<<目次へ 【意見書】
一九九六年九月一一日
自 由 法 曹 団
はじめに−本意見書の基本的立場について
公安調査庁は七月一一日、オウム真理教に対する破壊活動防止法(破防法) の団体規制の適用を、公安審査委員会に申請し、あわせて解散指定がなされた場
合の「解散基準」なるものを発表した。
自由法曹団はこれまで、再三にわたってオウム真理教に対する破防法適用に つきわれわれの見解を表明してきた。
これらのなかでわれわれは、そもそも破防法が憲法に違反し、憲法三一条に よって無効と解されるべきことを指摘してきた。この主張は今でも正当であり、
これを変更する必要を認めない。公安審査委員会の審査にあたっては、この問題 をも審査の対象とすべきものであることは当然である。
しかし、この意見書では、破防法の違憲性の問題はひとまず措いて、@公安 審査委員会の審査手続のあり方およびA破防法上の要件の有無についてのみ、責
任ある法律家団体として、厳格な法解釈を示すこととした。公安審査委員会にお ける審査の、最大の焦点もまたそこにあるであろうと考えるからである。
今日、公安審査委員会の責務がきわめて重大であることは、いうまでもない 。破防法制定以来四四年にしてはじめて、その合憲性についても数々の疑義のあ
る、同法の団体規制が審理の対象となったからである。その判断のいかんによっ ては、単にオウム真理教の消長に関わるだけでなく、わが国の自由と民主主義の
有りよう、民主主義的社会の構造にまで、ひろくまた深い影響をおよぼさずには おかないであろう。
ここにおいて公安審査委員会は、一切の予断と偏見を排し、また様々な政治 的思惑を超えて、厳格な法解釈を貫くべきものである。そもそも破防法が公安審
査委員会に対して命じるものは、あくまでも同法既定の法律要件の該当性に関わ る判断であって、それに尽きるからである。ましてや同委員会が、破防法自体が
固く禁じている法の拡張解釈を行うようなことは、絶対にあってはならない。
われわれがあらためて注意を促したいのは、公安審査委員会もまた、司法権
を超える存在ではありえないことである。したがって公安審査委員会はその判断 を行うにあたって、思想・信条の自由、結社の自由および法の適正手続(デュー
・プロセス)などに関する憲法の諸規定と、それらについて最高裁が行うであろ う司法判断とを十分に視野におき、明晰な見通しを持たなくてはならない。なぜ
なら、いったん解散指定が行われれば、司法判断によって将来それが覆されたと しても、権利回復の実働性を到底期待しがたい構造を、破防法自体がもっている からである。
この重大な時にあたって公安審査委員会が、公正かつ適切に任務を遂行され 、基本的人権と民主主義擁護の原則に合致した判断に到達されることを期待し、
かつ、確信するものである。
第一 審査手続のあり方
一 破防法の定める審査手続
1.公安審査委員会は独立の審査機関
破防法上、公安調査庁は解散指定等の処分についての決定権を全く持たない のに対し、公安審査委員会はそれらの処分についての決定権を有する審査機関と
なっている。破防法がこのように調査機関と審査決定機関とを分離した立法趣旨 は次のようなものであった。
「この法律における団体の規制処分は、極めて重大な行政処分であるので、規 制のための調査をする機関と、規制の処分をする機関とを分離して、権限が過度
に集中して、かくのごとき重大な行政処分が専断的に行われる危険を防止するこ ととしたのである。」(法務府特別審査局監修「破壊活動防止法逐条解説」一一 ページ)
このように公安審査委員会は行政機関ではあるものの政府や公安調査庁から 独立した審査機関として設置されたものであり、公安調査庁長官の処分請求を独
立の立場から公正に審査しチェックすることによって解散指定等の処分が専断的 に行われることを防止する職責を負っている。
また、公安審査委員会設置法は公安審査委員会の委員長及び委員が独立して 職権を行使することを定め(三条)、委員長及び委員が特定の場合を除いては在
任中その意に反して罷免されないことを定めているが(七条)、これらは公安審 査委員会が政府や公安調査庁から独立した審査機関であるという右の立法趣旨を
制度的に具体化したものと解される。
以上のように破防法は解散指定等の処分についての審査決定手続を裁判所の
司法審査に準じた準司法的手続により行うこととして専断的な処分を防止し公正 な審査及び決定を確保しようとしたことが認められる。
2.弁明手続よりさらに慎重な手続が破防法の要請
解散指定処分等についての審査決定機関は公安審査委員会であり公安調査庁
は調査機関にすぎないのだから、公安審査委員会の審査決定手続のほうが公安調 査庁の行う弁明手続よりも重要であることは明らかである。したがって公安審査
委員会の審査決定手続が公安調査庁の行う弁明手続よりも一層慎重な手続でなけ ればならないことは当然のことと考えられる。
ところが、公安審査委員会の審査決定手続についての破防法の規定は二二条 だけであり、条文の文言上は公安調査庁の弁明手続よりもさらに簡素な手続しか
定めていないように見える。
しかし、検察官と裁判官とが一体であってはならないのと同じように、公安
調査庁と公安審査委員会も一体であってはならない。公安調査庁ですら弁明手続 を行うのに公安審査委員会がそれ以下の簡単な手続しか行わないのでは、本来公
安審査委員会が行うべき手続を公安調査庁にやらせて済ますことになってしまう 。裁判でいえば公判手続を検察官にやらせて裁判官は公判手続をやらないまま判
決するようなものである。司法手続でそのようなことが許されないことは明らか であろう。このように公安審査委員会が弁明手続以下の簡素な手続で済ますこと
はそもそも調査機関と審査決定機関を分離独立させた破防法の趣旨に根本から反 することになるのである。
したがって、この破防法の趣旨をそこなわないように同法二二条を合理的に 解釈するためには、公安審査委員会の審査決定手続については公安調査庁の行う
弁明手続よりも一層慎重な手続をとる必要があると解さなければならない。
もとより破防法二二条はその明文で定める手続よりも一層慎重な手続をとる
ことを禁止していないのであり、破防法が公安審査委員会を独立審査機関とした 立法趣旨からすれば明文規定よりさらに慎重な手続をとることが要請されている
と言わなければならないのである。
3.裁判所の判例や行政手続法の検討の必要性
破防法は今から四〇年以上前の一九五二年に制定されたものであり、当時は 行政手続における適正手続の保障という考え方自体が日本にほとんどなかった時
期であった。その後、行政手続における適正手続の保障については裁判所の判例 の蓄積や一九九三年の行政手続法の制定など重要な変化がある。したがって、公
安審査委員会の審査決定手続については破防法の趣旨や条文のみならず、裁判所 の判例や行政手続法との関係についても十分検討される必要がある。
そこで、以下、裁判所の判例及び行政手続法との関係について検討する。
二 裁判所の判例
1.最高裁判所の合憲性判断基準
公安審査委員会が破防法の解散指定の手続のあり方を決定するにあたって十 分検討される必要があるのは、オウム真理教に対する宗教法人法による解散命令
についての最高裁判所の決定である(一九九六年一月三〇日第一小法廷決定)。 この決定は宗教法人法の解散命令が憲法に違反しないかどうかを規制の内容と手
続の両面から判断しており、破防法の解散指定の内容と手続について最高裁判所 がどのような判断をするかについての手がかりとなるからである。
@ 慎重な吟味の必要性
最高裁決定はまず信教の自由の重要性と慎重な吟味の必要性について次のよ うに述べている。
「宗教法人に関する法的規制が、信者の宗教上の行為を法的に制約する効果 を伴わないとしても、これに何らかの支障を生じさせることがあるとするならば
、憲法の保障する精神的自由の一つとしての信教の自由の重要性に思いを致し、 憲法がそのような規制を許容するものであるかどうかを慎重に吟味しなければな らない。」
