁少年育成課長と杉並区教育委員会教育長の間で、「児童・生徒の健全育成に関する警察と学校との相互連絡制度の協定書」が調印されている(施行は6月21日から)。「モデル案」どおりのもので内容は文京区の協定と同一である。杉並区教委は、6月18日、指導室長名で「実施指針」を区立学校長に通知した。杉並区の「実施指針」を掲載する。


 「児童・生徒の健全育成に関する警察と学校との相互連絡制度」についての実施指針

                              (杉並区教委・指針)

1 連絡等に係る警察署について

 連絡等を行う警察署は、杉並警察署、荻窪警察署、高井戸警察署とする。ただし、必要に応じて事件等にかかわるその他の警察署とも連絡等を行うものとする。

2 連絡等の対象について

 学校から警察への連絡事案の対象は以下のとおりとする。

 (1) 校内における深刻な暴力、刃物を使った傷害等、学校内での解決が難しく、警察の対応が必要な問題行動。

 (2) 援助交際や薬物使用等、その内容が悪質で社会的反響が大きな問題行動。

 (3) 暴走族に関連する問題行動や深刻な学校間抗争の問題行動など、複数の学校の児童・生徒や非行集団・不良グループが関係した問題行動。

 (4) その他、校長が警察に連絡することが特に必要と判断する問題行動。

 ただし、学校内の組織で解決が可能と思われる問題行動や、保護者と協力することによって、今まで以上に学校と家庭との連携が図れる問題行動、地域社会や警察署以外の関係機関によって解決が図れると思われる問題行動などについては対象としない。

3 連絡等の範囲について

 連絡等の範囲は、以下のとおりとする。

 (1) 氏名 (2) 住所 (3) 生年月日 (4) 性別 (5) 保護者氏名

 (6) 保護者連絡先 (7) 児童生徒の非行・問題行動の態様 (8) 犯罪・違反状況

 「児童生徒の非行・問題行動の態様」について

 「児童生徒の非行・問題行動の態様」とは、警察との協定書第6条にある「児童生徒の健全育成に資するため警察署長等又は校長が連絡を必要と認める事項」をより具体的に表したもので、学校において、当該児童生徒の教育指導を通じて得た非行・問題行動に関連する情報である。

4 連絡責任者について

 連絡責任者は対象事案に該当する児童・生徒が在籍する学校の校長とし、連絡は連絡責任者又は連絡責任者が指定した者が行うものとする。

5 連絡等の方法について

 学校は、警察と学校との「相互連絡票」(別紙1、2)の内容に基づき、電話または面接による口頭連絡を行うものとする。

6 教育委員会指導室への連絡について

 学校は、事前又は事後に事案の内容等を教育委員会指導室に報告する。

7 情報の秘密保持について

 学校は、以下に従い個人情報の秘密保持に努める。

 (1) 「警察と学校との相互連絡票」(別紙1、2)は、施錠可能なロッカー等に保存する。文書の保存年限は1年とする。

 (2) 連絡等の内容を、「大型汎用コンピュータ」「オフィスコンピュータ」「パーソナルコンピュータ」等、与えられた一連の処理手順に従って事務を自動的に処理する電子的機器の組織としての電子計算組織に記録してはならない。




都道府県の警察・学校相互連絡制度

注 この表は、2004年7月から9月にかけて、自由法曹団の担当者が各都道府県の教育委員会に問い合わせたけ結果を、自由法曹団の責任で取りまとめたものである。
地方 都道府県 有無・実施時期 方向 備考
北海道
04・09・01 双方向
東北 青森 04・11予定
警察からの申入れがあるとのこと。
岩手 04・08・13 双方向
宮城 02・10 双方向 全国で最初の協定。
秋田 (なし)

山形 あり=実施時期不明

福島 04・01・13 双方向
関東 茨城 (なし)

栃木 (なし)

群馬 04・07 双方向
埼玉 04・02・01 双方向 2003年12月14日に調印。
千葉 (なし)

