<<目次へ 【意見書】自由法曹団
1999年6月
自 由 法 曹 団
政府与党は、国会で新ガイドライン法案の採決を強行した後、現在、通常国会での「地方分権」一括法案(「地方分権の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案」)の成立をはかろうとしている。
そもそも、この「地方分権」一括法案は、地方自治法「改正」を軸に、全体で475の法律を「改正」の対象とする。これは日本の法律全体約1600本中の三分の一に及ぶ大規模なものであり、住民の権利や自治体の事務に重大な影響を及ぼすものである。このような大規模な法案をわずか一ヶ月程度の短期間で成立させようとすること自体が議会制民主主義に反する。特に、このような大量の法律「改正」について、国民がその内容や問題点について、十分知ることができない状態のまま、世論に問うこともせずに、国会でその成立を強行しようとするのは、国民の知る権利を無視し、国民主権の大原則すらないがしろにするものといわざるを得ない。
この法案では、機関委任事務を廃止するとされているが、その多くが自治体の行う「法定受託事務」として残され、国による代執行ができるようにする。この法定受託事務以外で自治体が行うのは、機関委任事務等から自治体に移された事務、及び自治体がもともと行っていた事務となる。これらをあわせて自治事務というのであるが、この自治事務に対しても、国が権力的に関与する制度が作られ、代執行まで可能とする。のみならず、自治体に権限を移す場合にも、財源の移譲を伴わないというのである。結局、法案は、憲法で定める地方自治の原則(92条)に反し、自治体に対する統制を強化するといわざるを得ない。
とりわけ問題なのは、この法案が新ガイドライン法、特に、周辺事態法の具体化の柱となる自治体の戦争協力を進めることである。
一括法案の中にある米軍用地特別措置法の再改悪案は、我が国民の財産を取り上げ、自治体と住民を戦争に動員する仕組みを作る重大な法改悪である。新ガイドライン(1997年9月23日合意)には、「周辺事態」において、米軍の活動に対する日本の支援の一つして、「日本は、(米軍の)必要に応じて、新たな施設・区域の提供を適時かつ適切におこなう」と明記されている。政府は、このように新ガイドラインで日本政府が米側に誓約した米軍用地の確保・提供を保障するために特措法を再改悪しようというのである。詳細は、後述するが、沖縄の普天間基地の県内移設に伴う基地強化構想を実現するための新たな土地強奪、日本全土にわたって新規に土地・建物施設(病院・学校、事務所・住宅、弾薬庫等)の強制接収をも想定したものである。
さらに、地方自治法「改正」により、周辺事態法9条1項で規定されている自治体の米軍協力に関して、権力的関与が適用され、港湾・航空の使用や医療・輸送の協力などが自治体に義務づけられるおそれがある。これに加えて、例えば、弾薬・燃料などの危険物貯蔵施設を設置する場合に自治体にその許可を指示したり、自ら代わって建築確認を行ったり(建築基準法「改正」案、消防法「改正」案等)できるようにしようというのである。自治体に大量の水の供給を要求する場合に自治体が拒否したとしても、厚生大臣自らこれを自治体に代わって実施できるようにする水道法「改正」案も盛り込まれている。
このように、地方自治一括法案は、新ガイドライン法ー戦争法の具体化と密接に関連している。この戦争法の発動・具体化を許さないためにも、地方分権一括法案は、断じて認めることはできない。
以下、特措法の再改悪、及び戦争協力・地方統制をすすめる法案の問題点に焦点をしぼって詳述する。
沖縄の米軍用地の期限切れを前にした1997年4月、政府は、「米軍用地特別措置法」(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法)の改悪を強行した。
97年の特措法改悪は、現に米軍に提供している土地等について「暫定使用」制度なるものを創設することで、使用期間が経過し不法占拠となった場合でも、また、収用委員会が国の裁決申請を却下・棄却した場合であっても、引続き強制使用できるとするもので、「法」の名による法治主義の破壊行為であった。
米軍用地特別措置法にもとづく土地の強制使用手続きにおいても、収用委員会が、独立の機関として、公正、中立、かつ慎重な審理を経て、裁決をすべきことは言うを待たない。それは、憲法29条の財産権保障、同31条の適正手続きの保障を実現するためである。収用委員会の権限を徹底的に無視する97年「改正」は、この趣旨を抹殺するのみならず、都道府県ごとに独立の収用委員会を設置した地方自治の本旨(憲法92条)をもないがしろにするものであった。