一般に精神的自由権については特に厳格な審査基準のもとに慎重な審査が要 求されるが、右の判断はこの趣旨を述べたものと解される。
A 合憲性の判断基準
最高裁決定は宗教法人法の解散命令の内容と手続について次のように述べて 憲法二〇条一項に違反しないと判断した。
「解散命令によって宗教団体であるオウム真理教やその信者らが行う宗教上の 行為に何らかの支障を生ずることが避けられないとしても、その支障は、解散命
令に伴う間接的で事実上のものであるにとどまる。したがって、本件解散命令は 、宗教団体であるオウム真理教やその信者らの精神的・宗教的側面に及ぼす影響
を考慮しても、抗告人(オウム真理教)の行為に対処するのに必要でやむを得な い法的規制であるということができる。また、本件解散命令は、法八一条の規定
に基づき、裁判所の司法審査によって発せられたものであるから、その手続の適 正も担保されている。」
つまり、最高裁判所は、解散命令による宗教上の行為に対する支障が間接的 で事実上のものであることと、解散命令が裁判所の司法審査によって発せられた
ことの二つの理由から憲法違反ではないと判断したのである。
B 破防法の解散指定の場合
この最高裁決定の判断基準によると破防法の解散指定についてはどのように 判断されるであろうか。
まず、破防法の解散指定による宗教上の行為に対する支障については、解散 指定が効力を生ずると「団体のためにする行為」およびその脱法行為は禁止され
(破防法八条・九条)、それに違反すると処罰される(破防法四二条)。宗教団 体やその信者らの宗教上の行為に対する支障はこのように直接的で法律上のもの である。
また、破防法の解散指定の場合、宗教上の行為のみにとどまらず思想・良心 の自由、言論・表現の自由、集会・結社の自由など精神的自由権のほぼ全般にわ
たって直接的で法律上の支障を及ぼす。しかもその支障はひとりオウム真理教や その信者のみならず広範な一般国民に及ぶものである。
以上のように破防法の解散指定は宗教法人法の解散命令と比べて著しく強力 な規制であるから、最高裁判所の判断基準からすれば、解散指定が必要でやむを
得ない法的規制と言えるかどうか、そして審査手続が適正であるかどうかについ ては宗教法人法の解散命令よりも格段に慎重な吟味の対象となることは確実であ る。
また、破防法の解散指定の手続については、裁判所の司法審査によって発せ られるものではなく、行政機関である公安審査委員会によって発せられ(破防法
二二条五項)、官報で公示されるとその効力が発生する(破防法二五条一項二号 )。当該団体は解散指定の取消しの訴えを裁判所に起こすことができるが、解散
指定の効力は官報公示により発生し、「団体のためにする行為」およびその脱法 行為の禁止・その違反の処罰規定は発動されてしまうので、裁判所による司法審
査は事後的なものにとどまり事後的に取り消されてもその被害は取り返しがつか ない。
この点においても、公安審査委員会の審査手続の適正が担保されているかど
うかについてはきわめて慎重な吟味の対象になることは明らかである。
2.求められる適正手続
それでは破防法の解散指定において求められる適正手続とはどのようなもの であろうか。
この点について検討される必要があるのは、最高裁判所大法廷一九九二年七 月一日判決である。
@ 行政手続における手続保障についての最高裁判決の判断基準
この判決はまず行政手続と憲法三一条の適正手続の保障との関係について次
のように判断した。
「憲法三一条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであ
るが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべ てが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。」
そして、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどう かについて次のように判断した。
「一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、 また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、
弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の 内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、
緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会 を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である。」
A 告知、弁解、防御の機会を与えることが必要
この最高裁判決の判断基準によると破防法の解散指定についてはどのように 判断されるであろうか。
破防法の解散指定が効力を生ずると「団体のためにする行為」およびその脱 法行為の禁止・処罰規定(破防法八条、九条、四二条)が発動され、思想・良心
の自由、信教の自由、言論・表現の自由、集会・結社の自由等が制限を受ける。 これらの精神的自由権は民主主義の根幹をなし憲法上最大限の保障およびその脱
法行為を要する重要な基本的人権である。しかも、その制限の程度は「団体のた めにする行為」というきわめて曖昧な処罰規定による直接的で広範かつ強力な規
制である。解散指定処分により達成しようとする公益は公共の安全とされるが、 オウム真理教関連の事件についてはすでに捜査及び刑事裁判手続や宗教法人法に
よる解散命令、破産手続等が進行しており、解散指定処分の必要性、緊急性が証 拠上明白に認められるとは言えない状況にある。
以上を総合較量すれば、破防法の解散指定については事前の告知、弁解、防 御の機会を与えることが必要であり、制限される権利の内容、性質、制限の程度
の重大性を考慮すると、できるかぎり刑事手続に近い手続が必要であると解され る公算が高いと言えよう。
三 破防法と行政手続法
1.行政手続法の適用除外の理由
破防法に定める規制の手続については行政手続法は適用されないことになっ
ている。この適用除外の理由は次のとおりである。
「いわゆる行政審判手続−司法に準ずる手続で裁判のような対審構造をとり、
審理も公開で行われる−については、行政手続法には、適用除外とする旨の規定 はないが、整理法で適用除外とする旨が定められている。第三次行革審要綱案の
解説によれば、準司法的な手続により行われる処分の手続に関しては、特定の行 政分野について独自の手続体系が形成されていることが、適用除外の理由とされ
ている。」(宇賀克也「行政手続法の解説」学陽書房 七八ページ)
2.適用除外の意味
ところが、破防法二二条の条文に明記されている手続には当該団体の意見陳 述権すらなく、裁判のような対審構造をとっていない。また審理の公開も明記さ
れていない。公安審査委員会の審査決定手続が同条に明記された手続のみだとす れば、それは準司法的手続とは言えず、独自の手続体系が形成されているとも言
えないのであって、行政手続法の適用除外とすることは許されなかったはずであ る。
つまり、破防法が行政手続法の適用除外とされたということは、破防法が明
文で規定してはいないものの裁判のような対審構造をとり審理を公開するなど準 司法的手続をとることを定めていると認められたことを意味するのである。
もともと破防法二二条は同条の明記した手続よりさらに慎重な手続を採用す ることを禁止するものではなく、前述のように公安審査委員会を独立審査機関と
した破防法の趣旨からもより慎重な手続をとるべきものと解されるところ、行政 手続法の適用除外とされたことはまさにその手続が準司法的手続でなければなら
ないことを確認したものと言わなければならない。このように解さなければ法体 系の整合性が確保されない以上、論理的な解釈としてこのような解釈をとらなけ