東京 04・05 双方向
神奈川 (なし)

中部 新潟 04・03・18 双方向
富山 (なし)

石川 03・07 双方向
福井 (なし)

山梨 公立高校のみ 双方向 小中学校は対象にせず。
長野 (ない)

岐阜 04・04 双方向
静岡 (なし)

愛知 (なし)

近畿 三重 04・04 双方向
滋賀 03・01 双方向
京都 (なし)

大阪 (なし)

兵庫 事実上の協議 警察→学校 協定化は考えていないとのこと。
奈良 04・01 双方向
和歌山 (なし)

中国 鳥取 04・05・01 警察→学校 実施要項のみ。
島根 04・09 双方向
岡山 (なし)
いまのところ協定の予定はないとのこと。
広島 03・ 警察→学校 協定ではない。
山口 04・01 警察→学校 協定ではない。
四国 徳島 (なし)

香川 04・04・27 双方向
愛媛 (なし)
実施の方向で検討中とのこと。
高知 (なし)
予定なしとのこと
九州 福岡 (なし)

佐賀 実施予定 双方向 時期は未定。個人情報保護など検討中。
長崎 (なし)

熊本 04・04 双方向
大分 03・02 警察→学校 協定ではない。
宮崎 (なし)

鹿児島 (なし)
検討課題にはしている模様。
沖縄 あり=実施時期不明

東京都下の自治体での警察・学校相互連絡制度

注 「有無」欄の記号は、●=04年7月21日まで、▲=同年9月6日まで、■=同年9月30日までの調印を示す。空白は9月30日時点で調印せず。警視庁が日本共産党都議会議員団に提出した「学校連絡制度締結状況」による。
No 自治体 有無 調印時期 No 自治体 有無 調印時期
1 千代田区 4月に調印(最初の6区) 10 小金井市

2 中央区

11 小平市

3 港区

12 日野市

4 新宿区

13 東村山市 8月頃に調印
5 文京区 8月に調印 14 国分寺市

6 台東区 8月頃に調印 15 国立市

7 墨田区 8月頃に調印 16 福生市

8 江東区 4月に調印(最初の6区) 17 狛江市 8月頃に調印
9 品川区 4月に調印(最初の6区) 18 東大和市

10 目黒区 9月に調印 19 清瀬市 8月頃に調印
11 大田区 8月頃に調印 20 東久留米市 7月21日までに調印
12 世田谷区 8月頃に調印 21 武蔵村山市

13 渋谷区

22 多摩市

14 中野区

23 稲城市 7月21日までに調印
15 杉並区 6月に調印 24 羽村市 7月21日までに調印
16 豊島区 9月に調印 25 あきる野市 7月21日までに調印
17 北区

26 西東京市 8月頃に調印
18 荒川区 8月頃に調印 市部計 26市中14市で調印
19 板橋区 4月に調印(最初の6区) 1 瑞穂町 13町村ともかなり早期に調印。
20 練馬区 4月に調印(最初の6区) 2 日の出町
21 足立区

3 檜原村
22 葛飾区

4 奥多摩町
23 江戸川区 4月に調印(最初の6区) 5 大島町
区部計 23区中15区で調印 6 利島村
1 八王子市 8月頃に調印 7 新島村
2 立川市

8 神津島村
3 武蔵野市

9 三宅村
4 三鷹市

10 御蔵島村
5 青梅市 8月頃に調印 11 八丈町
6 府中市 8月頃に調印 12 青ヶ島村
7 昭島市 8月頃に調印 13 小笠原村
8 調布市

町村部計 13町村の全部で調印
9 町田市 7月21日までに調印

                  検証 警察・学校相互連絡制度
               2004年10月 8日
               編 集  自由法曹団「警察・学校相互連絡制度」問題プロジェクト
               発 行  自由法曹団
               〒112-0002 東京都文京区小石川2−3−28−201
                Tel 03(3814)3971 Fax 03(3814)2623