そもそも日米安保条約のもと、米軍のためにだけ、例外的に、国民の土地を強制的に取り上げたり、強制使用をすることを認めたのが、米軍用地特別措置法である。軍事のため国民の権利剥奪を認めるこの法律そのものが、憲法の平和原則と相容れないものなのである。しかも、この法律は、土地収用法に定める事業認定をする際の公聴会の制度を廃止するなど、土地収用法に比してその手続きを著しく簡略化し、強制使用、収用される土地所有者等の権利保護に欠け、財産権や適正手続の憲法上の保障にも違反する。
97年「改正」は、米軍基地のためにだけ特別に例外をつくり、期限後の強制使用を容認しようというのであった。米軍や軍事優先の米軍用地特別措置法という例外をさらに幾重にも大幅に拡大するものであり、あわせて憲法違反をいっそう拡大するものとなっていた。
ところが「地方分権」一括法案による今回の再改悪案は、かかる違憲の法律である米軍用地特別措置法をさらに強権的内容に変容させるものであり、最悪の「改正」案となっている。
(1)代理署名・公告縦覧代行権限の剥奪
現在、土地物件調書に対する代理署名や裁決申請書等の公告縦覧は都道府県知事や市長村長が行っている。ところが今「改正」はこれらを廃止し、国(内閣総理大臣)の直接執行事務にしようとしている。
地方分権一括法によって、機関委任事務は廃止され、右廃止にともない機関委任事務は地方自治体において処理する事務として「自治事務」と「法定受託事務」に再編成される。ところが、米軍用地特措法関係の多くは「直接執行事務」として地方自治体からその権限を奪い国の事務へ移されることになっている。
今回「改正」は、沖縄での大田昌秀前知事らの抵抗に手を焼いた政府が、政府に歯向かう地方自治体の出現を未然に防止し、地方での基地反対のたたかいを封じ込めることを目的とするものである。
そもそも土地収用法36条が現地での立会いや土地物件調書への署名を求めている所以は、強制使用される現地で土地物件調書の記載内容の真実性と作成手続の適正さを土地所有者らに確認させ、もって土地所有者らの財産権を保障することにあった。そして、都道府県知事や市町村長にその代理を認めたのは、公的機関として地方自治体の住民である所有者らの後見人的立場に立ちうることから認められたものである。今「改正」は、この立会い・代理署名権限を一方的に奪うことを意味する。
(2)新たな土地強奪の仕組−緊急裁決制度
今「改正」によって新設される制度に「緊急裁決制度」がある。米軍に新しく用地を提供することを目的とする制度である。すでに米軍用地として強制使用の対象となっている土地については暫定使用制度によって継続使用する一方、「緊急裁決制度」は、新たに米軍に提供するとして使用・収用認定された土地、及び現に米軍に提供されている土地で新たに「収用」認定される土地について適用されることになる。具体的には、周辺事態に際して「本土」において米軍が新規に使用を要求した土地や「沖縄」での普天間基地の移転先等に適用される可能性がある。
この制度によって収用委員会は、裁決に期限を付され、原則として2ヶ月以内に結論を出さなければならなくなる。右期限内に結論を出さないと、収用委員会には事件を内閣総理大臣に送致する義務が生ずる。収用委員会が事件を送致せず、そのまま放置すれば、事件は送致されたものとみなしてしまう。いずれにしても内閣総理大臣は、送致された事件を自ら裁決をしてしまうのである。さらに、収用委員会が却下・棄却の裁決をしても、内閣総理大臣はその裁決を取り消し、しかも、再度の裁決に対し使用・収用裁決を行うよう指示することが可能となり、それでも収用委員会が再度の却下・棄却裁決を行うと、内閣総理大臣が自ら裁決を行ってしまう。このように、二重三重の縛りによって収用委員会の審理・裁決権限はほとんど奪われてしまうに等しいのである。
米軍用地収用手続は、土地収用法の規定(手続)を利用してはいるが、その実態は全く異質な、強権的・一方的土地強奪手続である。
すなわち、現行の土地収用法は、起業者が事業認定の申請を行い、都道府県知事又は建設大臣が事業認定を行い、都道府県知事・市町村長が立会・代理署名を行い、都道府県収用委員会が審理・裁決を行い、不服は建設大臣に対し行うとされている。ところが、今「改正」によって生れる手続は、防衛施設局長が使用認定を申請し、内閣総理大臣が使用認定を行い、立会・代理署名を内閣総理大臣が行い、収用委員会が裁決し、内閣総理大臣が不服の申立を受けるというものである。しかも収用委員会の権限はほとんど奪われているに等しいのであり、結局、実質上は内閣総理大臣が自ら単独で土地を収用してしまうといっても過言ではない。収用手続の各権限を行政諸機関に分属させている土地収用法体系を根底から破壊するものであり、形式的権限分属、外形的公正さすら放棄するものである。