ればならないことは当然であろう。
3.行政手続法の手続類型と破防法
行政手続法は不利益処分をしようとする場合の手続を二つに分けている。ひ とつが聴聞であり、もうひとつが弁明の機会の付与である。聴聞は、より正式の
手続で口頭審理主義をとるのに対して、弁明の機会の付与は、より略式の手続で 原則として書面審理主義を採用している。このように行政手続法は二段階の類型
化をしているが、聴聞よりもより慎重な行政審判手続については整理法で適用除 外としているのである。つまり、行政手続法は不利益処分をしようとする場合の
手続を、@行政審判手続、A聴聞手続、B弁明の機会の付与手続の三段階に区分 し、行政審判手続については個別法の定めるところに委ね、聴聞手続と弁明の機
会の付与手続について適用の基準と手続の内容を定めているのである。(宇賀克 也「行政手続法の解説」学陽書房 七七〜七八ページ)
したがって、行政審判手続として適用除外とされた破防法の手続は聴聞手続 よりも一層慎重な手続でなければならないことは自明である。ところが、破防法
二二条の明記する手続のみでは行政手続法の弁明の機会の付与手続程度の略式な 手続にすぎない。以上のことからも破防法は同法二二条の規定にかかわらず聴聞
手続以上の準司法的手続を定めたものと解さなければならないことは明らかであ る。
四 必要な審査手続
これまで検討したことから公安審査委員会がとるべき審査決定手続は次のと おりである。
1.準司法的手続として要求される手続
破防法と同様に行政手続法の適用除外とされている「私的独占の禁止及び公 正取引の確保に関する法律」(以下「独禁法」という)に定める審決の手続は被
審人またはその代理人に次のような手続を保障している。
@ 口頭による意見陳述・証拠提出(独禁法五二条一項)
A 参考人の審訊・鑑定人の鑑定・物件の提出の命令を求めること 同項)
B 物件の検査を求めること(同項)
C 参考人・鑑定人を審訊すること(同項)
D 証拠不採用の理由の開示(同法五二条の二)
E 審判の公開・陳述の速記(同法五三条)
また、公正取引委員会は審決の結果に関係のある第三者を当事者として審判 手続に参加させることができ(同法五九条)、利害関係人は事件記録の閲覧・謄
写ができる(同法六九条)。
これらの独禁法の手続は準司法的手続としての実質を備えたものと言ってよ いであろう。
破防法の場合、制限される権利は憲法上最大限の尊重を必要とされる精神的 自由権であるから、できるかぎり刑事手続に近い手続をとることが求められるが
、少なくとも独禁法が定める手続(ただし、強制捜査権限に関するA、B、Cに ついては破防法二二条一項後段の必要な取り調べおよび同法二項、三項所定の処
分と読みかえたうえで)はこれを保障することが必要であると言わなければなら ない。
そうすると具体的には当該団体またはその代理人に次のような手続を保障し
なければならない。
@ 口頭による意見陳述・証拠提出
A 審査のため必要な取調(破防法二二条一項)・関係人または参考人の審訊
等(同法 二項一号)・物件の提出要求等(同項二号)を求めること
B 物件の検査(同項三号)を求めること
C 関係人または参考人を審訊すること
D 証拠不採用の理由の開示
E 審判の公開・陳述の速記
また、公安審査委員会は審査の結果に関係のある第三者を当事者として審判
手続に参加させることができ、利害関係人は事件記録の閲覧・謄写ができるもの とすることになる。
2.聴聞手続との比較
破防法は行政審判手続として聴聞手続以上に慎重な手続がとられなければな らないわけであるが、行政手続法は聴聞について次のような手続を定めている。
@ 口頭による意見陳述・証拠提出・質問の機会の保障(行政手続 法二〇条 二項)
A 陳述書等の提出(同法二一条一項)
B 利害関係人の参加(同法一七条一項)
C 文書等の閲覧(同法一八条一項)
D 調書の作成(同法二四条一項)
聴聞においてすらこれらの手続が保障されているのであるから、破防法にお いては少なくとも前述の独禁法の手続と同程度の手続をとらなければいけないこ
とは当然と言えよう。
3.杜撰だった公安調査庁の弁明手続
公安調査庁が弁明手続で提出した証拠なるものは、公安調査庁職員が報告書
の形にまとめ直したもので、その原資料は一切明らかにされず、だれが、いつ、 どんな状況で、だれに話したものかも不明である。これでは記載内容の信用性を
検証することは不可能であり、防御・反論も不可能であって、証拠というに値し ない杜撰なものである。
このように反論や反対尋問にもさらされず、その信用性の検証・吟味すら不 可能な資料を証拠として事実認定の基礎とすることは許されないし、そのような
杜撰な資料によって事実認定をするならば事実認定を誤る危険性がきわめて高い と言わなければならない。
また、公安調査官は公安調査庁の請求に有利な報告書のみを作成して提出し 不利な供述等については報告書を作成しないなどの恣意的な取り扱いをしている
のではないかという指摘や金品の提供など利害誘導をしているといった指摘が新 聞等で行われているところである。
公安審査委員会においては公安調査庁が提出した資料を厳しく吟味し、当該 団体や利害関係人に反論や意見陳述、反対尋問や証拠提出の機会を十分保障しな
ければならない。このように適正な手続を保障することは解散指定の適用要件に ついての事実認定を誤らないことにつながる第一歩とも言えよう。
五 小括
以上、公安審査委員会のとるべき審査手続を破防法の趣旨、条文、最高裁判 所の判例、行政手続法との関係にわたって検討した。その結果、破防法二二条の
文言どおりの手続のみでは破防法の趣旨そのものと矛盾してしまうなど破防法の 手続規定の欠陥が明らかになった。
しかし、公安審査委員会は独立した審査機関として公安調査庁の処分請求を 審査し専断的な処分を防止する職責を負っているのであるから、その立法趣旨や
最高裁判所の判例、行政手続法との関係などを総合的に検討し破防法の条文の不 備を是正する解釈を行う職責をも負っていると言わなければならない。公安審査
委員会がそのような合理的な解釈によって適正な手続を実現しないかぎり、事後 的な司法審査で手続の適正が担保されていないものとして取り消される可能性が
高いと考えられる。もしそのようなことになれば、事後的に取り消されても解散 指定による被害は取り返しがつかない。その被害はオウム真理教とその信者のみ
ならず広範な国民に及ばざるをえず、ことはこの国の人権と民主主義に大きく関 わる。
公安審査委員会が独立かつ公正な審査機関としてその職責を十分果たすこと
が求められている所以である。
第二 実体法上の問題点
一 解散指定の構成要件と破防法の解釈運用
1.解散指定には、厳重な要件が課せられている
破防法が定める団体解散の構成要件は以下のとおりである。
<第一要件> 過去の団体の活動について
@ 団体の活動として
A 暴力主義的破壊活動を行なった団体であること
この「暴力主義的破壊活動」にはさらに、
a 刑法上内乱罪、外患誘致罪等にあたる行為およびこれらのせん動等
b 政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、又はこれに反対する目的 (以下「政治目的」)をもってする刑法上騒乱罪、殺人罪、放火罪等にあたる行
為およびこれらの未遂・教唆・せん動等の二つの類型に区分されている(破防法 第七条、第四条 ほかに、第五条第一項の処分(活動制限)を受けて更に団体
の 活動として暴力主義的破壊活動を行なったもの)。
<第二要件> 将来の団体の活動について
@ 継続又は反復して将来さらに
A 団体の活動として
B 暴力主義的破壊活動を行なう明らかなおそれがあると
C 認めるに足りる十分な理由があり
D 団体活動制限でおそれを有効に除去することができないと認められること
破防法第七条による団体解散の指定は、破防法による最もドラスティックで
