<<目次へ 【決 議】自由法曹団
1 政府は「有事法制」関連3法案(戦争動員法)を今国会に提出し、国会の内外で、日本の進路をめぐって重要な論議となっている。有事法制は「戦争法制」である。わが国は、第二次世界大戦の惨禍とアジア諸国の罪なき人々への殺戮に対する反省のうえに、憲法で国際紛争の解決手段としての武力の行使とその威嚇を禁じ、戦争放棄を誓い、今日まで平和を貫いてきた。その日本の国のあり方を根本から覆し、日本を再び「戦争をする国」にするのが「有事法制」である。このような「有事法制」の成立に自由法曹団は断固反対する。
2 有事法制関連3法案(武力攻撃事態法案、安全保障会議設置法「改正」案、自衛隊法「改正」案)の内容は、アメリカの行なおうとする戦争に国民を強制動員する、「国家総動員法」の復活にほかならない。
第1に、有事法制が発動される「武力攻撃事態」には「武力攻撃のおそれのある事態」「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」も含まれるとされ、その範囲は極めて曖昧かつ無限定である。政府は「周辺事態」にも広く有事法制が発動されることを認めており、アメリカの行なう戦争に日本が参戦するための法制というねらいは明らかである。
第2に、法案は労働者・国民を戦争に強制的に動員する内容を含んでいる。
「武力攻撃事態」法案は、地方公共団体や指定公共機関に「武力攻撃事態への対処に関し必要な措置を実施する責務を有する」と、戦争協力義務を明記している。すべての都道府県、市町村自治体と国民生活に密接に関わる民間企業(「指定公共機関」)が首相の統制下に置かれ、これら機関の職員は、行政措置・業務命令により戦争に動員されることとなる。
また、法案は、一人一人の国民に戦争協力の努力義務を課し、一片の公用令書の交付で、事前の告知・弁解・防御の機会を保障することなく、陣地構築、軍事物資の確保のための私有財産の収用・使用、輸送・治療・土木建設関係者への業務従事命令、交通・通信・経済等の国民生活の規制を行なうことができるとし、保管命令違反・立入検査拒否には刑罰を科すとする。国民はその意思に反して強制的に戦争に動員・協力をさせられ、思想良心の自由、幸福追求権、意に反する苦役の禁止、財産権、平和的生存権等、憲法が国民に保障する基本的人権は戦争協力のために徹底的に蹂躙される。
第3に、法案は、報道機関を指定公共機関として、戦争協力義務を負わせ統制下に置こうとしている。政府は、今国会に提出している個人情報保護法案・人権擁護法案でもメディア規制の意図を顕わにしており、真実を国民に伝えようとする報道の自由を抑圧する意図は明白である。政府がメディアを統制管理し国民の知る権利を奪うこれら法案は民主主義の基盤を崩壊させるものである。
第4に、法案は憲法の定めている民主的統治構造を破壊する。
「武力攻撃事態」の認定権は政府に属し、対処権限は首相に集中される。国会には有事法制発動の事前承認権もなく、個々の対処措置に対する国会のコントロールが働かない危険性が高い。法案には、憲法の定める地方自治の本旨に明確に反する、首相の地方公共団体に対する指示権・直接執行権も規定されている。有事法制発動により、政府がアメリカの戦争に追随して憲法違反の戦争行為に突入することを誰も止められなくなってしまうのである。
3 平和憲法の理念は国民の圧倒的な支持を得ている。世界各地で「暴力の連鎖」が発生しているいまこそ、日本国憲法の誓った平和の道が、世界の希望となり課題となっている。
今回の有事法制問題はアメリカの強い要求によって浮上したものであり、「悪の枢軸」を叫び戦争の拡大を企てるブッシュ政権に追随して米軍の戦争に加担しようとするものであることは明らかである。日本がブッシュ政権の武力侵攻に加担して、再びアジアの民衆に銃を向けることを断じて許してはならない。
4 有事法制に対する反対・憂慮の声は国民各界で日増しに高まっている。三重県議会をはじめ地方自治体からも反対の決議や見解が相次ぎ出されている。政府与党が国民世論を無視して採決を強行することは断じて許されない。自由法曹団は憲法違反の有事法制3法案の廃案を強く要求する。そして平和を希求する広範な国民とともに、全力をあげて廃案のために奮闘するものである。
上記、決議する。
2002年5月27日
自由法曹団2002年研究討論集会