<<目次へ 【決 議】自由法曹団


決    議

  1. 石原都知事は、本年四月一二日東京・自衛隊練馬駐屯地で開かれた陸上自衛隊の記念式典で、「国民、都民を代表し」と前置きしたうえで、「不法入国した三国人、外国人が非常に凶悪な犯罪を繰り返している」「すごく大きな災害が起きた時には大きな大きな騒擾事件すらですら想定される」「災害の救急だけではなしに、やはり治安の維持も一つ皆さんの大きな目的として遂行していただきたい」「・・この来る九月三日・・大きな演習が繰り広げられますが、そこでやはり、国家の軍隊、国家にとっての軍隊の意義というものを、価値というものを皆さんは何としても中核の第一師団として、国民に都民にしっかりと示して頂きたい」などと発言した。
  2. この発言は、一部の外国人による犯罪を、外国人一般にまで広げて「犯罪集団扱い」し、敗戦まで日本が占領・支配していたアジア諸国出身の、日本国内に居住する人たちに対する差別的呼称である「三国人」を使用した上、大災害時の「大きな騒擾事件」まで勝手に想定し、自衛隊の治安出動の必要にまで踏み込み、自衛隊を「国家の軍隊」と呼んでいる。
  3. 関東大震災の際、本来なら災害救助に全力を挙げるべき政府が「社会不安」を口実に戒厳令を敷き、軍隊を出動させ、民主主義勢力を弾圧し、朝鮮人に不穏な行動があるとの嘘の宣伝を流し、このため、軍隊・警察と扇動された民衆の手で数千人の朝鮮人が虐殺され、数百人の中国人も犠牲になった。自由法曹団も直ちに調査に入り、著しい人権侵害行為についての調査をして責任追及に立ち上がり、これらをやみ葬ろうとする治安当局に対抗して真相を明らかにするために尽力したが、「社会不安」「治安の維持」が人権侵害の隠れ蓑に容易にすり替えられこれに民族的差別意識が加わることによって外国人への人権侵害につながったことは厳然とした歴的事実であり、かつ歴史の痛い教訓である。
    このような極めて悲惨な権力犯罪・人権侵害を二度と繰り返してはならないという歴史の教訓を、石原都知事は、全く学ぼうとせず、今回このような民主主義に真っ向から反する右の暴言を吐いたのである。
    その上、自衛隊を「国家の軍隊」と述べたことは、憲法九条の「戦力不保持」規定に反する事態を容認するものに他ならない。石原都知事は、従前から憲法特に憲法第九条に対し、「五年間なり一〇年間棚上げにする」ことを提案(一九九四年五月自民党新政策大綱試案前文)したり、憲法に対する敵意をむき出しにしており、今回の発言もいわば「確信犯」と言わざるを得ない。
  4. 知事がこうした偏見や予断にたっていることは極めて危険である。
    自衛隊法第八三条は、知事は、「・・天災地変その他の災害に際して、・・部隊等の派遣を要請することができる。」と規定し、同法第八一条では、知事は、「治安維持上重大な事態につきやむを得ない必要があると認められる場合には、・・公安委員会と協議の上、内閣総理大臣に対し、部隊等の出動を要請することができる。」と規定し、その他の法律でも広範囲の責任と権限を有している。
    このように巨大な権限を保有している知事が、災害時に「大きな騒擾事件」を想定して極めて限られた場合に認められている「治安出動」という事実上の武力行使についてまで、公安委員会も内閣総理大臣も介さず、直接自衛隊に訴えたことは、単なる暴言に止まらず、石原都知事自身発言の中で述べている「三島事件」をも想起され、危険極まりないものである。
  5. 首都東京の知事は、時として「日本の顔」とでも言うべき立場にあり、国際交流特にアジアとの交流は都政の重要な仕事の一つである。このような立場にある石原都知事が、外国人を敵視し、「犯罪者扱い」をし、その上、憲法に反する発言を「国民・都民を代表して」述べたことは、許し難いものである。憲法第九九条は、公務員の「憲法尊重擁護義務」を定めているが、石原都知事の今回の発言はこの憲法の趣旨をも踏みにじるものであり、石原都知事は知事として失格である。また、その後の釈明会見でも全く反省が見られず、極めて遺憾である。石原都知事は即刻これらの発言につき都民、国民、アジアの人々に対して謝罪して直ちにこれを取り消すとともに都知事をすみやかに辞任すべきである。

    右決議する。

二〇〇〇年四月一五日
自 由 法 曹 団