新ガイドライン関連法案の問題点を解明!

周辺事態法案〜逐条解説

【含・解説−自衛隊法「改正」案、ACSA「改定」案】
1998年
自 由 法 曹 団

はじめに

 98年4月28日、政府は、新ガイドラインを実施するための周辺事態法案(「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」案)及び自衛隊法「改正」案を閣議決定し、国会に提出した。また、周辺事態に適用できるようにACSA(「物品役務相互提供協定」)を「改定」することを決定して両国政府で同日署名し、4月30日には、協定「改定」の承認を求める案件を国会に提出した。
 新ガイドラインは、21世紀に向けて日米同盟を再編・強化するためのものであり、英字新聞で「ウォーマニュアル」と表現されたことに端的に示されているように、アメリカの戦争に日本が自動的に参戦し、日米共同の指揮命令・調整系統のもとに戦争を遂行できる計画を具体化しようとするものである。アメリカ外交問題評議会の研究グループの報告でも、日本の自衛隊が、さまざまなアジアの地域的緊急事態を巡って、米国の軍事活動に計画段階から、「除外される」のではなく「想定される」のを可能にするような明確な防衛協力関係への関与が要求されている(「日米安全保障同盟への提言」98年5月号「論座」)。
 このような新ガイドラインを具体化するために、国会に提出されたこれらの法案等には、次のような特徴を指摘できる。
 第一に、日本が参戦する場合を「周辺事態」(「我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」・1条)という無限定なものとしているが、これは、侵略戦争や軍事介入などアメリカの行うどのような戦争も含むものである。PKO法により自衛隊が海外に派兵されている事態をさらに大幅に拡大することになる。
 第二に、後方地域支援活動などアメリカの戦闘行為と一体となった軍事活動を行うのみならず、日本の自衛隊が海外や他国の領域で武力による威嚇や武力行使、具体的な戦闘行為をする法的根拠を与えようとするものである(3条、5条〜7条、11条等)。
 第三に、「周辺事態」に対応するために、国の各機関はもとより、自治体・民間の協力を義務づけ、国民・労働者を動員するものである(8条・9条)。
 第四に、アメリカの判断で「周辺事態」とされると、平時からの日米共同の協議により策定される基本計画を内閣が決定して国会の承認なしに実施していくものであり、国会には事後報告でたりるとするものである(2条・4条・10条)。
これは、戦後、日本国憲法のもとで築いてきた国家・統治機構のあり方を根底から破壊しようとするものに他ならない。憲法の平和及び民主主義の原則からは、まったくかけ離れることになる。
 私たち自由法曹団は、法律家の立場から法案の内容を具体的に検討し、その問題点を解明し、国民の前にその危険性を明らかにするものである。
 

[周辺事態法案]

(目的)
第1条
  この法律は、我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に 重要な影響を与える事態(以下「周辺事態」という)に対応して我が国が 実施する措置、その実施の手続きその他の必要な事項を定め、もって我が 国の平和及び安全の確保に資することを目的とする。
 第1条は、周辺事態法の目的を定めている。まず、本法の目的を「周辺事態」の場合に日本が「実施する措置」及び「その実施手続きその他の必要な事項」と定める。そして、この法案の目的が「我が国の平和及び安全の確保に資すること」にあるというのである。

[内容と問題点]

  1. 安保条約の範囲外は明白ー「周辺事態」
     まず、「周辺事態」という概念は、1997年9月23日に日米で新たに合意した「日米防衛協力に関する指針」(新ガイドライン)で、「地理的な概念ではなく、事態の性質に着目したものである」とされており、あえて地理的な限定がされていない。
     「21世紀に向けての同盟」という副題で発表された1996年4月17日の「日米安保共同宣言」で、日米両政府がアジア太平洋地域での平和と安定のために共同でも個別にも努力することを確認しており、この共同宣言にもとづいて、新ガイドラインが策定されたのであるから、「周辺の地域」には、アジア太平洋地域を含むことになるのは当然である。
     このような新ガイドライン及び周辺事態法案の「周辺の地域」の範囲で、日米共同での軍事行動を約すことは、現行安保条約の条項を明白に逸脱する。日米の軍事行動に関して、安保条約は、日本の領海・領空への武力攻撃に対して(日本有事)日米共同で対処するように行動すること(5条)、「日本の安全と極東における国際の平和及び維持に寄与するため」日本が米軍施設・区域を提供すること(6条)を約しているだけでなのある。
     この点に関して、後藤田正晴元副総理ですら「このまま進んでいくと、日米安保の目的と範囲を越えて、在日米軍の行動の範囲そのものが、日本が支援する周辺事態になるのではないか。在日米軍基地は米国の世界戦略の一環として使われ、それに日本が協力するということになる恐れがありはしないか。」と指摘している(98年4月29日付「朝日新聞」)。
     周辺事態が日本に対する武力攻撃の場合(日本有事)以外であるとすれば、周辺事態で日本が参加するのは、日本の防衛と直接関係のないアメリカの戦争や軍事介入に他ならない。現に、米国は、98年2月にも、国連大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)による査察拒否という理由だけで、国連の決議もないままイラクに対する武力行使に踏み切ろうとしたが、個別自衛権及び集団自衛権による武力行使が国連憲章において認められるのは、他国の武力攻撃に対して安保理が措置をとる間の暫定的なものに限定されている。このように国連憲章をも無視する米国の武力攻撃についても、日本が参戦する現実の可能性が存在する。

  2. 戦争参加ー「我が国が実施する措置」
     新ガイドラインでは、40項目にわたって米軍に対する日本の協力事項を定めている。
     周辺事態法案では、後方地域支援活動、捜索・救助、船舶の臨検、その他の必要な措置を定めている。国会に提出されている自衛隊法「改正」案により、在外邦人の救出に関して自衛艦等を派遣しようという。これらをあわせて、40項目の多くを実現しようとしている。
     その内容は、アメリカ軍の戦闘行為に欠かせないものばかりであり、戦闘員の捜索・救難、船舶の臨検、食料・燃料などの供給、武器・弾薬や物資の輸送、傷病兵の治療などである。このように米軍の戦闘行為と一体となった活動が「我が国が実施する措置」にほかならない。

     
  3. アメリカの判断で自動参戦ー「実施手続き」
     周辺事態法案は、「周辺事態」の場合の実施措置や手続きを定めるとしているけれども、日本の判断は、アメリカの判断に従うことが想定されている。しかも、実施手続きにおいても、国会の承認が排除されており、この判断をチェックする機能は制度上存在しない。
     在日米軍基地を発進した軍用機や米艦船が湾岸戦争やソマリア作戦、イラク爆撃などに参加した場合でも、事前協議が行われたことは過去に一度もない。日本の態度は、在日米軍の出撃に対して、ノーチェックであり続けた。
     池田行彦外相(当時)は、安保条約上の事前協議制を維持するとしながらも、「周辺事態が予想される場合においていろいろ緊密な日米間の調整が行われる、その過程で情報交換であるとか政策協議なども従来以上に協議していこう、それからまた調整メカニズムをきちんとつくっていこう、こういうことにしております。・・・いろいろな事態に対応するための情報の交換、意思の疎通・・・は従来にも増して緊密にしてまいりますので、事実問題として・・・懸念されましたような事態は回避される」(97年6月16日参院内閣委員会)として、日米間の対応が食い違う可能性を否定している。要は、日本がアメリカの判断に従うことは当然の前提として想定されているのである。そして、日米両政府は、98年に入り、新ガイドラインの実施組織となる「包括メカニズム」を発足させ、新ガイドラインを具体化する作業を着々と進めている。すなわち、自衛隊・在日米軍・米太平洋軍の代表など、日米の制服組による共同調整会議で、共同作戦計画と相互協力計画の策定、参戦準備段階の共通の基準及び実施要項(交戦規則)づくりの作業が進行している。日常的な「調整」を通じて、日本側で「ノー」といえない状況がつくられているのである。

  4. 我が国の平和及び安全の確保に資する」のかーアジアの平和に不安
     すでに明らかにしたように、周辺事態法案は、アメリカの戦争や軍事介入への協力・参加を目的とするものであり、日本有事や日本の防衛とは関係がない。「我が国の平和及び安全」と結びつけようとするのは、そもそも飛躍である。
     しかも、周辺事態法案は、新ガイドラインを具体化し日米安保を質的に拡大・強化するものであるから、アジアの平和と逆行するものであり、結局、日本の平和・安全に役立つものではない。むしろ有害である。
     すなわち、「安定した国際関係をつくるには、まず国民間の信頼、次に経済、技術、教育など非軍事的な協力が必要だ。」「安全保障というといきなり軍事態勢の話になるのがそもそもおかしい。軍事的関係を構築すればするほど、信頼関係は傷つけられる。」(加藤周一氏97年9月26日付「朝日新聞」)。現に、報道関係者の間でも、アジアの中で日本の軍事的な役割が大きくなっていくことに対する不安を指摘する声(韓国・朝鮮日報の記者)や「結果的に、米国の戦争に加担することになる法案の論議があいまいなまま進んでいる感じがする」と批判する声(人民日報の東京支局長)があがっている(98年4月28日付「朝日新聞」夕刊)。
(周辺事態への対応の基本原則)
第2条
 政府は、周辺事態に際して、適切かつ迅速に、後方地域支援、後方地域捜索救助活動、船舶検査活動その他の周辺事態に対応するため必要な措置(以下「対応措置」という)を実施し、我が国の平和及び安全の確保に努めるものとする。
2 対応措置の実施は、武力による威嚇または武力の行使にあたるものであってはならない。
3 内閣総理大臣は、対応措置の実施に当たり、第四条第一項に規定する基本計画に基づいて、内閣を代表して行政各部を指揮監督する。
4 関係行政機関の長は、前条の目的を達成するため、対応措置の実施に関し、相互に協力するものとする。

 第2条は、周辺事態の対応措置について「基本原則」を定めている。「適切かつ迅速」に実施すること、「武力による威嚇または武力の行使にあたるものであってはならないこと」としている。また、内閣総理大臣の直接の指揮監督権限や各大臣等の相互協力を規定している。