終局的な処分であり、過去の活動を理由にして将来にわたって団体そのものを解 散させようというものである。こうした解散指定の指定にあたっては、破防法自
身が厳重な要件をもうけており、慎重なうえにも慎重な審査を要求していること が、まず確認されねばならない。
2.慎重・厳格な運用は破防法の性格からも明らか
解散指定の構成要件について、慎重かつ厳格な解釈運用が求められることは
、憲法の基本的人権との関係で重大な問題をはらむ破防法の性格からも明らかで ある。
破防法は、「将来のおそれ」を理由に団体の解散を強制し、団体に関わる活
動を規制するもので、結社の自由、思想・良心の自由、言論・表現の自由を侵害 する性格を持っている。これは、民主主義の根幹に関わる基本的人権の制約・侵
害という重大な危険をはらむものである。
しかも、解散指定の効果はきわめて大きく、「団体のためにするいかなる行
為」(およびその「脱法行為」)も罰をもって禁止されることになる。その結果 、団体構成員と目される者やその知人・友人が日常的な監視・干渉のもとにおか
れることになり、私的な行為によって破防法違反として検挙されることになりか ねない。
さらに、解散指定は裁判所が関与しない行政手続によって行なわれ、きわめ て簡素な手続しか保障されていない。そして、こうした手続によってひとたび解
散指定の処分が行なわれると、行政訴訟を提起しても解散指定の効果が停止され ることはない。その結果、一方的な証拠や非公開の審理によって解散指定の効果
が発動され、事後的に司法審査を受けても発生した人権侵害の弊害を回復するこ とはできない。
このような破防法があらゆる面から見て憲法に抵触する構造を持っているこ とは、自由法曹団が繰り返し指摘してきているところであり(一九九五年一〇月
「自由と民主主義を破壊する破防法の発動に反対する」など)、その違憲性は本 来的に運用によって治癒できない性格を持っている。しかし、仮にもこうした構
造をもった破防法を現実に適用・審査しようという以上は、憲法上の人権との厳 しい緊張をはらむ法の解釈運用として慎重なうえにも慎重な処理が要求される。
破防法の解釈・運用がいささかでもあいまいさをはらむものとなれば、回復し難 い人権破壊と民主主義の蹂躙を現実に引き起こすことは明らかだからである。
3.厳格な解釈・運用は立法時の確約
周知のとおり、破防法の制定に際しては大きな反対・批判が展開され、参議
院での政府案否決をはじめとする紆余曲折が余儀なくされた。憲法に抵触する破 防法の構造のためであり、万一弾力的な解釈や恣意的な運用が行なわれれば、人
権と民主主義を破壊す
ることが明らかなためであった。国民的な反対・批判に直面した政府・法務
当局は、ことあるごとに「構成要件が明確であること」や「厳正かつ厳格な解釈 運用を行なうこと」を強調し、その確約のうえに制定を強行した。
規制を「必要最小限度」に限定し、「いやしくも権限を逸脱」した人権制限 を禁止した規制基準(第三条)に加えて、「必要最小限度においてのみ適用すべ
きであって、いやしくもこれを拡張して解釈するようなことがあってはならない 」とした解釈基準(第二条)が参議院段階で挿入されたこと、解散指定の要件に
関わる第四条、第五条についても部分「修正」が相次いだことも、これらの批判 と厳格解釈の確約の反映である。
制定直後の法務当局の破防法についての説明も、厳格解釈を強調している。
一九五二年(昭和二七年)七月二五日、法務府特別審査局監修で発行された
「破壊活動防止法・逐条解説」は、破防法を戦前の治安維持法と比較して要旨以 下のように述べている(同書一一頁〜一三頁)。
@ 治安維持法が、「国体の変革」または「私有財産制の否認」という、「実
現の手段・方法のいかんを問わないきわめて広汎かつ不確実な内容」の「特異な 目的犯」として構成したのに対し、破防法は、「『暴力主義的破壊活動』という
行政上の概念を設定し、その内容を現行刑罰法規上の既成概念を極力使用するこ とによって明確なもの」にした。
A 治安維持法が、「思想統制法としての宿命を抱」き、「思想犯」として構 成されたのに対し、破防法は、「(前記の)暴力主義的破壊活動を行なった団体
が将来さらに暴力主義的破壊活動を行う明らかなおそれがある場合に、はじめて 規制処分を行なうことができ」るとした。
治安維持法と破防法の間に同書が論じるほどの隔絶があるかどうかは重大な 問題があるが、少なくとも、法務当局によれば、破防法の解散指定の構成要件は
、「現行刑罰法規上の既成概念」によって画される「明確」な解釈基準が与えら れていることになる。
そうであるなら、過去に発生した事態に対しても、「将来のおそれ」として 想定される事態に対しても、刑罰法規の解釈と同質の厳格な要件解釈が貫かれね
ばならないことは理の当然なのである。
4.解釈運用の緩和は行政府による「新破防法」を生みだす
重大なことは、「刑罰法規と同質の厳格な解釈・運用」は、破防法に対する 国民的な反対・批判のもとで、立法過程において確認され、法務当局自らが確約
し続けた理念だということである。これは、法務当局は破防法の解釈運用を厳格 にし、適用を限定することを確約することによって制定にこぎつけ、「唯一の立
法機関」(憲法第四一条)である国会が、その確約のもとに法制定に至ったこと を意味している。
こうした「厳格解釈」の確約は、破防法の立法趣旨・立法事実そのものであ り、その後の解釈運用を厳しく拘束する。自ら法の制定にあたった政府・法務当
局はもとより、内閣総理大臣の任命にかかる行政機関にほかならない公安審査委 員会も、刑罰法規と同質の厳格な解釈・運用という確約を厳守することが要求さ
れるのである。
もし万一、公安審査委員会が、確約されていた解釈運用を緩和して、立法当
時想定されていなかった事態に破防法を発動するようなことがあれば、主権者国 民から直接選出された議員で構成する国会の立法の過程を蹂躙し、行政機関の手
によって「新たな破防法」を生みだすに等しい。それが、国民主権原理と「唯一 の立法機関」たる国会を無視したおそるべき行政専断立法となることは明瞭だろ う。
しかも、そのとき破防法は、制定当時の国民世論や解釈運用の「縛り」から 「解放」されて、いかようにでも運用できる治安法として歩き始めることになる
。これは基本的人権と民主主義の覆滅に通じる道であり、災いは長く後世の国民 に及ぶことになる。
いかなる「反社会的団体」に対する審理であっても、このような事態は絶対 に許されてはならないのである。
以下、「オウム真理教」についての公安調査庁長官の処分請求書に即して、 「請求の原因たる事実」が、破防法の構成要件に該当するかどうかに検討を加え る。
二 団体の活動としての「暴力主義的破壊活動」(第一要件)
1.処分請求書における「暴力主義的破壊活動」
「請求の原因たる事実」は、おおむね、以下のような構成となっている。
@ 政治目的
政治上の主義としての麻原を独裁的主権者とする祭政一致の専制 政治体制 の樹立を目的とする(請求の原因たる事実1.)
A 「団体の活動として」に関わる事実として政治目的の実現のための
a 多数の活動拠点の設営
b 我が国の行政機構を模倣した省庁制度の導入
c 「真理党」結成と立候補、落選
d サリンの製造をはじめとする武器の製造と大がかりな武装化
e 政治目的実現の障害となるべきあらゆる勢力を排除・抹殺するとの方針
など(請求の原因たる事実2.)
B 行為
松本道場建設について、住民や松本市の反対を受け、長野地裁松本支部が建
築工事禁止仮処分を認容したことなどから、支部裁判官、松本市、住民が、活動 拠点建設を妨害し弾圧しており、これを政治目的実現の障害ととらえ、サリンの
使用への習熟によって武装化を推進し、かつ、政治目的実現の障害である裁判官 を、付近住民とともに殺害し、反対勢力の排除・抹殺をする目的で、裁判官宿舎
付近でサリンを発散させて七名を殺害、裁判官を含む一四四名に対して障害を負 わせ、もって、政治上の主義を推進する目的で、団体の活動として、刑法一九九
条に規定する行為およびその未遂をなした(請求の原因たる事実3.)
