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<< その3

逐条解説・米軍用地特措法改正案 その4

第三 附 則
1項 この法律は、公布の日から施行する。
 即日施行を定める。そもそも即日施行それ自体が異例である。法律は別段の定めのない限り公布の日から起算してて満二〇日を経て施行する(法例一条)としており、これが原則なのである。ところが、今回の改正案は、即日施行するとしており、政府が本改正を急ぎに急いでいることを如実に示している。
2項 この法律による改正後の日本国とアメリカ合衆国との間に相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法(以下「新法」という)第一五条から第一七条までの規定は、この法律の施行の日(以下「施行日」という)前において、日本国に駐留するアメリカ合衆国の軍隊(以下「駐留軍」という)の用に供するため所有者若しくは関係人との合意又はこの法律による改正前の日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法(以下「旧法」という)の規定により使用されている土地等で引き続き駐留軍の用に供するためその使用について旧法第五条の規定による認定があったものについて、防衛施設局長がその使用期間の末日以前に旧法第一四条の規定により適用される土地収用法(昭和二六年法律第二一九号)第三九条第一項の規定による裁決の申請及び旧法第一四条の規定により適用される土地収用法第四七条の二第三項の規定による明渡裁決の申立てをしていた場合についても適用するものとする。この場合において、施行日においてその従前の使用期間が満了しているにかかわらず必要な権利を取得するための手続が完了していない土地等の暫定使用については、新法第一五条第一項中「当該使用期間の末日以前」とあるのは「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用に関する特別措置法の一部を改正する法律(平成九年法律第 号)の施行の日前」と、「当該使用期間の末日の翌日」とあるのは「当該担保を提供した日の翌日」とする。
一 経過規定
 本改正法(新法)が遡及効を有すること、過去へさかのぼって適用することを定める。
 本法律は公布と同時に施行されるのであるが、今回問題となっている楚辺通信所及びその他一二施設についての強制使用手続は旧法(現行特措法)のもとで開始されており、新法(改正法)が成立したとしても、当然には新法の規律するところとはならず、旧法によることとなる。
 このことを国は十分認識しているからこそ、附則の2項以下で経過規定を置き、施行以前に公開審理が始まっており、五月一四日の期限切れが目前に迫っている嘉手納飛行場等の一二施設、そればかりか既に期限が切れている楚辺通信所(象のオリ)内の知花昌一氏所有の土地についても暫定使用を認めるために附則2項以下の経過規定をおいている。
 ところで、このような経過規定による遡及適用がみとめられるかは大きな問題である。法律は、過去にさかのぼらないのが原則だからである。すべての法規は将来の行為のみ規律することができるのであって、過去の行為を規律すべき性質のものでないことは、法律の世界では常識である。これを(行政法規の)不遡及の原則という。
 この点について行政法学者で元最高裁判事の田中二郎氏は、「行政法規の遡及的適用を認めることは、一般的には、法治主義の原理に反し、個人の権利・自由に不当の侵害を加え、法律生活の安定を脅かすことになるのであって、これを一般的に是認することはできない。従って、それは、そうしたことの予測可能性を前提とし、しかも、個人の権利・自由の合理的保障の要求と実質的に調和しうる限りにおいてのみ許される」と述べている(法律学全集6「行政法総論」一六四頁有斐閣)。
 尚、田中氏は「行政手続法については(不遡及の原則は)適用がない」とされているが、本特措法の問題は、地主の権利剥奪・制限という実体法に関するものであり、当然に不遡及原則が適用される。
二 要 件
 暫定使用の要件は、@認定土地等であること、A施行日前に、内閣総理大臣の使用認定があること、B期限切れ以前に裁決申請等がなされていること、C施行日前に権利取得の手続が完了していないこと―読み替え規定により、「使用期間の末日以前」が「新法の施行の日前」とされる―である(担保提供はもちろん必要となる)。
 「施行日前」であっても、使用認定さえなされておれば、暫定使用が認められてしまうのである。
三 効 果
 暫定使用の期間は、これも読み替え規定により(「使用期間の末日の翌日」が「担保を提供した日の翌日」となる)、担保提供の日の翌日から明渡裁決で定められる明渡の期限までの期間となる。
 その結果、楚辺通信所については、明渡期限以降の「強制使用」期間、本法律の施行と担保提供から明渡期限までの「暫定使用」期間、それに昨年三月三一日までの「契約による使用」期間の他に、「不法占拠」の期間、昨年四月一日から担保提供までの期間が生まれてしまうのである。この期間を国はどのように説明しようとしているのであろうか。「必ずしも違法とはいえない」(梶山官房長官)期間とでも呼ぶのであろうか。右の事態を図示すると次の通りとなる。

           楚辺通信所              楚辺通信所以外
           契約による使用            強 制 使 用
              4/1■  (終了)            │
                │                   │
                │ 不 法 占 拠           │
             施 行 │              施  行│
                │                  │
                 │ ■ (担保提供)     5/15 ■(期限切れ)
                │                 │
                │ 暫 定 使 用           │ 暫 定 使 用
                │                 │
                ■ (明渡期限)            ■(明渡期限)
                │                 │
                │ 強 制 使 用          │ 強 制 使 用
                │                 │

3項 防衛施設局長は、前項後段に規定する土地等の暫定使用を開始した場合においては、その従前の使用期間の末日の翌日から暫定使用を開始した日の前日までの間の当該土地等の使用によってその所有者及び関係人(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法第一四条の規定により適用される土地収用法第八条第三項に規定する関係人をいう)が通常受ける損失を補償するものとする。
 前項で説明したように、楚辺通信所については、どうしても「不法占拠」期間(「必ずしも違法とはいえない」期間?)が生まれてしまう。そこでその期間の補償を定めたのが、本条である。
 ところで、損失「補償」と損害「賠償」ではその法律的意味は全く異なる。損失補償は行政行為の適法性を前提に受けた損失を補填するものであるが、損害賠償は行政行為の違法を前提に被害を受けたものの損害を償うのである。暫定使用期間については、暫定期間なる制度を導入することそれ自体きわめて不当なことであるが、法律が認めたという限りにおいて適法であり、被害を受けるものに対する補填は、損失補償となる。ところが、契約による使用でもない、強制使用でもない、さらには暫定使用でもない、不法占拠あるいは違法な占有に他ならない右期間についても、適法行為を前提とする「損失補償」としていることは厳しく批判されなければならない。
4項 前項の規定による損失の補償については、防衛施設局長と損失を受けた者とが協議しなければならない。ただし、協議をすることができないときは、この限りでない。
5項 前項本文の規定による協議が成立しないとき、又は同項ただし書に規定する場合に該当するときは、防衛施設局長又は損失を受けた者は、政令で定めるところにより、収用委員会に土地収用法第九四条第二項の規定による裁決を申請することができる。
 不法占拠期間の「損失補償」についての協議義務及び協議できない、あるいは、協議が成立しない場合の裁決申請について定める。
 そもそも不法占拠によって被害を受けている者に、加害者と協議を義務付けるなどという条項は、非常識きわまりない規定である。