<<目次へ 【決 議】自由法曹団


米国のイラク復興人道支援室(ORHA)に日本の政府職員を派遣することに反対する決議


 日本政府は、4月18日、フセイン政権崩壊を受けて、暫定的にイラクの行政機能を担うイラク復興人道支援室(ORHA)へ政府職員や民間人を派遣することを決定した。

 しかし、ORHAは、国連憲章違反の無法な戦争を行った米国が、その戦争を継続しているさなかに、イラク全土を軍事占領するための米国防総省の組織である。その軍事占領組織に国際法的な根拠がないことは言うまでもない。
 米国は、世界中の人々があげている戦争反対の声を踏みにじり、英国とともに、国連決議なしでのイラク攻撃を開始した。しかも、開戦にあたって、米国はその戦争目的を大量破壊兵器の廃棄からフセイン政権打倒にすり替え、戦後はイラクを占領下において親米政権を樹立することをあけすけに語った。米国のイラク戦争が、イラクの国家主権を侵害する侵略戦争であることは明白である。
 この戦争によって、罪のないおびただしい数の市民や兵士が犠牲となり、イラクの国土が容赦なく破壊された。米英軍の爆撃には、巡航ミサイルのほかにクラスター爆弾、劣化ウラン弾、ディージーカッターなどの残虐兵器も数多く使用され、イラク市民の死者は1600人を超え、負傷者は5100人に達すると言われている。負傷者を収容する病院や医薬品が足りず、電気や水道も使えないという悲惨な状況も伝えられている。
 そして、いま、米国は侵略戦争の目的を果たすためにイラクを軍事占領しようとしている。日本がこの軍事占領に要員を派遣することは、侵略戦争の支持に続き、米国の無法な戦争への加担をさらに拡大させるものであり、断じて許されるものではない。

 日本は、過去の侵略戦争の歴史的反省にもとづき、一切の戦争を放棄し、その趣旨を徹底するために、戦力を保持しないこと、そして、交戦権を認めないことを日本国憲法に定めている(憲法9条)。憲法にいう「交戦権」には敵国領土の攻撃、船舶の臨検・拿捕のほかに占領地の軍事占領も含まれる。
 「交戦権」に関する政府解釈も、憲法第9条2項の交戦権とは、「戦いを交える権利という意味ではなく、交戦国が国際法上有する種々の権利の総称」をいうとされ、相手国の領土の占領、そこにおける占領行政などを例示しているが、当然のことである(1980年5月15日の衆議院稲葉誠一議員質問主意書に対する内閣の答弁書)。
 したがって、日本が米国の軍事占領に要員を派遣することは、それが文民であっても憲法が禁じている交戦権の行使に他ならない。
 米英軍の攻撃によって、国土が破壊されるとともに政権が崩壊して無政府状態のイラクに対しては、むろん、戦後の人道・復旧支援が必要である。しかし、その支援は国連を中心とした国際社会全体で担うべき問題である。侵略目的でイラクに侵攻した米英軍は直ちに戦争を中止してイラク領土から撤退すべきであり、イラクにおける暫定的な統治機構が必要であるとしても、それは国連を中心に組織されるべきである。

 自由法曹団は、日本政府が米国のイラク復興人道支援室(ORHA)に、政府職員を派遣することに断固反対するとともに、米英軍が直ちに戦争を中止してイラク領土から撤退することを求めて、平和を願う世界の人々とともにたたかうものである。

2003年4月19日
自由法曹団常任幹事会