<<目次へ 【決 議】自由法曹団


男女のコ−ス別是正を求めた兼松の賃金差別事件是正の請求を棄却した東京地裁民事19部の不当判決に抗議する決議


1、去る11月5日、東京地裁民事19部は、男女別コース人事制度は違法として提訴した兼松男女賃金差別事件について原告等の請求を全面的に棄却した。

2、判決は、被告が企業としての労務管理を行うため、「主に困難度の高い業務に男性を従事させ、将来幹部社員に昇進が予定されるものとして、男性社員を処遇し、・・・主に困難度の低い業務に従事するものとして女性社員を処遇し、・・・」「男女別の募集採用をし、男女のコ−ス別を採っていたもので、これに伴う賃金格差が生じた」と認定している。そして、「これら男女別コ−ス採用、処遇は、法の下の平等、性差別を定めた憲法14条の趣旨に違反するが、直接労基法3条、4条に違反せず」、原告等6名の採用当時(1957年〜82年)にあっては公序に反しないとした。

3、そして、1985年に被告が導入した職掌別人事制度は、男女コース別の処遇を引き続き維持するものであるが、1985年制定の旧均等法は配置、昇進の差別について努力義務に止めており、旧均等法が制定、施行されたからといって、男女のコース別処遇が公序に反するとまではいえないと判断し、改正均等法(1997年6月制定、1999年4月施行)は配置、昇進差別を禁止しているので、この段階において違法となるが、会社が1997年に改定した職掌転換制度は本人の希望と一定の資格要件を満たせば、職転換が可能となるから、会社の賃金体系は公序に反する違法な女性差別であるとはいえないと判断した。更に57歳定年を60歳定年と引き替えに55歳からの男女一律の20%カットは女性の差別された賃金を更に引き下げるものとして違法との主張についても、判決は、公序違反でなく、労働協約は原告に及び、就業規則の変更にも合理性があると判断した。

4、以上のような東京地裁の判決は、何よりも憲法14条を無視した判決である。憲法は国の基本法である。基本的人権を守らねばならぬ裁判所において、憲法違反の男女差別を、合理的と認定することは、女性の人権を踏みにじる以外の何物でもない。

5、雇用における男女差別事件は、1960年代後半以降、結婚退職制、若年定年制事件の判決をはじめ、1981年には、日産自動車事件について最高裁は、男女5歳差の定年差別は違法と判断した。そして、 昇格差別についての2000年の芝信用金庫事件東京高裁判決、2002年最高裁和解などにみられるように、司法は、立法の不備を補い、性差別の是正と救済を前進させてきた。しかし、1985年の均等法制定に対処して男女別賃金を引き続き維持するために多くの企業が導入したコース別人事制度のもとで男女間賃金格差は拡大しており、ILOの100号条約勧告適用専門家委員会や国連女性差別撤廃委員会からも、わが国のコース別雇用管理の問題について懸念が表明されている。コース別の名による男女賃金格差の解消はわが国の男女賃金格差是正の最大の課題の一つである。

6、性の違いによる雇用差別は、人間の尊厳を踏みにじるものである。自由法曹団は創立以来82年、基本的人権を擁護し、人間の平等を確立するために闘ってきた。
 憲法に違反する男女差別を合理的と認定した東京地裁民事19部の兼松事件判決については、断固抗議し、司法の分野において、基本的人権の確立に寄与することを求めるものである。

2003年11月15日
自由法曹団常任幹事会