<<目次へ 【決 議】自由法曹団


出し平ダムの排砂に住民参加と必要な措置を求める決議

一 かつて日本一の清流を誇った黒部川は、日本初の排砂ゲートを持つ関西電力の出し平ダムにおいて一九九一年一二月から九九年九月まで八回実施された排砂は、ドブ臭を放つ膨大な量のへドロと木くず等が流下させ、イワナ・ヤマメ等の川魚や水生昆虫の死滅、コアジサシ営巣地の破壊など流域生物に重大な影響をもたらしただけでなく、富山湾にも流入し、ワカメなどの海藻類を壊滅させるなど深刻な被害を生じさせた。
 それにとどまらず、このへドロと木くずは、黒部川沿岸海域の起伏ある海底のくぼみに分厚く堆積し、そこを格好の住処としていたヒラメ等底物と言われる魚類、車海老、貝等の底生生物の生息環境を破壊した結果、これらの漁獲は激減し、「きときと」(富山弁で「新鮮」)で有名なこれら魚種を採取して生計を維持してきた刺し網漁漁業従事者等の生活を破壊した。

二 これに加え、建設省は出し平ダムの下流に、同様の排砂ゲートを持つ宇奈月ダムを建設し、今年二月から試験湛水をはじめたが、本来同ダムは湛水を始めたばかりで土砂の堆積はなく、排砂の必要性は全くないにもかかわらず、八月までに一定流入水量があれば出し平ダムと連携して排砂を行うことを予定していた。幸い本夏の小雨のため実施はされなかったものの、宇奈月ダムは広大な流域面積を有する支流黒薙川を受け入れており、出し平ダムとは別個にへドロの原因となる落葉・朽木等の有機物を蓄積し、あらたなへドロ排出源となる可能性が極めて強い。
 連携排砂計画が決定されるまでに、ダム底質や沿岸海域におけるヘドロの堆積状況の詳細な調査などは行われておらず、これら調査や排砂について流域住民や被害を受けた漁業従事者の意見は聞かれていない。このような建設省の姿勢は、環境と被害者に対する配慮と科学的な態度を欠くものとして厳しく批判されなければならない。

三 これら排砂に伴い漁業従事者が被った損害について、関西電力は九六年に富山県漁業協同組合連合会(「県漁連」)と交渉を行い四〇億円以上の補償金及び漁業振興対策費等を支払ったが、県漁連は、直接被害を被った漁業従事者にはそのうち五億円弱しか渡さず、多くを直接被害を受けていていない富山県内の漁協や周辺自治体に配分した。最も被害を受けた刺し網漁業従事者が補償の全容や配分状況等の報告を求めたにが、補償請求権を有するのは共同漁業権の主体である単位漁協であるとして、詳細の報告を拒否している。また、漁獲高の深刻な減少が生じ始めたのは九六年度からであるのに、それが顕在化する前に九五年七月以降将来蒙ることがあるべき一切の通常排砂による損害、損失補償金として前記金員を受け取っており、適正な補償交渉が行われていないことも重大な問題である。

四 自然環境はかけがえのないものであり、子孫から預かったものとして守り伝えるために最大限の努力が行われるべきことは言うまでもない。また、水質の汚濁と水底の底質の悪化によって被害をこうむったものがあればこれに対して適正な補償が行われるべきことは当然である。
 自由法曹団は、基本的人権をまもり、これが侵害される場合には、その信条・政派の如何にかかわらず、ひろく人民と団結して権利擁護のためにたたかう目的で結成され、これまで多くの公害闘争を闘ってきたが、ここ黒部川・富山湾の環境と漁業従事者の生活権を守るために、全力を上げて取り組むことを表明するとともに、建設省、富山県、県漁連、単位漁協、関西電力等の関係者に対して、次のことを要請する。

  1. ダム底も含め黒部川と周辺海域において、くまなく、水質、底質、生物など、排砂による環境影響・被害を徹底的に調査すること。
  2. 宇奈月ダムの排砂ゲートの常時開放(大量出水時のみ洪水予防のために湛水する)や、出し平ダムにおける小刻みな排砂等、環境に影響のない運用方法を科学的に検討すること。
  3. 既に川底、海底に堆積しているヘドロ・木くずを回収するか又は環境に影響のない物質に変化させるなど環境の回復措置をとること。
  4. 右調査・検討・措置の実施にあたっては、すべてこれを公開し、流域住民・漁業従事者など被害者の参加を認めること。
  5. 被害者の立場に立って被害を調査し、被害を受けた漁業従事者が適正な補償を受けられるようにすること

二〇〇〇年一〇月二三日
自由法曹団二〇〇〇年富山総会