[内容と問題点]

  1. 戦争参加と武力行使を定めるー「周辺事態」に対する「対応措置」
     第1条について@で述べたように「周辺事態」というのは、アメリカが行う戦争や軍事介入であり、それに日本が「対応措置」で参加するというのである。
     後方地域支援、後方地域捜索救助活動、船舶検査活動その他の周辺事態に対応するため必要な措置を「対応措置」といっている。
     米軍に対する物品役務の提供など後方地域支援活動については、本法案第5条で具体的に規定しているが、日本は、米軍の戦争と一体をなす活動を行うものである。また、自衛隊による支援を具体化するために、日米の共同訓練やPKO活動、人道的国際救援活動のために締結していた物品役務相互援助協定(ACSA)を周辺事態の場合にも適用できるよう、98年4月28日に日米両政府は同協定を「改定」調印し、4月30日その承認を求めて国会に提出した。
     後方地域捜索救助活動については本法案第6条で、船舶検査活動については本法案第7条で具体的に規定している。
     いずれも、アメリカの戦争に参加・協力する軍事活動に他ならなず、海外での武力行使を拡大強化するものである。

  2. 「我が国の平和と安全の確保」に逆行
     これも第1条Cで指摘したように、アジアの平和と逆行することとなり、「我が国の平和と安全の確保」にとっても、マイナスである。

  3. 「武力による威嚇または武力の行使」を必然的に伴う法案
     本条2項は、「対応措置の実施は、武力による威嚇または武力の行使にあたるものであってはならない。」と定めるものであるが、これは、本法案の他の規定と全く矛盾する。
     本条第1項で指摘したように、「対応措置」は、いずれもアメリカの戦争と一体の行為であり、戦争に参加することになる。とりわけ、船舶の臨検は、それ自体が武力による威嚇そのものである。自衛隊法「改正」案で、在外邦人救出のために自衛隊の艦船・ヘリを海外・他国に派遣するものであるが、速射砲・ミサイル・ヘリ等を装備した艦船の派遣それ自体も、武力による威嚇となるものである。
     さらに、本法案11条は後方地域捜索救助活動や船舶の臨検を実施している自衛隊について、武器の使用を認めている。上記自衛隊法の「改正」案も同様である。これらはいずれも、自衛隊が部隊として組織的に武器を使用すること、すなわち、武力の行使を認めるものである。

  4. 強化される内閣総理大臣の権限
     本条3項は、内閣総理大臣は「基本計画に基づいて、内閣を代表して行政各部を指揮監督する」と定めている。
     内閣法6条は「内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基づいて、行政各部を指揮監督する」と規定している。一般的な内閣総理大臣の権限発動に加えて、基本計画の実施に関して、あえて本項で「指揮監督権限」を明記したのは、内閣総理大臣の権限を強化するものである。内閣総理大臣は、基本計画を実施するための具体的・個別的な事項についてはかなり重要な事項であっても閣議を経ずして、各省大臣に対する指示その他指揮監督をなしうることとなる。そして、周辺事態法案5条〜7条では、防衛庁長官が基本計画に従い実施要項を定め、内閣総理大臣の承認を得て実施を命ずるとされている。
     本条4項は、関係行政機関の長、すなわち各大臣は、本法案の目的を達成するため、対応措置の実施に関し、相互に協力することを定めている。このような協力をあえて強調するのは、米軍支援、戦争参加など軍事を優先させ、そのために他の行政機能及び国民生活が犠牲にされる事態を想定しているからに他ならない。各省大臣等に対して、そのことを覚悟した「相互協力」を強調しているのである。

(定義等)
第3条 この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 後方地域支援 周辺事態に際して日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約の目的の達成に寄与する活動を行っているアメリカ合衆国の軍隊(以下「合衆国軍隊」という)に対する物品及び役務の提供、便宜の供与その他の支援措置であって、後方地域において我が国が実施するものをいう。

二 後方地域捜索救助活動 周辺事態において行われた戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷しまたは物を破壊する行為をいう。以下同じ)によって遭難した戦闘参加者について、その捜索または救助を行う活動(救助した者の輸送を含む)であって、後方地域において我が国が実施するものをいう。

三 船舶検査活動 周辺事態に際し、国際連合安全保障理事会の決議に基づく貿易その他の経済活動に係る規制措置の厳格な実施を確保するために必要な措置を執ることを要請する国際連合安全保障理事会の決議に基づき、船舶(軍艦及び各国政府が所有しまたは運航する船舶であって非商業的目的のみに使用されるもの(以下「軍艦等」という)を除く)の積み荷及び目的地を検査し、確認する活動ならびに必要に応じ当該船舶の航路または目的港もしくは目的地の変更を要請する活動であって、我が国領海または我が国周辺の公海において我が国が実施するものをいう。

四 後方地域 我が国領域並びに現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる我が国周辺の公海及びその上空の範囲をいう。

五 関係行政機関 国家行政組織法(昭和23年法律第120号)第3条第2項に規定する国の行政機関及び同法第8条の3に規定する特別の機関で、政令で定めるものをいう。

2 後方地域支援として行う自衛隊に属する物品の提供及び自衛隊による役務の提供(次項後段に規定するものを除く)は、別表第一に掲げるものとする。

3 後方地域捜索救助活動及び船舶検査活動は、自衛隊の部隊等(自衛隊法(昭和29年法律第165号)第8条に規定する部隊等をいう。以下同じ)が実施するものとする。
 この場合において、後方地域捜索救助活動または船舶検査活動を行う自衛隊の部隊等において、その実施に伴い、それぞれ当該活動に相当する活動を行う合衆国軍隊の部隊に対して後方地域支援として行う自衛隊に属する物品の提供及び自衛隊による役務の提供は、別表第二に掲げるものとする。

 第3条は、@「後方地域支援」「後方地域捜索救助」「船舶検査活動」「後方地域」「関係行政機関」の定義(以上1項)、A自衛隊が行う「後方地域支援」の内容(以上2項)、B「後方地域捜索救助活動」「船舶検査活動」を行う主体及び捜索救助・船舶検査を行う米軍に対する自衛隊の物品・役務の提供を(以上3項)、定める。

[内容と問題点]

  1. 「後方」という言葉に惑わされてはならない
     「後方」地域支援、「後方」地域捜索救助等々、法案は「後方」という言葉を意図的に用いている。
     本法案において「後方地域」とは、「我が国領域並びに現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる我が国周辺の公海及びその上空の範囲をいう」とされる(3条1項4号)。
     「後方」を強調することにより前線での戦闘行為との関係を希薄化させ、「安全」を強調したいのかもしれない。しかし、前線と後方は密接不可分のものであり、後方での兵站活動がなくして戦闘行為は成り立ちえない。私たちは、「後方」という言葉に惑わされることなく、本法が定める危険な内容を冷静に見極めなければならない。

  2. 線引きできない「後方地域」
     新ガイドラインや周辺事態法の大綱では「戦闘行動が行われている地域とは一線を画される日本周辺の公海及びその上空」という表現が使われていたものが、法案では上記の表現となっている。
     航空機や長距離ミサイルを考えた場合、戦闘行動の行われている地域とそうでない地域と明確に一線を画すことが可能かは極めて疑問である。現に、自衛隊の幹部も、「今の兵器は長射程で、戦闘場面でないところまで飛んでくる場合もある」(山本安正海上幕僚長)と戦闘地域との線引きが困難であることを指摘している(98年4月11日付「朝日新聞」)。
     また、そもそも戦闘行動の行われている前線と兵站活動を行う後方とが一体となって軍事行動が行われるのである。米軍のために自衛隊が情報を提供し、燃料や食料を補給し、武器や弾薬を輸送するのであるから、攻撃を受けている側からするならば、米軍に協力する自衛隊の行動は明らかな敵対行動であり、「戦闘地域とは一線を画している」地域での活動だからとの弁解は相手方には通用しない。
     さらに、法案では、「戦闘行為とは一線を画される」という表現は姿を消し、「戦闘行為が行われることがないと認められる地域」との表現に変わった。安全な地域での活動であることをアピールする意図と思われるが、戦闘行動は地理的・時間的に極めて流動的であり、現在は戦闘地域ではないとしても、いつ何時、戦闘機やミサイルが飛来して戦闘地域に変化するかは全く不確定であり、右定義によっても「後方地域」を確定することはほとんど不可能である。

  3. 米軍と一体となった海外軍事行動を意味する、「後方地域支援」等
     「後方地域支援」は、周辺事態に際しての、米軍に対する物品・役務の提供、便宜供与等の支援措置であり、「後方地域捜索救助活動」が、周辺事態での戦闘行為によって遭難した米兵の捜索・救助活動であり、「船舶検査活動」は、周辺事態に際しての、国連安保理の決議に基づく臨検である。
     「周辺事態」というものが、何らの基準もない曖昧な概念であることやその実質的判断が米軍に白紙委任されていることは既述した。また、支援措置等の具体的内容は、後述する。ここでは、「後方地域支援」や「後方地域捜索救助活動」等が、海外、とりわけアジアでの米軍の軍事行動への加担であることを明確にしておきたい。
     3条1項1号は、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約の目的の達成に寄与する活動を行っている(米軍)」に対する支援措置としている。法案は、これによって支援措置等の正当性を基礎づけようとしている。
     しかし、はたして、そうなのだろうか。はるばる太平洋を越えてきた米軍がアジアにおいて戦闘行動を行うことは、いかなる根拠によって認められるのだろうか。なぜ、アメリカはアジアの紛争に介入できるのか。他国に武力を持って侵入することを侵略というのであり、アメリカ軍からの武力攻撃は、何らの正当性をももちえない。敵対国にとって、米軍の行動は常に侵略とうつるのであり、その米軍を日本の自衛隊が支援(後方での物品・役務の提供、捜索救助活動や臨検)しようというのである。侵略行為の加担者とみなされてもやむを得ないのである。

