<<目次へ 【決 議】自由法曹団


国民総背番号制を目指す住民基本台帳法「改正」に反対する決議

 六月一五日、自民党は、自由党、公明党と連携のもとに衆議院における十分な審議を尽くすことなく住民基本台帳法「改正」案を可決し、参議院に送付した。同法案は、全国民に生涯不変の統一番号(住民票コード)を付すること、個人識別のカード(住民基本台帳カード)を発布することを基本的なポイントとしている。その狙いは一九六八年の佐藤内閣が「各省庁統一個人コード連絡研究会議」を設置し、国民番号と国民登録制の導入を目指して以来、何回となく試みられ、そのつど国民の強い抗議と反対によって阻止されてきた国民総背番号制の実現にある。行政官僚や財界の宿願に応えるものである。
 その内容は「地方公共団体共同の分権的システム」「国が管理するシステムではない」との自治省の説明とは全く逆である。全国民に重複しない番号を付するメリットは全国的な個人情報の一元的な連結にあることは言うまでもない。市町村長は本人確認情報(氏名、生年月日、性別、コード、その他)を電気通信回路を通じて知事に通知し、知事は磁気ディスクに記録したうえ、自治大臣が指定する情報処理機関(全国センター)の電子計算機に送信して通知する。これによって全国を網羅したネットワークが完成する。その各段階の事務遂行に利用でき、国の機関又は法人など所定の者からの請求によりこれを提供できる。共通付番が行政全般の汎用にあり、そのための情報提供であることは明らかである。
 すでに各省庁には独自の番号による個人情報がコンピューターに蓄積されている。大蔵省・国税庁が納税者の税務申告(KSKシステムで管理)、法務省が旅券発給や戸籍、前科、登記、警察庁が自動車の運転免許や前歴、郵政省が貯金や保険、運輸省が車両の登録、厚生省・社会保険庁が年金や保険などである。これを共通番号で統一することにより、全国センターに厖大な質量の個人情報が行政機関の掌中におさまる。そして相互に引き出しが可能となろう。
 住民基本台帳カードは本人確認情報を記録したICカードである。これによって災害等の安否確認、選挙人名簿の電算化、年金受給者の現状把握に役立つし、住民票の広域交付が容易になり、印鑑登録、施設利用(スポーツ、図書館など)の便益があり、写真などを貼って身分証明にも活用できるとされている。そこには大量の情報の書き込みが可能であり、血液型、DNA、家族、職歴、病歴など個人のプライバシーに関連する様々な情報の記入が想定されるのである。カードの取得は任意とされているが、選挙の本人確認、災害・緊急時の身元確認などの効用が喧伝され、国民が漏れなく申請せざるを得ない方向に誘導され、ついには外国人登録証に類する常時の携帯が当然視される事態ともなりかねない。コストの側面からも普及が督励され、いずれ民間取引にも汎用されるであろう。これまでも個人情報が行政機関や民間業者から流失してプライバシー侵害を引き起こした事例は枚挙にいとまがない。
 現行の「個人情報保護法」は行政機関の保有する情報の目的外利用が認められ、その濫用とプライバシー侵害を抑止するための有効な制度的保障はなきにひとしい。その法的整備が未然のままに今回の「改正」を先行させたのは異常というほかない。各省庁再編の前に自治省が権益確保を目指して立法促進に動いた疑いを抱かざるを得ない。
 人民を付番をもって支配し管理する思想は今に始まったことではない。刑務所は囚人を番号で管理する。軍隊は認識票で兵士を識別する。日米新ガイドラインにともなう有事法制は、国民を監視し管理する発想を必然のものとする。例えば、共通番号により後方基地に動員すべき医療関係、運輸関係の従事者、経験者のリストアップもこのシステムの構築によって可能となろう。個人のプライバシーの侵害はもとより、この改正案は「監視国家」の先触れとも言うべき危険性を内包している。
 われわれは、この企てに強く反対し、「改正」案の廃案を求めるものである。

一九九九年六月一九日
自由法曹団常任幹事会