「請求の原因たる事実」には、上記「松本サリン事件」の記載のほか、「地
下鉄サリン事件」、「新宿駅青酸事件」、「都庁爆発物取締罰則違反事件」など が「その後の事実」として摘示されているが、これら諸事件については、具体的
な目的、経過、実行者などの記載はなく、刑法上の行為としての特定を欠いてい る。したがって「地下鉄サリン事件」以後の諸事件は、解散指定の要件として主
張されているものではないと、解さざるを得ないのである。こうした「処分請求 書」の構成からは、公安審査委員会に提出される証拠や当事者からの反論・反証
もまた「松本サリン事件」に限定されざるを得ない。
従って、本件請求は、解散指定の要件たる行為としては「松本サリン事件」
のみを対象としたものと考えざるを得ず、公安審査委員会といえども上記「その 後の事実」を対象とした認定判断は行ない得ない。これは、「刑罰法規上の概念
」による「明確性」を基本にした前記の破防法解釈運用からも当然であろう。
よって、本件請求が解散指定の第一要件(過去の「暴力主義的破壊活動」)
を満たすかどうかは、
@ 「オウム真理教」が、「祭政一致の専制政治体制の樹立」という「政治目 的」のた めに「松本サリン事件」を実行したものと言い得るか
A その「松本サリン事件」は、「オウム真理教」が「団体として」実行した ものと言 い得るか
の問題となる。
2.「政治目的」と「行為」の解釈
(1)「政治目的」の構造上の位置と解釈
破防法上の「政治目的」は、「暴力主義的破壊活動」の範囲を画するうえで きわめて重要な位置を占めている。
「暴力主義的破壊活動」の二つの類型のうち、内乱罪や外患誘致罪などの第 一の類型は、それ自体が刑法上「絶対的政治犯」とされているものであって、犯
罪類型の構成要件のなかに「政治犯」となり得る範囲が解釈基準として内包され ている。これに対し、殺人罪、放火罪などの第二の類型は、犯罪構成要件それ自
体はいささかも「政治性」を帯びていないもので、構成要件解釈によって「暴力 主義的破壊活動」の範囲を確定することはできない。この殺人罪・放火罪などの
行為類型に「政治目的」を冠することにより、「絶対的政治犯」とされる内乱罪 などと同等の「暴力主義的破壊活動」に「昇格」させるのが、破防法の構造なの である。
この「政治目的」の解釈・運用には、内乱罪等の「絶対的政治犯」の成立範 囲を画するのと同等の厳格さが要求されねばならない。「自然犯」として成立が
容易に確認できる殺人、放火などの行為に、安易に「政治目的」を冠することが できるなら、「刑罰法規上の既成概念」による「明確性」という法務当局の説明
が水泡に帰することは明らかだからである。
(2)内乱罪の成立要件 内乱罪の
「政治犯」としての成否を画する「統治の基本秩序を壊乱する目的」には、判例 や学説によって一定の解釈基準が設定されている。
すなわち、この「目的」とは、内閣制度の破壊によって統治権の行使を不可 能にすること、国会制度、司法制度などを不法に変革・破壊することと理解され
、個々の内閣の打倒を意味しないこと(大審院昭和一六年三月一五日判決)、直 接の破壊を目的としたものであって、新たに発生する他の暴動によって壊乱しよ
うとする場合を含まないこと(同昭和一〇年一〇月二日判決)などは確定した判 例となっている。
つまり、内乱罪の「目的」とは、直接に国家の基本秩序を変革・破壊する目 的をさすのであって、行為としての「暴動」もその目的に対応した規模と程度が
要求されているのである。
(3)厳格な解釈は政府・法務当局の言明 殺人や放
火という「自然犯」を「暴力主義的破壊活動」に「昇格」させる破防法上の「政 治目的」は、少なくとも内乱罪の「政治目的」と同等の基準で理解されねばなら ない。
このことは、政府・法務当局によっても言明されている。関連する表明・説 明をいくつか列挙しておく。
@ 政治上の主義とは資本主義、社会主義、共産主義、議会主義、独裁主義、 無政府主 義、国際主義、民族自決主義というように、政治によって実現しよう
とする比較的、 基本的、恒常的、一般的 原則をいう」(第一三回国会衆議院 法務委員会議事録四三 号三二頁、前掲法務府特別審査局監修「逐条解説」二八 頁も同旨)。
A 政治というのは、社会通念上の政治、国家の統治機構の運用の 問題に解 するのが 適当である。教育や宗教上の活動や一般文化の 向上普及や倫理道徳
や、経済(中略) は、ここにいう政治上の主義には含まれない。(青山春樹「 逐條破壊活動防止法解説」 四九 頁同氏当時は法務府特別審査局監査第一課長 )
B 個々の具体的処分に反対することは、それだけでは政治上の主 義又は施 策に反対 することではない(真田秀夫「破壊活動防止法 の解説」六四頁同氏
は当時法制意見 参事官)
C 検挙拘束された仲間の釈放を要求して警察に押しかけることも、ただちに
、政治目 的に出たものとは言えない(真田・前掲六四頁)。
(4)「政治目的」は限定されている
こうした政府側の説明が、内乱罪の「目的」解釈と同様の基準をを用いて、 「政治目的」に限定を加えようとするものであることは明らかだろう。そもそも
、内乱罪は、手段として殺人、放火等の行為が行なわれた場合には内乱に吸収す るという犯罪類型であり、内乱罪に該当しない程度の殺人、放火などの行為につ
いてより緩やかな基準で「暴力主義的破壊活動」を認めることなどあってはなら ないのである。
解散指定の要件である「政治目的」とは、
@ 政治的手段で実現されるべき政治体制に向けた直接的な行動の目的に限定 されねば ならず、
A 一方で、宗教や倫理道徳などの立場からさまざまに構想される抽象的で空 想的な 「政治ビジョン」およびそのための行動を含まず、
B 他方で、特定の行動に向けた個別的・具体的な行動目的は含まない。
これが、制定当時の政府・法務当局の説明からも、同じく「暴力主義的破壊
活動」の類型とされる内乱罪の解釈からも当然に導かれる「政治目的」の解釈基 準である。
3.「請求の原因たる事実」は構成要件を満たしていない
これまで検討した「政治目的」の解釈からして、「請求の原因たる事実」は 、「暴力主義的破壊活動」の要件を満たしていると言い得るだろうか。その検討
には、それぞれの記載事実の真否の検討が必要になるが、審理が公開されておら ず、他方刑事訴訟はなお継続中であって、事実を確定することは不可能に近い。
よって、「請求の原因たる事実」それ自体について、構成要件該当の有無を検討 せざるを得ない。
(1)「政治目的」そのものは抽象的かつ空想的
「請求の原因たる事実」の一つの特徴は、「祭政一致の専制政治体制の樹立 」を最終目的にした、「活動拠点の設営」「省庁制度の導入」「武装化の推進」
などから、破防法の「政治目的」を導き出そうとするところにある。
これらが、「団体として」の要件に該当するほどの団体性や団体意志に至っ
ていたかは、後に見るように重大な問題がある。しかし、この点を別にしても、 これらが「絶対的政治犯」と同等の質を持った「政治性」帯びたものと見ること
はできない。「ハルマゲドン」の予測にもとづいた「オウム王国」の建設と、そ のための『拠点』や『制度』『武器の調達』などは、そのすべてが宗教的妄想に
もとづいた「空中楼閣」の所産にすぎず、「政治によって実現しようとする比較 的、基本的、恒常的、一般的原則」(前掲法務委答弁)とは明らかに異質なので ある。
確かに、宗教的妄想が「狂信」を生み、宗教的「狂信」による反社会的な行 動を発生させることはあり得るかもしれない。だが、「政治目的」の厳格な解釈
