<<目次へ 【決 議】自由法曹団
一 本年五月一一日衆議院本会議において、少年法「改正」法案の趣旨説明が行われ、法務委員会において審議が開始された。法務委員会では、少年問題に関する小委員会が設置され、議論が行われている。
今回の審議入りは、本年四月五日の名古屋市の男子中学生らによる五〇〇〇万円恐喝事件、同年五月一日の愛知県豊川市の高校三年男子生徒による主婦刺殺事件、同年五月三日の佐賀市の一七歳の少年によるバスジャック事件等を契機とするもののようである。この間、少年による重大事件が起きるたびに少年法「改正」が浮上するということが繰り返されてきたが、今回の「審議入り」では、単に少年法「改正」法案の討議をするというにとどまらず、刑事罰適用年齢の引き下げや少年法の理念の変更、厳罰化等の議論がなされており、新たな重大な問題を含んでいる。
二 少年法「改正」を推進しようとする議論は、結局のところ、少年が引き起こした事件の原因、取られるべき対策等十分な検討もないまま、単純に厳罰化すればよいとの主張につきるものであり、少年犯罪についての特質を無視した見せかけの「社会防衛」論というほかない。
少年の逸脱行動としての犯罪はしばしば成長発達途上の一過性のものであり、少年の可塑性に着目した対策が必要である。犯罪を犯した少年の具体的状況に即応して人間諸科学の成果を活用し、専門家の知識の助けを借りながら問題の解明をすることにより、少年の社会化、社会への統合、更正をはかることが求められる。そして、そうした過程を通じてこそ、「立ち直る意欲」を喚起し、結果として最も効果的な社会防衛になるものである。少年非行防止のための国連ガイドライン(リアドガイドライン)もまさにこの見地に立つものであり、現行少年法の先駆性はますます明らかになっている。
アメリカでは約二〇年前厳罰化に転じて以降、刑事罰適用年令も選挙のたびに下げられていったが、これによって少年犯罪が鎮静したということは全くなく、かえって銃器使用や麻薬による凶悪犯罪が激増している。少年厳罰論は単にアメリカの二の舞となるものでしかない。このような風潮を安易に助長させてはならない。
三 もともと少年法は、およそ一〇〇年前アメリカにおいて最初に制定されたものであるが、それまで特別の処罰規定がなかった少年に対し、そのままでは一生社会の落伍者としての烙印を押すことになり、結果として犯罪の増大という社会全体の不利益を招いたことからこれに対する効果的な対処としてつくられたものであった。日本において戦後制定された現行少年法は、この成果を引き継ぎ、それまでの検察官先議を廃止し、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識に依拠して、少年非行を家庭裁判所での審理に委ね、非行を犯した少年の問題点を科学的に解明して、その立ち直りを促し、「健全」な成長発達を保障していこうとしたものであった。この先駆的意義を持つ現行少年法の理念は現在においても生かされるべきであり、更に発展させるべきものである。自由法曹団は少年法の改悪、処罰の低年齢化、厳罰化に反対する。強化しなければならないのは、、近年の少年犯罪の動向、その原因及び対策等さらには子どもをめぐる社会の状況、親・教師・地域社会の問題などを明らかにし、子どもの心の問題を一層深く解明して、専門家を含めた行政による支援体制の確立など緊急の取り組みを行うことである。
右決議する。
二〇〇〇年五月二二日
自由法曹団二〇〇〇年研究討論集会