  4. 日本の領域外での軍事行動を容認
     自衛隊の米軍に対する支援行動を行う場所(実施区域)について、法案は次のように定めている。
     「後方地域支援」は、後方地域(別表一の備考三によれば、輸送以外の6項目は我が国の領域内において、輸送については、現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる我が国周辺の公海及びその上空においても行いうる。)において実施される(1項1号)。これに対し、「後方地域捜索救助活動」は、後方地域に加え、他国の領域内においても実施できるとされている(1項2号)。また、「船舶検査活動」は、我が国領海または我が国周辺の公海において実施するとしており(1項3号)、実施区域についての、「現に戦闘行為が行われておらず」かつ「戦闘行為が行われることがないと認められる」との要件ははずされている。

  5. 3条2項は、「後方地域支援」活動を定める。
     後方支援は、自衛隊の所有する、したがって、日本国民の財産である物品の提供、および、自衛隊による役務、すなわち、労働力の提供である。その具体的内容は別表1に定められており、@補給、A輸送、B修理及び整備、C医療、D通信、E空港及び港湾業務、F基地業務の7項目が定められている。
     法案は、備考の一において、提供する物品から、武器・弾薬を除外しており、自衛隊の保有する武器・弾薬は米軍に対して提供されないことになっている。しかし、はたしてこの原則が貫かれるか、軍事的合理性からは、米本国からの武器・弾薬の補給が遅れた場合において、近傍に所在する自衛隊が当該武器・弾薬を有するとき、米軍からの提供要求を拒否できるか、間接的提供や何らかの便法(脱法的行為)を用いる危険がある。
     仮に、直接の武器・弾薬の提供がないとしても、米軍の保有する武器・弾薬の輸送については、自衛隊の任務とされており(別表一の「輸送」については、武器・弾薬は除外されていない。)、水や食料、燃料ばかりでなく、武器・弾薬という戦闘行為に直結する物品の輸送を自衛隊が担うこととなっている。これは自衛隊の輸送した武器・弾薬によって、アジアの紛争地域の民衆に対する武力攻撃が行われることを意味する。戦闘地域と後方地域とが離れているとの弁解は、攻撃を受けた相手側にとっては、何らの説得力も有しない。
     また、備考の二は、物品及び役務の提供には、戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備を含まないものとする。しかし、政府は、そのような状況の下でも、戦闘機本体への給油は禁止されるが、基地内の燃料タンクへの給油は禁止されないとしており、ほとんど規制の意味を有しない。

  6. 3条3項は、「後方地域捜索救助活動」と「船舶検査活動」は自衛隊が行うこと、および、捜索救助・船舶検査活動を行っている米軍に対する物品・役務の提供内容を定める。
     「後方地域捜索救助活動」や「船舶検査活動」が、戦闘行為の相手国からは、米軍の行為に加担する行動とみなされること及び容易に直接的戦闘行為に発展する危険のあることについては、後に(6、7条)詳しく述べる。ここでは、「後方地域捜索救助活動」「船舶検査活動」を行う米軍に対する自衛隊の物品・役務の提供の問題点を指摘する。
     3項後段は、「後方地域捜索救助活動または船舶検査活動を行う自衛隊の部隊等において、その実施に伴い、それぞれ当該活動に相当する活動を行う合衆国軍隊の部隊に対して後方地域支援として行う自衛隊に属する物品の提供及び自衛隊による役務の提供は、別表第二に掲げるものとする。」としている。
     自衛隊と共同して一体となりつつ、同様に「後方地域捜索救助活動」「船舶検査活動」を行う米軍の存在が予定されている。前線は米軍、捜索救助・臨検は自衛隊という役割分担ではなく、米軍と自衛隊が同時に共同して一体となりつつ右活動を行うことが想定されている。その場合、全く別々の行動を行動をとるとは考えにくく、共同しての行動、統一した指揮命令・調整下での行動となることが予測される。その場合は、日米一体となった作戦行動と戦闘相手国からみなされてもやむを得ないこととなる。
     また、捜索救助・臨検に従事する米軍に対して提供する物品・役務は、@補給、A輸送、B修理・整備、C医療、D通信、E宿泊、F消毒の7事項である(別表二)。これらの支援活動は、2項の後方地域支援とは区別された、自衛隊の行う捜索救助・臨検の「実施に伴」う活動として定められている。その結果、後方地域支援とは異なり、補給・輸送・修理等は、我が国領域内ばかりではなく、我が国周辺の公海上、場合によっては他国の領域内においても行いうることになっている。(別表二には別表一の備考三の制限は加えられていない。)捜索救助・臨検中の米軍が、自衛隊の補給・輸送等を受けた直後に、直接の戦闘行為に参加する危険は大いにある。

(基本計画)
第4条 内閣総理大臣は、周辺事態に際して次に掲げる措置のいずれかを実施することが必要であると認めるときは、当該措置を実施すること及び対応措置に関する基本計画(以下「基本計画」という)の案につき閣議の決定を求めなければならない。
一 前条第2項の後方地域支援
二 前号に掲げるもののほか、関係行政機関が後方地域支援として実施する措置であって特に内閣が関与することにより総合的かつ効果的に実施する必要があるもの
三 後方地域捜索救助活動
四 船舶検査活動
2 基本計画に定める事項は、次のとおりとする。
一 対応措置に関する基本方針
二 前項第一号または第二号に掲げる後方地域支援を実施する場合における次に掲げる事項
  イ 当該後方地域支援に係る基本的事項
  ロ 当該後方地域支援の種類及び内容
  ハ 当該後方地域支援を実施する区域の範囲及び当該区域の指定に関する事項
  ニ その他当該後方地域支援の実施に関する重要事項
三 後方地域捜索救助活動を実施する場合における次に掲げる事項
  イ 当該後方地域捜索救助活動に係る基本的事項
  ロ 当該後方地域捜索救助活動を実施する区域の範囲及び当該区域の指定に関する事項
  ハ 当該後方地域捜索救助活動の実施に伴う前条第3項後段の後方地域支援の実施に関する重要事項(当該後方地域支援を実施する区域の範囲及び当該区域の指定に関する事項を含む)
  ニ その他当該後方地域捜索救助活動の実施に関する重要事項
四 船舶検査活動を実施する場合における次に掲げる事項
  イ 当該船舶検査活動に係る基本的事項
  ロ 当該船舶検査活動を行う自衛隊の部隊等の規模及び構成
  ハ 当該船舶検査活動を実施する区域の範囲及び当該区域の指定に関する事項
  ニ 第3条第1項第三号に規定する規制措置の対象物品の範囲
  ホ 当該船舶検査活動の実施に伴う前条第3項後段の後方地域支援の実施に関する重要事項(当該後方地域支援を実施する区域の範囲及び当該区域の指定に関する事項を含む)
  ヘ その他当該船舶検査活動の実施に関する重要事項
五 前三号に掲げるもののほか、自衛隊が実施する対応措置のうち重要なものの種類及び内容並びにその実施に関する重要事項
六 第二号から前号までに掲げるもののほか、関係行政機関が実施する対応措置のうち特に内閣が関与することにより総合的かつ効果的に実施する必要があるものの実施に関する重要事項
七 対応措置の実施について地方公共団体その他の国以外の者に対して協力を求めまたは協力を依頼する場合におけるその協力の種類及び内容並びにその協力に関する重要事項
八 対応措置の実施のための関係行政機関の連絡調整に関する事項
3 第1項の規定は、基本計画の変更について準用する。

 第4条は、周辺事態に際して、我が国がとる対応措置及び対応措置に関する基本計画について定める。

[内容と問題点]

  1. 本条第1項は、周辺事態に際して、「後方地域支援」「関係行政機関のとる後方地域支援で内閣の関与するもの」「後方地域捜索救助活動」「船舶検査活動」の実施、および、各措置に関する「基本計画」について、内閣総理大臣が提案し、内閣が閣議で決定するとしている。
     この基本計画は、後に詳しく述べるように、「遅滞なく、国会に報告しなければならない」とされるだけで、国会の承認は、事前にも事後にもいっさい要しないとされている(10条)。

  2. 本条第2項は、基本計画に盛り込むべき事項を定める。
     一 各対応措置に関する基本方針
     二 後方地域支援(基本的事項、支援の種類・内容、実施区域、その他重要事項)
     三 後方地域捜索救助活動(基本的事項、実施区域、実施に伴う支援に関する重要事項、その他重要事項)
     四 船舶検査活動(基本的事項、実施部隊等の規模・構成、実施区域、規制対象品の範囲、実施に伴う支援に関する重要事項、その他重要事項)
     五・六 二〜四以外の対応措置のうち重要なものの種類・内容、その実施に関する重要事項
     七 地方公共団体等に求める協力の種類・内容、協力に関する重要事項
     八 関係行政機関の連絡調整に関する事項
     以上が基本計画で定めるべき事項であるが、これらの事項は極めて概括的である。軍事的合理性の観点からは、議論の多い合議体である閣議の付議事項は極力少なくしようとする傾向に流れるものであり、また、事後とはいえ国会への報告対象となる事項は、秘密保持の観点からはやはりできるだけ限定しようとする傾向になることは避けられない。基本計画事項は極めて抽象的・概括的にしか定められてはおらず、その実施の細目(実施要項)の作成は、防衛庁長官の権限に大幅にゆだねられる結果となっている(5条、6条、7条)。
     しかし、「基本計画」の所定事項は、国家・国民の命運を左右するべき内容にわたる。いわば、軍の作戦計画と国内の総動員計画との双方を併有する重大なものである。それは、例えば、台湾事態、朝鮮事態、ペルシャ湾事態、インドネシア事態というように、事態(事件)に応じて策定されるものであり、「共同作戦計画」「相互協力計画」という日米共同作戦の国内版である。これを国会、国民に同意を求めることなく、内閣限りで決しようとすることは、言語道断の暴挙と言わなければならない。
(自衛隊による後方地域支援としての物品及び役務の提供の実施)
第5条
 内閣総理大臣またはその委任を受けた者は、基本計画に従い、第33条第2項の後方地域支援としての自衛隊に属する物品の提供を実施するものとする。