運用を前提に成立した破防法をこうした「狂信」にまで押し広げれば、「政治目 的」は明確な基準のないままに抽象化されることになる。それは、「教育や宗教
上の活動や一般文化の向上普及や倫理道徳」などを排除した(前掲・青山)はず の破防法に際限のない「適用領域」を付与することになる。
これが、「新破防法」を生むに等しい解釈運用にあたることは明白である。
(2)「松本サリン事件」は「政治目的」によるものとは言えない
「請求の原因たる事実」のもう一つの特徴は、抽象的かつ空想的な「専制政 治体制の樹立」だけでなく、「松本サリン事件」における裁判官殺害の目的とい
う具体的・現実的目的を付加し、「政治目的」の「現実性」を描き出そうという ところにある。
ところが、この「裁判官殺害目的」とは、請求書が自ら認めるとおり、松本 道場建設についての「仮処分事件の本案訴訟」に関するもので、「殺害」の目的
を遂げることによって実現するのは個別的な訴訟が妨害されるという結果にすぎ ない。これは、「個々の具体的処分」への反対・妨害の目的ではあり得ても、お
よそ破防法の「政治目的」ではない(前掲・真田)。
なお、処分請求書では直裁に「裁判の妨害」とは構成せず、裁判官らを「政
治目的の妨害者ととらえ、その抹殺を企図」と説明することで、「政治目的」を 充足すると主張するかのようである。こうなると、本来なら「政治目的」を認め
られない行為に、「政治目的」性を付与するためのレトリックというほかはない 。この論法が使えるなら、本来対象外のはずの個別的目的もすべてとりこむこと
が可能になるだろう。「仲間をを逮捕した警察は政治目的の妨害者だ。だから、
その警察に押しかけて公務を妨害することは政治目的達成の手段だ……」。これ
では個別的処分などを排除した立法趣旨や政府当局の説明は全く意味を持たなく なるのである。
(3)「空想目的」と「個別目的」をかけあわせても「政治目的」にはならな い
処分請求書の巧妙なところは、
@ 「祭政一致の専制政治体制の樹立」のための「武装化」など
A 裁判官殺害・道場建設妨害排除のための「松本サリン事件」
という二つの流れを交錯させ、その二つを重ねあわせることによって「政治 目的」を充足するかのように描くところである。「松本サリン事件」の目的に、
「裁判官殺害」とあわせて「サリンの使用への習熟」を掲げるなどはその最たる ところであろう。
これ自体、一方はあまりにも抽象的かつ空想的、他方は逆にきわめて個別的 かつ現実的で、いずれもそれだけでは「政治目的」を充足しないものを、二つか
けあわせてなんとか「要件へのあてはめ」を果たそうという「苦肉の所産」と考 えざるを得ない。
これまで繰り返し指摘したように、破防法の「暴力主義的破壊活動」とは、 内乱罪のそれと同様に、政治的に実現されるべき制度に向けた直接的な政治目的
によるものに限定されていた。しかも、その「縛り」は、立法趣旨・立法事実と して、後世の解釈運用を厳しく拘束するものであった。
そうである以上、それ自体として「政治目的」を充足しない二つをかけあわ せて「暴力主義的破壊活動」を生みだそうとする処分請求書の姿勢は、明らかに
その趣旨を逸脱するものと断定せざるを得ない。
「空想目的」と「個別目的」を「継ぎ木」しても、やはり「政治目的」とは ならないのである。
4.「団体の活動」についての問題
(1)「団体の活動として」の意味と解釈
解散指定の第一要件となる過去の「暴力主義的破壊活動」は、「団体の活動 として」行なわれたものでなければならない(破防法第五条)。
団体構成員が団体の意思を離れて「暴力主義的破壊活動」にあたる行為を実 行した場合はもとより、団体指導者が団体意思とは別個に実行を指示した場合も
、破防法の構成要件を具備しない。破防法が実行者や教唆者を問題にするのでは なく、団体そのものを問題にし、団体への処分を行なうものである以上、これは
当然の要請なのである。
ところで、破防法が規定する「暴力主義的破壊活動」のうち第一類型とりわ
け内乱の実行などは、その行為自体に団体性と団体意思が内包されている。これ に対し、殺人、放火などの第二類型は、行為自体は個人もしくは少数者の共同意
思で実行されるのが常であり、「暴力主義的破壊活動」が実行者・教唆者・幇助 者間の「意思の共同」を超える「団体意思の発現」であったとき、はじめて要件
を充足することになる。
こうした第二類型において「団体として」行なわれる「暴力主義的破壊活動
」とは「政治目的による殺人、放火等の行為」である。すでに見たとおり、その 「政治目的」とは「政治的手段で実現されるべき政治体制に向けた直接的な行動
の目的」を意味しているのであるから、団体のなかでこうした「目的」が共有さ れていなければならない。さらに、破防法適用の契機は「目的」そのものではな
く、あくまで「行為」なのであるから、団体のなかで「行為の実行に及ぶこと」 が共有されていなければ、その「行為」が「団体の行動」とは言えない。
従って、「暴力主義的破壊活動」が「団体意思の発現」だと言うためには、
@ 団体構成員の間で前記の「政治目的」が共有されており、
A その「政治目的」のために、殺人、放火といった「暴力主義的破壊活動」 にあたる 行動を行なうことが共通の方針として確認されている
ことが必要ということになる。
(2)「請求の原因たる事実」は「団体の行為」と言いうるか
処分請求書では、本件の「暴力主義的破壊活動」は、
@ 「祭政一致の専制政治体制の樹立」のための「武装化」推進、
A 裁判官殺害・道場建設妨害排除のための「松本サリン事件」の実行
の二つの脈絡で構成されている。これが「政治目的」に該当するものとは言え
ないことはすでに指摘したところであるが、その点を別にしても、これらが「団 体意思の発現」として行なわれたかどうかにも重大な疑問が存在する。
もし、これらを前記の「団体の行為」の解釈基準にあてはめるなら、少なく とも、
@ 松本(=麻原)を絶対者とする「専制政治体制の樹立」がオウム信徒全体 の「政治 目的」として共有されており、
A その手段としてサリンの製造をはじめとする「武装化」と、「あらゆる勢 力の排除 ・抹殺」が共通の政治方針として確認・共有され、
B 個々の行為(処分請求書では「松本サリン事件」)が、その政治方針の実 行として 行なわれ、
C そうした行動が上記の政治方針にもとづいたものであることが、共通の評 価・確認 を受けている
ことが必要になるはずである。
こうした諸事実を、本件において認めることができるだろうか。
問題となる点を列挙しておく。
*「オウム真理教」とその信徒は、松本(=麻原)を絶対者とする宗教的教義 による「統一」は保持していたが、その「団体意思」はあくまで宗教的なもので
あって、破防法が問題とする「政治的手段で実現されるべき政治体制」への「政 治目的」は全構成員の共有意思とはなっていなかったと考えられること
*刑事訴追の過程のなかでは、「サリン製造」の事実や「武装化」「反対勢力 抹殺」の方針について「認識していなかった」との幹部信徒の供述が続いており
、これらは裁判所においても採用されていること
*「松本サリン事件」などによる「反対勢力の抹殺」が、大多数の信徒にとっ
て共通の認識になっていなかったとする関係者の調査があること
*「オウム真理教」は一度としてこれらを「政治目的にもとづく行為」として
評価・流布したことはないこと
などは、「団体意思の発現」とは大きく矛盾する事実である。
すでに述べたとおり、「団体の行為」の要件は、破防法の団体規制を導くき わめて重要な位置にあり、その解釈運用も慎重・厳格に行なわれねばならない。
とすれば、本件処分請求書においては、「団体の行為」性についても重大な 問題が存在しているのである。
