<<目次へ 【決 議】自由法曹団
一、森喜朗首相は、本年五月一五日、神道政治連盟国会議員懇談会(会長綿貫民輔)の会合で挨拶し、「今の私は政府の側におるわけですが、若干及び腰になるようなことをしっかりと前面に出して、日本の国、まさに天皇を中心にしている神の国であるぞということを国民のみなさんにしっかりと承知していただく。その思いで我々(連盟)が活動して三〇年になった。」と述べた。
二、日本が天皇を中心とする神の国であるとする右発言は、国民主権を明記した日本国憲法に真っ向から反するものである。憲法尊重擁護の義務(憲法第九九条)を負う首相が、こうした憲法と全く相反する思想を「しっかりと前面に出し」、「国民のみなさんにしっかりと承知していただく」と述べたことは、極めて重大であると言わなければならない。
大日本帝国憲法は、その告文において天皇が神たる地位の正当な承継者であるとして天皇の名において憲法の施行を宣言し、本文において天皇が主権者であることを明示した。そして戦前、日本が「天皇を中心とする神の国であるとする思想」は、一方で教育勅語などを通じ天皇のために命を捧げるよう国民を思想統合し、他方で神国日本は世界制覇の資格があるとして、軍国主義と侵略戦争の精神的支柱となり、日本国民とアジア諸国民に重大な惨禍ををもたらした。
そこで、日本国憲法は、この思想と永久に決別し、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないよう決意し、」「主権が国民に存する」(前文)ことを宣言したのである。今回の森首相の発言は、日本国憲法の基本原則を乱暴に踏みにじり、戦前の思想に回帰しようとするものであり、断じて許されてはならない。
また、憲法二〇条は、信教の自由を定めるとともに国の宗教教育、宗教活動を禁止し、国による特定宗教の助長、促進、特恵取り扱いなどを禁止している。森首相の発言はどの様に言い訳をしても神道思想に基づくものであることは明白であり、この点でも憲法の趣旨に反している。
三、しかも、重大なことは、今回の発言が森首相の一貫した政治信条に基づくものであるという点である。
このことは、マスコミを初め国民が批判の声を上げてもなお、誤りを認めず、発言を撤回しないことに端的に示されている。また、森首相は、戦前の「教育勅語」の復活を繰り返し述べているし、村山元首相が在任中おこなった談話の継承を拒否して、日本が侵略戦争を行ったという歴史事実を認めていない。今回の発言が偶然ではなく、森首相の天皇中心の歴史認識と国家観に基づいてなされたことは明らかである。
このような政治信条の持ち主は、日本国首相の地位につく資格に欠けると言わざるを得ない。
四、今回の発言に対し、国内外から、強い批判と首相としての資質を疑問視する声がわき起こっている。とりわけ、アジア諸国から警戒と批判の声が挙がっている。
今回のこのような憲法原則を否定する重大な発言があったときに一時の批判だけで終わらせてはならない。森首相は日本国民に対してきちんと責任を明らかにすべきである。
自由法曹団は、国民とともに今回の発言の責任を徹底的に追及するものであり、森喜朗首相の即時退陣を強くもとめるものである。
二〇〇〇年五月二二日
自由法曹団二〇〇〇年研究討論集会