2 防衛庁長官は、基本計画に従い、第3条第2項の後方地域支援としての自衛隊による役務の提供について、実施要項を定め、これについて内閣総理大臣の承諾を得て、防衛庁本庁の機関または自衛隊の部隊等にその実施を命ずるものとする。

3 防衛庁長官は、前項の実施要項において、当該後方地域支援を実施する区域(以下この条において「実施区域」という)を指定するものとする。

4 防衛庁長官は、実施区域の全部または一部がこの法律または基本計画にに定められた要件を満たさないものとなった場合には、速やかに、その指定を変更し、またはそこで実施されている活動の中断を命じなければならない。

5 第3条第2項の後方地域支援のうち公海またはその上空における輸送の実施を命ぜられた自衛隊の部隊等の長またはその指定する者は、当該輸送を実施している場所の近傍において、戦闘行為が行われるに至った場合または付近の状況等に照らして戦闘行為が行われることが予測される場合には、当該輸送の実施を一時休止するなどして当該戦闘行為による危険を回避しつつ、前項の規定による措置を待つものとする。 

6 第2項の規定は、同項の実施要項の変更(第4項の規定により実施区域を縮小する変更を除く)について準用する。

 第5条は、自衛隊による米軍に対する後方地域支援について定めている(なお、後方地域支援には、自衛隊以外の関係行政機関(たとえば運輸省等)が実施する後方地域支援もある)。
 自衛隊の米軍に対する後方地域支援としての物品役務の提供の内容は、別表第一に定めてあるが、・補給、・輸送、・修理及び整備、・医療、・通信、・空港及び港湾業務、・基地業務の七つである。

[内容と問題点]

  1. 「後方地域支援」は明確な参戦行為

     アメリカが軍事行動を開始した場合に自衛隊がおこなう、補給、輸送などの後方地域支援活動は、明確な参戦行為であり、日本を参戦国の立場にたたせる行為である。
     別表第一の「備考」には、「物品及び役務の提供は、公海及びその上空で行われる輸送(傷病者の輸送中に行われる医療を含む)を除き、我が国領域において行われるものとする。」と定めてあるが、いかに日本領域内でおこなわれようとも、補給(戦闘機や爆撃機用の燃料などの補給)、修理及び整備(戦闘機や空母や戦車などの修理及び整備、修理及び整備に必要な部品、構成品の提供)、医療(米軍人の治療など)、通信(日本国内にある米軍基地間や米軍基地とアメリカ本土間などの通信のための設備、機器の提供など)、空港及び港湾業務(米軍の武器や戦争物資を運ぶ航空機の離発着や船舶の出入港に対する支援、米軍の武器や戦争物資の荷揚げ、積出し業務など)、基地業務(米軍基地の維持、整備業務)が、米軍支援の典型的な参戦行為の事例であることは極めて明白である。
     別表第一の「備考」には、「物品の提供には、武器(弾薬を含む)の提供を含まないものとする。」、「物品及び役務の提供には、戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備を含まないものとする。」と定めてあるが、戦闘機や空母や戦車などの武器の部品、構成品の提供、米軍の貯油施設への給油、帰還してきた戦闘機の整備などは当然になすべきとされており、上記の「備考」の定めは、参戦行為への歯止めにまったくならない。

  2. 輸送は、公海上の米空母、巡洋艦、駆逐艦などへの米軍人、武器・弾薬の輸送まで予定しており、参戦行為であることはとりわけ明白である。1909年署名の「海戦法規に関する宣言」(「ロンドン宣言」)は、武器・弾薬を交戦国に輸送する船舶は公海上でも拿捕の対象になると定めている。
     西広整輝元防衛事務次官(故人)も、「輸送とか通信というのは、前線で戦う歩兵より重要なくらいで、医療だって戦争行為の外側とはみなされない」(「文芸春秋」90年10月号)と述べている。

  3. 実施区域を縮小しても参戦行為
     本条第5項では、「当該輸送(公海またはその上空における輸送)を実施している場所の近傍において、戦闘行為が行われるに至った場合または付近の状況等に照らして戦闘行為が行われることが予測される場合には、当該輸送の実施を一時休止するなどして当該戦闘行為による危険を回避しつつ、前項の規定による措置(実施区域の変更措置)を待つものとする」と定めている。
     政府は、同規定によって、自衛隊が戦闘行為に巻き込まれることを避けられるので、自衛隊による米軍支援のための輸送が参戦行為にならないと言いたいのであろう。
     しかし、公海上での米軍人や武器・弾薬の輸送が明白な参戦行為であることは、ロンドン宣言に照らしても明らかである。逆に右規定は、自衛隊による米軍支援のための輸送が、直接の戦闘行為に巻き込まれる危険を含んだ行為であることを示している。

(後方地域捜索救助活動の実施等)
第6条
 防衛庁長官は、基本計画に従い、後方地域捜索救助活動について、実施要項を定め、これについて内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊等にその実施を命ずるものとする。

2 防衛庁長官は、前項の実施要項において、当該後方地域捜索救助活動を実施する区域(以下この条において「実施区域」という)を指定するものとする。

3 後方地域捜索救助活動を実施する場合において、戦闘参加者以外の遭難者が在るときは、これを救助するものとする。

4 後方地域捜索救助活動を実施する場合において、実施区域に隣接する外国の領海に在る遭難者を認めたときは、当該外国の同意を得て、当該遭難者の救助を行うことができる。ただし、当該海域において、現に戦闘行為が行われておらず、かつ、当該活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる場合に限る。

5 前条第四項の規定は実施区域の指定の変更及び活動の中断について、同条第五項の規定は後方地域捜索救助活動の実施を命ぜられた自衛隊の部隊等の長またはその指定する者について準用する。

6 第1項の規定は、同項の実施要項の変更(前項において準用する前条第4項の規定により実施区域を縮小する変更を除く)について準用する。

7 前条の規定は、後方地域捜索救助活動の実施に伴う第3条第3項後段の後方地域支援について準用する。


 第6条は、防衛庁長官が、政府の作成した基本計画に従って、「後方地域捜索救助活動」の実施要項を定め、首相の承認を得て自衛隊にその実施を求めることを定めた規定である。実施要項を定める際には、「後方地域捜索救助活動」を実施する区域(実施区域)を指定するものとされている(第1項)。その内容、実施・変更などに関する規定である。

[内容と問題点]

  1. 戦闘員の「捜索・救助」は明らかな戦闘行為
     「後方地域捜索救助活動」とは、周辺事態における戦闘行為によって遭難した戦闘参加者の捜索・救助・輸送を行う活動で、「我が国領域並びに現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる我が国周辺の公海及びその上空の範囲」(いわゆる「後方地域」)において実施するものとされている(第3条第1項第2号、第4号)。「後方地域捜索救助活動」は、自衛隊の部隊等が行うものとされている(第3条第3項前段)。
     すなわち、「後方地域捜索救助活動」は、例えば、戦闘行為中に海上に墜落したり行方不明になった米兵を自衛隊が捜索し、救助する活動である。自衛隊によって救助された米兵は、再び戦闘員として戦闘に赴くことになるのであるから、戦闘の相手国からみれば、自衛隊の行動は戦闘行為の一部とみなされることになる。
     戦闘機の事故は、空母からの離発艦の際に起きることが多い。そこで、空母の付近で捜索・救出用の駆逐艦などが待機しているのが通常である。「後方捜索救助活動」の名の下に、自衛艦が米空母を中心とする艦隊にあらかじめ組み込まれて活動することも予想される。にもかかわらず、「弾が飛んでこない場所だから戦争行為ではない」などというのはとうてい通用しない議論である。
     なお、本条第3項は、「後方地域捜索救助活動」を実施する場合に、戦闘参加者以外の遭難者を発見した場合にも、これも救助することを規定している。

  2. 他国領海まで及ぶ限定のない活動範囲ー「後方地域」
     「捜索救助活動」は、「後方地域」で行われるものとされている。
     しかし、空中戦で被弾した戦闘機はその場からできるだけ離れた地点まで逃げてから不時着したりパラシュートで降下することが多い。この場合に、相手国が米戦闘機を追跡してきた場合には、当該米軍機のみならずこれを救出しようとする自衛隊も当然攻撃の対象となる。したがって、「後方地域捜索救助活動」において、「戦闘地域とは一線を画される」地域を設定することにはもともと無理がある。
     そもそも「周辺事態法」では、自衛隊が活動する地域をわが国の領域あるいは公海上に限定しており、防衛庁長官が指定する「実施区域」も「後方捜索救助活動」の「実施地域」もこの範囲で指定されることになっている。
     ところが、第4項は、「実施区域」に隣接する他国の領海内で遭難者を発見した場合に、当該国の「同意」があり、その場所で戦闘行為が行われておらずかつ活動期間中に戦闘行為が行われることがないとみとめられれば、他国の領海内でも「後方地域捜索救助活動」ができるとして、他国領海内での活動を認めている。たとえば、朝鮮半島に米軍が軍事介入したときに、韓国の「同意」を得て、韓国領海内で自衛隊が米兵の捜索・救難を行うというケースが考えられる。
     これは、「周辺事態」法の総則が定める自衛隊の活動範囲の限定さえも逸脱するものである。さらに、「隣接」あるいは「救助の必要性」という名の下に、「基本計画」や「実施要項」による活動地域の「限定」は全く無意味なものになる。しかも、「当該国の同意」の有無を確認すること自体も重大問題である。例えば、「周辺事態」には、当該政府軍と反政府側武装戦闘集団が存在する場合もある。たとえ米国政府と当該国政府が「同意」したとしても、反政府側武装戦闘が同意しないで、自衛隊の捜索・救難活動を妨害・攻撃の対象とする可能性も十分あり得る。