三 将来の「暴力主義的破壊活動」の「おそれ」(第二要件)
1.処分請求書における「将来のおそれ」
「請求の原因たる事実」は、「将来のおそれ」について、要旨以下の諸点を 摘示している。
@ 松本が政治目的や教義を維持して絶対者として教団を支配し続けているこ と
A 松本に従属する出家信徒、在家信徒が多数存在し、活動拠点や資金を維持 していこ と
B 専門的知識を有する信徒がいて武器を製造する能力と可能性を有すること
C ハルマゲドンの預言に加えて、構成員の逮捕・起訴を弾圧ととらえている
ことなど から、「殺人等の暴力主義的破壊活動に及ぶ 蓋然性が極めて高い」 こと
「明らかなおそれ」の解釈運用について検討する前に、これら諸点について 明らかな点を指摘しておく。
第一に、処分請求書がかかげるこうした「おそれを基礎づける事実」が、「 これまでのオウム真理教」を前提にしたうえで、「現状」と「抽象的な将来」を
語っているにすぎず、将来の具体的かつ現実的な危険に関わるものがきわめて乏 しいことである。あえて言うなら、「平成九年にハルマゲドンが起き」るなどと
の「預言」がそれにあたるということにもなろうが、こうした「預言」が宗教的 「狂信」による妄想以上のものにはなり得ず、「暴力主義的破壊活動」を基礎づ
ける「政治目的」となるものではないことは、すでに明らかにしたとおりである 。
第二に、処分請求書が、「オウム真理教」の「現状」や「将来」を語る際、
現実に進行している松本らへの刑事訴追や宗教法人法に解散命令、破産法による 破産宣告といった諸事実に完全に目をつぶっていることである。絶対者とされる
松本(=麻原)に対する刑事訴訟や身柄の拘束が長期化するであろうこと、破産 整理によって活動拠点や活動資金が甚大な変容を強いられるであろうことなどは
、きわめて高い蓋然性をもって予測できる事実である。
処分請求書は、これら最も基本的な「予測可能な事実」を捨像したうえで、
「これまでのオウム真理教」を前提とした「抽象的な将来予測」を掲げたものと 言わざるを得ない。
2.破防法の「将来のおそれ」
破防法が第二の要件とした「将来のおそれ」とはどのようなものか。
第一に確認しておくべきことは、ここで問題とされるのはあくまで「将来の
おそれ」であって、過去の行為やそれを基礎づける事実とは完全に別個の問題と して考察されねばならないことである。第二の要件を検討する段階では、過去に
「団体としての暴力主義的破壊活動があった」ことは前提にされているだろう。 ここでもし、「過去にあったのだから将来もあり得るだろう」との短絡を許すな
ら、将来にかかわる第二の要件を設けた意味はなくなってしまうのである。
第二に、「将来のおそれ」の認定には、
@ 「反復または継続して」
A 暴力主義的破壊活動を行なう「明らかなおそれがある」と
B 「認めるに足りる十分な理由」
という二重三重の要件が要求されている。破防法制定時の法務当局の説明によ れば、これらの要件は、それぞれ以下のように解釈運用するものとされている(
法務府特別審査局監修「破壊活動防止法・逐条解説」三五頁)。
@ 「反復または継続して」=主観的に一定期間連続して行なう意志が存在
する場合ま たは客観的に時間的間隔を置いて繰り返される場合
A「明らかなおそれ」=明白な危険を意味し、明白とは、社会通念上合理的
かつ一般的 に認められる程度の意味であり、危険とは事件発生の可能性の意 味
B 「認められるに足りる十分な理由」=右の可能性を認定するのに必要な
理由であっ て、相当な理由より強い理由
これらは依然抽象的であり、いっそう厳しい解釈が必要と考えられる部分もあ
るが、少なくとも立法当時の解釈において、「明白な危険が認められる強度の理 由」が要求されていたことは確認しておく必要がある。繰り返し指摘したとおり
、破防法の解釈には立法趣旨からする厳しい拘束がかかっているのであって、「 何か起こすかもしれない」程度の抽象的な「理由」で、「おそれ」を認定するこ
とは許されないのである。
第三に、この「明白な危険」の対象は、あくまで「団体の活動としての暴力
主義的破壊活動」でなければならず、個人が私的に行なう犯罪行為などは全く対 象とされていない。この「暴力主義的破壊活動」には、内乱や外患誘致などを除
いてはすべて「政治目的」が要求されており、その「政治目的」の解釈には内乱 罪の「目的」に匹敵する厳格な解釈が要求されている。これが政府・法務当局自
らが言明した解釈運用の確約であったことは、第二で詳細に明らかにしたとおり である。
破防法の「将来のおそれ」とは、「過去に団体の活動として暴力主義的破壊 活動を行なった団体」について、
@ 過去からの推定はなく、別個独立の将来にかかわる問題として、
A 「団体の活動として」、
B 過去のそれと同じく厳格な解釈のもとで要件に該当する暴力主義的破壊活 動を行な う
C 明白な危険が認められる強度の理由が認められる
場合に限って認定され得るものなのである。
3.こうした「明白な危険」は認定できない
処分請求書に列記された「諸事実」や、現在「オウム真理教」をめぐって進 行している明白な事実から、これまで見た「明白な危険」を認定できる「強度の
理由」(もしくは「相当な理由より強い理由」)があるだろうか。
「オウム真理教」や信徒をめぐる状況は追って述べるところに譲り、考察の
中核となるべき「団体の活動としての暴力主義的破壊活動」に関わる点だけ指摘 する。
第一に、処分請求書の掲げる「政治目的」とは、松本(=麻原)を絶対者と
する「祭政一致の専制政治体制」であったところ、「絶対者」の松本(=麻原) は刑事訴追によって身柄を拘束されて信徒から完全に遮断されており、「合理的
かつ一般的」な予測に立つ限り再び信徒の前に現われることは不可能であろう。 こうした特異な妄想が「政治目的」にあたらないことはすでに明らかにしたとこ
ろであるが、少なくもこれを「政治目的」とする処分請求書の立場からすれば、 その「政治目的」が将来にわたって生き続けることはおよそ認定できないことに なる。
第二に、「暴力主義的破壊活動」の基礎とされた「活動拠点の設営」「省庁 制度の導入」「武装化の推進」などは、いずれもこの間の刑事捜査、解散命令、
破産宣告などの侵攻によって重大な変容を余儀なくされ、すでに「暴力主義的破 壊活動」の基礎とはなり得なくなっている。
@ 「武装化」の現われとされた神経ガスや自動小銃の製造設備は刑事捜査に よってす べて押収されたこと、
A 幹部の逮捕によって「省庁制度」が崩壊していること
B 破産宣告によって活動資金や「活動拠点」も整理されつつあること
などは、明白な事実なのである。
第三に、こうした状況のもとで、破防法にいう「政治目的」を掲げての「暴
力主義的破壊活動」が実行される条件は、「合理的かつ一般的に認められる」も のではない。すでに述べたとおり、「政治目的」による殺人、放火等の「暴力主
義的破壊活動」は、「政治的手段で実現されるべき政治体制に向けた直接的な行 動目的」をもった行動を意味するのであり、これらは絶対者と物的条件を失った
組織において容易に実行できるものでないことは、それこそ合理的理解というも のであろう。
「それでも信徒がなにかしでかすかもしれない」との「予感」を抱く国民は いるだろうし、その可能性を完全に否定することはできないだろう。しかし、そ
れは犯罪に対する一般的な防止の問題ではあり得ても、内乱罪に匹敵する「政治 犯罪」の防止を主眼とした破防法の問題ではないのである。
四 小括
以上、破防法の解散指定の要件を破防法の構造および立法時点での説明(立 法趣旨・立法事実)を踏まえて検討し、その解釈基準にもとづいて処分請求書の