確かに、類似の制度としては特定公共事業についての緊急裁決制度が存在する。しかし、公共用地特措法は、第1に、その目的を「公共の利害に特に重大な関係があり、かつ、緊急に施行することを要する事業に必要な土地等の取得に関」して特例を規定するとして、対象となる「特定公共事業」を限定していること、第2に、事業認定に際しては、「事業が公共の利害に特に重大な関係があり、かつ、緊急に施行することを要するものであること」とされ、しかも、「公共用地審議会の議」を経ることが条件とされていること、第3に、事業認定を受けるに際しては、事業の目的・内容、緊急に施行を要する理由について、都道府県知事・市町村長及び近隣住民に対して事前の説明及び意見聴取が起業者に義務付けられ、収用対象となる土地等の所在の地方自治体や地域住民に対する手続的手当てが予定されている等、その要件、手続において決定的に異なっている。
本「改正」案は、米軍に対する土地提供であれば、地方自治体や近隣住民への説明・意見聴取は不要であって、収用委員会が反対しても内閣総理大臣の意思と権限だけで土地を奪うことが可能となる制度であって、対米従属、憲法無視の極みともいうべき改悪であり、とうてい容認できるものではない。
周辺事態法は、「関係行政機関の長は、法令及び基本計画に従い、地方公共団体の長に対し、その有する権限の行使について、必要な協力を求めることができる」(9条)と定めている。
この「協力要請」に対して、地方自治体は従う義務があるのかどうかが、周辺事態法案をめぐる国会論議でも、大きな問題となった。政府側は、「自治体は要請に従う一般的な義務をおっている」とか、「正当な理由がなければ拒否できない」などと答弁した。しかし、「地方分権」一括法案では、後述のように法定受託事務のみならず、自治体が自治体の事務として行う自治事務に対してすら、国の権力的な関与が定められている(地方自治法「改正」法案245条)。各大臣が、担任する事務に関して、自治体に対して、是正または改善のため必要措置を講ずるべきことを求めうることを定め、これに対して、自治体は、「是正または改善のための必要な措置を講じなければならない」とされているのである(地方自治法「改正」法案245条の5)。
現在、政府は、周辺事態における自治体の協力について、この限りではないとしながらも、協力を求める項目を例示している。例えば、自治体の管理する港湾・空港の施設の使用、米兵や武器弾薬など軍事物資の輸送への協力、公立病院への患者の受け入れなどである。これらを政府が自治体に求めた場合、今回の「改正」案によって、自治体がこれに応じなければならないということになりかねない。また、一括法案の中では、例えば、港湾法の「改正」のように、「港湾管理者は、・・・運輸大臣の要求があったときは、遅滞なく、当該行為を停止し、または当該行為について、必要な変更を行わなければならない」と定めて、自治体が米艦船の入港を拒否できないようにする仕組みを明らかにしている(同法「改正」案47項2項)。
さらには、今回の一括法案では、後述のように裁判を経ない「国の直接執行」も個別の「改正」案で定められている。例えば、武器・弾薬庫や野戦病院などの施設づくりへの協力を求められた自治体がこれに協力しなくとも、建設大臣が自ら「必要な措置をとることができる」とする旨規定し、建設大臣自らが建築確認などを行えるようにするというものである(建築基準法「改正」案17条12項)。また、米軍のための水の供給についても、厚生大臣が自ら水道用水の緊急応援を行えるとする(水道法「改正」案40条3項)。
これらは、周辺事態法にもとづく自治体の協力が得られない場合であっても、自治体の意思に反して政府自らがその権限を奪い、あるいは協力を義務づけて強制し、米軍支援を強行できるようにする仕組みといわざるを得ない。
今回の法案には、地方分権の名の下に、このような軍事優先の国家体制づくりを進めようというねらいがある。
日本国憲法は、戦前の集権的な官僚的行政システムの一環であり、戦争のために全面的に機能することとなった「地方自治」制度の反省にたって、地方公共団体に自治権を保障し、地方公共団体を民主化するために、特別に一章を設け、地方自治の原則を定めた。
今日、沖縄県等が米軍基地の縮小撤去を求めて努力し、各地で市民オンブズマンが活躍し、住民投票が各地で展開されている。これらは、地方自治の拡充を求める新たな動きが始まっていることを示している。そして、この流れは、「ヨーロッパ地方自治憲章」などにみられるような世界的な規模での地方自治再評価の一環である。
