<<目次へ 【決 議】自由法曹団


《資料》一九九八年東京平和アピール

アジア・太平洋の民衆の共同の努力で、共生と連帯に基づく平和を創造しよう!

  1. 二〇世紀は戦争の世紀であった。それは二〇世紀の戦争による死者が一億六〇〇〇万にのぼるという事実に端的に示されている。アジア・太平洋地域も例外ではなかった。日本帝国主義が引き起こしたアジア太平洋戦争が終結した後も、朝鮮戦争と二度にわたるインドシナ戦争などがたたかわれた。
     われわれは二一世紀を迎えようとしている。われわれは日本が侵略戦争と植民地支配の誤りを認め、「従軍慰安婦」問題などの重大な人権侵害に対する心からの謝罪と償いをしなければならないことを確認する。また、われわれは最終的に戦争システムを廃止することが、アジア・太平洋の民衆の共通の切実な願いであることを確認する。

  2. 日米両政府は、昨年九月に「日米防衛協力のための指針」(以下、「新ガイドライン」という)を発表し、アジア・太平洋において、同地域におけるアメリカの核戦略を前提に、日米共同での武力による威嚇・武力の行使・戦争遂行の体制を築こうとしている。
     新ガイドラインが、先に述べたアジア・太平洋の民衆の切実な願いやASEANなどの平和への努力に敵対し、中国政府やアジア・太平洋の民衆が憂慮するように、朝鮮半島や台湾海峡などに新たな緊張をもたらすことは確実である。
     新ガイドラインは、アジア・太平洋の民衆と国際社会に対する不戦の誓いであった日本国憲法第九条を空洞化させるものである。そのうえ新ガイドラインは、国連憲章第五一条を逸脱し、「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇または武力の行使を……慎まなければならない」とした同憲章第二条第四項に違反する疑いがある。また、「核兵器の威嚇または使用は、武力紛争に適用される国際法、とりわけ人道法の原則および規則に一般的に反することになる」とした一九九六年七月八日の国際司法裁判所の判断を無視している点は問題である。
     新ガイドラインは、日本を含むアジア・太平洋の諸国民の間の信頼醸成を阻害し、同地域における民衆の平和のうちに生存する権利を脅かし、アメリカのアジア・太平洋における覇権を維持強化するとともに、日本がアメリカと共同してこの地域における覇権を追求するものである。
     したがってわれわれは、新ガイドラインに反対することをここに表明する。

  3. さきに引用した国際司法裁判所の勧告的意見は最後にこう述べている。「厳格かつ効果的な国際的管理のもとに、完全な核軍縮をめざす交渉を誠実に行い完了させる義務が存在する」。われわれは、率先してすみやかに核軍縮へ向かう義務を負っているアメリカと日本がその義務の履行を怠っていることを確認しつつ、今週核実験を行ったインド政府に対し抗議せざるをえない。核兵器の廃絶は、広島・長崎をはじめとするアジア・太平洋の被爆者の訴えおよびフィリピン憲法の非核条項に端的に示されているように、アジア・太平洋の民衆の切実な願いである。

  4. われわれは、平和とは何もしないで実現するものではなく、平和を侵す動きと常にたたかうことによってかちとられるものであることを確認する。
     したがってわれわれは、朝鮮半島の平和的統一をめざす韓国民衆のたたかい、基地供与をはじめとする米軍への防衛協力の復活に反対し「フィリピンを訪れる米軍の取扱に関する協定」の批准阻止をめざすフィリピン民衆のたたかい、二〇二〇年に東南アジア平和・自由・中立地帯の実現をめざすASEANの努力、アジア各地のNGOが取り組んでいる対人地雷禁止キャンペーンおよび海上基地建設に反対し沖縄からの米軍基地の縮小・撤去をめざす沖縄・日本の民衆のたたかいを支持し、連帯の意を表明するものである。
     同時にわれわれは、アジア・太平洋の各国政府が自国中心主義におちいらず、国際協力の強化と恒久平和の実現をめざしてたゆまざる努力をするように各国国民が積極的に働きかけることを、呼びかけるものである。

  5. われわれは、今年が世界人権宣言が採択されてから五〇年目にあたることに深く思いをいたし、平和が民衆の人権として保障されなければならないこと、すなわち、アジア・太平洋の民衆はもちろん、全世界の民衆が「恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利」を有することを確認する。
     われわれは、軍事力による威嚇や武力の行使によりもたらされる「平和」は、民衆の平和的生存権を侵害し、抑圧するがゆえに誤りであり、国家の安全保障は人間の安全保障へと転換されなければならないと考える。
     したがってわれわれは、アジア・太平洋の民衆の平和的生存権の保全を目的とし、共生と連帯の理念に基づくアジア・太平洋における平和の創造に取り組む決意をここに表明する。

  6. ユネスコ憲章が明らかにしているように「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和の砦を築かなければならない」。
     われわれは、アジア・太平洋の民衆の交流と対話の重要性を確認し、今後いっそうその促進を図るとともに、一九九九年ハーグ平和アピールに参加し、二〇〇一年に予定されている次回の国際シンポジウムに、もっと多くの国から、もっと多数の市民が参加するよう
    心から呼びかけるものである。

一九九八年五月一六日、東京において

自由法曹団、青年法律家協会学者・弁護士合同部会、日本民主法律家協会、日本国際法律家協会主催 
国際シンポジウム「日米新ガイドラインとアジア・太平洋における平和の創造
   ー 共生と連帯の二一世紀をめざして ー 」参加者一同