  3. 直接的戦闘行為に発展しかねない「後方地域捜索救助活動」
     本条第5項は、防衛庁長官は、「後方地域捜索救助活動」の「実施区域」が法や基本計画で定める要件を満たさなくなった場合には、区域の指定を変更するか、「後方捜索救助活動」の中断を命じるべきことを規定している(第5条第4項の準用)。また、部隊長等は、「実施区域」で戦闘行為が行われるかそれが予測される場合には、活動を一時休止するなどして防衛庁長官の指示を待つこととされている(第5条第5項の準用)。そして、第6項は実施要項の変更手続について、「実施区域」の範囲の拡大など、実施要項を変更する場合には、防衛庁長官は首相の承認を得てその実施を命ずるという手続を踏むことを定めている。
     しかし、先に指摘したとおり、「後方地域捜索救助活動」を行う自衛隊が米軍の相手国から攻撃を受ける危険性が大であり、この場合には「後方地域」の限定の意味は崩壊する。この場合、法文上は「実施区域」を変更するか、活動を中断することになっている(第5項)。しかし、法案は、他方で、「後方地域捜索救助活動」を行うに際して、自衛隊の武器使用を認めている(第11条第1項)。もし、相手国の攻撃に対して自衛隊が応戦することになれば、戦闘行為に発展することは必至である。
     また、本条第7項では、米軍が「後方地域捜索救助活動」に相当する活動を実施している場合には、日本の自衛隊が米軍に対して、「後方地域支援」として、「補給」、「輸送」、「修理及び整備」、「医療」、「通信」、「宿泊」、「消毒」を行うこと(第3条第3項後段、別表第2)を定めている。自衛隊が米軍とともに「後方地域捜索救助活動」を行うことが当然の前提として予定されているのである。米兵の捜索・救難を行っている最中に、自衛隊だけが「法の要件を満たさない」という理由で、業務を中断しその場から離脱することは、実際には不可能といわざるをえない。
(船舶検査活動の実施等)
第7条 防衛庁長官は、基本計画に従い、船舶検査活動について、実施要項を定め、これについて内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊等にその実施を命ずるものとする。

2 防衛庁長官は、前項の実施要項において、当該船舶検査活動を実施する区域(以下この条において「実施区域」という)を指定するものとする。この場合において、実施区域は、当該船舶検査活動が外国による船舶検査活動に相当する活動と混交して行われることがないよう、かかる活動が実施される区域と明確に区別して指定しなければならない。

3 船舶検査活動の実施は、次に掲げる態様によるものとする。
一 船舶の航行状況を監視すること。
二 航行する船舶に対し、必要に応じて、呼びかけ、信号弾及び照明弾の使用その他の適当な手段(実弾の使用を除く)により自己の存在を示すこと。
三 無線その他の通信手段を用いて、船舶の名称、船籍港、船長の氏名、直前の出発港または出発地、目的港または目的地、積み荷その他の必要な事項を照会すること。
四 船舶(軍艦等を除く。以下この項において同じ)の船長または船長に代わって船舶を指揮する者(以下「船長等」という)に対し当該船舶の停止を求め、船長等の同意を得て、停止した当該船舶に乗船して書類及び積み荷を検査し、確認すること。
五 船舶に第4条第2項第四号ニに規定する対象物品が積載されていないことが確認できない場合において、当該船舶の船長等に対しその航路または目的港若しくは目的地の変更を要請すること。
六 第四号の求めまたは前号の要請に応じない船舶の船長等に対し、これに応じるよう説得を行うこと。
七 前号の説得を行うため必要な限度において、当該船舶に対し、接近、追尾、伴走及び進路前方における待機を行うこと。

4 第5条第4項の規定は、実施区域の指定の変更及び活動の中断について準用する。
6 第5条の規定は、船舶検査活動の実施に伴う第3条第3項後段の後方地域支援に

 第7条は、防衛庁長官が、政府の作成した基本計画に従って、「船舶検査活動」の実施要項を定め、首相の承認を得て自衛隊にその実施を求めることを定めた規定である。実施要項を定める際には、外国が臨検を行う区域とは区別して「船舶検査活動」を実施する区域(実施区域)を指定するものとされている(第1項)。以下、その内容、実施・変更などに関する規定である。

[内容と問題点]

  1. 「船舶検査活動」は武力による威嚇及び武力行使を本質とする活動
     「船舶検査活動」とは、周辺事態に際して、経済制裁等の厳格な実施のために必要な措置を執ることを要請する国連安全保障理事会の決議に基づいて、船舶の積み荷及び目的地を検査し、確認する活動並びに必要に応じ当該船舶の航路または目的港若しくは目的地の変更を要請する活動で、我が国領海または我が国周辺の公海において実施するものとされている(第3条第1項第3号)。また、「船舶検査活動」は、自衛隊の部隊等が行うものとされている(第3条第3項前段)。
     ここでいう「船舶検査活動」とは、いわゆる「臨検」といわれる作戦のことである。臨検とは、一般的に以下のように定義されている。「主として戦時に、船舶や航空機(およびその戴貨)を捕獲するにあたって、捕獲理由の有無を確かめるため士官を派遣してその備付書類を検査すること」であり、「船舶に対する臨検は、交戦国の軍艦・軍用機が公海や交戦国領水で船舶を発見したとき、これに停船を命じたうえで行う」とされ、停船の手段としては、「停戦命令は信号旗や汽笛、または空弾発射をもってするが、必要な場合には船首の前方に実弾を発射する。命令に応じないときは武力をもって強制することができる。停船したときは、その現場で、船舶に臨検士官(および補助員)を派遣して行うのが原則である」といわれている(国際法学会編「国際法辞典」)。
     すなわち、臨検とは、実力によって船舶を停船させることを前提に行われる活動であって、武力による威嚇を伴うものであるのみならず、武力行使あるいは対象船舶からの武力反撃を覚悟しなければできない活動なのである。現に、イラクに対する経済封鎖の際には、米海兵隊の攻撃ヘリが船舶の甲板上に強行着陸して取調を行うという活動も実施されている。
     本条第3項は、「船舶検査活動」の実施態様として、船舶に対する「説得」及び「説得」を行うのに「必要な限度」の活動が規定されている。しかし、そもそも武装した自衛艦が、「自己の存在を示す」ために信号弾や照明弾を発射したり(第二号)、停船及び乗船しての書類・積み荷検査の要請・説得に応ずるよう「接近、追尾、伴走及び進路前方における待機」活動を行う(第七号)ことは、対象船舶からみれば「武力による威嚇」以外の何ものでもない。
     しかも、自衛隊が対象船舶に乗船して職務を行う場合に、「自己または自己と共に当該職務に従事する者の生命または身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる」とされている(第11条第2項)。
     法案の規定及び臨検活動の本質からして、「武力の行使」と「武力による威嚇」を必然的に伴うことになるのであり、これを禁じた日本国憲法9条違反となることは明白である。
     また、法案では、国連安保理の決議を要件としているように見えるが、新「ガイドライン」の本文では、「国際の平和と安定の維持を目的とする経済制裁の実効性を確保するための活動」という形で安保理の決議という限定は付されておらず、アメリカが国連の決議など国際法上の明確な根拠もなく実施する「経済封鎖」のための臨検も否定されていないことに注意を要する。

  2. 自衛隊の活動の限界は不明確
     問題なのは、対象船舶が自衛隊の「要請」や「説得」を拒否して停船しない場合にどうするかということである。この点について、外務省の林条約局長は、「その行動が具体的にどういう活動をし、どこまでのことをやるかということはここでは何も書いておりませんし、それは今後の検討の問題であろう」と答弁していた(1997年6月12日参議院外務委員会)。法案では、「説得を行うため必要な限度において」、「接近、追尾、伴走及び進路前方における待機」を行う旨規定しているが、それ自体、武力による威嚇となることは前述したとおりであるが、ここでいう「必要な限度」の範囲は不明確であるといわざるをえない。
     また、実施区域の拡大など実施要項の変更についても、不明確である。第4項は、活動の中止、変更等について、防衛庁長官は、「後方地域捜索救助活動」の「実施区域」が法律や基本計画で定める要件を満たさなくなった場合には、区域の指定を変更するか、「後方地域捜索救助活動」の中断を命じるべきことを規定している(第5条第4項の準用)。また、第5項は、実施要項の変更等として、「実施区域」の範囲の拡大など、実施要項を変更する場合には、防衛庁長官は首相の承認を得てその実施を命ずるという手続を踏むとしている。しかし、これらの事態は、地域的にも急激な変化を伴う戦闘行為などの実際の動向が先行して、これに追いつけず、的確になされることは考えられない。

  3. 戦闘行為に発展しかねない自衛隊の武器使用
     法案では、対象船舶に乗船して「船舶検査活動」を実施する場合に、「自己または自己と共に当該職務に従事する者の生命または身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる」としている(第11条第2項)。この規定は、「船舶検査活動」に対して相手からの武力反撃があることを前提にしたものであるが、その際に自衛隊が「合理的に必要とされる限度」で武器を使用することを認めれば、本格的な戦闘行為に発展する危険性は大である。また、乗船して職務を遂行する自衛隊員の「防護」を理由に「船舶検査活動」に従事する部隊の装備がエスカレートすることも十分考えられる。
     また、本条第7項は、米軍の臨検活動を実施している場合に、日本の自衛隊が米軍に対して、「後方地域支援」として、「補給」、「輸送」、「修理及び整備」、「医療」、「通信」、「宿泊」、「消毒」を行うこと(第3条第3項後段、別表第2)を定めている。自衛隊が米軍とともに臨検を行うことが予定されているのである。自衛隊だけが「法の要件を満たさない」という理由で、業務を中断しその場から離脱することは、事実上不可能といわざるをえない。
     「自己と共に当該職務に従事する者」とは、自衛隊員のみならず、米軍人、他の国の軍人も含まれることを見落としてはならない。
(関係行政機関による対応措置の実施)
第8条
 前3条に定めるもののほか、防衛庁長官及びその他の関係行政機関の長は、法令及び基本計画に従い、対応措置を実施するものとする。

 第8条は、関係行政機関による対応措置の実施について定めている。

[内容と問題点]

