<<目次へ 【決 議】自由法曹団
二〇〇一年二月、長野県知事は、未来の子孫に残す資産としての河川・湖沼の価値を重視し、出来る限りコンクリートのダムを作るべきではないとの趣旨の「脱ダム宣言」を発表した。
今、我が国で計画され、建設されつつあるダム・堰・潮受け堤防等(以下、ダム等という)の中には、その目的が不明確であったり、環境に悪影響を及ぼすおそれがあると指摘されるものが多い。
ダム等に依拠した我が国の河川行政により、ダム堆砂・水質の悪化・河川流量の著しい現象又は消失・海岸線の後退など、河川・海岸の荒廃や環境の悪化がもたらされた。その結果、自然生態系が破壊され、漁業等水産業は打撃を受け、住民はダム水害等の被害を受けてきた。
一方、ダム等の建設には巨額の費用を要するところから、国や地方公共団体の財政に重大な影響を及ぼし、ダム等の建設は我が国の未曾有の財政赤字の主要な原因の一つとなっており、国民からの強い批判の対象となっている。
例えば、諫早干拓事業が深刻な自然生態系の破壊と、漁業等水産業への打撃を与えたうえに、これが無駄な事業であったことは国民の目に明らかになりつつある。
このような環境の悪化をもたらし、我が国の財政を破綻させるダム等の建設の中止を求める国民の闘いが各地で展開されている。また、既存のダムの撤去を求める運動も始まりつつある。
アメリカ・オランダ・ドイツ等の国々においては、すでにダム等に依拠する治水の見直しが始まっている。自然生態系を復活させるためにダムを撤去し、水門を開放し、あるいは水を堤防の中に閉じ込めるのではなく、氾濫原や調整池などを復活するなど、総合的な治水対策の検討がされ、実施に移されている。
我が国には江戸時代まで、森林や水田・ため池を利用した伝統的な治水対策がとられてきた。ダムに依拠した治水対策がとられるようになったのは、たかだかここ百年以内に過ぎない。
未来の子孫に莫大な借金と破壊された自然環境を残すのか、健全な財政と豊かな自然環境を残すのか、今決断を求められている。私たちは、多くの国民と共に、我が国のダム等に依拠した治水政策の抜本的な変更を求める。そのために、国・地方自治体・大学その他の緒研究機関・国民が、広く我が国の歴史と伝統をふまえた、総合的治水対策のあり方について、早急な調査・検討並びに具体的対策の策定を行うよう提起し、現在計画中または建設中のダム等については、これを一旦白紙に戻し、抜本的な再検討をなすこと、既存ダム等については自然生態系に対する影響・漁業等水産業に及ぼす諸々の影響を調査検討し、必要に応じダム等の撤去・水利権更新の拒絶などの対策を講じること、あわせてこれらの実施に移すための立法(条例制定)の措置を講ずるよう、関係機関に求めるとともに、これらの実現のために、多くの国民と共同し、全力を尽くすものである。
上記 決議する。
2001年5月21日
自由法曹団2001年研究討論集会