<<目次へ 【決 議】自由法曹団


「地方分権」一括法案・米軍用地特別措置法「改正」に反対する決議

  1. 政府は、本年三月二九日、「地方分権の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案」(以下「『地方分権』一括法案」という)を閣議決定し、今通常国会に提出し、会期を延長してまで成立を図ろうとしている。
  2. 法案は、地方自治法「改正」を軸に、全体で四七五の法律が改正の対象となっている。その規模は日本の法律全体約一六〇〇本中の三分の一に及ぶ大規模のものである。政府は、かかる大部の法案を、今後本格審議を始め、約四〇日間で一括して成立させようとしている。
     「地方分権」一括法案は、われわれ国民の生活に密接にかかわり、住民の権利や自治体の事務に多大の影響をおよぼす内容であるにもかかわらず、法案の全貌が国民に明らかにされたのはごく最近のことであり、地方自治体関係者はもちろん国会議員のなかにおいてさえ法案全体を読みとおした者はほとんどいないというのが実状である。
  3. 法案の形式や審議手続ばかりではない。その内容においても以下のように多くの問題を含んでいる。
     第一に、「地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持する」との文言に始る地方自治法二条三項の「地方自治体の事務の例示」を廃止しようとしている。この規定は国民・住民の地方自治制度における権利及び地方自治体の責務を明らかにしてきた極めて重要な規定であるにもかかわらず、廃止対象にされようとしている。
     第二に、機関委任事務にかわる「法定受託事務」は、「国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又は政令で特に定めるもの」と定義された結果、国が法律・政令で定めれば「法定受託事務」をいくらでも設けうることとなった。現実に約四〇パーセントが「法定受託事務」として残された。
     第三に、地方自治法「改正」によって国による様々な権力的関与の仕組が盛込まれている。権力的関与の象徴であり、現行法上、機関委任事務についてのみ可能とされている「代執行」が、本来地方自治体固有の事務というべき自治事務においてすら可能となっている。
     第四に、「自治事務」として国から地方公共団体に権限を移すに際して財源の移譲を伴っておらず、地方自治体により一層の財政負担とリストラを課すものとなっている。
     第五に、とりわけ米軍用地特別措置法「改正」については、絶対容認できない「改正」内容となっているのである。地域住民との調整をはかるために不可欠である土地の使用・収用に関する知事や市町村長の権限は奪いとられ、国の直接執行事務とされる。国(内閣総理大臣)の権限強化が図られている。特に看過できないのは、これまで米軍基地と全く関係のない新規の土地接収(収用)のための緊急裁決制度を創設するなど、米軍支援、周辺事態・有事を想定した戦争準備のための法整備という極めて危険な内容が含まれている。
  4. 自由法曹団は、憲法九二条の地方自治の原則に反し、地方自治体の戦争協力に道を開く「地方分権」一括法案に反対する。

一九九九年五月二四日
自由法曹団一九九九年研究討論集会