  1. 大幅な白紙委任ー授権法的な条文
     法案では4条において基本計画として後方地域支援などを行うことを規定し、そのうち5条で自衛隊の行う後方地域支援、6条で自衛隊の行う後方地域捜索救助活動、7条で自衛隊の行う臨検について定めている。
     8条では、それ以外にも基本計画で定めた米軍支援を防衛庁と行政全般が行うことを規定したものである。この条文により米軍支援として行われる内容は事実上広範に拡大し、さらに行政全体が動員されることになる。すなわち自衛隊の行う米軍支援は5条から7条の範囲に含まれないものであっても8条を根拠に行える。また、8条は行政の行う米軍支援について何らの限定も加えていないのでいかような動員であっても基本計画で定めさえすればそれが行えることになる。
     すなわち、基本計画にすべての権限を委ねる授権法的な条文である。1938年の国家総動員法で「勅令」に多くの権限を委ねたのと共通の手法が見られる。

  2. 優先される米軍支援
     新ガイドラインでは、包括的なメカニズムの構築をうたい、これは1月20日、コーエン米国防長官が来日したもとで、正式決定された。この主な構成は(1)日米外務・防衛担当閣僚による安全保障協議会(SCC、2プラス2)、(2)自衛隊と米軍による共同計画検討委員会、(3)日本政府17省庁で作る関連法整備検討のための局長等会議である。
     新ガイドラインではこの包括的メカニズムに基づき、「相互協力計画」=周辺事態での日米軍事作戦計画、「共通の実施要領」=作戦、後方支援などそれぞれのケースについての交戦規則、「平素からの調整メカニズム」=「相互協力計画」をスムーズに動かすためのメカニズムであり関係する省庁を巻き込んで平素から確立する、「日米共同調整所」=軍事作戦のための共同司令部。これらの構築をうたっている。
     これらに基づき、防衛庁及びその他の省庁も本法案4条に規定された基本計画にしたがって米軍支援を効率的に行うことが本条で定められているのである。法案2条4項で各省庁は周辺事態に際し相互の協力がうたわれている。また、法案4条2項6号では、各省庁が実施するものでも内閣が関与することで効果的になるものは基本計画に組み込まれる。そして基本計画では関係省庁の連絡調整に関する事項も定められる(4条2項8号)。このように、基本計画で各省庁の動員が定められ、それに基づいて法案8条により各省庁は動員がされることになる。
     しかし、その具体的内容については法案には全く書かれていない。各省庁がどのように動員されるのかは明らかではなく、アメリカの要求によって基本計画が定めた通りにどんな動員も行いうることが宣言されているのである。この点について「ある通産省幹部は防衛庁に『どんな事態で、何がどれだけ必要になるのか』と何度か聞いた。答えは『米国から伝えられていないんです』。どのくらいの燃料が必要になり、どうやって提供するのか省内で検討しようとしたが、結局できなかった。」(98年5月10日付「朝日新聞」)との報道もある。具体的な米軍支援の実行時には行政内部の摩擦などが考えられるが、それを押さえ込んででも米軍支援を効率的に行うための規定でもあると言えよう。
     また、8条では防衛庁長官が対応措置を実施することも定められている。自衛隊は5条による後方地域支援、6条による後方地域捜索救助活動、7条による臨検を行うことが規定されているが、自衛隊が実施する米軍支援はそれだけにとどまらない。新ガイドライン40項目の「運用面における日米協力」の項の警戒監視、機雷除去、海・空域調整(第36から第40項目)は5条から7条に規定されないものである。また、新ガイドライン40項目の「日米両政府が各々主体的に行う活動における協力」の項にも5条から7条に規定されない項目がある。それらについては4条2項5号によって基本計画が定められ、それに基づいて8条により自衛隊が実施をすることになるのである。

  3. 行政を総動員
     行政動員の具体的内容については、新ガイドラインの40項目の内容が検討されるであろう。
     たとえば、補給における給水・食事では農水省・厚生省が、輸送では運輸省が、修理及び整備では通産省が、医療では国立病院の医師、看護婦などの職員の動員で厚生省が、大学病院の動員で文部省が、通信では郵政省が(新ガイドライン40項目の日米両国の関係機関のあいだの通信のための周波数(衛星通信用を含む)の確保など)、空港及び港湾業務では民間空港・港湾のスムーズな協力のために自治体の協力義務に加えて自治省・運輸省(例えば第1種空港の羽田・伊丹、第2種空港のうち自治体管理でないものは運輸大臣管理)が、基地業務での廃棄物の収集および処理では通産省・自治省が、給電では通産省が、消毒では厚生省が、警備などの情報交換の一環としての気象情報では気象庁が、米軍施設・区域の周囲の海域の警戒監視では海上保安庁が、避難民の受入業務では外務省・法務省が、国道の管理は建設省が、燃料提供では通産省が、それぞれ対応措置を取ることになるであろう。

  4. 国家公務員全般が動員
     そして、国家公務員は政府から直接、米軍の後方地域支援などに従事することを命令される立場にあり、支援業務などに従事することを拒否すれば、職務命令違反として懲戒処分の危険にさらされることになる。
     こうして、国家公務員全般が後方支援を義務づけられることになるのである。
(国以外の者による協力等)
第9条
 関係行政機関の長は、法令及び基本計画に従い、地方公共団体の長に対し、その有する権限の行使について必要な協力を求めることができる。
2 前項に定めるもののほか、関係行政機関の長は、法令及び基本計画に従い、国以外の者に対し、必要な協力を依頼することができる。
3 政府は、前二項の規定により協力を求められまたは協力を依頼された国以外の者が、その協力により損失を受けた場合には、その損失に関し、必要な財政上の措置を講ずるものとする。

 第9条は、地方自治体や民間の協力について規定するとともに、受けた犠牲−損失について財政上の対応を定めている。

[内容と問題点]

  1. 地方自治体の協力義務
     本条1項はいわゆる地方自治体の「一般的義務」規定といわれているものである。
     法文の形式としては、各省庁が協力を求めることができると規定されている。しかし、政府は「自治体が(政府の)要請に従わない場合は、違法な状態と言える」(江間内閣安全保障・危機管理室長)との見解を提示している。防衛庁秋山昌広事務次官は4月16日の記者会見で「一般的な義務規定と理解している。合理的な理由があればともかくとして、自治体は(協力要請を)受けてもらうべき立場だ。(拒否する場合は)自治体が合理的な理由を説明する責任を負う」と述べた。
     自治体・国民の反発を恐れて協力を拒んだ場合の「罰則」規定は設けられていない。
     けれども、政府は、右の解釈を前提にして、地方自治体が管理する空港・港湾、病院、道路、救急車を自由に使用したり、地方自治体に米軍の後方地域支援業務などの役務の提供を義務づけようとしている。地方自治体が政府の求めに応じて役務の提供を行なうこととした場合、地方公務員は懲戒処分の脅しをもって米軍の後方地域支援業務などへの従事を強制されることになる。
     また、本法案がいったん通ってしまえば、今後は第二段階として、協力義務を実行あらしめるためとして制裁や罰則が規定されることが予想される。
     政府は、要請拒否によって違法状態になるとするが、それは現行の地方自治法制度、さらには憲法上の地方自治の原則すら無視するものである。
     しかも、具体的な協力内容は一切書かれておらず、基本計画で定めさえすればどんな内容でも協力を求めることができることになる。基本計画に「白紙委任」をさせられた授権法的なものである。「法案は、政府が自治体や民間に求める協力の内容を示していない。このため、在日米軍や自衛隊基地を抱える自治体などから不安の声も上がっている。」(98年4月28日付「読売新聞」)との報道もある。法案では協力の種類、内容、重要事項は基本計画で定めることとするだけで(4条2項7号)、そこには何らの歯止めも自治体の意見聴取の手続もない。基本計画は閣議決定で変更できるから(4条3項)、いったん決められた協力要請がさらに変更になり拡大される危険もある。

  2. 多様な米軍への支援・協力形態と義務づけ
     注意したいのは国民や自治体の反発を考慮して直接米軍への支援を要請するのではない形態の協力要請である。
     その一例として有事版ACSAを利用したものが考えられる。直接日本の港湾・空港で米軍支援を行なうだけではなく、日本の港湾や空港では自衛隊に物品などを補給し、その物品を有事版ACSAによって戦闘行動中の米軍に補給する形態やその変形もありうるであろう。それによって、直接米軍へではなく、自衛隊を通じて米軍へ補給するという外形をとって自治体や国民の反発をかわしながら米軍支援を行なうのである。
     事実上協力を強制するために特別地方交付税や各種補助金など予算配分を通じた締めつけを懸念する向きもあると報じられている(98年4月23日付「朝日新聞」)。
     自治体が協力要請を受け入れた場合、単なる協力だけではなくそれに伴い広範な業務を行なわなければならず、米軍協力そのものが住民の福祉を損ない、またそれに伴う業務のために自治体本来の業務が滞ることによっても住民は不利益を受ける。例えば、空港・港湾の米軍利用を受け入れれば港湾を通じた食料などの輸入がストップしたり一般の航空機の発着ができなくなるなど国民生活に甚大な被害が生じることになる。

  3. 敏感に反応しはじめた自治体
     このような政府の動きに対して全国の自治体で疑念が表明され、抵抗が起こっている。
     98年4月20日には自衛隊・米軍基地所在市町村などで作る全国基地協議会と防衛施設周辺整備全国協議会が政府に対して「住民生活や地域経済活動などに少なからぬ影響を及ぼす可能性がある」として「適切な情報提供に努められるとともに・・・基地所在市町村の意向を十分尊重されるよう要望する。」との要望書を提出した。
     昨年9月米空母インディペンデンスの入港を受け入れた新谷昌明小樽市長は、4月24日「(義務を課すことを)強制とは受け止めてはいない。小樽港を軍港化、準軍港化にはしないという基本線がある。我々の判断を十分尊重してもらいたい。」と述べ、その意思を外務省に伝えたと報じられた(98年4月24日付「朝日新聞」)。  政府も国会答弁では自治体の自主的判断と答えている。4月21日、運輸省の土井勝二運輸政策局長は「今回検討中の法案での協力については、強制する手段はもうけないと聞いている。地方公共団体がそれぞれの判断で国の協力に応じることを期待するが、あくまで自治体の自主的判断だ。民間についても協力は任意だ。」と答弁した(98年4月22日付「しんぶん赤旗」)。
     また、上杉自治大臣は5月10日、自治体に求められる対米支援について「その時々の局面にもよるだろうが、地方は当然断ることもできるという範囲内で、法律案は協力を求めているものと理解している」と語った(98年5月11日付「朝日新聞」)。
     地方交付税や補助金を通じた締めつけなどは許されない。それは、「地方交付税の交付の基準の設定を通じて地方行政の計画的な運営を保障することによって、地方自治の本旨の実現に寄与するとともに、地方団体の独立性を強化する」という地方交付税法1条の本来の目的に反するものである。