しかし、「地方分権」一括法案は、このような日本国民の願いや世界の流れに逆行し、「地方分権の推進を図る」という美名の下に、地方自治権を侵害する地方統制法案となっている。以下、その危険な内容と問題点を指摘する。
(1) 役割分担の名の下に地方自治を縮小
一括法案のうち、地方自治法「改正」案第1条の2第1項は、地方公共団体の役割につき、「住民の福祉の増進を図ることを基本として地域における行政を自主的にかつ総合的に実施する役割を広く担うものとする」と定めた。その一方で、「地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持する」とした1号からはじまり21号に及ぶ現行地方自治法2条3項の地方公共団体の行う事務の例示をすべて廃止した。
これは、防衛・外交などについての地方自治体の関与は許されないとする見解の上に立って、地域住民の人権と民主主義の前進のために地方自治体が行う豊かな施策の可能性を否定するものである。
(2) 広範な法定受託事務の存続
一括法案では、知事や市町村長を国の機関として国の事務を行わせてきた機関委任事務の制度は廃止され、機関委任事務は、国の直接執行事務、法定受託事務、自治事務に再構成される。しかし、機関委任事務は原則として地方公共団体の事務としての自治事務にするとの考え方は貫かれず、国の関与の余地が大きい法定受託事務として約40パーセントが残ることになる。しかも、法定受託事務の定義が「国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律またはこれに基づく政令に特に定めるもの」(地方自治法「改正」案2条9項1号)とされ、今後いくらでも法定受託事務を設けうることとされている。
(3) 壮大な国の関与法制の確立
憲法が地方自治体に自治権を保障している以上、国と地方自治体は上下の関係ではなく対等の関係に立つものであるから、国の地方公共団体に対する関与は、必要最小限で非権力的なものでなければならない。地方自治法「改正」案24条の3第1項もそれを明記している。しかし、実際の「改正」法案の内容は、この原則に反し、壮大な関与の仕組みができあがっていくことになる。
すなわち、地方自治体が行う法定受託事務と自治事務に関し、国は、「助言または勧告」「資料の提示要求」「是正の要求」「同意」「許可、認可または承認」「指示」「代執行」「普通地方公共団体との協議」「一定の行政目的を実現するため普通地方公共団体の対して具体的かつ個別的に関わる行為」をすることができることとなっている(地方自治法「改正」案245条)。
特に、現行法制と異なり、法定受託事務はもちろん、自治事務にも代執行が認められることはきわめて問題である(同245条の3第2項)。しかも、代執行の場合は裁判を経なければならないが、裁判を経ない「国の直接執行」も個別の「改正」案で定められている(建築基準法17条12項、都市計画法24条4項、水道法40条3項)。
さらに、法定受託事務に関し、当該法定受託事務を規律する法令を所管する大臣の関与が定められているだけでなく、各大臣が「その担任する事務」に関して、自治事務、法定受託事務に関わらず、一定の関与ができることになっていることも大問題である。通達行政は廃止されるといわれているが、法定受託事務について「処理基準を定めることができる」ので基本的には、従前と同じことである(地方自治法「改正」案245条の9)。
(4) 国と地方自治体の紛争処理システムの問題点
国と地方自治体の紛争処理システムが明確になったとはいうものの、第三者機関の審査を経ないと裁判所に出訴できない仕組みになっていること、抗告訴訟が排除されていることは問題である(地方自治法「改正」案251条の5)。
のみならず、自治事務に対する国(各大臣)の是正要求について、地方自治体は、これを違法と考えても、国地方係争処理委員会へ審査を申立(さらには訴訟提起)ない限り、違法を主張できないという仕組みとなっている。これでは、是正要求が適法の推定を受けることとなってしまう。
(5) 都道府県の出先機関の役割が「強化」される
機関委任事務の廃止に伴って、都道府県が国の出先機関のような役割を担わされ、市町村は、国と都道府県の両方から関与を受けることになる(地方自治法「改正」案252条の17の3第2項、245条の4)。都道府県から市町村に事務を委譲する場合にも、市町村の同意ないしは合意が要件となっていない(同法案252条の17の2)。
(6) 条例制定権の内容の危険性
地方自治法「改正」案14条2項は、「普通地方公共団体は、義務を課し、または権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない」と定めている。この規定は、住民に権利・自由・利益を与えるとき(補助金の交付など)条例によらなくてもよいかのような定め方となっており、不十分である。それだけでなく、環境・公害問題などで自治体が行っている、いわゆる「要綱行政」が全て違法とされる危険が大きい。
