<<目次へ 【決 議】自由法曹団
1 文部科学省は、2001年4月3日、来春から小中学校で使われる教科書の検定結果を発表した。「新しい歴史教科書をつくる会」(以下、単に「つくる会」という。)が主導して編集し、扶桑社が出版する中学の歴史と公民の教科書も、検定意見がついた137項目、99項目をそれぞれ「修正」し合格した。
2 合格した「つくる会」の教科書は、基本的に、申請本の内容が維持されており、以下のとおり、一言で言えば、反憲法的であり、憲法改悪を先取りする内容になっている。
第1に、歴史教科書において、日本の韓国の併合、中国への侵略、そして、侵略戦争を「大東亜戦争」と呼称することに端的に見られるように、これを正当化している。また、公民教科書においても、国防義務を強調し、口絵に自衛隊の写真を数多く掲載するなど、戦争そのものを賛美している。
「つくる会」の教科書の内容は、憲法前文及び憲法第9条に定めた平和主義の原理に根本から反している。
第2に、歴史教科書において「神武天皇の東征伝承」を掲載するなど神話を史実と描き、教育勅語を「近代日本人の骨格をなすもの」とし、公民教科書においても「天皇を精神的な中心として国民が一致団結して、国家的な危機を乗り越えた」とするなど、日本を他国に優越した民族とし、天皇が絶対的権力を有していた戦前の制度を美化している。「つくる会」の教科書の内容は、憲法前文及び憲法第1条に定める国民主権原理に根本から反している。
第3に、史実として描いていることに多くの誤りがあり、教科書としての体裁をなしておらず、中学生が学ぶものとしてふさわしくない。子どもたちの教育を受ける権利が阻害される教科書というべきであり、国際社会の中で子どもたちが生きていくことを困難にするものである。
3 以上のように、「つくる会」の教科書は、日本国憲法の基本的原理である基本的人権の尊重、国民主権、平和主義を真っ向から否定し、大日本帝国憲法に回帰するともいうべきものである。中学生がかかる教科書で学ぶことを許容することは、日本国の子どもたちの未来にとって重大な危機をもたらすものと言わざるを得ない。
また、日本政府が侵略戦争と植民地支配を美化した「つくる会」の教科書を合格させたことは、日本政府が検定基準の一つにしている「近隣諸国条項」にも、植民地支配と侵略に痛切な反省を表明した1995年の村山首相談話、98年の日韓共同宣言など、日本の対外公約にも明らかに反している。
こうした「つくる会」の教科書の検定合格に対して、国内外で批判の声が沸き起こっている。
とりわけ、韓国政府の「つくる会」教科書の是正要求や中国政府の同教科書検定合格に対する怒りの表明など、アジア諸国から痛烈な批判が巻きおこっている。
4 教科書の採択は、従来、学校、教員の意思に基づいて各自治体の教育委員会で行われてきた。これに対し、各地で、「つくる会」や自民党議員などは、学校・教員の意思を無視して教育委員会に「つくる会」の教科書を採択させる動きを強めていることは重大である。
今年7月或いは8月に集中的に各教育委員会で教科書の採択が行われる。
憲法違反、国際公約違反の教科書の採択を許さない国民的世論と運動を全国各地で起こし、その声を各教育委員会に集中することが緊急に求められている。自由法曹団は、この国民的運動の一翼を担って奮闘する決意である。
上記 決議する。
2001年5月21日
自由法曹団2001年研究討論集会