  4. 民間の「協力」
     本条2項は、いわゆる民間への協力規定である。「国以外の者」とは、民間企業などの法人および国民個々人がその中心となるであろう。
     法文上の形式としては、協力依頼の形が取られている。民間に対しては義務ではなく「お願い」であると報じられており(98年4月28日付「朝日新聞」)、法文上も政府の対応は1項が「求める」とあるのに対し、2項では「依頼する」となっている。しかし、政府が本条1項を協力義務を課したものとしていることから、2項は民間にも協力義務を課したものとの解釈を政府がとる可能性も予想される。
     政府は、民間企業に米軍の後方地域支援業務などの役務の提供を義務づけようとしたり、国民個々人に米軍の後方支援業務などに直接従事することを義務づけようとしたりするであろう。民間企業が政府の依頼に応じて役務の提供を行なうこととした場合、その企業で働く労働者は懲戒処分の脅しをもって後方支援業務を強制される。なお、空港には株式会社が管理する空港(第1種空港の関西国際空港)や公団管理の空港(第1種空港の成田空港)があり、これらに対する協力要請も本条を根拠にすることが考えられる(もっとも国が過半を出資する第3セクターや公団では実際上国の依頼を断ることは難しいであろう)。
     しかし、このような一般的な規定によって国民の権利を制限し義務を課すことができるのか、は大きな問題である。この規定の異常さは「本来行政組織と関係のない民間、つまり一般国民にも協力要請できる規定を盛り込んだ意味は大きい。」(98年4月28日付「読売新聞」)と報じられるとおりであり、何故政府が直接民間に協力を要請できるのかの根拠は不明である。権利を制限し義務を課す以上、その要件を具体的に定め、権利制限の範囲、負担する義務の内容を厳格に定めるのは憲法13条、18条、31条の要請である。法案では協力要請の種類、内容、重要事項は基本計画に定めるとしただけで(4条2項7号)、種類や内容の限界も事前事後の手続保障の規定もなく、どのような協力も依頼できる形になっている。
     政府の側は国民の反発を恐れたために、本条項においても違反した場合の罰則や不利益は規定されていない。本項が義務規定でないとしても政府が依頼した場合、事実上有形無形さまざまの圧力が依頼先に加えられることは容易に想像される。現実問題として、依頼を受けた民間企業や個人がその依頼を断ることは容易なことではないであろう。すでに先取りとして民間航空会社が米海兵隊を輸送することなどが行われている。日本航空では武力行使を目的とした武器の輸送は内規で控えているが「『周辺事態』のときにどうするかは『今は何ともいえない』としている」と報じられており(98年4月27日付「朝日新聞」)、政府は他社との比較・競争を利用するなどの手段も使って協力を強制することが考えられる。
     「武器などの輸送に協力すれば、紛争国から『敵視』される恐れはある。そうなると、その会社やその国のすべての便がテロの対象となる危険性が生まれる」(98年5月8日付「朝日新聞」)との報道もあり、たとえ日本国内で行う協力であったとしても米軍への支援は直接国民の生命、身体、財産や権利を侵害する危険を伴うものである。
     なお、現実に民間への協力「依頼」を行うのは、国家公務員個々人であり、地方自治体への協力要請を通じる場合は地方公務員であるから、公務員は国民を米軍支援に動員する作業を担わされ、国家総動員体制の手先にされかねないのである。

  5. 損失への対応
     地方自治体や民間が国からの米軍支援要請に応じて協力したために損失を受けた場合には、政府はその損失について財政上の措置を講ずるとした。  財政上の措置の対象となるのは地方自治体、法人、自然人となることが想定される。その対象に応じて財政上の措置の内容や手続は異なると考えられるが、具体的な内容は一切規定されていない。
     国民や自治体の不満や抵抗を押さえて動員を行うために財政措置を取るとしたものであって、動員という「鞭」に対する「飴」であることは明らかである。規定の仕方も権利性や手続き規定などはいっさいなく、「恩恵」的なものと見ることもできる。
     財政措置が取られれば米軍支援を認められるというものではなく、また、財政措置の財源は結局日本国民の税金であるから、血税を国民動員の道具に使うものである。
(国会への報告)
第10条
 内閣総理大臣は、基本計画の決定または変更があったときは、その内容を、遅滞なく、国会に報告しなければならない。

 第10条は、周辺事態に対応して自衛隊等の活動に関して、国会の承認を要せず、基本計画について国会に報告すること定めた規定である。

[内容と問題点]

 本条は、周辺事態に対応する基本計画を決定・変更した場合には、内閣総理大臣が「遅滞なく」国会に報告しなければならないと規定するものであるが、ここには、国会の承認を必要としないこと、事後報告でよいことが明確にされている。
 新ガイドラインのもとで、日米共同の調整メカニズムにより、日常から様々な場合を想定した共同作戦計画や相互協力計画、実施要項が策定されている。米国政府からの支援要請を受けた場合、日本政府がすでに策定されている基本計画を、閣議で決める。閣議決定を受けて、後方地域支援などの活動は直ちに実施される。例えば、自衛隊の補給艦・輸送艦等が、燃料や生鮮食料品のほか、米軍基地から託された弾薬を積んで出港し、米国の艦船に補給する。
 しかし、政府がどのような判断をもとに周辺事態と認定したか、国民に全く知らされないままになるおそれもある。法案では、国会への報告は、「遅滞なく」とされているけれども、あくまで事後であり、国会には、計画の決定取り消しや修正を求める権限は定められていない。日米間の協議や情報交換は、安全保障上の機密とされ、国会へも明らかにされない可能性がある(98年4月8日付「朝日新聞」)。
 国会の承認を不要としているのは、国権の最高機関である国会を軽視するものであり、議会制民主主義、国民主権をもないがしろにするものである。  自衛隊法では、防衛出動及び治安出動について、いずれも、国会の承認を必要としている。しかも、防衛出動については、「特に緊急の必要がある場合」を除いては、事前の国会承認が求められている。不承認となれば、出動できないことになるし、事後に不承認の議決があった場合には、直ちに撤収を命じなければならない(自衛隊法76条、78条)。
 このような制約さえないのであるから、アメリカの判断を優先して、日本が自動的に参戦することになる。現に、防衛庁の首脳は、98年4月10日、米軍への支援活動に国会承認を求めていないことについて「いったん米軍への支援を始めているのに、国会で承認されないからといって、途中でやめるわけにはいかない」と述べた。米軍への支援活動を円滑に行うことが国会への事後報告だけにとどめる理由であるということである(98年4月11日付「朝日新聞」)。

(武器の使用)
第11条
 第6条第1項の規定により後方地域捜索救助活動の実施を命ぜられた自衛隊の部隊等の自衛官は、遭難者の救助を行うに際し、自己または自己と共に当該職務に従事する者の生命又は身体の防衛のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。

2 第7条第1項の規定により船舶検査活動の実施を命ぜられた自衛隊の部隊等の自衛官は、当該船舶検査活動の対象船舶に乗船してその職務を行うに際し、自己又は自己と共に当該職務に従事する者の生命又は身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。

3 前2項の規定による武器の使用に際しては、刑法(明治40年法律第45号)第36条又は第37条に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。

 第11条は後方地域捜索救助活動(第6条第1項)、船舶検査活動(第7条第1項)の実施を命じられた自衛隊の部隊等の自衛官が、「自己又は自己と共に当該職務に従事するものの生命又は身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合に、その事態に応じ合理的に必要とされる限度で」武器を使用することを認める規定である。いずれの場合も、刑法上の正当防衛又は緊急避難に該当する場合のほか人に危害を与えてはならない旨規定されている(3項)。

[内容と問題点]

 本条の武器使用については、自衛官が「職務に際して実施するもので、現場にいる上官の命令に従うことが前提」であり自衛隊が「組織として武器を使用」するものである(98年4月23日付「朝日新聞」)。政府は、PKO法の国会審議において自衛隊のPKO活動への派遣は憲法が禁じる武力行使にあたるという当然の批判に対し、「刑法の正当防衛や緊急避難に該る場合に個々の隊員の判断で武器を使用することは、武力行使にあたらない」という答弁を繰返し行なった。そもそも、「武器の使用」が「武力の行使」にあたらないなどという解釈は本来成り立たないというべきであるが、政府がこうした矛盾に満ちた答弁を繰り返したのは、組織的な武器の使用は憲法が禁止する武力行使にあたることを認めざるを得なかったからに外ならない。
 したがって、自衛隊が組織的に武器使用することを公然と認める本条は、これまでの政府自ら否定してきた海外での武力行使を認めることにほかならず、憲法前文及び第9条をまっこうから蹂躪するものである。
 しかも、本条で使用される武器については、PKO法が小火器に限定しているのに比して、法文上何ら制限がない上、武器使用の程度についても現場の自衛官による「その事態に応じ合理的に必要と判断される限度」とされ、必要最小限という限定もされておらず、現場の自衛官の判断で拡大する危険性がある。
 さらに、捜索救助活動や船舶検査活動については、PKO法(24条6項)では適用除外とされている自衛隊法95条の「武器の防護のための武器使用」の規定が適用される余地がある(98年3月7日付「朝日新聞」)。しかし、前述したとおり、戦闘に参加した米兵の捜索、救助活動や船舶検査活動は米軍と一体となった軍事活動である。米軍が攻撃する相手国などからみれば明白な敵対行為であり、相手国などが当然反撃にでることは十分ありうることである。これに対し、本条や自衛隊法95条の「武器の防護のための武器使用」で反撃することになれば、武力行使はますます拡大することになる。
 法案第2条は周辺事態への対応の基本原則として、「武力による威嚇又は武力の行使に該るものであってはならない」と規定するが、武器使用の面からみてもまったく「そらぞらそしい」というべきである。

