<<目次へ 【決 議】自由法曹団


少年法「改正」審議の強行に反対する決議

一 自民党・公明党・保守党の与党三党は、@刑事罰対象年齢を現行の「一六歳以上」から「一四歳以上」に引き下げる、A一六歳以上で、殺人や強盗致死など「人の命を奪った行為」については、送致を受けた少年を家裁が「逆送」することを原則とする、B家裁の決定に不服がある場合、検察側に抗告受理の申立ができる制度を導入する、などとする少年法「改正」を国会で強行可決しようとしている。

二 そもそも現行少年法の原型は、アメリカにおいて成人の処罰法令が少年にもそのまま適用 されていたことの弊害を回避しようとして生まれたものである。これは、少年に犯罪者の「烙印」をおすことにより、少年の更生・健全成長に問題が生ずることから少年の再教育を理念として制定されたものである。この理念はいまなお有効であり、少年の更正は、現在の家庭裁判所・少年院等の手続きの中で機能している。真摯な反省を求め、更正のための厳しい教育を受けさせることが少年にとって真にきびしい「処分」なのである。これに対して全力を尽くして少年の更生のための教育をすることがおとなの責務である。「重罰」を科してこと足れりとするは安易であるばかりでなく、少年の真の教育にはつながらず、「社会防衛」にもならない。しかも、最近の動向を見ても年少者の犯罪数の傾向は横這いであり、心配されるような事態も生じていない。少年法「改正」法案をめぐる議論でも、すでに述べたように厳罰化をすることで少年非行は防止できないという議論も有力になりつつあり、法律改正により少年非行に対処することでは不十分であるとの認識が市民の間にも急速に広まりつつある。子どもに対する家族、教育、地域社会の総合的な体制の整備こそ早急に行うべきであり、これは、子どもの教育に携わってきた多くの教育者の一致した意見でもある。

三 今回の少年法「改正」は次にあげるような点でも重大な問題を有している。

  1. 刑事罰対象年齢の引き下げについては、引き下げによって一四・一五歳の少年についても逆送される可能性が生じることになる。しかし、逆送されて不定期刑を課されても義務教育年齢にあるため、処遇は一六歳までは少年院で教育的処遇を受けることになる(少年法「改正」案)。そして一六歳になると今度は少年刑務所に移されるのである。このような接ぎ木的制度では、少年院での教育は通常健全に更正させたうえで社会に送り出すことを想定してなされるものであるから、「改正」案では少年院での教育の目的が減殺される。また少年刑務所での処遇では、つとに指摘されているように周囲の悪影響を受ける度合いが大きいと見られることから、結局極めて中途半端な制度となる上、効果についても疑問であると言わざるを得ない。
  2. 原則逆送の導入については、この間、岡山の金属バット事件や山口の母親殺害事件で裁判所は少年を逆送せず、少年院送致の審判を行っている。今回の「改正」案では、上記の事件についてこのような裁判所の審判を許さず原則として逆送させることになる。 裁判所の審判は、犯罪を犯した少年を更生させた戦後の経験の蓄積の中でこのような少年であっても少年院の教育の中で立ち直りうると判断している。こうした実状を無視して政治の力で無理矢理この判断を覆そうとしているのが今回の少年法「改正」である。このように裁判実務の蓄積の中で出されている合理的な判断が不合理であるという以上少年院の教育ではなぜ不十分なのか相応の根拠を示して法改正の提案をすべきである。根拠なしに、しかも拙速に制度を根本的に変更することは子どもに対する社会の責任の放棄と言わざるを得ない。
  3. 検察側に抗告受理申立権を与えるとしている点についても、すでに廃案になった「改正」案で「抗告権」とされていたものが今回の「改正」案では「受理申立権」となったがその弊害は同じように生じる。受理申立に対する判断は、二週間以内に行わなければならず、結局詳しい検討をしないまま申し立てをすることになる可能性が高い。検察側の上訴権については、成人の刑事事件においてすら被告人の人権は踏みにじられている。まして日々成長発達する少年にとって審判が長期化することによる弊害は測り知れないものがある。

四 与党三党は、このたび少年法「改正」法案の審議を急ぎ、三党のみで委員会採決を強行した。しかも、今回の少年法「改正」案では、@刑事罰年齢の引き下げや、A原則逆送の導入など少年法の基本理念に対する重大な変更について、法制審議会での議論も経ず議員立法として提出するもので手続上も重大な疑念がある。
 自由法曹団は、法案の内容および右のような審議の強行にも断固として反対する。
右決議する。

二〇〇〇年一〇月二三日
自由法曹団二〇〇〇年総会