<<目次へ 【決 議】自由法曹団
司法制度改革は折り返し点を過ぎ、最終段階へと歩を進めつつある。
これまでに法科大学院関連三法・裁判迅速化法・仲裁法・弁護士法改正等の立法が行われた。来年度は「三年」と区切られた司法制度改革の最後の年であり、次期通常国会に裁判員制度を含む刑事司法関連法案・弁護士報酬の敗訴者負担関連法案・労働裁判関連法案等の提出が予定されている。
今次司法制度改革は、国民生活を顧みることなく「構造改革」を推進し、明文改憲を政治日程にのせることを言明している小泉首相が本部長となって進められている。たとえば裁判迅速化法は、国民の声をききながら検討会で制度設計をするというルールを無視して、立法事実もないまま、首相からの指示で法案となったものであるが、審理の「充実」よりも「迅速化」に価値をおく基本構造をもち、国民の裁判を受ける権利を脅かすおそれがある。今後具体的な裁判闘争において、この法律が裁判弾圧法として使われないよう附帯決議も活用して歯止めをかけていかなければらない。
最終段階に向かう司法制度改革は、財界からの安上がり司法の要求、社会秩序維持の観点からの司法の再編強化という性格を一層強めている。国民の裁判を受ける権利の充実化よりも、紛争処理機関の「民営化」、司法修習生の「給費制」の見直しの動き、「迅速」の名のもとでの裁判手続きの「効率化」「権利制限化」への傾きが強まっている。警察庁が、本年8月に、有事3法が成立したことを受けて、「緊急治安対策プログラム」を発表した。ここには治安基盤の確立の方針として、今後3年を目途に地方警察官の1万人増員を図ること、10年間で2倍化した被留置者を収容するための留置場(代用監獄)を積極的に建設する旨が述べられている。治安機関としての司法の強化の動きである。
このように、人権と民主主義の守り手としての国民のための司法改革を実現する道は険しいものがあるが、今次の司法改革は国民の声をきいて進めるという基本ルールがある。決め手は主人公である国民である。現にこの間、国民の要求を汲み上げた取り組みにより、裁判所人事への国民の関与を開いた裁判官指名諮問委員会の設置・仲裁法における労働契約及び消費者契約の除外・司法制度改革推進本部の検討会議事録の顕名化等貴重な成果が得られてきた。これからの立法課題の中でも、こうした成果をさらに追求していこう。
団は、「官僚的司法制度」の弊害を指摘し「司法の民主化」を求めて、国民的運動を呼びかけるとともに制度設計にあたっての提言を行ってきた。「官僚司法」への批判・「司法の民主化」という観点から、司法制度改革が最終版を迎えるにあたって、特に以下の五点が重要であることを確認する。
(1)国民の裁判を受ける権利を妨げる「弁護士報酬の敗訴者負担制度」を導入しないこと。
(2)刑事司法改革に関して、
i 被告人側への争点明示義務とこれを前提とした事後の主張立証制限、弁護人不出頭の場合に職権により弁護人を付する制度、裁判所の訴訟指揮権の強化と弁護人への制裁制度等、被告人の防御権・弁護人の弁護権を侵害する制度の導入を許さないこと。
ii 公判段階での直接主義・口頭主義の実質化、証拠の全面開示、取り調べの可視化、被疑者被告人の早期の身柄解放と代用監獄の廃止等、諸制度の改善を実現すること。
iii 「裁判員制度」において、裁判官に対して人数比で3倍以上の裁判員を配置する制度を実現すること。
(3)労働裁判改革に関して、
i 簡易迅速な紛争解決手段として構想されている「労働審判制度」を、労働者の紛争解決手続きにおける負担を軽減し実効性ある救済を図る制度として実現すること(審判申立権を労働者のみに付与すること、審判員の公平・公正な任命、対象事件を「個別的労使事件」とすること等)。
ii 労働参審制の早期導入に向けて具体的な制度設計を進めること。
(4)リーガルサービスセンター構想等に関して、
弁護士自治が後退させられることのないよう制度設計を行うこと。
(5)司法の位置づけ・司法予算等に関して、
裁判官、検察官や関係職員を大幅に増員し、また司法予算を大きく拡大すること。
司法制度改革は、広く国民の声に基づいた形で制度設計が行われるべきである。司法制度改革推進本部・法務省・国会は、国民の声をすくい上げる努力をするとともに、その声を真摯に受けとめて制度設計を行うべきである。そのようにしてはじめて、国民的基盤の上に新しい司法制度を構築することが可能となる。
今次の司法制度改革の仕上げの年として、これからの一年はとりわけ重要な年となる。
私たちはここに、国民のための司法を実現するため、引き続き全力を挙げて奮闘する決意を表明するとともに、広範な国民的運動を多くの人びとともに各地で巻き起こすことを重ねて呼びかける。
以上、決議する。
2003年10月25日
自由法曹団2003年総会