(政令への委任)
第12条
 この法律に特別の定めがあるもののほか、この法律の実施のための手続きその他この法律の施行に関し必要な事項は、政令で定める。

[内容と問題点]

 「政令」とは、内閣の制定する命令である。本条は、本法案を実施する手続きその他を政令で定めるとするものであり、政令で広範な事項を制定できることになる。例えば、地方自治体や民間に対して協力を求める手続き等について政令を制定することが考えられるが、政令で制定できる事項の範囲は、罰則を除き、本法案に関するものであれば無限定といってよい。これら政令の制定については、国会は制定に関与しないことになる。閣議決定による基本計画、防衛庁長官の定める実施要項に従ってことが運ばれることとあわせて、内閣ベースで進められる仕組みを作ろうとしているのである。

付則
(施行期日)

 この法律は、公布の日から三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

 法律は、国会(通常は衆参両議院)で議決されると最後に議決した院の議長から内閣を経由して天皇に奏上(通告)する(国会法65条)。そして、天皇は、奏上の日から30日以内に公布しなければならない(国会法66条)。
 本条は、本法案が国会で議決され公布された後に、三カ月以内で施行することを定めている。

[自衛隊法の一部を「改正」する法律案]

自衛隊法(昭和29年法律第165号)の一部を次のように改正する。
第100条の8第1項中「航空機による」を削り、同条第2項中「状況」の下に、「当該輸送の対象となる邦人の数」を加え、「その他の輸送の用に主として供するための航空機」を「次に掲げる航空機又は船舶」に改め、同項に次の各号を加える。
一 輸送の用に主として供するための航空機(第100条の5第2項の規定により保有するものを除く。)
二 前項の輸送に適する船舶
三 前号にに掲げる船舶に搭載された回転翼航空機で第一号に掲げる航空機以外のもの(当該船舶と陸地との間の輸送に用いる場合におけるものに限る。)

 自衛隊法100条の8は、外国における災害、騒乱その他の緊急事態に際して、外務大臣から生命又は身体の保護を要する邦人等の輸送の依頼があった場合に、防衛庁長官が航空機を使用して当該邦人の輸送を行なうことができるとする規定である。

[内容と問題点]

 本「改正」は、防衛庁長官が行なう在外邦人等の輸送の手段として航空機の外、船舶及び船舶に搭載された回転翼航空機(ヘリコプター)を新たに加えるとともに、外国において輸送の職務に従事する自衛官が、輸送に用いる航空機、船舶の所在する場所、又は、輸送対象の邦人等を航空機、船舶まで誘導する経路において、自己若しくは自己と共に当該職務に従事する隊員又は保護の下に入った当該輸送の対象である在外邦人の生命等の防護のため、やむを得ない必要があると認められる相当の理由がある場合にその事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器の使用を認める内容である。
 「在外邦人保護」を名目に自衛隊の艦船および艦載ヘリコプターを海外へ派遣することは、1930年代に旧日本海軍が行なった上海など中国沿海部都市への在外邦人保護を名目とする艦隊派遣や最近のインドネシアなどへの在日アメリカ海軍の揚陸艦隊派遣をみても、相手国に対する武力による威嚇、内政干渉の第一歩になる危険がある。実際、海上自衛隊はすでに90式戦車や急襲上陸用舟艇(LCAC)を搭載し、上陸作戦が可能な大型輸送艦「おおすみ」を実際配備している。こうした自衛隊艦艇を派遣すること自体が憲法の禁じる武力による威嚇であると言うべきである。

第100条の8に次の1項を加える。
3 第1項に規定する外国において同項の輸送の職務に従事する自衛官は、 当該輸送に用いる航空機若しくは船舶の所在する場所又はその保護の下に入 った当該輸送の対象である邦人若しくは外国人を当該航空機若しくは船舶ま で誘導する経路においてその職務を行なうに際し、自己若しくは自己と共に 当該輸送の職務に従事する隊員又は当該邦人若しくは外国人の生命または身 体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合に は、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することが できる。ただし、刑法第36条又は第37条に該当する場合のほか、人に危 害を与えてはならない。

 「改正」案は邦人等の生命防護のために武器を使用することを認めている。

[内容と問題点]

 この武器使用は周辺事態法案における武器使用と同様、自衛隊による海外での本格的な武力行使を公然と認めるものである。
 自衛隊法100条の8は、1994年在外邦人救出のために航空機を派遣できる旨「改正」されたが、この「改正」に先立ち、政府は海外での武力行使につながるという世論の批判に押されて、武器の携行については、航空機内でのハイジャックなどの不測の事態に備えて「短銃のみを認める」旨の閣議決定を行なった。ところが、「改正」案では武器については何ら限定がないばかりか、その程度も必要最小限という制限すらなく、「事態に応じ合理的に必要と判断される限度」と規定され、現場の自衛官の判断で拡大される危険性がある。
 しかも、周辺事態法案と同様、武器使用は当然自衛隊の部隊によって組織的になされることが前提にされている上、使用される武器に制限がない自衛隊法九五条が適用され武器防護のための武器使用も認められる危険性が高い。実際、防衛庁首脳によれば、自衛隊の艦船を使う場合には、攻撃に対し、搭載された速射砲などの大型武器で対応することもありうるとされている(3月7日付朝日新聞)。
 以上のとおり、この自衛隊法「改正」は憲法上禁止されている武力による威嚇、武力行使以外の何ものでもなく、本格的な戦争行為を自衛隊が行なうことを公然と認めるものであり、断じて許されない。

[日米物品役務相互提供協定の「改定」]

 周辺事態において、自衛隊による米軍の後方地域支援を実施するために、日米物品役務相互提供協定(ACSA)が改定された。

第1条 協定前文中「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」の次に「(以下「条約」という。)」を加える。
第2条 協定第1条1を次のように改める。
  1. この協定において、
    1. 「後方支援、物品又は役務」とは、後方支援において提供される物品又は役務をいう。                     
    2. 「周辺事態」とは、日本国の周辺の地域における日本国の平和及び安全に重要な影響を与える事態をいう。
第3条 協定第1条2を次のように改める。
  1. この協定は、共同訓練、国際連合平和維持活動、人道的な国際救援活動又は周辺事態に対応する活動に必要な後方支援、物品又は役務の日本国の自衛隊とアメリカ合衆国軍隊との間における相互の提供に関する基本的な条件を定めることを目的とする。

 現行の日米物品役務相互提供協定は、平時の日米共同訓練、国際連合平和維持活動、人道的国際救援活動における物品役務の相互提供を定めるものであるが、改定(案)は、日米物品役務相互提供協定を周辺事態にも適用できるようにするとして、アメリカがおこす戦争・軍事行動の際にも自衛隊と米軍との間で物品役務の相互提供ができるようにしようとしている。

[内容と問題点]

 アメリカがおこす戦争・軍事行動の際に、自衛隊と米軍との間で物品役務の相互提供ができるようにする改定であり、日本の参戦行為を可能にする改定であり、憲法前文及び第9条で定める平和原則に違反する。
第4条 協定第2条3を次のように改める。
  1. 2の規定については、日本国の自衛隊による武器若しくは弾薬の提供又はアメリカ合衆国軍隊による武器システム若しくは弾薬の提供が含まれるものと解してはならない。
第5条 協定第三条の次に次の新たな第四条を加える。
    第4条
  1. いずれか一方の当事国政府が、周辺事態に際して日本国の自衛隊又はアメリカ合衆国軍隊がそれぞれの国の法令に従って行う活動であって、条約の目的の達成に寄与するもののために必要な後方支援、物品又は役務の提供を他方の当事国政府に対してこの協定に基づいて要請する場合には、当該他方の当事国政府は、その権限の範囲内で、要請された後方支援、物品又は役務を提供することができる。
  2. この条の規定に基づいて提供される後方支援、物品又は役務は、次に掲げる区分に係るものとする。
    食料、水、宿泊、輸送(空輸を含む。)、燃料・油脂・潤滑油、被服、通信、衛生業務、基地支援、保管、施設の利用、部品・構成品、修理・整備及び空港・港湾業務
     それぞれの区分に係る後方支援、物品又は役務については、第2条にいう付表において定める。
  3. 第2条3の規定は、この条の規定に基づく後方支援、物品又は役務の提供に適用する。
  4. この条の適用上、日本国の自衛隊は、周辺事態に対処するための日本国の措置について定めた日本国の関連の法律に従って後方支援、物品又は役務を提供し、当該法律によって認められた日本国の自衛隊の活動に関し後方支援、物品又は役務を受領するものと、了解される。

 アメリカが戦争をおこす周辺事態の際に、「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」等の法律に従って、自衛隊と米軍との間で、食料、水、宿泊等一四区分の物品役務を提供しあうことを定めている。

[内容と問題点]

 自衛隊が、アメリカが戦争をおこす周辺事態に際し、米軍との間で、食料、水、宿泊等一四区分の物品役務を提供しあう行為は、いずれも日本の参戦行為となる行為であり、憲法前文、第九条の平和原則に違反する行為である。
 なお、自衛隊と米軍との間で提供しあう物品について、「武器・弾薬の提供が含まれるものと解してはならない」などとされているが、提供しあうこととされている「部品・構成品」とは「軍用航空機、軍用車両及び軍用船舶の部品又は構成品並びにこれらに類するもの」であり、武器類の部品・構成品が相互提供されることになっている。この点において、日本の参戦行為はよりいっそう明白である。
 新たな第4条の追加によって、米軍と自衛隊のみならず、当事国政府が物品役務提供の当事者として、規定された。「周辺事態法」の条項と相まって、日本国政府の動員体制を促進しようとする意図のあらわれである。
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