「請求の原因たる事実」を吟味した。
@ 「政治目的」は「政治的手段で実現されるべき政治体制に向けた直接のも
の」でな ければならず、本件のような「空想目的」や「個別目的」を含まない 。
A 「団体の活動として」の要件は、右の「政治目的」の共有と政治方針・評
価などの 共有を必要とし、「オウム真理教」をめぐる諸事実はこれと相反して いる。
B 「将来のおそれ」を肯定するには、「政治目的をもった殺人、放火等」が
、「団体 の活動として」行なわれる明白な危険が認められる強度の理由が必要 であるが、「オ ウム真理教」にはその組織的・物理的基礎が失われている。
以上が、その結論である。
破防法と処分請求書の間に横たわるこの大きな壁は、「政治団体による政治
行動」を想定して立案され、それゆえに国民的な反対・批判を受けて解釈運用を 厳しく限定された破防法を、本質的に性質の異なる「オウム真理教」問題で発動
しようとすることから生じる矛盾の発露にほかならない。
法と現実の間に抜き難い壁がある以上、法はその現実への発動を断固として
拒否しなければならない。それが法治国家の法の使命であり、法の解釈運用にた ずさわる公安審査委員会の任務なのである。
第三 公安調査庁の「解釈指針」とその問題点
一 公安審査委員会が解散指定を決定し、官報で公示すると、団体の役職員ま
たは構成員であった者は、「当該団体のためにするいかなる行為もしてはならな い」(同八条)ことになり、これに違反した者は三年以下の懲役又は五万円以下
の罰金に処せられる(同四二条)。しかし、この「団体のためにするいかなる行 為」という構成要件は、きわめて曖昧不明確である。そのため公安調査庁はその
解釈基準「破壊活動防止法八条について」(以下ガイドラインと略称する)を発 表せざるをえなかった。「団体のためにするいかなる行為」の範囲が不明確との
批判に対して、公安調査庁はガイドラインを示し、人権侵害のおそれはないとい うことを示したかったのであろうが、このようなガイドラインを示さざるをえな
いことが逆に破壊活動防止法が国民の基本的人権を無制限に制約することにつな がることを示しているものであり、そのガイドライン自身以下の重大な問題を持
つものである。
二 ガイドラインの性格
1.ガイドラインは、公安調査庁が、どの行為が「禁止される行為」でどの行
為が「禁止されない行為」かを示すものであり、それが警察庁や検察庁、裁判所 を拘束できるものではない。
ガイドラインは、「破防法適用に反対する他団体主催のデモ行進などに個人 的に参加する」のは「禁止されない行為」であるとしているが、個人的に参加し
たか否かは極めて曖昧であることはもちろんであるが、それを捜査するのは警察 であり、警察は右ガイドラインに拘束されるのではなく独自の判断で行動する。
一人の信者が破防法適用に反対するデモ行進に参加する行為を「団体の存続」を 図る行為と判断し、あるいは個人的に参加したのか団体の意志として参加したの
か捜査するためとして右参加者を調べることとなるであろう。また他にも参加し た者はいないかと右デモ行進参加者全員を調べることともなる。結局一人の信者
がデモ行進に参加することにより、警察はそのデモ行進全体を監視し、捜査する ことができることとなる。
2.公安調査庁はいつでも右ガイドラインを変更することができるのであり、 公安調査庁自身の将来の判断を拘束するものではない。
そもそも、破防法の適用を調査・請求する公安調査庁(行政庁)が犯罪構成 要件の内容を確定すること自体、罪刑法定主義を蹂躙することである。
三 解釈基準自体も問題
包括的に禁止の網がかけられており、団体の活動に参加・従事する行為を一 律に禁止し、処罰の対象としている。
教団が行う集会、集団示威行動、集団行進、機関紙誌・宣伝物の印刷・頒布 、事業活動への参加、事務所の借用・取得、布教活動、教団への勧誘、集団的礼
拝・儀式・修行等を一律に禁止している。団体として行う場合は、目的・態様に 関係なく集会、結社、表現の自由、信教の自由を奪うものであり、憲法違反であ る。
ガイドラインは、団体の活動でなければ禁止の対象とならないとか、団体の 存続・発展・再建に直接資する行為でなければ禁止の対象とならないとしている
が、「禁止される行為」か、「禁止されない行為」かの基準はきわめて曖昧であ る。
1.個人としての行為か団体としての行為かの認定基準はない
団体の活動かどうか、団体の存続・発展・再建に直接資する行為かどうかは 捜査当局の個別的具体的判断にならざるを得ない。前述した「破防法適用に反対
する他団体主催のデモ行進などに個人的に参加する」のは「禁止されない行為」 としているが、「個人的」に参加したか否かは、その者がデモ行進に参加する前
から監視し、団体の意志決定がないか、他の者との接触がないかなど調べないと 判断できないことである。
「信徒が単に共同生活して起居寝食をともにする」ことは「禁止されない行 為」としているが、「禁止される行為」である「共同生活したうえ礼拝等」をし
ていないかどうか監視されることとなる。したがって、個人としてか団体として かその判断をするためとして、捜査当局は信者たちの全ての行為を捜査の対象と
し、監視下に置くことになる。集会や言論・表現活動はもちろん、就職して働く こと、建物を賃借すること、布教すること、共同生活すること、礼拝することな
ど、日常生活のあらゆる行為が対象となるであろう。これは、思想及び良心の自 由(憲法一九条)、信教の自由(同二〇条)、集会・結社・表現の自由(同二一
条)等の基本的人権を不当に制限するものである。
2.団体の存続・発展・再建に直接資する行為の無限定
団体の存続・発展・再建をはかる意図の有無は外形からは判明し難い。団体 の存続等を図る目的の存否は、個人の意志だけでなく、信者たちが働きかけた外
部の人間の認識等をも調査しなければ分からないものである。信者たちが接触し た人間は監視され、調べをうけることとなる。こうして基本的人権の不当な制限
は信者たちのみにとどまらない。信者たちや信者だった人たちが社会復帰すれば するほど、彼らは多数の一般国民と日常的に接触して多数の行為をすることにな
る。こうして、捜査当局は、信者たちと日常的に接触する膨大な数の一般国民を も監視し、捜査する。一般国民も「団体のためにする行為」の身分なき共犯とし
て処罰されることがあり得るから、警察はその意味でも捜査の対象とするであろ う。
四 小括
このように、破防法の解散指定は、警察や公安調査庁が常時国民を監視・調 査・捜査する警察国家体制につながるものであり、広範な国民の基本的人権を不
当に制限することになり、国民に重大な被害と混乱をもたらすものである。
以上のように、解散指定による破防法八条・四二条の発動が国民の基本的人
権を不当に制限することは明らかであるから、解散指定の請求は、憲法三一条、 一九条、二〇条、二一条等に違反するものとして却下すべきものと考える。また
、破防法三条一項違反という点でも却下さるべきものである。
貴委員会が、憲法を厳守し、予断にとらわれない公正な判断と適正な審理を
されて、本処分請求を却下することを強く求めるものです。
一九九六年九月一一日
自 由 法 曹 団
公安審査委員会
委員長 堀 田 勝 二 殿
委 員 柳 瀬 隆 次 殿
同 中 谷 瑾 子 殿
同 山 崎 敏 夫 殿
同 青 井 舒 一 殿
同
山 崎 恵美子 殿
同 鮫 島 啓 治 殿
〒一一二
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