なお、今回の法案は、全体として住民自治についてきわめて不十分であるうえ、住民投票の制度の立法化も回避されている。
(7) 財源対策の欠如は自治体を圧迫する
「地方分権」一括法案のもとになった「地方分権推進計画」でも、「歳出規模と地方税収入との乖離が存在している」と認め、地方財源の充実の検討をうたっていたにもかかわらず、法案にもりこまれた財源対策は、地方債許可制度の協議制度への変更(地方自治法「改正」案5条の3)、地方交付税の算出方法についての地方自治体の意見反映制度(地方交付税法「改正」案17条の4)、法定外普通税・目的税の許可制から事前協議制への変更(地方税法法「改正」案669条、同731条)だけである。マスコミが、「財源の地方移譲は先送りされたままになっている。地方が中央に財源を大きく依存する構造が続く限り、本当の『対等・協力関係』などは成り立つはずがない」(3月28日付読売新聞)と批判しているとおりである。
(8) 必置規制の見直しは福祉サービス水準などの低下、自治体リストラにつながる
現行の地方自治法においては、一定の行政機関・施設・職員などの設置・配置が国により地方自治体に義務づけられている。いわゆる「必置規制」である(現行地方自治法別表5〜7)。ところが、今回の法案は、地方自治体の自主性を尊重するという名目の下に、都道府県水防協議会などの必置規制の廃止、青年学級主事などの必置規制の廃止、都道府県環境審議会、身体障害者更生相談所などの名称規制の弾力化、児童福祉司・身体障害者福祉司・知的障害者福祉司などの名称規制の廃止、公立図書館長や医療監視員などの資格規制の廃止、食品衛生監視員などの必置規制の緩和化などを定めている。そのため、上記別表を全て廃止した(現行地方自治法156条4項、173条の2、180条の8第3項、180条の9・4項、202条の2・7項、202条の3・4項はいずれも削除)。
これが如何に大問題か、福祉事務所を例にとって検討してみると、都道府県レベルの福祉事務所は、社会福祉事業法によって設置の最低基準が法定されているため、全国に340存在しているが、今回の「改正」により、各都道府県設置が義務づけられるのは、一つであり、後は各都道府県の「自由」ということになる。そのため、論理的には47になる可能性がある(社会福祉事業法「改正」案13条)。福祉事務所の所員の最低数は法定されているが、それは「標準」数にすぎなくなる(同法案15条)。また、福祉事務所の所員は、保健医療に関する事務を行う「自由」が認められる(同法案16条)。
地方財政悪化の今日の状況のなかで、このような必置規制の見直しが国の責任の放棄、福祉サービス水準などの低下、自治体労働者のリストラにつながることは、火を見るよりも明らかであろう。
(9) 地方議会の議員定数の削減
地方議会の議員の定数は、そもそも法律で定めるべきものではなく、法律で定めるとしても、その下限を定めるのが筋である。ところが、今回の「改正」案は、上限定数基準を定め、特に市町村議会の議員定数を削減しようとする(地方自治法「改正」案70条、71条)。東京都特別区の議員定数の上限は、60から56とされている(同法案281条の6)。このため、「改正」案のもとでは、新潟市、青森市、盛岡市、山形市、福島市、松江市、徳島市、松山市、長崎市、佐賀市、大分市など109の市町村で定数がオーバーだとして、議員定数の削減が必要になると言われている(昨年10月現在)。
(10) 大広域地方行政体制を目指し市町村合併を推進
市町村の規模に関わる問題は、本来は住民自治の観点から考える必要があり、行政効率や経済効率から見た適正規模と住民生活、住民参加から見た適正規模とは異なるはずである。にもかかわらず、今回の「改正」案は、合併推進のため、都道府県知事が関係市町村に、合併協議会の設置の勧告権限(市町村の合併の特例に関する法律案16条の2)を認めるなどして都道県知事の権限を強め、住民発議制度の拡充、議員の退職年金に関する特例、地方交付税の算定の特例など露骨な誘導策を市町村合併の特例に関する法律案で定めている。
中核市の要件緩和(地方自治法「改正」案252条の23)、特例市制度の導入(同法案252条の26の3)は、中核市や特例市になりたければ市町村合併をしなさいということであろう。
このような「下から」の地方行政体制の広域化と国の省庁再編における「上から」の国の地方ブロック体制整備とを結びつけてみれば、そこには道州制などの大広域地方行政体制の構想が容易に浮かび上がってくる。