<<目次へ 【決 議】自由法曹団
現在国会では、会社分割制度を導入する商法改正案(以下会社分割法案)、及び、会社の分割に伴う労働契約の承継等に関する法律案(以下労働契約承継法案という)が審議され、一部修正の上成立しようとしている。
しかし右法案には、@営業譲渡における労働者保護規定が設けられていないこと、A分割会社に承継された営業を主たる職務とする労働者については民法六二五条一項を排除し労働者の同意なくして分割会社への地位移転が強制されること、B会社分割・営業譲渡に伴う解雇を禁止していないこと、C賃金や退職金について分割先・分割元の連帯責任が規定されていないこと、D労使協定の承継についていっさいの規定がないことなどの重大な問題がある。国会審議の過程で、附則によって会社分割に当たって労働者と事前協議することを義務づけるという修正が行われたが、協議がととのわず労働者が同意しない時は「自己退職」扱いとなる(五月一二日の衆議院労働委員会での政府答弁)というものに過ぎない。しかも、右協議を企業が尽くさなかったときの効果についても何ら定めはなく、余りに実効性に乏しい修正と言わなければならない。
現在日本では、リストラの名目によって労働者の解雇、退職強要、労働条件の切り下げ等が横行し、深刻な社会不安と不況を生み出している。また最近は、営業譲渡・分社化などの企業組織再編を利用した大規模なリストラも各地で行われている。このような状況のもとで右二法案が成立したならば、既に行われた独禁法「改正」で認められた純粋持ち株会社制度と結びついて企業の多様な分割・結合が拡大すること、そして、そのことを利用してリストラが一層激しさを増し、労働者に過酷な犠牲を強いる結果となることは明らかである。たとえば、経営悪化を理由とする整理解雇についてはいわゆる四要件を満たすことが必要とされ、企業による身勝手な解雇を規制し労働者を保護する法理が最高裁の判例として裁判上確立している。ところが右二法案を悪用し、不採算部門を切り離し不採算部門を承継した会社で大規模な整理解雇が行われるおそれがある。また、気に入らない労働者を会社外に追い出すために会社分割が悪用される危険性もある。
EUでは、一九七七年のEU指令(一九九八年一部改正)において既に、営業譲渡を含む企業移転における労働者保護のための規定を設けている。たとえば、@ 企業主体の変更を理由とする解雇の禁止、A 労働契約の承継と一切の不利益変更の禁止、B 労働者代表への情報の公開と「合意を目的とする」協議義務(誠実協議義務)などが明記されている。この指令は、企業・事業の全部・一部の譲渡、合併その他経済的実体の移転すべてに適用されるものとされ、これによって労働者の保護が図られている。このようにヨーロッパ各国では解雇規制、労働者保護の規定が整備され、これがいわば国際的水準となっており、労働者の保護規定抜きで資本の利益のみが法定されるのは国際的に見ても「特異」でさえある。労働契約承継法については最小限でも右のような規定を盛り込むことが必要である。五四〇〇万人労働者の生活と権利に関わる重大な法案であるにもかかわらず、審議は駆け足で行われ尽くされていない。我々は、このままでは右二法案を成立させることは絶対に容認できない。参議院では審議を尽くし、せめてEU指令の水準に修正することを強く求める。同時に、企業組織再編に伴う労働者保護のための包括的かつ抜本的な立法を求める。
我々は、さらに、労働者の権利を侵害するリストラ合理化攻撃に対して今後とも法廷の内外において旺盛に権利擁護の闘いに取り組むものである。
右決議する。
二〇〇〇年五月二二日
自由法曹団二〇〇〇年研究討論集会